この記事では、ファイナンシャルプランナーの藤井亜也さん監修のもと、出産手当金の計算方法やいくら支給されるのか、そして出産予定日別のシミュレーションをご紹介します。
※この記事では「育児休業=育休」として解説していきます。
※この記事は2023年2月2日に公開した内容を最新情報に更新しています。
出産手当金とは?
「出産手当金」とは、会社員として勤務していた被保険者が出産に伴い健康保険協会などの保険者から受け取れる給付金のことです1)。
「労働基準法」の第65条では、企業は6週間(42日。双子など多胎妊娠の場合は14週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合、それを認めなければならないと定められています。また、産後8週間(56日)を経過しない女性の就業を禁じています2)。
一方で、産前産後休業(以下、産休と略します)中の賃金の支払いに関しては労働基準法の規定はないため、産休中に給与が支払われるかどうかは会社の就業規則によって異なります。
もし会社側が産休中の給与を支払わないという規則を設けている場合、産後少なくとも8週間休業しなければならない女性は、必然的に収入が減少してしまいます。
出産手当金は、そんな産休中の女性のために設けられた公的医療保険による制度で、給与をもとに計算した手当が支給されることにより、産前・産後の女性の生活を保障します。
なお、産休中の給与に関することは以下の記事で解説しています。気になる方は併せてご覧ください。
【関連記事】産休・育休中の給与はもらえない? 給付金や手当金について、詳しくはコチラ
出産手当金の1日あたりの支給額の計算方法は?
では、出産手当金の支給額は一体どれくらいなのでしょうか。出産手当金は、一律で支給されるのではなく、被保険者の給与額と出産日によって決まります。
以下の被保険者期間別に、出産手当金の計算方法をご紹介します。
①支給開始日以前の被保険者期間が12カ月以上の場合
1日あたりの支給額を計算する場合、支給開始日以前で被保険者期間が12カ月経過しているかどうかがポイントとなります。支給開始日以前の被保険者期間が12カ月以上ある場合の支給額は、以下の方法で計算します1)。
1日あたりの出産手当金 =
支給開始日以前から12カ月間の標準報酬月額の平均額÷30日×2/3
1日あたりの出産手当金は、1年間の標準報酬月額の平均額をもとに計算されます。標準報酬月額とは、社会保険料を計算するために設定された金額であり、実際の給与額ではありません3)。また、支給開始日とは、出産手当金が最初に支給された日を指します。
②支給開始日以前の被保険者期間が12カ月未満の場合
一方、支給開始日以前の被保険者期間が12カ月に満たない場合は、計算方法が異なります。この場合、標準報酬月額の平均額は、以下のいずれか低いほうを使用します3)。
- 支給開始日が含まれる月以前の継続した各月の標準報酬月額の平均額
- 被保険者の標準報酬月額の平均額(全国健康保険協会においては支給開始日が2019年4月1日以降なら30万円)
出産手当金の支給開始日以前の被保険者期間が12カ月未満の場合は、まずはどちらも計算してみる必要があります。その上で、標準報酬月額を出し、前述の計算式を使って算出してみてください。
出産手当金の支給対象期間は?
先ほど説明した方法は、日額を算出するものです。受給できる出産手当金の全額を計算するためには、日額に日数をかけて算出します。
出産手当金の支給対象期間は、前述した労働基準法の第65条に規定された産休期間と一致します。したがって、出産予定日以前42日前(多胎妊娠の場合は14週間前)から、出産日の翌日以後56日目までの範囲内で、会社を休んだ期間が対象となります。
ただし、産前・産後休業の期間は決まっているものの、誰もが同じ日数分を受給できるわけではありません。なぜなら、出産は必ずしも予定どおりに進むとは限らないからです。以下の場合に支給対象期間は増減します。
それぞれについて、詳しく解説します。
①出産予定日に出産または、出産予定日より早く出産した場合
最終月経開始日から出産予定日が設定されていますが、必ずしもその日に生まれるとは限りません。そのため、出産した日によって出産手当金を受給できる期間が異なります。出産日が予定日と同じ場合や早く生まれた場合は、以下の日数が支給対象期間になります4)。
〈図〉出産予定日に出産または、出産予定日より早く出産した場合の支給期間
なお、出産した日は出産日前42日に含まれます。ただし、本人の希望により出産日前42日でも会社を休んでいない場合などは支給対象とはなりません。出産予定日の42日前である期間中で会社を休み、給与の支払いがない場合のみに限られます。
参考資料
②出産予定日より遅れて出産した場合
初産などは特に、出産予定日を超過することもあります。出産日が予定日よりも遅れた場合は、その遅れた期間も支給対象です4)。
〈図〉出産予定日より遅れて出産した場合の支給期間
出産予定日を超過して出産した場合、予定日から遅れた出産日までの期間も含めて計算します。そのため、支給対象期間が労働基準法に定められた期間2)よりも長くなるので、きちんと申請しましょう。
出産手当金の支給要件
出産手当金は、出産するすべての女性が受給できるわけではありません。受給するためには、以下の要件を満たす必要があります5)。
- 出産をする本人が健康保険の被保険者であること
- 出産のために休業していること
- 妊娠4カ月(85日)以後の出産であること
前提として出産する本人が会社の健康保険に加入していない場合は、出産手当金を受給できません。そのため、家族の扶養となっている場合は出産手当金を受給できないため注意しましょう。
また、出産手当金は、原則として出産のために仕事を休んでいて、かつ産休中に会社から賃金の支払いを受けていない方に支給されます。産休中に会社から賃金の支払いがあった場合でも、支払額が出産手当金の金額より少ない場合は、その差額分を出産手当金として受給できます。
なお、ここでいう「出産」には、妊娠4カ月(85日)以後の出産のほか、流産や死産・人工妊娠中絶なども含まれます。
出産手当金の支給要件やもらえないケースについては、以下の記事で詳しく解説しています。併せてご覧ください。
【関連記事】出産手当金がもらえないケースについて、詳しくはコチラ
参考資料
妊娠・出産を機に退職する場合の支給要件
妊娠や出産を機に退職する場合でも、以下の要件を満たせば出産手当金の支給対象となります4)。
- 退職日までの健康保険加入期間が継続して1年以上ある(※1)
- 退職日が出産手当金の支給期間内(産休期間内)である
- 退職日当日に仕事を休んでいる(出勤していない)(※2)
※1:健康保険任意継続の被保険者期間は含まない
※2:有給休暇の場合は受給可能
支給対象となるのは、1年以上被保険者であったことに加えて、退職日の時点で出産手当金を受給しており、退職日当日に勤務していない場合のみになります。
産休期間外に退職すると、出産手当金は支給されないため出産を機に退職を予定している方は、退職日の調整をしたほうがよいでしょう。
〈図〉出産を機に退職する場合に出産手当金が支給される場合とされない場合
なお、出産を機に退職する場合でも、申請の流れは通常と変わりません。ただし、加入している健康保険へ自分で書類を提出しないといけない場合もあるので、勤務先に確認が必要です。
申請の流れは以下でご紹介します。
出産手当金の申請可能な期間・申請方法
産後は育児で忙しく、なかなか時間は作れません。しかし、申請には期限があり、後回しにしていると受給できなくなる可能性もあります。そうならないためにも、申請期間や方法などについて流れを把握しておきましょう。
出産手当金の申請〜支給までの流れ
出産手当金は未来日の申請ができません。産休明けにまとめて申請できますが、複数回に分けて申請することも可能です1)。申請期限は、出産のために仕事を休みはじめた日の翌日から2年以内です。
以下では、出産手当金を受け取るために必要な書類と、申請から支給まで流れを解説します6)。申請には会社や医療機関に記入してもらう証明欄があるので、事前に確認しておくとスムーズです。
出産手当金の申請に必要な書類
- 出産手当金支給申請書
- 健康保険証(コピー)
- 母子手帳(コピー)
- 印鑑
- 事業主からの証明書類
出産手当金の申請から支給までの流れ
1.勤務先に「出産手当金」を受給したい旨を連絡する
2.出産手当金支給申請書を用意する
申請書のダウンロード先:「全国健康保険組合」健康保険出産手当金支給申請書
3.出産後、出産手当金支給申請書と必要書類を勤務先(または健康保険組合)に提出して申請する
4.申請手続きから1〜2カ月後より指定口座に出産手当金が一括で振り込まれる
出産手当金の支給が決定すると「給付金支給決定通知」が約2~3週間後に届きます。出産手当金が支給されるのは、申請してから1〜2カ月後です。
なお、出産手当金の詳しい申請方法は以下の記事で解説しています。併せてご覧ください。
【関連記事】出産手当金の申請期間・受給期間について、詳しくはコチラ
参考資料
コラム:出産手当金は所得税の対象になる?
出産手当金は非課税のため、所得税の対象にはなりません。また、翌年の住民税の算定基礎(その年の総所得額や控除額)にも入らないため、住民税の対象にもなりません7)。後述する出産育児一時金や育児休業給付に関しても同様です。さらに、産休中は社会保険料も免除されるため、給与と変わらない金額を受け取ることができます。
なお以下の記事では、産休中の社会保険料免除について詳しく解説しているので、併せてご覧ください。
【関連記事】産休中は社会保険料が免除になる! 開始時期、免除額、申請方法を解説
出産手当金がいくら支給されるか4つのケースでシミュレーション
ここでは、具体的な出産手当金の支給額をシミュレーションします。今回計算するのは、以下の4つのケースです。
それぞれのケースについて、具体的な金額を計算しましょう。
ケース①被保険者期間が12カ月以上、出産予定日どおりの出産の場合
まずは、予定日どおりに出産した場合を見てみましょう。支給開始日までの被保険者期間を12カ月以上とし、産前・産後の休業期間を最大日数で考えると以下の条件になります。
支給開始日までの被保険者期間:12カ月以上
標準報酬月額:36万円
出産予定日:10月20日
出産日:10月20日
産前休業の開始日:9月9日
産後休業の終了日:12月15日
予定日どおりに出産した場合は、前述の計算式に当てはめて算出します。
1日あたりの支給額:36万円 ÷ 30日 × 2/3 = 8,000円
産前産後期間の日数 :42日 + 56日 = 98日
出産手当金の総額:8,000円 × 98日 = 78万4,000円
予定日どおり出産し、標準報酬月額が36万円の場合は、出産手当金の総額は78万4,000円となります。本来なら無給となる期間にこれだけの金額が受給できるのは心強いでしょう。
ケース②被保険者期間が12カ月以上、出産予定日より早い出産の場合
続いて、予定日より前に出産した場合を見てみましょう。条件は以下のとおりです。
支給開始日までの被保険者期間:12カ月以上
標準報酬月額:36万円
出産予定日:10月20日
出産日:10月10日
産前休業の開始日:9月9日
産後休業の終了日:12月5日
10月10日に出産すると、本来は42日前から休業できるため8月30日から産前休業を取得できます。しかし、このケースでは9月9日からしか休業していないため、支給される日数が減ります。
このように、出産予定日より早く産んだ場合は産前・産後期間の日数が変わってくる可能性があるため注意しましょう。出産手当金の額は以下のとおりです。
1日あたりの支給額:36万円 ÷ 30日 × 2/3 = 8,000円
産前産後期間の日数:32日 + 56日 = 88日
出産手当金の総額:8,000円 × 88日 = 70万4,000円
予定日より10日早く出産した場合は産前期間が10日短くなるため、ケース①の出産と比べると総額で8万円減っています。
ケース③被保険者期間が12カ月以上、出産予定日より遅い出産の場合
続いて、予定日より遅く出産した場合を見てみましょう。標準報酬月額は36万円で、出産日を以下に設定します。
支給開始日までの被保険者期間:12カ月以上
標準報酬月額:36万円
出産予定日:10月20日
出産日:10月30日
産前休業の開始日:9月9日
産後休業の終了日:12月25日
予定日より出産が遅れた場合、その日数も出産手当金の期間に含めます。そのため、支給対象の日数が増え、産後休業の終了日が12月25日になります。
1日あたりの支給額:36万円 ÷ 30日 × 2/3 = 8,000円
産前産後期間の日数:42日 + 10日 + 56日 = 108日
出産手当金の総額:8,000円 × 108日 = 86万4,000円
予定日より10日遅く出産すれば産前・産後期間が10日長くなるため、出産手当金の総額も10日分多くなります。
ケース④被保険者期間が12カ月未満、出産予定日どおりの出産の場合
最後に、支給開始日までの被保険者期間が12カ月未満の場合の出産手当金額を計算します。
支給開始日までの被保険者期間:12カ月未満
標準報酬月額:30万円
出産予定日:10月20日
出産日:10月20日
産前休業の開始日:9月9日
産後休業の終了日:12月15日
産前産後期間の日数:98日
被保険者期間が12カ月未満の場合は、標準報酬月額の算出方法が違うため注意しましょう。前述のとおり、標準報酬月額の平均額もしくは被保険者の標準報酬月額の平均額、どちらか低いほうを使います。
全国健康保険協会では被保険者の標準報酬月額の平均額を30万円に設定しているため、今回はその金額を使って計算してみます8)。
1日あたりの支給額:30万円 ÷ 30日 × 2/3 = 6,667円
産前産後期間の日数:42日 + 56日 = 98日
出産手当金の総額:6,667円 × 98日 = 65万3,366円
なお、被保険者期間が12カ月未満の場合は、比較する標準報酬月額が低いほうを使いますので計算の際は注意するようにしましょう。
出産手当金以外の給付金
妊娠・出産時には、出産手当金以外にも以下のような給付金を受け取ることができます。
出産育児一時金
出産育児一時金は、加入している健康保険(国民健康保険、被用者保険)から支給される給付金です9)。子ども1人につき50万円が支給されます(双子の場合は2人分支給)。出産にかかる費用の補填として使うことができます。なお、産科医療補償制度に未加入の医療機関で出産した場合や妊娠週数22週未満で出産した場合の支給額は、1人につき48万8,000円です。
以下の記事では、出産育児一時金の受給要件や申請方法について解説しているので、併せてご覧ください。
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育児休業給付
育児休業給付は、雇用保険の被保険者が育児休業中に受け取れる給付金です10)。支給額は育児休業開始から180日間は給与の67%、180日以降は50%となります。この制度は出産した女性だけでなく、配偶者となる夫が育児休業を取得した場合にも申請することができます。
以下の記事では、育児休業給付の計算方法や申請方法について解説しているので、併せてご覧ください。
【関連記事】育児休業給付の計算方法は? 延長方法についても解説
自分の条件を確認して出産手当金の支給額を計算してみよう
出産手当金は、出産前後の給与が支払われない期間を補填する目的で支給される手当です。しかし、出産するすべての方が対象となるわけではありません。また、人によって受給できる金額が異なります。自分の出産の条件を整理して、自分がいくら受け取れるのか計算してみましょう。