パート・アルバイトで働いているとよく耳にする103万円の壁や130万円の壁。収入が増えても手取りが減る区切りとされることもあります。これらの壁は扶養家族になるかどうかが関わっています。また、「扶養」という同じ言葉を使っていますが、実際には税制度上と健康保険制度上でそれぞれに扶養というしくみがあり、対象範囲や条件が異なります。

この記事では、ファイナンシャルプランナーの黒川一美さん監修のもと、税制度と健康保険制度の扶養の違いや扶養に入るメリットを解説。また、扶養が外れる時の注意点なども解説します。

この記事の監修者

黒川一美(くろかわかずみ)

FPサテライト株式会社所属、ファイナンシャルプランナー。大学院修了後、IT企業や通信事業者でセールスエンジニア兼企画職として働く。出産を機に退職し、お金を稼ぐ側から家計を守る側に立場が変わり、お金の守り方を知らなかったことを痛感。自分に合ったお金との向き合い方を見つけるため、FP資格を取得する。資格取得後は、FPの勉強を通じて得られた知識をもとに、よりよい家計管理を求め試行錯誤の日々を過ごす。現在は3人の子育てをしながら、多角的な視点からアドバイスができるFPを目指して活動中。

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扶養家族とは?

画像: 画像:iStock.com/SewcreamStudio

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扶養家族は、自分の収入で生活を支えている家族や親類のことをいいます。たとえば、サラリーマンの夫の収入を主にして生活している妻は、夫の扶養家族になります。また、扶養されることを「扶養に入る」と表現することもあります。なお、生活を支えている人は「扶養者」と呼びます。

世間一般には、「扶養に入る」とひとくくりにされることもありますが、実際は税制度、健康保険制度、勤務先の福利厚生という3つの独立した制度に基づいたものです1)2)制度ごとに扶養家族や扶養者の立場でメリットが異なります

●税制度上のメリット

扶養家族:所得税や住民税がかからない
扶養者:扶養する家族の構成によっては扶養者の所得税や住民税を減額できる

●健康保険制度上のメリット

扶養家族:保険料を支払わずに扶養者の健康保険に被扶養者として加入できる

●勤務先の福利厚生のメリット

扶養者:勤務先によっては、扶養者に子ども手当や配偶者手当などが支払われる場合がある

これらの内容について、つぎの項目以降で詳しく解説していきます。

なお、この記事では、税制度と健康保険制度の扶養を中心に解説します。福利厚生は企業が独自に決めているものです。気になる人は、勤務先に確認してみてください。

税制度上と健康保険制度上の扶養とは

扶養家族は、自分の子どもや両親、自分より収入の少ない妻や夫、というイメージがあるかもしれません。税制度でも健康保険制度でも、扶養に入ることができる条件がしっかり決められています。扶養に入る対象範囲や年収、手続きについて以下にまとめました。

〈表〉税制度上と健康保険制度上の扶養に入る条件と手続き

税制度健康保険制度
扶養者との
関係性
6親等以内の親族
3親等以内の姻族
法的な配偶者
直系尊属、子ども、孫、兄弟姉妹
事実婚を含む配偶者
3親等内の同居親族
対象年齢配偶者以外は16歳以上
配偶者に年齢制限はない
75歳未満
(後期高齢者以外)
収入配偶者以外:所得48万円未満
配偶者:所得48万円未満
(配偶者特別控除は133万円未満)
年収:130万円未満
(障がい者は180万円未満)
手続き方法年末調整で所得税申告時に申請加入している健康保険に申請
一般的には勤務先の人事総務などが窓口

扶養に入る対象範囲については、後述で詳しく説明しますが、「収入面の条件」については特に注意が必要なためここで解説します。

税制度では、扶養に入ることができる条件は所得で決まります。所得とは、所得税や住民税を計算する時に使う金額で、収入額から各種控除や必要経費を引いたものです。パート・アルバイトの収入に換算すると、扶養に入る目安は103万円未満です。フリーランスや自営業の人の場合は、収入から実際にかかった費用や税制度の控除を引いた金額です。

一方、健康保険制度では、扶養に入ることができる条件は収入で決まります。税金や保険料などの天引きがない人は手取り額、天引きされている人は引かれる前の金額です。健康保険制度では扶養に入れても、税制度では扶養に入れないという場合もあるため注意しましょう。

税制度上で扶養に入ると、扶養者の所得税や住民税を減額できる

画像: 画像:iStock.com/Wirestock

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税制度では、扶養に入ると扶養者の納税額が下がる可能性があります。これは、納税額を計算する時に、収入から一定額を引ける「控除」というものがあり、扶養に入っている人の人数や年齢に応じて控除を利用できるからです。

扶養家族がいることで利用できる控除は、配偶者以外が対象になる扶養控除、配偶者が対象となる配偶者控除」「配偶者特別控除」の3つです3)4)5)。控除できる金額は扶養に入っている人の年齢や収入によって決まっています。

まず、配偶者以外が対象となる扶養控除の控除額を見ていきましょう。

配偶者以外の家族は年齢の区分が3種類、そのうち70歳以上は同居しているか別居しているかによって2つに分類されます。なお、所得税と住民税では控除額が変わります。それらを以下の表にまとめました。

〈表〉配偶者以外の扶養家族の年齢による控除額の違い

扶養家族の年齢など所得税の控除額住民税の控除額
16歳以上38万円33万円
19歳以上23歳未満63万円45万円
70歳以上で別居48万円38万円
70歳以上で同居58万円45万円

控除額が大きければ大きいほど納税額が下がりますので、19歳以上23歳未満の扶養家族がいる人や、70歳以上の同居高齢者がいる人の納税額が比較的大きく下がります。

ただし、前述のとおり、扶養家族の1年間の合計所得が48万円以上になると扶養の対象から外れます。扶養者は扶養控除が利用できなくなり、扶養を外れた家族自身も所得税を支払うことになります。

続いて配偶者が扶養に入った場合の控除額が以下の表です。配偶者も所得税と住民税で控除額が変わります。

〈表〉扶養者と配偶者の所得による控除額の違い

配偶者の所得扶養者の所得と控除額
900万円以下900万円超
950万円以下
950万円超
1,000万円以下
配偶者控除48万円未満38万円
(33万円)
26万円
(22万円)
13万円
(0円)
70歳以上
48万円未満
48万円
(38万円)
32万円
(26万円)
16万円
(0円)
配偶者特別控除48万円超
133万円以下
3万〜38万円
(3万〜33万円)
2万〜26万円
(2万〜22万円)
1万〜13万円
(1万〜11万円)
※控除額の欄のカッコの中は住民税の控除額

配偶者の控除額は、配偶者の所得によって「配偶者控除」と「配偶者特別控除」に分かれます。両者の違いは、扶養されている人が所得税を支払うかどうかです。配偶者控除は扶養されている配偶者に所得税がかかりません。一方、配偶者特別控除は配偶者も所得税を支払います。

【関連記事】扶養控除の金額について、詳しくはコチラ

税制度上で扶養に入る条件

税制度上では、配偶者以外の扶養対象になる人を「扶養親族」と呼んでいます。一般的には扶養に入っている人を扶養家族と呼びますが、税制上では配偶者とそのほかの親族では扶養に入る条件や控除額が違うため、「扶養親族」と配偶者を区別しています。

税制度上で扶養親族と認められる条件はつぎの4つです。なお、税制度上では12月31日時点の状況で判断することになっており、4つの条件をすべて満たさなければなりません。

●税制度上で扶養親族に入る条件

それぞれの条件について詳しく解説します。

①扶養者との関係が配偶者を除く6親等以内の親族、3親等以内の姻族、里子などである

画像: ①扶養者との関係が配偶者を除く6親等以内の親族、3親等以内の姻族、里子などである

最初に、扶養者と扶養親族の関係性を見ていきましょう。扶養親族になる範囲はつぎの3つです。

  • 6親等以内の親族
  • 3親等以内の姻族
  • 里子など

親族は基本的には、血縁関係にあたる人、いわゆる血のつながりのある人です。税制度の扶養親族には、養子も対象になります。姻族は配偶者の親族、つまり結婚したことによって親族になった人のことをいいます。

また、親族以外でも自治体からの依頼などで子どもや高齢者を養っている場合は、その人も対象になります。

ですから、具体例を挙げるとつぎのような人が該当します。

●6親等以内の親族の例
両親、祖父母、子ども、孫、兄弟姉妹、いとこ、叔父叔母など

●3親等以内の姻族の例
配偶者の両親、配偶者の兄弟姉妹、配偶者のいとこ、配偶者の叔父叔母など

●里子などの例
自治体などからの依頼で育てている子どもや、保護を請け負った高齢者

②扶養者と生活費が共同である

いわゆる財布が一緒の状態のことを指します。税制度では「生計が同一」という言い方をします。

共働きのように収入のある人が複数いる場合も、生活費を全員で負担している場合は条件に当てはまります別居していても生活費を共同で利用していれば扶養親族に入れます。たとえば、1人暮らしをしている子どもや、別居している両親の生活費を負担している場合などです。

③家族が経営している自営業だけで働いていない

厳密には税制度上の青色申告の事業専従者、白色申告の事業専従者になっていないことが条件です。

働いていない人やパート・アルバイトで働いている人は影響がありませんが、家族が経営している自営業で働いている人はパート・アルバイトでも注意が必要です。自営業の経営者が事業専従者として申請している場合は税制度上の扶養親族に入れません。

④1年間の所得が48万円未満である

何らかの収入があったとしても、1年間の合計所得額が48万円未満であることが条件です。所得とは、収入額ではないことに注意しましょう。税制度上の所得とは、収入額から給与所得控除などの必要経費を差し引きした残額を指すからです。

健康保険制度上で扶養に入ると、保険料が免除される

健康保険制度では、扶養に入ると扶養者の健康保険に加入できます。扶養者本人と全く同じ保障ではありませんが、病気やケガの治療費や出産時の補助があります。

【関連記事】社会保険の扶養が外れる条件について、詳しくはコチラ

健康保険制度上で扶養に入る条件

健康保険制度では扶養家族を「被扶養者」と呼んでいます。被扶養者になると、健康保険の保険料が免除されます。

健康保険で被扶養者になれる条件はつぎのような点を確認する必要があります。

それぞれ詳しく説明します。

①被扶養者と扶養者の関係性

被扶養者になれる人は扶養者とつぎのどれかに該当する人です。

  • 扶養者の配偶者、子ども、孫、兄弟姉妹、直系尊属
  • 同居している3親等以内の親族
  • 事実婚の配偶者の子どもや両親
  • 亡くなった事実婚の配偶者の子どもや両親

下の図を用いて説明します。

画像: ①被扶養者と扶養者の関係性

まず、図の青枠で囲ってある人が、配偶者、子ども、孫、兄弟姉妹の「直系尊属」です。直系尊属は、両親、祖父母、曾祖父などの自分より前の直系の親族を指します。青枠の人たちは、同居していても別居していてもかまいません。また、配偶者は事実婚でも対象になります。

なお、緑色で囲ってある人が3親等以内の親族で、この人たちは同居が条件です。

【関連記事】妻が夫の扶養家族になるメリットや条件について、詳しくはコチラ

②被扶養者の収入条件

被扶養者の収入条件は、扶養者と同居しているか別居しているかで異なります

扶養者と同居している場合、扶養に入る年収条件は130万円未満かつ扶養者の年収の1/2未満であることが条件です。被扶養者が60歳以上である場合や、障がい者の場合は180万円未満まで認められます。

ただし、被扶養者の生活を扶養者が支えていると判断された場合は、扶養者の年収が130万円未満で扶養者の年収を下回っている場合は、1/2以上であっても被扶養者になれることもあります。

一方、扶養者と別居している場合も、被扶養者の収入が130万円未満で扶養者からの仕送りなどの援助額より少ないことが条件です。被扶養者が60歳以上である場合や、障がい者の場合は180万円まで認められます。

年収が130万円を超えると扶養が外れ、自身で健康保険に加入することになります。保険料負担が増え、手取りが減ってしまうことから年収130万円を超えないように働く人もいます。これがいわゆる「130万円の壁」です。

扶養が外れる条件

一度扶養に入ったら、そのまま扶養でいられるわけではありません。扶養家族の状況が変われば、扶養が外れる場合もあります

制度ごとに扶養が外れる条件を整理しました。

税制度上の扶養が外れる条件

税制度上で扶養が外れる条件は扶養家族の収入が増えることです。

前述したように、税制度上は所得が48万円を超えると扶養が外れます。税制度上で扶養が外れると、扶養者は控除が利用できなくなり、扶養家族は税金を納めることになるため注意しましょう。

健康保険の扶養が外れる条件

健康保険の扶養が外れる条件はつぎの4つです。

  • 年収130万円以上になった
  • 社会保険制度のあるところで働きはじめた
  • 後期高齢者医療保険制度の対象になった
  • 扶養者が退職などにより健康保険から脱退した

まず、被扶養者の年収が130万円を超えると、健康保険の年収条件を満たせなくなるため、扶養を外れることになります。この場合、被扶養者は自分で健康保険に加入しなければなりません。働いているところの社会保険制度に加入するか、国民健康保険に加入します。

また、パート・アルバイトの社会保険加入拡大により、年収やパート・アルバイト先の規模によっては健康保険に加入しなければいけない場合があります。この場合は、自身で保険料を負担してパート・アルバイト先の社会保険に加入することになるので、扶養が外れます。なお、社会保険に加入すると、自動的に厚生年金に加入することになりますので、将来受け取る年金が増えるというメリットがあります。

つぎの条件は扶養されていた人が後期高齢者医療保険制度の対象になった場合です。基本的には75歳以上、一定の障がいがある人は65歳以上が対象です。

なお、75歳以上の人はすべて後期高齢者医療保険制度に加入することになります。被扶養者だけではなく、国民健康保険に加入していた人や社会保険に加入していた人も扶養を外れて後期高齢者医療保険制度に加入することになります。

最後の条件は、退職などで扶養者が健康保険から脱退した場合です。扶養者が健康保険から脱退すると、自動的に被扶養者も外れます。

コラム:配偶者の扶養に入ると年金はどうなる?

画像: 画像:iStock.com/takasuu

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配偶者の場合は社会保険制度の扶養に入ることができます。扶養に入る条件は、前述した健康保険制度の加入条件と同じです。

配偶者が社会保険制度上の扶養に入った場合、保険料の負担なしで国民年金に加入している状態になります。詳しくは以下の記事で解説しているので、気になる人は確認してみてください。

【関連記事】配偶者の扶養に入った時の年金について、詳しくはコチラ

扶養に入る? 入らない? 自身にとってベストな方法を選択しよう

税制度上と健康保険制度上でそれぞれ扶養に入る対象や収入、年齢などの条件が決められていることを解説しました。

近年、社会保険加入拡大に向けてパート・アルバイトでも条件によっては自分で社会保険に加入しなければならないケースもあります。また、収入が大きく増える見込みがある場合は、自身で社会保険に加入したほうが、年金受給額が増える場合もあります。扶養に入る場合と扶養が外れた場合で、家族にとってどのような違いがあるのか考えてみてはいかがでしょうか。

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