この記事では、ファイナンシャルプランナーの原絢子さん監修のもと、出生後休業支援給付金の支給要件や対象者、支給金額、申請方法などを詳しく解説します。また、自分が支給対象かどうかを確認できるフローチャートや、出産・育児に関するほかの給付制度も併せて紹介します。自分や配偶者の育児休業の取得方法を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
この記事の監修者

原 絢子(はら あやこ)
FPサテライト株式会社所属ファイナンシャルプランナー。
大学卒業後、翻訳・編集業務に従事。金融とは無縁のキャリアを積んできたが、結婚・出産を機にお金の知識を身につけることの大切さを実感。以来、ファイナンシャルプランナーとして活動を始める。モットーは「自分のお金を他人任せにしない」。自分の人生を自分でコントロールするためには、お金について学ぶことが必要との思いから、執筆・監修、セミナー講師などを通して、マネーリテラシーの重要性を精力的に発信している。
出生後休業支援給付金とは?対象者や金額

画像:iStock.com/Seiya Tabuchi
「出生後休業支援給付金」は、原則として両親ともに14日以上の育児休業を取得した場合に、既存の育児休業給付金に上乗せして支給される給付金です1)。この給付金により、手取りベースでは育児休業前と同程度の収入を確保することができます。
出生後休業支援給付金が創設された背景には、男性の育児休業取得率が依然として低いという現状があります。政府は「共働き・共育て」を推進していますが、実際には、男性の育児休業取得は思うように進んでいません。その大きな要因のひとつに、「収入が減るのが不安」という切実な事情が挙げられます。
そこで、男性が安心して育児休業を取得できるようにするため、育児休業中の収入を補う目的で、出生後休業支援給付金が創設されたのです。
〈図〉出生後休業支援給付金の支給イメージ

支給要件・対象者
まず大前提として、出生後休業支援給付金は「雇用保険」に加入している人(被保険者)を対象とした制度です。雇用保険は、会社などに雇用されて働いている人が加入する保険のため、自営業者やフリーランスの人は対象外です。
また、公務員も原則として雇用保険には加入できないため、出生後休業支援給付金の対象外となります。ただし、別の制度で同じような給付を受けることができます。
出生後休業支援給付金を受け取るためには、被保険者が「対象期間」に14日以上の育児休業(産後パパ育休を含む)を取得し、その配偶者も14日以上の育児休業を取得する必要があります1)。
【対象期間】
被保険者が父親または子どもが養子の場合
・期間の始まり
子どもの出生日または出産予定日のうち早い日
・期間の終わり
子どもの出生日または出産予定日のうち遅い日から起算して8週間を経過する日の翌日
被保険者が母親、かつ子どもが養子でない場合
・期間の始まり
子どもの出生日または出産予定日のうち早い日
・期間の終わり
子どもの出生日または出産予定日のうち遅い日から起算して16週間を経過する日の翌日
ただし、配偶者が以下の「配偶者の育児休業を要件としない場合」に該当する場合は、配偶者が育児休業を取得していなくても、出生後休業支援給付金を受け取れます1)。
【配偶者の育児休業を要件としない場合】
子どもの出生日の翌日において、
①配偶者がいない(行方不明の場合も含む)
②配偶者が子どもと法律上の親子関係がない
③配偶者の暴力などにより別居中
④配偶者が無職
⑤配偶者が自営業者やフリーランスなど
⑥配偶者が産後休業中
⑦そのほか、配偶者が育児休業をすることができない場合
つまり、シングルマザーをはじめ、会社員と専業主婦(夫)の夫婦、会社員とフリーランスの夫婦の場合でも、出生後休業支援給付金の対象となります。
なお、⑦のそのほかの場合には、配偶者が日雇い労働者である場合や、育児休業給付の受給資格がない場合などが該当します。一方、本人の意思で育児休業を取得しないといったケースは給付対象外となるため、注意が必要です。
支給期間
出生後休業支援給付金が支給されるのは、対象期間において、育児休業(産後パパ育休を含む)を取得した日数分になります。その上で、受け取れる日数は最大28日という上限があります1)。
被保険者が父親の場合と母親の場合では対象期間が異なるため、出生後休業支援給付金の支給対象となる期間も異なります。具体的にいうと、父親の場合は出産日から8週間以内、母親の場合は産後休暇後(産後8週間後)から8週間以内です。
支給金額の計算方法・上限金額
出生後休業支援給付金の支給額は、以下の方法で計算されます1)。
【支給額の計算方法】
支給額=休業開始時賃金日額×休業期間の日数(最大28日)×13%
「休業開始時賃金日額」は、休業の開始前直近6カ月間に支払われた賃金の総額を180で割った金額です。
それでは、月給30万円の人を例に、出生後休業支援給付金の支給額はどのくらいになるのかを計算してみましょう。
【月給30万円の場合の支給額】
●出生後休業支援給付金
休業開始時賃金日額=30万円×6カ月÷180=1万円
1日あたりの支給額=1万円×1日×13%=1,300円
最大支給額=1万円×28日×13%=3万6,400円
●育児休業給付金
休業開始時賃金日額=30万円×6カ月÷180=1万円
1日あたりの支給額=1万円×1日×67%= 6,700円(※)
1万円×28日×67%= 187,600円
合計:3万6,400円(出生後休業支援給付金)+18万7,600円(育児休業給付金)=22万4,000円
※:育児休業開始から181日目以降は50%
出生後休業支援給付金は、出生時育児休業給付金または育児休業給付金(以下「育児休業給付」)に上乗せして支給されるものです。育児休業給付は休業開始時賃金日額の67%相当額ですので、出生後休業支援給付金が上乗せされると、給付率は80%になります。
育児休業中は社会保険料が免除されますし、育児休業給付金が非課税であることなどを加味すると、80%の給付率でも、手取りベースでは約10割の額となります。つまり、休業前とほぼ変わらない収入を得られるということです。
ただし、休業開始時賃金日額には上限(※)がある1)ため、一定の収入以上だと、休業前の収入にとどかないこともあります。手取り10割とならない月給の目安は、月収47万円以上です。
※:2025年4月1日現在で1万5,690円。毎年8月1日に改定
ほかの育児関連の給付制度とも併用可能

画像:iStock.com/takasuu
出生後休業支援給付金は、育児休業中の生活を経済的に支援する制度です。このほかにも、出産や育児に関して利用できる公的な給付制度はいくつかあり、要件を満たせば併用して受け取ることができます。
〈図〉出産時・育児中に受け取れる給付イメージ

出産・育児を支援する公的な給付制度を一覧でご紹介します。
〈表〉出産・育児のための公的な給付制度2)3)4)5)
給付制度 | 時期 | 支給額 | 補足説明 |
---|---|---|---|
出産手当金 | 出産日前42日~出産日後56日 | 賃金の2/3相当額 | ・健康保険からの給付 ・産休中に支給される ・夫の扶養に入っている人や、国民健康保険の加入者には支給されない ・非課税 |
出産育児一時金 | 出産日 | 1児につき50万円 | ・健康保険からの給付 ・健康保険組合によっては上乗せがある場合も ・非課税 |
出生時育児休業給付金 | 出産日~出産後8週間 | 休業開始時賃金の67%相当額 | ・男性が対象の給付金 ・出生日から8週間経過日の翌日までに、産後パパ育休(最大4週間)を取得した場合に支給 ・産後パパ育休は2回まで分割取得が可能 ・非課税 |
育児休業給付金 | 出産日(女性の場合は出産日から58日目)~子どもが1歳 | 育休開始後6カ月までは休業開始時賃金の67%相当額、6カ月以降は50%相当額 | ・1歳未満の子どもを養育するために育児休業を取得した場合に支給 ・保育所に入所できない場合などは、最長2歳まで支給される ・非課税 |
出生後休業支援給付金 【2025年4月に創設】 | 出産日~出産後8週間(女性の場合は出産日から58日目~出産後16週間) | 休業開始時賃金の13% | ・両親ともに育休を14日以上取得した場合に支給 ・出生時育児休業給付金または育児休業給付金に上乗せして支給される ・非課税 |
育児時短就業給付 【2025年4月に創設】 | 時短勤務の開始月~時短勤務の終了月 | 時短勤務中に支払われた賃金額の10% | ・2歳未満の子どもを養育するために時短勤務をしている場合に支給 ・非課税 |
児童手当 | 出産日以降 | 子どもが3歳未満:月額1万5,000円(第3子以降は3万円) 3歳以上 高校生年代まで:月額1万円(第3子以降は3万円) | ・お住まいの自治体に認定請求が必要 ・申請した月の翌月分から支給される ・非課税 |
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【フローチャートで確認】自分はもらえる?もらえない?
以下のチャートを使って、自分は支給対象かどうか確認してみましょう。
〈図〉支給対象者診断チャート

出生後休業支援給付金の申請方法

画像:iStock.com/Szepy
ここからは、出生後休業支援給付金の申請方法について解説します。
申請方法
出生後休業支援給付金は、原則として、育児休業給付と同一の支給申請書で申請します。出生後休業支援給付金の申請を別に行うことも可能ですが、その場合は、育児休業給付の支給が決定した後に申請することになります。
また、一般的には勤務先を通じてハローワークへ申請しますが、希望すれば本人が申請することも可能です。
申請時期
出生後休業支援給付金の申請は、育児休業給付の申請と同時に行うことが原則です6)。申請時期は、出生時育児休業給付金と併せて申請する場合と、育児休業給付金(初回)と併せて申請する場合とで異なります。
【出生時育児休業給付金と併せて申請する場合】
子どもの出生日から起算して8週間を経過する日の翌日から、当該日から起算して2カ月を経過する日の属する月の末日まで
2025年4月1日からは、①出生時育児休業の取得日数が28日に達した場合は達した日の翌日から、②2回目の出生時育児休業をした場合は2回目の出生時育児休業を終了した日の翌日から、の申請も可能になりました6)。
【育児休業給付金(初回)と併せて申請する場合】
被保険者の育児休業開始日から起算して4カ月を経過する日の属する月の末日まで
被保険者が母親の場合、産後休業を終えた後に引き続き育児休業を取得することが通常かと思いますが、その場合、育児休業開始日は出生日から起算して58日目になります。
なお、出生後休業支援給付金の申請を単独で行う場合は、育児休業給付の支給が決定された後に申請することになっています。
参考資料
必要書類
出生後休業支援給付金の申請に必要な書類は以下のとおりです6)。
【申請に必要な書類】
・雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書
・支給申請書
申請方法によって以下の3つの様式があります。
①出生時育児休業給付金と併せて申請する場合
育児休業給付受給資格確認票・出生時育児休業給付金/出生後休業支援給付金支給申請書
②育児休業給付金(初回)と併せて申請する場合
育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金/出生後休業支援給付金支給申請書
③出生後休業支援給付金を単独で申請する場合
出生後休業支援給付金支給申請書
・賃金台帳、労働者名簿、出勤簿など
・母子健康手帳、住民票の写しなど
・配偶者の育児休業取得状況等が確認できる書類
配偶者の状況に応じて、以下のいずれかの書類を準備します。
①配偶者が雇用保険被保険者の場合
・住民票の写しなど、支給対象者の配偶者であることを確認できる書類
②配偶者が公務員の場合(雇用保険被保険者である場合を除く)
・住民票の写しなど、支給対象者の配偶者であることを確認できる書類
・育児休業の承認を行った任命権者からの通知書の写しなど、配偶者の育児休業の取得期間を確認できる書類
③配偶者が「配偶者の育児休業を要件としない場合」に該当する場合
・配偶者の状態が確認できる書類(※)
※:厚生労働省のリーフレットに詳しく掲載されています。
申請にあたっての注意点

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出生後休業支援給付金を申請する際の注意点も確認しておきましょう。
・申請前に配偶者の状況を確認しておく
出生後休業支援給付金は、配偶者の状況によって提出する書類が異なります。事前に配偶者がどの状況に該当するのかを確認し、必要な書類を準備しておくと、スムーズに申請が行えます。
・単独で申請する場合は、育児休業給付の支給決定後に手続きする
前述したように、出生後休業支援給付金は単独で申請することができます。その場合は、育児休業給付の支給決定後に手続きするようにしましょう。順番が前後した場合は、出生後休業支援給付金は不支給となり、育児休業給付の支給決定後に再度支給申請を行うことになります7)。
・賃金が支払われても減額されないが、育児休業給付が0円の時は支払われない
出生後休業支援給付金は、育児休業給付とは異なり、賃金が支払われた場合も減額されることはありません8)。ただし、育児休業給付が0円となった場合は、出生後休業支援給付金も0円になります。
出生後休業支援給付金に関するよくある質問

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最後に、出生後休業支援給付金について、よくある疑問にお答えします。
2025年4月以前に産後パパ育休を取っている場合、何月生まれの子どもから給付対象ですか?
2025年4月以前から産後パパ育休・育児休業を取得している場合は、2025年4月1日に休業を開始したものとみなされ、対象期間が以下のようになります9)。
・被保険者が父親の場合
出生日の目安:2025年2月17日以降の場合、給付の対象となる可能性があります。
・被保険者が母親の場合
出生日の目安: 2024年12月23日以降の場合、給付の対象となる可能性があります。
支給要件については、こちらを確認してみてください。
配偶者が育児休業を取得できない場合でも、給付金を受け取れますか?
原則として、配偶者も育児休業を取得していることが支給要件となりますが、配偶者が「配偶者の育児休業を要件としない場合」に該当する時は、給付金を受け取ることができます。ただし、本人の都合で育児休業を取得しない場合は、支給対象外となります。
給付金の支給までにどれくらい時間がかかりますか?
出生後休業支援給付金の申請後、支給が決定されてから1週間程度で、指定口座に振り込まれます6)。ただし、実際の休業期間と支給時期にはタイムラグがあるため、預貯金などで当面の生活費は確保しておくことをおすすめします。
給付金はいつの給与で計算されますか?
出生後休業支援給付金は、休業開始前直近6カ月間に支払われた賃金をもとに計算されます。休業開始前直近6カ月間の賃金総額を180で割った「休業開始時賃金日額」が計算のベースになります。
ひとり親(片親)でも出生後休業支援給付金はもらえますか?
ひとり親の場合は、「配偶者の育児休業を要件としない場合」の「配偶者がいない」に該当しますので、支給対象になります。
育休中、2人目を妊娠した場合、出生後休業支援給付金はもらえますか?
育児休業中に2人目を妊娠した場合でも、その出産後に2人目について育児休業給付金を受け取ることができれば、出生後休業支援給付金ももらうことができます。
出生後休業支援給付金を活用して、育児の経済的不安を軽くしよう
出生後休業支援給付金は、特に男性の育児休業取得を後押しすることを目的に設けられた制度です。休業中も休業前と同程度の手取り収入を確保できるため、経済的な不安が軽減され、育児に積極的に関わる環境が整えられることが期待されています。
出生後休業支援給付金を受け取るためには、制度の内容や申請手続きについて正しく理解しておくことが重要です。自分や配偶者が支給対象となるのかを確認し、必要書類や申請の準備を進めましょう。