「イクメン」という言葉や文化が広がっている昨今。積極的に育児をしたいと考えている父親が増えています。しかし、実際に育児休業、通称「育休」を取得するケースは、いまだに1割を下回っています。

これは職場環境にもよりますが、父親が育休を取得することのメリットがあまり広まっていないことが関係しているでしょう。取得について悩んでいる人も、その後の夫婦関係への影響や会社に対する助成金制度などのメリットを知れば、もっと前向きに考えられるようになるのではないでしょうか。

そこで、男性の育休に関する基本情報として、助成金や取得期間、申請方法などを解説。さらに、現在の育休取得率や、育休取得が進んでいる企業の取り組みなどを参照しながら、企業に向けて仕事と育児の両立支援を行なっている小倉環さん監修のもと、男性の育休のメリットを紹介します。

男性の育休の基本知識

画像: 画像:iStock.com/monzenmachi

画像:iStock.com/monzenmachi

育休と産休の違い

「育休」とは育児・介護休業法に基づく休業制度のことで、原則として1歳に満たない子どもを養育する従業員が勤務先に申し出ることで利用することができます。法律で定められている制度であり、仕事を続けながら子育てをする権利が保護されています。

取得には雇用期間などいくつかの要件があるものの、性別に関わらず取得でき、男性の場合は配偶者の出産予定日から子どもが1歳の誕生日を迎える前日まで取得できます。

また、意外と知られていませんが、配偶者が専業主婦(夫)であっても取得が可能です。

一方、産休とは、労働基準法で定められた産前産後休業(産前6週・産後8週)のことです。女性が妊娠し、出産前後の母体保護の観点から定められています。

〈図〉産休と育休の取得可能期間

画像: 育休と産休の違い

育児休業の申請方法や必要書類

育児休業の申請方法は企業によって異なりますが、一般的な流れを簡単に確認しておきましょう。

まずは、育児休業開始予定日の1カ月前までに、勤務先に対して育児休業の取得を書面で申し出ます。その後の育児休業給付金の申請に必要な書類の作成や提出などは、原則会社が本人の代わりに進めてくれます。

男性の育休の期間はいつからいつまで?

画像: 画像:iStock/Kwangmoozaa

画像:iStock/Kwangmoozaa

パパが取れる育児休業期間

育児休業は、前記のように性別に関わらず取得でき、取得できる期間は原則として、子どもが1歳になるまでです。

両親が“ともに”育児休業を取得する場合は、休業開始日のタイミングなどの要件はありますが「パパ・ママ育休プラス」が適用されます。

「パパ・ママ育休プラス」は、原則として子どもが1歳までである休業可能期間を、子どもが1歳2カ月に達するまでに延長できる特例です(ただし、夫婦それぞれの取得可能な期間は1年間ずつです)。

〈図〉パパ・ママ育休プラスの取得例

画像1: パパが取れる育児休業期間

「パパ・ママ育休プラス」では、夫婦で一緒に育休を取得するだけでなく、妻の仕事復帰のタイミングで夫が取得するなど、タイミングをずらすこともできます。

また、育児休業は原則1度しか取得できませんが、父親には「パパ休暇」という特例があります。パパ休暇は、母親の産後8週間以内に育児休業を取得すると、期間内にもう一度育児休業を取得することができる制度です。

〈図〉パパ休暇の取得例

画像2: パパが取れる育児休業期間

なお、「子どもが1歳となる育児休業終了予定日に保育所に入所できない場合」など、一定の要件を満たす場合は、子どもが1歳6カ月になるまで育児休業を延長することができます。

また、1歳6カ月の時点で保育所等に入れないなど一定の要件を満たす場合は、さらに2歳になるまで再度延長が可能です。育児休業中は社会保険料の徴収は免除されます。

パパの育休の開始時期

夫が育休を取得できるのは、妻の出産予定日以降です。帝王切開で日取りが決まっているなどの場合を除き、子どもはいつ産まれるかはわかりませんが、勤務先には事前に申告が必要となります。

また、予定日と実際の出産日はズレることも多いですが、育児休業の開始日は変更できるので、繰り上げ・繰り下げ申請で対応可能です。

いつから育児休業を取得すればよいかを悩む男性におすすめのタイミングは、退院直後からです。期間としては、少なくとも1カ月以上取ると良いでしょう。

理由としては、妻の産後うつの防止のためです。女性は産後、ホルモンバランスが崩れます。さらには3時間ごとの授乳など24時間慣れない育児に対応しなければならない責任が重なり、うつになりやすいと言われています。発症時期は個人差がありますが、出産から2週間後をピークにしたおよそ1カ月の期間がリスクが高いと言われています。

出産後に夫婦で助け合いながら育児に取り組むことは、妻の産後うつを予防することにも繋がるのです。

Column「育休中は働けるの?」

厚生労働省では、「育児休業」は労務提供義務を消滅させる制度であるため、原則就労することはできないとしています。テレワークなどを利用して、育児休業を取得しながら、少ない時間で働きたい…と考える方もいるかもしれませんが、定期的に働くことは原則認められていません。

仮に子どもの養育のために働き方を柔軟にしたいと考えるのであれば、3歳未満の子を持つ労働者が対象となる「短時間勤務制度」を利用しながら在宅勤務制度が利用できないか、勤務先に相談してみてはいかがでしょうか。

育休中の給付金は? 社会保険料は? 給料の何%がもらえる?

画像: 画像:iStock.com/bankrx

画像:iStock.com/bankrx

育児休業給付金は2段階の金額設定

育児休業中は就業規則上、無給としている企業が多いです。しかし、雇用保険に加入しており一定の要件を満たしていれば、「育児休業給付金」が雇用保険から支給されます

額面は、最初の6カ月は「休業開始時賃金日額×支給日数×67%」、それ以降は50%となっています。

〈図〉育児休業給付金の給付率

画像: 育児休業給付金は2段階の金額設定

ただし、賃金月額には上限があります。毎年8月1日に見直され、2020年も変更されましたので、支給金額の確認は勤務先の労務担当者かハローワークに相談しましょう。(2020年8月1日変更の支給額の上限額:支給率67%の場合は305,721円、支給率50%の場合は228,150円)

育児休業給付金は原則として2カ月に1回、会社が支給申請を行います。初回の申請は育児休業開始から2カ月経過後、4カ月を経過する日の属する月の末日までです。署名や押印が必要なため、やりとりについては事前に勤務先の担当者に聞いておきましょう。

勤務先で支給申請を行うと、支給の可否と支給額が記載された「育児休業給付金支給決定通知書」が交付され、勤務先から自宅に届きます。そして支給決定日から約1週間〜10日後に指定した口座に振り込まれます。振込日は特に毎月〇日など決まっているわけではありません

「育児休業給付金支給決定通知書」には、氏名や被保険者番号、出産年月日といった基本情報のほか、2カ月分の育児休業期間における支給日数、各月(支給単位期間)ごとの支給率とその金額と、2カ月分の合計支給金額など、様々な情報が記載されています。管轄のハローワークの情報も載っているので、不明点があれば確認しましょう。

社会保険料の免除も合わせれば、給与の約8割が補填される

育休中は、厚生年金保険料や健康保険料などの社会保険料が免除される制度があります。これらの保険料の負担額は所属している健康保険組合によって異なりますが、月収の14%ほどです。

また、育児休業給付金は非課税なので、育休中に無給となった分に応じて所得税と住民税(次年度分)の負担が軽くなります

前記で、育児休業給付金は、最初の6カ月は休業開始前の賃金の67%が支給されると述べましたが、負担減額分と合わせると、育休中は休業前の手取り月収の実質8割ほどがカバーされることになるのです。

男性の育休取得率の現状と、企業側から見た「男性の育休」

画像: 画像:iStock.com/imtmphoto

画像:iStock.com/imtmphoto

男性の育児休業取得率は7.48%

給与の約8割が給付金や社会保険料の免除で補填される日本の育休は、他国と比べても充実した制度です。では、そんな育児休業について、男性の取得率の現状はどうなっているのでしょうか。

厚生労働省が発表している「令和元年度雇用均等基本調査」3)によると、2019年度の男性の育児休業取得率は7.48%でした。意外なほどに低い数字ですよね。その理由を考えていきましょう。

根本的な理由は、男は仕事、女は家庭という旧来の伝統的な性別役割分担の価値観がいまだに残っていることにあります。2019年度の内閣府の世論調査4)によると、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方に「賛成」(「賛成」「どちらかといえば賛成」を含む)とした人は、35%でした。近年、女性の職場での活躍が多く報道されていますが、35%という数字からは未だに性別役割分担意識が残っていることが読み取れるでしょう。

実際、日本の「6歳未満の子供を持つ夫婦の夫の家事・育児関連時間」は1日1.5時間ほどで、アメリカやスウェーデンなどの3時間以上と比べて低い水準となっており5)世界的に見ても日本における夫の家事・育児の負担は少なく、妻の重荷になっています。

また、男性でも育児休業を取得できることを知らないというケースもよくあります。さらに、給付金をもらえることを知らずに「育休をとったら生活費に困る」と勘違いしている人6)や、自分が休むと仕事が滞ると思い込んでしまう人、将来のキャリアにマイナスの影響が出ると考えてしまう人もいるようです。

企業の中でも男性が育児休業を取得することへの理解が追いついていない側面があります。男性の育休取得の前例が無く、男性が育休を取得することを前提とした人事配置がなされていない企業も多いでしょう。

しかしここ1~2年、政府内で男性の育児休業取得について議論されていることもあり、大手企業を中心に男性社員に積極的に育児休業を取得するよう働きかける動きが見られます。

取得しづらいのではないかと思っていても、「上司に申し出てみたらあっさり許可してくれた」というケースもあります。これは、企業が仕事と育児の両立について従業員が理解を持つよう制度や社会的背景を周知している努力の表れでもあります。「どうせ言ってもダメだ」と思い込んで取得を諦めるのではなく、まずは相談してみてはいかがでしょうか。

男性の育児休業取得のメリット…取得者側

男性の育児休業取得率の低さがわかったところで、改めて取得者側、企業側のメリットを確認していきましょう。

調査によると、男性が積極的に育児参加することは、夫婦のみならず妻と夫両方が勤める会社にも、また社会全体にも好影響があることがわかっています。

夫婦関係へのメリット

まずは夫婦関係についてです。妻は出産を機に、夫に対する愛情が低下していくようですが、夫婦が協力し合って子育てをした場合、夫に対する愛情はV字回復していく、という調査結果があります7)。これは将来、仮面夫婦になることや熟年離婚を避けることにも関係しているとも考えられます。

また、アメリカの学者は、夫婦の仲の良さが子どもの自己肯定感の高さにつながり、学力も高くなると述べています8)

育児休業は「育児に参加する」という一種の表明です。夫婦関係、ひいては子どもの教育のためにもメリットがあると言えるでしょう。

キャリア形成へのメリット

夫が育児に参加することによって、妻の負担が減ります。その分、妻は復職を早めることができるなど、育児によるキャリアロス期間を短縮できるでしょう。これは妻のキャリアを考える上で非常に重要です。

また、一方、実は男性社員にとっても育児休業を長く取れる組織ほど帰属意識や仕事の意欲が高まるというデータ9)も示されています。

キャリア形成やモチベーションの持ち方という視点で考えても、男性が育児休業を取得することのメリットは十分あるのです。

男性の育休取得のメリット…企業側

画像: 画像:iStock.com/bee32

画像:iStock.com/bee32

助成金による金銭的な援助

育児休業に関する助成金には事業主に対する制度があります。男性の育休取得促進を目的とした「2020年度両立支援等助成金」の「出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)」です。

支給額は、会社の規模や取得した育児休業取得期間によって異なります。

〈図〉出生時両立支援コースの受給額

画像: 厚生労働省「2020年度両立支援等助成金のご案内」 10) より引用

厚生労働省「2020年度両立支援等助成金のご案内」10)より引用

「出生時両立支援コース」は、男性従業員が育児休業や育児目的休暇を取得しやすい職場風土作りに取り組み、育児休業や育児目的休暇を取得した男性従業員が生じた事業主に支給されます。

従業員が育児休業を取得しやすい職場づくりのための研修などの取り組みを行い、出生後8週間以内に連続して14日間(中小企業の場合は連続5日)以上の育児休業を取得させている、などの要件があります。

また、男性社員が育児休業を取得する前に個別面談を行うなど、育児休業の取得を後押しするような取り組みをしている場合、さらに「個別支援加算」が適用され、支給される金額が増えます。

Column「育児休業制度以外に『育児目的休暇制度』もある」

男性の中には、育児休業ではなく、勤め先で制度化している「育児目的休暇」を配偶者の出産に合わせて利用する方もいます。

この「育児目的休暇」というのは、小学校入学前までの子どもを養育する従業員が、配偶者の出産や行事に参加するために取得できる休暇です。制度導入は企業の努力義務であるため、制度化していない企業もあります。そのため、厚生労働省では、育児目的休暇を制度導入するよう事業主向けに「両立支援等助成金」で事業主を支援しています。

認定制度によるイメージアップ

また、企業側のメリットとして、男性の育休取得を推進することで、社外からのイメージアップを図れるという側面があります。

子育てサポート企業の証である「くるみん」のほか、「イクメン企業アワード」など、国や地方公共団体の認定制度の取得や表彰へ応募することで、社外からの評価が高まります。

これらの公的な認定制度のマークを採用のPRに使うことで、優秀な人材の採用・確保・定着へとつながるなど、企業側のメリットは多々あります。

実は、いまや男子学生の4割以上が「育児休業を取って積極的に子育てしたい」と考えているようです11)。これは、大学で少子高齢化における日本の社会保障の問題やワークライフバランスについて学ぶことも影響しているでしょう。結婚へのリスクを感じている男子学生は多く、女子学生も自分が働き続けることを前提に将来を考えています。

そのような背景もあり、労働力人口が不足する日本では、企業側にとって労働環境を良くしておくことは優秀な人材を確保するための生命線でもあるのです。

国から企業に支払われる「両立支援等助成金」もメリットのひとつでしょう。ただそれ以上に、企業にとっては優秀な人材に対して採用時にアピールできることや、離職防止のメリットのほうが大きいのです。

こうした企業側のメリットを知っておけば、育休取得を企業に申請する際にも相談・説得しやすくなるのではないでしょうか。

Column「企業の取り組みと育休取得事例」

実際に男性が育休を取得した企業の取り組みと成果の一例を見ていきましょう。とある建設系企業の男性社員が初の育休を取ったケースをご紹介します。

彼は家庭の事情があり、物理的に育児休業を取らざるを得ない状態でした。第一子の出産後から、子育てのために看護休暇は取っていましたが、第二子が産まれることとなり、本格的に育児をサポートする必要が出てきたのです。

同社は8割が男性という企業で、なかなか男性が育休取得を申請しにくい社風でした。

ところが経営者としては、官公庁が公募する「入札案件」に参加したいという背景があり、その一環として、「くるみん」の認定を受けたいと考えていました。そんな会社側からの働きかけで、この男性は4週間の育休を取ることができたのです。

その後、彼が育児休業に入るために、彼が受け持つ現場だけでなく、関係各所との連携が進むことに。結果、これまで意識していなかった別の現場との連携が生まれ、作業工程が結果として可視化され、改善がされるなど、会社にとっても生産性が上がる取り組みが生まれたのです。

男性の育休取得義務化への動き

2020年7月現在、「育児休業給付金」は最大で賃金の67%が給付されますが、これを80%へ引き上げようとする案が政府で検討されています12)

この目的は、まさしく男性の育児休業取得を促すためです。さらに、2021年には改正育児・介護休業法で、子どもの看護休暇が時間単位で取得できるようになります。

給付が80%に引き上げられれば、社会保険料の免除などと組み合わせることで、月収のほぼ100%近くをまかなえるようになります。制度的には育児をしながらの仕事がしやすくなってきていて、徐々に社会全体の理解も深まっていくでしょう。

世界に目を向けると、福祉が充実しているとたびたび話題に挙がるのが北欧です。これらの国では男性の育休取得率は日本よりはるかに高いのですが、制度面の影響が大きいでしょう。

たとえばノルウェーは世界で初めて父親の育児休業促進のために、休業期間に「パパ・ママクオータ制」を取り入れました。パパクオータとは父親だけに割り当てられた育児休業期間のことで、父親が育休を取得しなければ、期間も短くなり、受給できるはずの給付金の権利が消滅する仕組みになっています。

一方で、日本は確かに男性の育児休業得率は低いものの、2019年にユニセフが発表した「先進国における家族にやさしい政策ランキング」では、父親の育児休業制度の充実は世界1位とされました13)

さらに加えれば、男女ともに1年間同時に育休を取れる国はほかにありません。

世界でも類を見ないスピードで少子高齢化が進む日本ですが、今後は育児休業取得が義務化されるなど、より思い切った制度が生まれるかもしれません。内閣府がまとめた報告書「選択する未来2.0」では、「男性が全員取得する環境を目指す」ことが提案されています14)

まとめ

画像: 画像:iStock.com/Yagi-Studio

画像:iStock.com/Yagi-Studio

長い人生、夫が育児参加するかどうかで家族の在り方は変わってきます。世界で最小単位の組織は実は夫婦です。上手にチームビルディングして、家族という組織をよりよくしていくことが、現代の核家族には求められているのです。

育児のメリットには、仕事以外の人間関係ができることも挙げられます。それが結果的に人間としての幅を広げ、仕事にも生かされます。ぜひ本稿を参考にして制度を上手に活用し、よりよい家族関係を築いてください。

この記事の監修者

画像: 「男性の育休」は実はメリットだらけ。取得期間や助成金などの制度を知って活用しよう

小倉 環

株式会社ハーモニーワークス代表取締役/「仕事と子育て両立ラボ」主宰。大手企業の人事・採用メディアのコンサルティング、転職支援に従事した後に2015年に株式会社ハーモニーワークスを設立。以来、民間企業、官公庁、各種団体にて女性活躍推進や働き方改革、仕事と育児の両立支援に関する研修、コンサルティングを提供。プライベートでは二児の子育てに奮闘中。
ウェブサイト

This article is a sponsored article by
''.