日本の公的年金の制度には、厚生年金保険(以下「厚生年金」と表記)と国民年金の2種類があります。名称は知っているけれど、違いがよくわからないという人もいるのではないでしょうか。

じつは2つの年金制度には様々な違いがあります。違いを知ると、今の厚生年金の保険料が高い理由、安い理由などを理解できます。この記事では、ファイナンシャルプランナーのタケイ啓子さん監修のもと、厚生年金と国民年金の基本的な違いや金額差、それぞれの特徴などを詳しく解説します。

この記事の監修者

タケイ 啓子(タケイ ケイコ)

ファイナンシャルプランナー(AFP)。36歳で離婚し、シングルマザーに。大手生命保険会社に就職をしたが、その後、保険の総合代理店に転職。保険の電話相談業務に従事。43歳の時に乳がんを告知される。治療を経て、現在は治療とお金の相談パートナーとして、相談、執筆業務を中心に活動中。

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厚生年金と国民年金の主な違いは3つ

画像: 画像:iStock.com/IrinaIvanova

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厚生年金と国民年金の違いは主に対象者と保険料、受給額の3つです。以下は違いをまとめた表です。

〈表〉厚生年金と国民年金の主な違い1)

厚生年金国民年金
対象者会社員、公務員、パート・アルバイト20〜60歳の全国民
保険料月額8,052円〜5万9,475円月額1万6,520円(※)
受給額平均14万5,665円平均5万6,479円
※:令和5年時点の国民年金の保険料

上記のように厚生年金と国民保険を比べると、対象者や保険料、受給額に大きな違いがあることがわかります。それぞれの違いについて詳しく見ていきましょう。

対象者

厚生年金と国民年金では加入の対象者が異なります。厚生年金の対象者は会社員や公務員です。会社員には、社長や役員、20歳以下の会社員と公務員も含まれます。加入年齢の上限は70歳までで、70歳以下で会社員や公務員の人は加入が必須です。そのほかパートやアルバイトの人は条件を満たすと、学生を除き、厚生年金への加入が必要になります。

一方の国民年金は、厚生年金の加入要件に該当しない20〜60歳が対象です。学生やフリーランスの人、自営業、無職の人などが該当します。

また、厚生年金と国民年金は、その人の働き方でも変わります。会社員だった人が退職してフリーランスになると、厚生年金から国民年金に切り替えが必要です。

保険料

厚生年金の保険料は、月額8,052円〜5万9,475円2)です。厚生年金は収入で保険料が変わり、「標準報酬月額×18.3%÷2」という計算式で保険料の自己負担額を算出できます。標準報酬月額とは、4〜6月の給与の平均額から出すことができる金額で、給与が21万円〜23万円の人の標準報酬月額は22万円といったように定められています。上限はありますが、基本的に収入が多くなるほど保険料も高くなります。また、保険料の半分を会社が負担してくれるのも厚生年金の特徴です。

一方の国民年金は収入に関係なく保険料は一律で、令和5年の場合は月額1万6,520円1)です。毎年、少しずつ保険料は変動しますが、平成28年以降は1万6,000円台で推移しています。

給与に応じた厚生年金の保険料は以下の記事で詳しく説明しています。気になる人は参考にしてみてください。

【関連記事】厚生年金の保険料を「安くする方法」はある? 1カ月の保険料はいくら?

受給額

厚生年金に加入している場合と国民年金に加入している場合では、受給額が異なります。基本的に同じ収入で同じ期間加入していたら、国民年金より厚生年金のほうが受給額は高額になります。

厚生年金の受給額は保険料を支払ってきた期間や収入によって異なるため、一概にいくら受け取れるとはいえませんが、令和3年の平均受給額は月額14万5,665円です3)

国民年金は、令和3年の平均受給額は月額5万6,479円です。国民年金の受給額は収入に関係なく一律ですが、加入期間によって受給額が変わります。20〜60歳の40年間加入した際の満額は、令和5年の場合だと月額6万6,250円です4)

厚生年金の受給額は以下の記事で詳しく説明しています。気になる人は参考にしてみてください。

【関連記事】厚生年金はいくらもらえる? 加入期間・年収別に平均受給額を解説

厚生年金と国民年金の比較表

厚生年金と国民年金では、対象者、保険料、受給額以外にも違いがあります。以下では、厚生年金と国民年金の違いを一覧にして紹介します。

〈表〉厚生年金と国民年金の比較表 5)

厚生年金国民年金
対象者会社員、公務員、パート・アルバイト20〜60歳の全国民
保険料の負担額(月額)月額8,052円〜5万9,475円1万6,520円
保険料の支払い加入者と勤務先が半分ずつ負担加入者が全額負担
加入できる年齢原則70歳まで60歳まで
年金の受給に必要な加入期間1カ月(国民年金と合わせて10年以上)10年以上
受給月額(平均)14万5,665円5万6,479円
受給開始年齢65歳65歳
付加年金加入できない加入できる
国民年金基金加入できない加入できる
障害年金の受給要件障がいの程度1級、2級、3級に該当する場合障がいの程度1級、2級に該当する場合
遺族年金の受給対象者妻、夫、子ども、父母、孫、祖父母子どものいる配偶者と子ども

上記の表で比較すると、厚生年金と国民年金とでは、障害年金の受給要件や遺族年金の受給対象者も異なります。厚生年金のほうが国民年金よりも受給できる対象者が広くなっています。

そのほか、国民年金は付加年金や国民年金基金に加入することができますが、厚生年金はどちらも加入できないことがわかります。

厚生年金と国民年金の保険料の金額差

画像: 画像:iStock.com/sankai

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厚生年金と国民年金では、保険料の支払い月額が異なります。どのくらいの金額差があるのか確認していきましょう。

なお、厚生年金は収入によって支払う保険料が変わるため、ここでは給与別に厚生年金と国民年金の保険料の金額差をそれぞれ見ていきます。

〈表〉給与24万円の場合の保険料と金額差

厚生年金の保険料(※)2万1,960円
国民年金の保険料1万6,520円
金額差5,440円
※:厚生年金の保険料(自己負担額)は、4〜6月の平均給与を24万円とし、「標準報酬月額×18.3%÷2」で計算

給与が24万円の場合、厚生年金の保険料の自己負担額は月2万1,960円です。国民年金の保険料は1万6,520円ですので、保険料は厚生年金のほうが5,440円高いことがわかりました。

では、パートで働いている場合はどうでしょうか。以下はパートで厚生年金に加入している人を例にした保険料の金額差です。

〈表〉給与8万8,000円の場合の保険料と金額差

厚生年金の保険料(※)8,052円
国民年金の保険料1万6,520円
金額差8,468円
※:厚生年金の保険料(自己負担額)は、4〜6月の平均給与を8万8,000円とし、「標準報酬月額×18.3%÷2」で計算

給与が8万8,000円の場合、厚生年金の保険料の自己負担額は8,052円となり、厚生年金よりも8,000円以上安くなりました。厚生年金の保険料自体は1万6,104円ですが、保険料の半分を勤務先が負担するので、自己負担額は厚生年金のほうが安くなっています。

最後に給与が65万円の人の例を見ていきましょう。

〈表〉給与65万円の場合の保険料と金額差

厚生年金の保険料(※)5万9,475円
国民年金の保険料1万6,520円
金額差4万2,955円
※:厚生年金の保険料(自己負担額)は、4〜6月の平均給与を65万円とし、「標準報酬月額×18.3%÷2」で計算

給与が65万円の人は収入が多いため保険料は高額になり、月6万円近い金額になりました。国民年金の保険料との金額差は4万2,955円で、国民年金の3倍以上の保険料を負担していることになります。

厚生年金と国民年金の受給額の金額差

続いては受給額の金額差を見ていきましょう。厚生年金は収入や加入期間で受給額が変わります。一方の国民年金は収入に関係なく受給額は一律です。しかし、加入期間によって受給額が異なります。ここでは、令和3年の厚生年金と国民年金の平均受給額から、その金額差を月額と年額で確認してみましょう。

〈表〉平均受給額の金額差

月額年額
厚生年金14万5,665円174万7,980円
国民年金5万6,479円67万7,748円
金額差8万9,186円107万232円

厚生年金と国民年金の受給額には大きな違いがありました。月額では、厚生年金は国民年金の倍以上という結果です。年額にすると100万円以上の金額差があります。厚生年金に加入している人の収入によっては、金額差はこれ以上にもこれ以下にもなるため、金額差はこの限りではありませんが、一般的に受給額は厚生年金のほうが国民年金よりも高額だといえます。

厚生年金の特徴

画像1: 画像:iStock.com/SeiyaTabuchi

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厚生年金と国民年金の違いを確認したところで、つぎはそれぞれの特徴を確認していきましょう。

厚生年金の特徴として以下の6つを挙げることができます。

  • 特徴①将来の受給額が国民年金より多い
  • 特徴②勤務先が保険料の半分を支払ってくれる
  • 特徴③ケガや病気の際に手当を受け取れる
  • 特徴④障害年金や遺族年金の対象者の範囲が広い
  • 特徴⑤国民年金と比べて保険料の自己負担額が高くなりやすい
  • 特徴⑥給与の手取り金額が減ってしまう

それぞれ詳しく見ていきましょう。

特徴①将来の受給額が国民年金より多い

厚生年金は国民年金よりも将来の受給額が多く、老後の生活の安心感は厚生年金のほうが大きいでしょう。

特徴②勤務先が保険料の半分を支払ってくれる

保険料の半分を勤務先に負担してもらえる点も厚生年金の特徴です。国民年金の保険料はすべて自己負担となり、自ら年金を準備することになります。一方、厚生年金なら勤務先のサポートを受けながら、将来受け取る年金の準備をすることができるというわけです。

特徴③ケガや病気の際に手当を受け取れる

厚生年金に加入すると健康保険や雇用保険にも一緒に加入することになります。その場合、病気やケガをした際は健康保険から傷病手当を受け取ることができるようになります6)。業務外での病気やケガを理由に4日以上仕事ができず、その間の給与が支払われなかった場合に平均給与の2/3を傷病手当金として受け取れます。

また、健康保険には出産手当金と育児休業給付金が受け取れる制度があります。たとえば出産で仕事を休んだ際には平均給与の2/3を出産手当金として健康保険から受け取ることができます7)。さらに産後は子どもが最大2歳になるまで雇用保険から育児休業給付金が手元に入ります。金額は育児休業開始から半年は平均給与の67%、それ以降は平均給与の半分です8)。また、父親が出生時育児休業を取得した場合には、平均給与の67%の出生時育児休業給付金を受け取れる場合があります。

特徴④障害年金や遺族年金の対象者の範囲が広い

厚生年金は、病気や事故などで障害が残ってしまった時に受け取れる障害年金の受給要件は国民年金よりも広く対応しています。遺族年金を受け取れる対象者も、国民年金が被保険者の子どものいる配偶者と子どもだけなのに対し、厚生年金は子ども、配偶者、父母などが対象となっています。万が一の備えも、国民年金より手厚くなっています。

特徴⑤国民年金と比べて保険料の自己負担額が高くなりやすい

保険料の半分を勤務先に負担してもらえるとはいえ、国民年金より月々の保険料の負担は多くなりがちです。負担が多い分、将来受け取れる年金の額が多くなる点はメリットですが、長期間にわたって高い保険料を支払い続けることを考えるとデメリットに思えるかもしれません。

特徴⑥給与の手取り金額が減ってしまう

自己負担額が毎月の給与や賞与から引かれるため、給与の手取り収入は減ってしまいます。健康保険料などと合わせると額面から何万円も引かれてしまうので、給与明細を見るとガッカリすることもあるでしょう。

国民年金の特徴

画像2: 画像:iStock.com/SeiyaTabuchi

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続いては国民年金の特徴です。国民年金の特徴として以下の4つを挙げることができます。

  • 特徴①保険料が一律である
  • 特徴②前納すれば割引される
  • 特徴③保険料をクレジットカードで支払える
  • 特徴④厚生年金に比べて受給額が少ない

それぞれ詳しく見ていきましょう。

特徴①保険料が一律である

国民年金の特徴は毎月支払う保険料が一律だということです。厚生年金の場合は、平均報酬月額の等級によって保険料が変わるため、給与が上がれば保険料も高くなりますが、国民年金は給与が上がっても保険料は変わりません。

特徴②前納すれば割引される

国民年金は、半年、1年、2年の前納が可能です9)。前納すると最大で1万6,100円の割引を受けることができます(令和5年の場合。前納期間や支払い方法で割引額は変わります)。少しでも保険料を安く抑えたいという場合は、ぜひ利用したい制度です。

特徴③保険料をクレジットカードで支払える

国民年金の保険料はクレジットカードで支払うことができます10)。クレジットカードによっては買い物するのと同様に、ポイントを貯めることができる点は国民年金のいいところです。また、納付書での支払いに比べて支払い忘れを防ぐことができます。そのほか、口座振替やアプリ決済も利用できます2)。厚生年金では支払い方法を選択できないので、これは国民年金ならではの特徴といえるでしょう。

特徴④厚生年金に比べて受給額が少ない

国民年金は厚生年金より受給額が低く、満額を受け取る場合でも国民年金だけで生活することは難しいでしょう。老後の受給額を増やしたいのではあれば、国民年金に加え、付加保険料の納付、国民年金基金やiDeCo、民間保険会社の個人年金保険への加入などで対策する必要があるでしょう。

厚生年金と国民年金を切り替える手続き方法

画像: 画像:iStock.com/takasuu

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「フリーターだったけど就職した」「会社を退職してフリーランスになった」といった人は、厚生年金と国民年金の切り替えが必要です。ここでは、国民年金から厚生年金へ、厚生年金から国民年金への切り替え方法を説明します。行う手続きはそれぞれ以下のとおりです。

切り替え行う手続き
国民年金から厚生年金年金手帳または基礎年金番号通知書を勤務先に提出
厚生年金から国民年金退職日の翌日から2週間以内に国民年金に加入

国民年金から厚生年金へ切り替える手続き方法

国民年金から厚生年金に切り替える際は、年金手帳または基礎年金番号通知書を勤務先に提出するだけです。勤務先が手続きを行うため、加入者が手続きをする必要はありません。毎月の保険料は給与から自動的に引かれます。

なお、厚生年金に切り替える前に国民年金の前納をしていた場合は、前納した保険料の一部が還付されることがあります。日本年金機構から保険料還付の案内が届きますので、その際は自身で手続きを行いましょう。

厚生年金から国民年金へ切り替える手続き方法

勤務先を退職し、国民年金への切り替えが必要な場合は、国民年金への加入手続きが必要です。手続きは、退職日の翌日から2週間以内に住んでいる自治体の窓口で行えます。なお、手続きの際は以下の書類が必要です。

  • 基礎年金番号通知書または年金手帳
  • 本人確認書類(運転免許証など)
  • 退職日がわかる書類(退職証明書など)

厚生年金の脱退手続きは勤務先が行ってくれるので、何もしなくてもよいです。

厚生年金と国民年金に関するよくある質問

画像: 画像:iStock.com/anilakkus

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最後に、厚生年金と国民年金に関する疑問や質問をまとめました。

Q.厚生年金と国民年金の保険料を両方支払う場合はある?

厚生年金と国民年金の保険料を両方支払うことはありません。会社員や公務員の人は厚生年金の保険料を支払い、厚生年金に加入していない人は国民年金の保険料だけを支払います。

ただし、厚生年金の保険料には、以下のように国民年金の保険料も含まれているため、厚生年金に加入している人は、国民年金の保険料と厚生年金の上乗せ分を支払っていることになります。

〈図〉公的年金制度の構造

画像: Q.厚生年金と国民年金の保険料を両方支払う場合はある?

Q.厚生年金と国民年金の保険料を重複支払いしたらどうする?

就職や退職のタイミングで厚生年金と国民年金の保険料の支払いが重複してしまうこともあります。重複する可能性があるのは、就職して国民年金から厚生年金に切り替わる人が国民年金の前納をしていた場合と、月末以外に退職して厚生年金から国民年金に切り替わる場合です。

前者は、日本年金機構から保険料還付の案内が届きますので、手続きを行えば、重複した国民年金の保険料が還付されます。後者は、退職して国民年金に加入したあとに、退職した勤務先へ通知が届くため、最後の給与の支払いなどで厚生年金の保険料が差し引かれないようになります。もし、給与の支払日などの都合で差し引かれている場合は、退職した勤務先に相談し、還付してもらいましょう。

Q.厚生年金と国民年金はどちらがいい?

厚生年金や国民年金のどちらがいいかというと、受給額で比べれば厚生年金のほうがいいといえるでしょう。ただし、保険料は厚生年金のほうが高額になりやすいです。そもそも厚生年金と国民年金を選ぶことはできないため、一概にどちらがいいとは断言できません。

Q.保険料はまとめて支払える?

厚生年金の保険料は毎月の給与から引かれるので、まとめて支払うことはできません。一方で国民年金は、半年、1年、2年の前納が可能です。また前述のとおり、前納すると割引を受けることができます9)

前納後に国民年金から厚生年金に切り替える場合は、国民年金の保険料の返還を受けることができます。

厚生年金と国民年金の違いを把握して将来に備えよう

厚生年金と国民年金の違いについて説明しました。厚生年金と国民年金の違いは、加入する対象者、毎月の保険料、将来の受給額です。自分で厚生年金と国民年金のどちらに加入するか選ぶことはできませんが、老後資金を計画的に貯めるのであれば、保険料や受給額を把握しておくことは大切です。

厚生年金と国民年金の違いや受給額を理解した上で、将来や万が一の時ために、もっと備えておきたいと思ったら、医療保険や個人年金保険などを検討しましょう。

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