「保障内容はどちらが充実しているの?料金は?」
など、社会保険と国民健康保険の違いがわからない人は、多いのではないでしょうか。
結論としては、社会保険のほうが保険料の自己負担額が低く、保障が手厚いです。この記事では、社会保険労務士でファイナンシャルプランナーの岡 佳伸さん監修のもと、社会保険と国民健康保険の違いを解説します。
また、それぞれの保険への切り替え方法も紹介。この記事を読めば、社会保険と国民健康保険の特徴を十分に理解できるでしょう。
この記事の監修者
岡 佳伸(おか よしのぶ)
社会保険労務士法人岡佳伸事務所代表。特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、宅地建物取引士。
大手人材派遣会社、自動車部品メーカーなどで人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険給付業務、助成金関連業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として活躍。各種講演会(東京商工会議所練馬支部、中央支部、公益社団法人東京ビルメンテナンス協会)講師および各種WEB記事執筆。日経新聞、読売新聞、女性セブンなどに取材記事掲載のほか、NHK「あさイチ」に専門家ゲストとしても出演(2020年12月21日、2021年3月10日)。
日本の健康保険制度のしくみ

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そもそも健康保険とは、病気やケガの治療にかかる医療費の自己負担を減らすことができる公的な医療保険制度です。
日本の公的医療保険制度は「国民皆保険制度」といい、原則として全国民が健康保険に加入することが義務付けられています。
地域や職業、勤務先、年齢などによって加入する健康保険が異なり、主には会社員や公務員が加入する「社会保険」、自営業やフリーランスが加入する「国民健康保険」、高齢者が加入する「後期高齢者医療制度」などがあります。
いずれも加入者が支払う保険料を主な財源とし、必要とする人が医療を受けられることを目的とした制度です。健康保険料の金額は、年齢や収入により異なりますが、医療費の自己負担割合は、基本的に以下のとおりです。
〈表〉健康保険加入者の医療費負担割合1)2)
年齢 | 負担割合 |
---|---|
6歳未満(義務教育前) | 2割 |
70歳未満 | 3割 |
70〜74歳 | 2割(現役並み所得者は3割) |
75歳以上 | 1割(一定以上所得のある人は2割、現役並み所得者は3割) |
健康保険の種類

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前述のとおり健康保険は大きく3種類に分けられます。各健康保険の中の主な種類と加入対象者を表にまとめました。
〈表〉健康保険の種類と主な加入対象者
種類 | 主な加入対象者 | |
---|---|---|
社会保険 | 協会けんぽ | 中小企業の従業員とその扶養家族 |
組合健保 (組合管掌健康保険) | 大企業の従業員とその扶養家族 | |
共済組合 | 公務員や私立学校の教職員とその扶養家族 | |
国民健康保険 | 市町村国保 | その地域に住む社会保険加入者および、国保組合加入者以外の人 |
国保組合 (国民健康保険組合) | 個人事業所を対象に、同種の事業や業務に従事する人とその家族 | |
後期高齢者医療制度 | 75歳以上の人、または65歳以上75歳未満で一定の障害を抱える人 |
以下では、社会保険と国民健康保険についてそれぞれの特徴や違いを解説します。
社会保険
社会保険は、会社員、公務員、教職員とその扶養家族が加入できる公的医療保険制度です。被用者保険や健康保険と呼ぶこともあります。この場合の保険者(保険を提供する側)は、会社や団体となります。社会保険はさらに、勤め先によって以下の3種類に分類されます。
〈表〉社会保険の種類
種類 | 運営元 | 主な加入対象者 | 特徴 |
---|---|---|---|
協会けんぽ | 全国健康保険協会 | 中小企業の従業員とその扶養家族 | 日本最大の社会保険で、多くの中小企業が加入している |
組合健保 (組合管掌健康保険) | 企業の健康保険組合 | 大企業の従業員とその扶養家族 | 常に700人以上の従業員がいる大企業や各種事業者団体のみが独自に設立できる保険組合 |
共済組合 | 職種や地域ごとの共済組合 | 公務員や私立学校の教職員とその扶養家族 | 国家・地方公務員や私立学校の職員などが加入する組合。「被保険者」を「組合員」、「保険料」を「掛金」と呼ぶ |
社会保険には、扶養という考え方があります。社会保険の加入者に生計を維持されている家族は、扶養に入ることで追加の保険料なしで加入者と同じサービスを受けることが可能です。
社会保険の被扶養者になれる条件は、年間所得130万円未満(60歳以上または障害厚生年金該当なら180万円未満)です。扶養から外れる家族は、個別でほかの健康保険に加入しなければなりません3)。
なお、社会保険の扶養が外れる条件やその際の手続きについては、以下の記事で詳しく解説しています。該当する人は併せてご覧ください。
参考資料
国民健康保険
自営業やフリーランス、年金生活者、非正規雇用者などと、その家族が加入する医療保険制度です。社会保険や後期高齢者医療制度に加入していないすべての人が対象となります。この場合の保険者は自治体または特定の組合となります。国民健康保険は「市町村国保」と「国保組合」に分類されます。
〈表〉国民健康保険の種類4)
種類 | 運営元 | 主な加入対象者 | 特徴 |
---|---|---|---|
市町村国保 | 市町村と都道府県 | その地域に住む社会保険加入者および、国保組合加入者以外の人 | 都道府県と市町村が運営している |
国保組合 (国民健康保険組合) | 職種や地域ごとの国保組合 | 個人事業所を対象に、同種の事業や業務に従事する人とその家族 | 市町村国保よりも保険料の負担額が少なく、保障内容が手厚い場合が多い |
このうち、国保組合はさらに以下の種類などに分かれます。
- 医師国保:開業医が加入できる
- 全国土木建築国保:土木建築業者が加入できる
- 文芸美術国保:文芸・美術・著作活動をしている人が加入できる
なお、国民健康保険には扶養という考え方がありません。そのため、収入がない配偶者や子どもであっても、家族それぞれが国民健康保険に加入する必要があり、保険料がかかります。ただし、令和4年の法改正により、低所得者世帯の子どもに対しては保険料が軽減される措置が導入されました5)。
健康保険の種類については以下の記事で詳しく解説しているため、興味がある人は併せてご覧ください。
社会保険と国民健康保険の違い

75歳未満の人が対象となる社会保険と国民健康保険では、保険料の計算方法、受けられる給付が異なります。主な違いを以下にまとめました5)6)。
〈表〉社会保険と国民健康保険の違い
社会保険 | 国民健康保険 | |
---|---|---|
対象者 | 会社員や公務員とその扶養家族など | 自営業やフリーランス、年金生活者など |
医療費の自己負担割合 | 未就学児:2割負担 | |
6歳以上(義務教育就学後)から69歳まで:3割負担 | ||
70歳以上74歳以下:2割負担(現役並み所得者は3割負担) | ||
高額療養費制度 | あり | |
出産育児一時金 | あり | |
葬祭費(埋葬料) | あり | |
家族埋葬料 | あり | なし |
傷病手当金 | あり | なし(※) |
出産手当金 | あり | なし |
扶養 | あり | なし |
保険料の支払い | 加入者と会社で半分ずつ負担 | 加入者が全額負担 |
社会保険と国民健康保険では、医療費の自己負担割合・高額療養費制度・出産育児一時金などに違いはありません。
高額療養費制度とは、家計の医療費負担が重くならないよう、高額な医療費に上限を設ける制度です。1カ月間(1日から末日まで)に支払った医療費が自己負担限度額を超えた場合、超えた分が払い戻されます。
出産育児一時金は、健康保険の加入者とその被扶養者が出産した時、一児につき42万円が支給される制度です。現在は健康保険から直接医療機関などに払われる「直接支払制度」が利用されています。直接支払制度を利用しない時は申請書に医師・助産師の証明を貰って申請します。また、令和5年度から一律50万円となる予定です7)。
一方で、国民健康保険には傷病手当金や出産手当金がありません。傷病手当金は、病気やケガなどにより働けない期間に支給される給付で、出産手当金は、出産により働けない期間に支給される給付です。また、扶養という考え方もないため、各個人が保険に加入する必要があります。
社会保険が会社と保険料を半額ずつ支払うのに対し、国民健康保険は全額保険料を支払わなければならないのも違いのひとつです。
社会保険と国民健康保険の保険料
社会保険と国民健康保険の保険料の計算方法について、それぞれ解説します。
●社会保険の保険料の計算方法
社会保険の保険料は、以下の計算式で算出します。
標準報酬月額×保険料率=社会保険料 |
標準報酬月額とは、月々の給与を切りのいい金額で区分した報酬額のことです。算出された金額に応じて、9月から翌8月までの保険料が決定します。
保険料率は、各都道府県によりますが10%前後です8)。社会保険は「労使折半」なので、保険料の半分は会社が負担します。
●国民健康保険の保険料の計算方法
国民健康保険の保険料は全額自分で負担しなければなりません。計算式は以下のとおりです9)。
医療分保険料+支援金分保険料+介護分保険料=国民健康保険料 |
各保険料は、それぞれ以下の計算式を組み合わせて算出します。
〈表〉国民健康保険の算出に関わる各保険料の計算式
均等割 | 世帯の加入人数×均等割額 |
---|---|
平等割 | 各市町村で定められた金額×世帯人数 |
所得割 | 所得額×料率 |
資産割 | 固定資産税額×料率 |
組み合わせ方は各市町村で異なります。たとえば、東京都新宿区では均等割と所得割で計算しますが、北海道札幌市では、均等割と平等割、所得割での計算です10)11)。
国民健康保険には扶養という考え方がないため、配偶者や子どもの保険料も、世帯主がまとめて支払います。
社会保険と国民健康保険の切り替え

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ここからは、社会保険と国民健康保険の切り替えについて、以下の2パターンに分けて解説します。
- 社会保険から国民健康保険への切り替え
- 国民健康保険から社会保険への切り替え
健康保険の切り替えには申請期間が定められているため、忘れずに手続きしましょう。
社会保険から国民健康保険への切り替え
社会保険から国民健康保険へ切り替える際の必要書類や手続きの場所は、以下のとおりです。
〈表〉社会保険から国民健康保険への切り替えの要件
必要書類 | ・健康保険喪失証明書 ・退職が確認できる書類(離職票・退職証明書など) ・本人確認書類 ・個人番号確認書類 |
---|---|
手続きの場所 | ・各自治体の役所、役場 ・近くの年金事務所 |
申請期限 | ・原則14日以内 |
必要書類は自治体によって変わるので、ウェブサイトなどで確認しましょう。申請期限は社会保険を脱退した翌日から原則14日以内ですが、14日を過ぎても申請は可能です。その場合、遡って国民健康保険料を支払わなければなりません。
社会保険から国民健康保険への切り替えや、切り替え時に発生する健康保険の空白期間の取り扱いは、以下の記事で詳しく解説しています。
【関連記事】健康保険切り替え時の空白期間について詳しくはコチラ
また、社会保険は会社を退職したあとも任意継続が可能です。任意継続は最大2年間で、扶養も引き継がれます。ただし、会社と折半していた保険料は全額自分で支払わなければなりません。
任意保険の継続については以下の記事で解説しているので、詳しく知りたい人は併せてご覧ください。
【関連記事】社会保険の任意継続のメリットについて詳しくはコチラ
国民健康保険から社会保険への切り替え
国民健康保険から社会保険へ切り替える際の社会保険への加入手続きは、勤務先の会社が行います。被保険者が行うのは「国保脱退の手続き」です。脱退手続きは社会保険へ加入した翌日から14日以内に行います。必要書類や手続きの場所は、以下のとおりです。
〈表〉国民健康保険から社会保険への切り替えの要件
必要書類 | ・印鑑 ・国民健康保険の保険証 ・加入した職場の健康保険証(ない場合は資格取得日がわかるもの) ・個人番号確認書類 |
---|---|
手続きの場所 | ・各自治体の役所、役場 |
申請期限 | ・原則14日以内 |
ただし、必要書類は自治体によって変わるので、ウェブサイトなどで確認するようにしましょう。
社会保険と国民健康保険の違いを把握しておこう

画像:iStock.com/Yusuke Ide
社会保険と国民健康保険では、加入対象者や保険料の算出方法、受けられる給付などが異なります。
転職や退職などでそれぞれの切り替えが必要になった際には、違いを把握した上で手続きをするようにしましょう。