給与から天引きされている厚生年金保険(以下「厚生年金」と表記)の保険料を見て、誰もが一度は思ったことがあるのではないでしょうか。厚生年金の保険料は多く支払った分、将来受け取る年金が増えるので、保険料を多く支払うのはデメリットばかりではないでしょう。とはいえ、負担額は決して少ないとはいえないため、安くなるに越したことはありません。
この記事では、ファイナンシャルプランナーのタケイ啓子さん監修のもと、厚生年金の保険料を安くしたい人に向けて、保険料を安くする方法や保険料の決まり方を紹介します。
この記事の監修者
タケイ 啓子(タケイ ケイコ)
ファイナンシャルプランナー(AFP)。36歳で離婚し、シングルマザーに。大手生命保険会社に就職をしたが、その後、保険の総合代理店に転職。保険の電話相談業務に従事。43歳の時に乳がんを告知される。治療を経て、現在は治療とお金の相談パートナーとして、相談、執筆業務を中心に活動中。
厚生年金の保険料を安くする方法は「ある」!
厚生年金の保険料は安くすることができます。ただし、その選択肢は多くはなく、自身の意思でコントロールできる範囲は限られています。その理由は、厚生年金の保険料は給与や制度の基準に基づき計算されるため、安くするための明確な方法というものはないからです。
また、厚生年金の保険料を軽減すると、生涯年収や将来の受給額が減少したりするといった可能性があるため、必ずしも軽減することが最善とはいえません。
以下では、厚生年金の保険料を安くする方法とそのデメリットについて説明しています。長期的なライフプランや収入減少のリスクを考慮した上で、参考にしてみてください。
厚生年金の保険料を安くする3つの方法
厚生年金の保険料を安くしたいと考えている人は、4〜6月の収入を意識してみましょう。詳しくは後述しますが、厚生年金の保険料は4〜6月の収入の平均額で決まるからです。基本給を変えることはできませんが、企業型確定拠出年金(401K)に加入しているのであれば掛金を増やしたり、残業代や交通費などの基本給以外の金額を抑えたりすることができれば、厚生年金の保険料を安くできる可能性があります。
以下では、厚生年金の保険料を安く抑えるための3つの方法を紹介します。
方法①企業型確定拠出年金(401K)に加入する
勤務先が企業型確定拠出年金(401K)を福利厚生として導入していて、自身がそれに加入している場合、厚生年金の保険料を減らせる可能性があります。
企業型確定拠出年金の掛金は、厚生年金の保険料や税金と同じように毎月の給与から引かれますが、掛金は非課税のため、厚生年金の保険料は掛金を差し引いたあとの金額で算定します。つまり、企業が設定している掛金に加え、従業員が自分の給与から掛金の上乗せができる場合、掛金を増やせば、その分、厚生年金の保険料の算定対象となる収入が減り、結果として厚生年金の保険料が減る可能性もあります。
厚生年金の保険料は減らしたいけれど、将来の受給額は減らしたくない人にとっては一石二鳥のよい方法かもしれません。企業型確定拠出年金は60歳まで資産の引き出しができませんので、そのことは頭に入れておきましょう。また、運用は自己責任のため、投資に関する知識を要する点と、元本割れのリスクがある点についても注意が必要です。
方法②4~6月の残業時間を少なくする
みなし残業ではなく、残業した分だけ残業代が支払われる場合、残業をすれば収入が増える一方で、保険料も増えている場合があります。そのため、余計な残業を控えることで厚生年金の保険料を安くできるかもしれません。
ただし、月の残業時間を1時間や2時間残業を減らしただけでは、厚生年金の保険料は変わらない可能性が高いでしょう。また、必要な残業までやめてしまうと、収入などに影響が出ることもあり得るので注意が必要です。
方法③交通費を少なくする
通勤手当も厚生年金の保険料の算定に含まれます。そのため、遠くから通勤している人は会社から支給されている交通費が原因で保険料が高くなっている可能性があります。この場合、会社の近くに引っ越して交通費の支給額を減らせば保険料が安くなるかもしれません。
とはいえ都心に会社がある場合、会社の近くに引っ越すと家賃が高くなる可能性が高く、必要な生活費が増えてしまいます。交通費を減らせば保険料が安くなることは事実ですが、厚生年金の保険料のためだけに引っ越しを考えるのは得策ではないでしょう。
厚生年金の保険料はどうやって決まる?
厚生年金の保険料が決まるしくみについて説明します。収入別の保険料(自己負担額)についても解説しているので、参考にしてみてください。
厚生年金の保険料は4~6月の平均給与で決まる
繰り返しになりますが、厚生年金の保険料は、4〜6月の平均給与で決まります。給与には基本給のほかに、残業代、交通費などの手当が含まれます。
たとえば、4月が29万円、5月が28万円、6月が33万円で3カ月の給与の合計が90万円だとすると、平均給与は30万円となり、この金額をもとに厚生年金の保険料が決まります。なお、4〜6月にボーナスが支給された場合、ボーナスはこの算定には含まれませんが、年3回までのボーナスは支給月に関係なく、支給額から厚生年金の保険料を算定し、天引きされるしくみとなっています。
厚生年金の保険料の負担額は32等級で分かれている
厚生年金の保険料は4〜6月の平均給与が上がると高くなりますが、1円単位の増減で細かく変わるわけではありません。厚生年金の保険料の負担額は32等級で分かれていて、等級ごとに報酬月額と標準報酬月額が設定されているからです。
標準報酬月額とは平均給与の金額幅のようなもので、平均給与が29万円〜31万円未満なら19等級といったように設定されています。標準報酬月額は、等級ごとの保険料算出に使う金額で19等級なら30万円となっています。つまり、4〜6月の平均給与が29万円の人も30万5,000円の人も標準報酬月額30万円で厚生年金の保険料を算出するため、平均給与が異なっても保険料は同じです。
〈表〉報酬月額と標準報酬月額の一例1)
等級 | 標準報酬月額 | 報酬月額 |
---|---|---|
18 | 28万円 | 27万円〜29万円 |
19 | 30万円 | 29万円〜31万円 |
20 | 32万円 | 31万円〜33万円 |
厚生年金の保険料率は一律18.3%
厚生年金の保険料は一律18.3%で算定を行います。そのため、標準報酬月額がいくらであっても「標準報酬月額×18.3%」で厚生年金の保険料を算定します。標準報酬月額が30万円の人であれば「30万円×18.3%=5万4,900円」となります。
厚生年金の保険料率の18.3%は、令和5年時点での割合になります。ここ数年は変わりありませんが、平成29年以前は毎年のように厚生年金の保険料率が変わっていたため、今後もずっと18.3%とは限らないでしょう。
厚生年金の保険料は会社が半分負担している
標準報酬月額が30万円であれば毎月の厚生年金の保険料は5万4,900円だとお伝えしましたが、自己負担額はこの半分の2万7,450円です。
厚生年金は、保険料の半分を会社が負担してくれるため、自己負担は半分となります。これは、厚生年金に加入していればいかなる場合でも同じで、収入が多いか少ないかは関係ありません。
【収入別】厚生年金の保険料額表1)
厚生年金の保険料は収入別で32等級に分かれています。その金額は標準報酬月額ごとに定められています。以下の報酬月額(給与)から該当する表を確認してみましょう。
〈表〉1.報酬月額:~14万6,000円未満の厚生年金の保険料
等級 | 標準報酬月額 | 報酬月額(以上〜未満) | 保険料 | 自己負担額 |
---|---|---|---|---|
1 | 8万8,000円 | 〜9万3,000円 | 1万6,104円 | 8,052円 |
2 | 9万8,000円 | 9万3,000〜10万1,000円 | 1万7,934円 | 8,967円 |
3 | 10万4,000円 | 10万1,000〜10万7,000円 | 1万9,032円 | 9,516円 |
4 | 11万円 | 10万7,000円〜11万4,000円 | 2万130円 | 1万65円 |
5 | 11万8,000円 | 11万4,000円〜12万2,000円 | 2万1,594円 | 1万797円 |
6 | 12万6,000円 | 12万2,000円〜13万円 | 2万3,058円 | 1万1,529円 |
7 | 13万4,000円 | 13万円〜13万8,000円 | 2万4,522円 | 1万2,261円 |
8 | 14万2,000円 | 13万8,000円〜14万6,000円 | 2万5,986円 | 1万2,993円 |
〈表〉2.報酬月額:14万6,000円~25万円未満の厚生年金の保険料
等級 | 標準報酬月額 | 報酬月額(以上〜未満) | 保険料 | 自己負担額 |
---|---|---|---|---|
9 | 15万円 | 14万6,000円〜15万5,000円 | 2万7,450円 | 1万3,725円 |
10 | 16万円 | 15万5,000円〜16万5,000円 | 2万9,280円 | 1万4,640円 |
11 | 17万円 | 16万5,000円〜17万5,000円 | 3万1,110円 | 1万5,555円 |
12 | 18万円 | 17万5,000円〜18万5,000円 | 3万2,940円 | 1万6,470円 |
13 | 19万円 | 18万5,000円〜19万5,000円 | 3万4,770円 | 1万7,385円 |
14 | 20万円 | 19万5,000円〜21万円 | 3万6,600円 | 1万8,300円 |
15 | 22万円 | 21万円〜23万円 | 4万260円 | 2万130円 |
16 | 24万円 | 23万円〜25万円 | 4万3,920円 | 2万1,960円 |
〈表〉3.報酬月額:25万円~42万5,000円未満の厚生年金の保険料
等級 | 標準報酬月額 | 報酬月額(以上〜未満) | 保険料 | 自己負担額 |
---|---|---|---|---|
17 | 26万円 | 25万円〜27万円 | 4万7,580円 | 2万3,790円 |
18 | 28万円 | 27万円〜29万円 | 5万1,240円 | 2万5,620円 |
19 | 30万円 | 29万円〜31万円 | 5万4,900円 | 2万7,450円 |
20 | 32万円 | 31万円〜33万円 | 5万8,560円 | 2万9,280円 |
21 | 34万円 | 33万円〜35万円 | 6万2,220円 | 3万1,110円 |
22 | 36万円 | 35万円〜37万円 | 6万5,880円 | 3万2,940円 |
23 | 38万円 | 37万円〜39万5,000円 | 6万9,540円 | 3万4,770円 |
24 | 41万円 | 39万5,000円〜42万5,000円 | 7万5,030円 | 3万7,515円 |
〈表〉4.報酬月額:42万5,000円以上の厚生年金の保険料
等級 | 標準報酬月額 | 報酬月額(以上〜未満) | 保険料 | 自己負担額 |
---|---|---|---|---|
25 | 44万円 | 42万5,000円〜45万5,000円 | 8万520円 | 4万260円 |
26 | 47万円 | 45万5,000円〜48万5,000円 | 8万6,010円 | 4万3,005円 |
27 | 50万円 | 48万5,000円〜51万5,000円 | 9万1,500円 | 4万5,750円 |
28 | 53万円 | 51万5,000円〜54万5,000円 | 9万6,990円 | 4万8,495円 |
29 | 56万円 | 54万5,000円〜57万5,000円 | 10万2,480円 | 5万1,240円 |
30 | 59万円 | 57万5,000円〜60万5,000円 | 10万7,970円 | 5万3,985円 |
31 | 62万円 | 60万5,000円〜63万5,000円 | 11万3,460円 | 5万6,730円 |
32 | 65万円 | 63万5,000円〜 | 11万8,950円 | 5万9,475円 |
厚生年金の保険料を確認する際は、4〜6月の平均給与を報酬月額の列に当てはめて確認してみてください。自己負担額の列の金額が給与から厚生年金の保険料の自己負担額として差し引かれます。
厚生年金の保険料を安くすることのデメリット
厚生年金の保険料を安くする方法や保険料の決まり方を説明してきました。厚生年金の保険料が安くなれば、その分、給与から引かれる金額が減るため、「厚生年金の保険料を安くできるならしたい」と思う人もいるのではないでしょうか。
しかし、厚生年金の保険料を安くすることは、メリットばかりとは限りません。厚生年金の保険料を安くすることによるデメリットもあるので気をつけましょう。以下で詳しく解説します。
将来の受給額が減る
年金の受給額は、厚生年金に加入していた期間中の収入よって決まります。そのため、厚生年金の保険料を安くしたい場合、給与から天引きされる金額が減ると同時に、受給額が減ってしまいます。
老後の備えを考えるのであれば、現役で働けるうちに厚生年金の保険料を多く納めたほうが建設的です。
厚生年金の平均額について以下の記事で詳しく紹介しているので、ぜひ併せてご覧ください。
【関連記事】厚生年金はいくらもらえる?平均額と計算方法について詳しくはコチラ
厚生年金の保険料を安くしてもかえって手取り収入が減る
厚生年金の保険料を安くするということは、4〜6月の収入を減らすということです。厚生年金の保険料は減りますが、収入も減ってしまうため、結果として手取り収入が減ってしまいます。厚生年金の保険料を減らして得た金額より、手取り収入が減って失った金額のほうが多くなってしまう可能性が高いでしょう。
たとえば、平均給与30万円のうち残業代が5万円の人が、4〜6月だけ残業をまったくせずに平均給与を25万円にした場合は以下のように収入が減ってしまいます。
減った保険料:年額4万3,920円(※)
減った収入:15万円
結果:10万円以上収入が減ってしまう
※:標準報酬月額19等級と17等級の自己負担額の差額を年額に換算して計算
この結果から考えると、毎月のように残業代が支払われている人やインセンティブがある給与形態の人は残業をせず、収入を減らすような調整は行わないほうがよいかもしれません。
厚生年金の保険料は減らさないほうが長期的にはプラス
厚生年金の保険料を安くするためには、4~6月の給与を抑え、標準報酬月額の等級を下げる方法が挙げられます。
しかし、厚生年金の保険料を安くしようとすると手取り収入を減らすことになり、受給額も少なくなってしまいます。厚生年金の保険料を多く支払えば、その分、受給額も増えますので、厚生年金の保険料を多く支払うことは決してデメリットではないでしょう。
給与から天引きされる金額を減らすことを考えるより、将来の資金づくりに取り組める「NISA」や「iDeCo」など、ほかの方法を考えたほうがよいかもしれません。お金のプロに相談をすれば、今の自分に合った対策を教えてもらえますので、検討してみてはいかがでしょうか。