日本の公的年金の制度には、厚生年金保険(以下「厚生年金」と表記)と国民年金の2種類があります。名称は知っているけれど、違いがよくわからないという人もいるのではないでしょうか。

じつは2つの年金制度には様々な違いがあります。違いを知ると、今の厚生年金の保険料が高い理由、安い理由などを理解できます。この記事では、ファイナンシャルプランナーのタケイ啓子さん監修のもと、厚生年金と国民年金の基本的な違いや金額差、それぞれの特徴などを詳しく解説します。

※この記事は2023年9月22日に公開した内容を最新情報に更新しています。

この記事の監修者

タケイ 啓子(タケイ ケイコ)

ファイナンシャルプランナー(AFP)。36歳で離婚し、シングルマザーに。大手生命保険会社に就職をしたが、その後、保険の総合代理店に転職。保険の電話相談業務に従事。43歳の時に乳がんを告知される。治療を経て、現在は治療とお金の相談パートナーとして、相談、執筆業務を中心に活動中。

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公的年金は国民年金・厚生年金の2種類

日本の年金制度を大きく分けると、法律によって加入が義務付けられている「公的年金」と、企業や個人が任意で加入できる「私的年金」があります。

公的年金には、「国民年金(基礎年金)」と「厚生年金」の2種類があり、すべての人が対象になる「国民年金」に、会社員や公務員が対象になる「厚生年金」が上乗せされる2階建ての構造になっています1)

〈図〉公的年金制度の構造

画像: 公的年金は国民年金・厚生年金の2種類

2015年まではもう1つの種類として、常時勤務している国家公務員や地方公務員、私立学校の教職員が加入する「共済年金」がありましたが、現在では厚生年金に統合されています。

国民年金とは

国民年金は、日本国内に住む20歳以上60歳未満の人が加入する年金制度です。20歳から60歳までの40年間が納付期間で、原則65歳から支給されます2)。国民年金の受給者には、第1号被保険者・第2号被保険者・第3号被保険者があり、それぞれ加入時の届出方法と保険料の納付方法が異なります1)

〈表〉国民年金の加入者の区分

第1号被保険者第2号被保険者第3号被保険者
対象者・自営業者とその家族
・農業者とその家族
・学生
・無職の人
など
・会社員、公務員など厚生年金、共済に加入している人・第2号被保険者に扶養されている配偶者(年収が130万円未満で配偶者の年収の1/2未満)
届出方法住んでいる市区町村の窓口に届出勤務先が届出第2号被保険者の勤務先に届出
保険料の支払い方法納付書や口座振替など、自分で支払う厚生年金保険料とまとめて、勤務先が支払う(給与から天引きの場合が多い)第2号被保険者全体で負担するので、個別に支払わなくていい

なお、国民年金はいわゆる「年金」と呼ばれる老齢基礎年金以外に、障害や死亡による事由でも受給が可能です。

厚生年金とは

厚生年金は国民年金に上乗せされる制度で、会社員や公務員が加入する公的年金です。厚生年金に加入している人は国民年金の保険料も支払うため、両方の年金がもらえます。結果として、厚生年金の受給額は国民年金だけの受給額よりも多くなります。

厚生年金の保険料は、給与や賞与に保険料率をかけて算出され、事業主と従業員で折半する形で支払います。なお、厚生年金の保険料率は、平成29年から18.3%に固定されています3)。厚生年金も、老齢厚生年金以外に、障害や死亡による事由でも受給が可能です。

【比較表】厚生年金と国民年金の違い

以下では、厚生年金と国民年金の違いを一覧にして紹介します。

〈表〉厚生年金と国民年金の比較表 4)5)

厚生年金国民年金
対象者会社員、公務員、パート・アルバイト20〜60歳の全国民
保険料の負担額(月額)月額8,052円〜5万9,475円1万6,520円(※)
保険料の支払い加入者と勤務先が半分ずつ負担加入者が全額負担
加入できる年齢原則70歳まで60歳まで
年金の受給に必要な加入期間1カ月(国民年金と合わせて10年以上)10年以上
受給月額(平均)14万4,982円5万6,428円
受給開始年齢65歳65歳
付加年金加入できない加入できる
国民年金基金加入できない加入できる
障害年金の受給条件障がいの程度1級、2級、3級に該当する場合障がいの程度1級、2級に該当する場合
遺族年金の受給対象者妻、夫、子ども、父母、孫、祖父母子どものいる配偶者、子ども
※:令和5年度時点の国民年金の保険料

上記の表で比較すると、厚生年金と国民年金とでは、障害年金の受給条件や遺族年金の受給対象者も異なり、厚生年金のほうが国民年金よりも受給できる対象者が広くなっています。

そのほか、国民年金は付加年金や国民年金基金に加入することができますが、厚生年金はどちらも加入できないことがわかります。

以降で、厚生年金と国民年金の違いについて詳しく説明していきます。

【関連記事】月額400円で将来の年金が増える「付加年金」とは? メリット・デメリットや注意点を解説

対象者・加入条件の違い

厚生年金と国民年金では加入の対象者と加入条件が異なります。厚生年金の対象者は会社員や公務員です。会社員には、社長や役員、20歳未満の会社員と公務員も含まれます。加入年齢の上限は70歳までで、70歳未満で会社員や公務員の人は加入が必須です。そのほかパートやアルバイトの人は条件を満たすと、学生を除き、厚生年金への加入が必要になります。

一方の国民年金は、厚生年金の加入条件に該当しない20〜60歳が対象です。学生やフリーランスの人、自営業、無職の人などが該当します。

また、厚生年金と国民年金は、その人の働き方でも変わります。会社員だった人が退職してフリーランスになると、厚生年金から国民年金に切り替えが必要です。

受給額の差

厚生年金は収入や加入期間で受給額が変わります。一方の国民年金は収入に関係なく受給額は一律です。しかし、加入期間によって受給額が異なります。ここでは、令和4年度の厚生年金と国民年金の平均受給額から、その金額差を月額と年額で確認してみましょう5)

〈表〉平均受給額の金額差

月額年額
厚生年金14万4,982円173万9,784円
国民年金5万6,428円67万7,136円
金額差8万8,554円106万2,648円

厚生年金と国民年金の受給額には大きな違いがあり、月額で見ると厚生年金は国民年金の倍以上という結果です。年額にすると100万円以上の金額差があります。厚生年金に加入している人の収入によっては、金額差はこれ以上にもこれ以下にもなるため、金額差はこの限りではありませんが、一般的に受給額は厚生年金のほうが国民年金よりも高額だといえます

なお、厚生年金の受給額については、以下の記事で詳しく説明しています。気になる人は参考にしてみてください。

【関連記事】厚生年金はいくらもらえる? 加入期間・年収別に平均受給額を解説

保険料の差

厚生年金の保険料は、月額8,052円〜5万9,475円6)です。厚生年金は収入で保険料が変わり、「標準報酬月額×18.3%÷2」という計算式で保険料の自己負担額を算出できます。標準報酬月額とは、4〜6月の給与の平均額から出すことができる金額で、給与が21万円〜23万円の人の標準報酬月額は22万円といったように定められています。上限はありますが、基本的に収入が多くなるほど保険料も高くなります。また、保険料の半分を会社が負担してくれるのも厚生年金の特徴です。

一方の国民年金は収入に関係なく保険料は一律で、令和6年度の場合は月額1万6,980円7)です。毎年、少しずつ保険料は変動しますが、平成28年以降は1万6,000円台で推移しています。

給与24万円の人を例に、厚生年金と国民年金の保険料の金額差を見てみましょう。

〈表〉給与24万円の場合の保険料と金額差

厚生年金の保険料(※)2万1,960円
国民年金の保険料1万6,980円
金額差4,980円
※:厚生年金の保険料(自己負担額)は、4〜6月の平均給与を24万円とし、「標準報酬月額×18.3%÷2」で計算

給与が24万円の場合、厚生年金の保険料の自己負担額は月2万1,960円です6)国民年金の保険料は1万6,980円ですので、保険料は厚生年金のほうが4,980円高いことがわかりました。

なお、給与に応じた厚生年金の保険料は以下の記事で詳しく説明しています。気になる人は参考にしてみてください。

【関連記事】厚生年金の保険料を「安くする方法」はある? 1カ月の保険料はいくら?

【関連記事】厚生年金の保険料はいつまで支払う?受給しながら働く場合も解説

障害年金の受給条件の違い

障害年金とは、病気やケガで生活や仕事が制限されるようになった時にもらえる年金で、現役世代の人も受け取ることができます。

障害年金には、「障害基礎年金」と「障害厚生年金」があります。障がいの原因になった病気やケガで初めて医師などの診療を受けた時(初診日)に国民年金に加入していた場合は「障害基礎年金」、厚生年金にも加入していた場合はそれに加えて「障害厚生年金」をもらうことができます。

これら2つは受給できる条件が異なります。「障害基礎年金」は障がいの程度1級、2級に該当する場合、「障害厚生年金」は障がいの程度1級、2級、3級に該当する場合が対象となるため、「障害厚生年金」のほうが広い範囲をカバーすることができます。

障害年金の受給条件について、もっと知りたい人は以下の記事で詳しく説明しているので、併せてご覧ください。

【関連記事】障害年金について、詳しくはコチラ

遺族年金の受給条件の違い

遺族年金は、亡くなられた人と遺族のそれぞれに受給条件があります8)9)

〈表〉遺族年金の受給条件

遺族基礎年金遺族厚生年金
亡くなられた人1〜4のいずれかを満たす場合
1. 国民年金の被保険者である
2. 60歳以上65歳未満の国民年金の被保険者であり、日本に住所があった
3. 老齢基礎年金の受給権者であった
4. 老齢基礎年金の受給資格を満たしていた
1〜5のいずれかを満たす場合
1. 厚生年金の被保険者である
2. 厚生年金の被保険者である間に初診日がある病気やケガにより、初診日から5年以内に亡くなられた
3. 1級または2級の障害厚生年金を受け取っていた
4. 老齢厚生年金の受給権者であった
5. 老齢厚生年金の受給資格を満たしていた
遺族亡くなられた人によって生計を維持されており、1〜2のいずれかを満たす場合
1. 亡くなられた人の子どもがいる配偶者
2. 亡くなられた人の子どもである(※1)
亡くなられた人によって生計を維持されており、続柄それぞれの受給条件を満たす場合
・妻:30歳以上か、30歳未満で子どもがいる場合は、一生涯受け取れる。子どものいない30歳未満の妻は5年間受け取れる。
・夫:55歳以上なら60歳から受け取れる。ただし遺族基礎年金を併せて受給できる場合に限り、55歳から60歳の間であっても遺族厚生年金を受給できる。
・子ども:18歳になる年度の3月31日まで受け取れる(障害等級1級・2級なら20歳未満)。
・父母:55歳以上なら、60歳から一生涯受け取れる。
・孫:18歳になる年度の3月31日まで受け取れる(障害等級1級・2級なら20歳未満)。
・祖父母:55歳以上なら、60歳から一生涯受け取れる。
※1:子どもは18歳到達年度の3月31日を通過していない人、20歳未満で障害等級1級または2級の人

遺族基礎年金の受給資格や期間は、子どもの有無や年齢によって異なります。遺族厚生年金は子どもがいなくても受給が可能なのが、遺族基礎年金との違いです。

遺族年金ついてもっと詳しく知りたい人は、以下の記事を併せてご覧ください。

【関連記事】遺族年金について、詳しくはコチラ

〈コラム〉年金受給のために必要な最低加入期間とは?

国民年金は、保険料納付済期間と保険料免除期間などを合算した受給資格期間が10年以上ある場合に受け取ることができます2)。つまり最低10年間は保険料を支払っている期間があることが条件です。対して厚生年金は加入期間が10年未満でももらうことができますが、前提として国民年金の受給条件を満たしている必要があります。したがって、65歳になった時に国民年金の加入期間が10年未満の場合には、年金を受け取ることができないので注意しましょう。

厚生年金と国民年金の切り替えが必要なタイミング

画像: 画像:iStock.com/takasuu

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就職や退職、結婚などのタイミングでは、厚生年金と国民年金の切り替えが必要な場合があります。以下は主な例なので、自分が該当する予定がないか参考にしてください。

  • 大学を卒業し、新卒で就職した時
  • フリーターや無職の状態から就職した時
  • 会社を退職して無職やフリーランスになった時
  • 結婚して配偶者の扶養に入る時

ここでは、国民年金から厚生年金へ、厚生年金から国民年金への切り替え方法を説明します。行う手続きはそれぞれ以下のとおりです。

切り替え行う手続き
国民年金から厚生年金年金手帳または基礎年金番号通知書を勤務先に提出
厚生年金から国民年金退職日の翌日から2週間以内に国民年金に加入

国民年金から厚生年金へ切り替える手続き方法

国民年金から厚生年金に切り替える際は、年金手帳または基礎年金番号通知書を勤務先に提出するだけです。勤務先が手続きを行うため、加入者が手続きをする必要はありません。毎月の保険料は給与から自動的に引かれます。

なお、厚生年金に切り替える前に国民年金の前納をしていた場合は、前納した保険料の一部が還付されることがあります。日本年金機構から保険料還付の案内が届きますので、その際は自身で手続きを行いましょう。

厚生年金から国民年金へ切り替える手続き方法

勤務先を退職し、国民年金への切り替えが必要な場合は、国民年金への加入手続きが必要です。手続きは、退職日の翌日から2週間以内に住んでいる市区町村の窓口で行えます。なお、手続きの際は以下の書類が必要です。

  • 基礎年金番号通知書または年金手帳
  • 本人確認書類(運転免許証など)
  • 退職日がわかる書類(退職証明書など)

厚生年金の脱退手続きは勤務先が行ってくれるので、何もしなくてもよいです。

厚生年金と国民年金に関するよくある質問

画像: 画像:iStock.com/anilakkus

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最後に、厚生年金と国民年金に関する疑問や質問をまとめました。

Q1.厚生年金と国民年金の保険料を両方支払う場合はある?

厚生年金と国民年金の保険料を両方支払うことはありません。会社員や公務員の人は厚生年金の保険料を支払い、厚生年金に加入していない人は国民年金の保険料だけを支払います。

ただし、厚生年金の保険料には国民年金の保険料も含まれているため、厚生年金に加入している人は、自動的に国民年金の保険料と厚生年金の上乗せ分を支払っていることになります。

Q2.厚生年金と国民年金の保険料を重複支払いしたらどうする?

就職や退職のタイミングで厚生年金と国民年金の保険料の支払いが重複してしまうこともあります。重複する可能性があるのは、就職して国民年金から厚生年金に切り替わる人が国民年金の前納をしていた場合と、月末以外に退職して厚生年金から国民年金に切り替わる場合です。

前者は、日本年金機構から保険料還付の案内が届きますので、手続きを行えば、重複した国民年金の保険料が還付されます。後者は、退職して国民年金に加入したあとに、退職した勤務先へ通知が届くため、最後の給与の支払いなどで厚生年金の保険料が差し引かれないようになります。もし、給与の支払日などの都合で差し引かれている場合は、退職した勤務先に相談し、還付してもらいましょう。

Q3.厚生年金と国民年金はどちらがいい?

厚生年金や国民年金のどちらがいいかというと、受給額で比べれば厚生年金のほうがいいといえるでしょう。ただし、保険料は厚生年金のほうが高額になりやすいです。そもそも厚生年金と国民年金を選ぶことはできないため、一概にどちらがいいとは断言できません。

Q4.保険料はまとめて支払える?

厚生年金の保険料は毎月の給与から引かれるので、まとめて支払うことはできません。一方で国民年金は、半年、1年、2年の前納が可能です。また、前納すると割引を受けることができます10)

前納後に国民年金から厚生年金に切り替える場合は、国民年金の保険料の返還を受けることができます。

厚生年金と国民年金の違いを把握して将来に備えよう

厚生年金と国民年金の違いについて説明しました。厚生年金と国民年金の違いは、加入する対象者、毎月の保険料、将来の受給額です。自分で厚生年金と国民年金のどちらに加入するか選ぶことはできませんが、老後資金を計画的に貯めるのであれば、保険料や受給額を把握しておくことは大切です。

厚生年金と国民年金の違いや受給額を理解した上で、将来や万が一の時ために、備えておきたいと思ったら、医療保険や個人年金保険などを検討しましょう。

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