キャリアや稼ぎ方を考えるうえで、避けては通れなくなっている「フクギョウ(副業・複業)」という考え方。でも、本業以外に仕事をもつ意味って? それはお金のため? それともキャリアのため?
「正しいフクギョウ」とは何なのか、フリーライターをしながら企業の広報もしている著者が、実際に“フクギョウ”をしている人にインタビューしながら十人十色の答えを探っていきます。

今回お話を伺ったのは、一部上場のメーカーで営業をしながら、副業でモデル活動をしている砂原みゆさん(25)です。

画像1: 正しいフクギョウ#2「営業職とモデルは似ている。」25歳、週末モデルの戦略的セールス術

今回のフクギョウ人 砂原みゆ(25歳)

・本業の職種:東証一部上場のメーカー・営業部
・副業の職種:モデル
・副業の月収:5〜6万円

「副業をするなら、本業とは違う分野にチャレンジしてみたい!」と思っている人も少なくないでしょう。異業種への挑戦はスキルや経験の幅を広げるチャンスにはなりますが、成果を上げるにはコツが必要です。

砂原みゆさんは、本業とは全く異分野のモデルに挑戦したひとりです。現在では定期的にモデルの活動を行い、一定の金額を稼ぐまでに至っていますが、そこには緻密な戦略と努力がありました。

地道に数字を追って成果を出すことにこだわっているみゆさんに、異業種での副業を成功させるためのヒントを伺いました。

学生時代に内気な性格を直すためタレント活動を開始

画像: 学生時代に内気な性格を直すためタレント活動を開始

――本業で営業職をしながらモデルの副業をしているのは珍しいキャリアですよね。まずはみゆさんの経歴を教えてください。

モデルを副業に選んだのは、広島での大学生時代の経験がきっかけです。人見知りを直すために「人前に出る仕事をして内気な性格を変えよう」と決めて、自分でオーディションに応募してイベントMCやヒーローショーを盛り上げるお姉さんなど、様々なアルバイトに挑戦しました。

大学2年生の後半から卒業までタレント活動をしていた結果、内気な性格はすっかり変わりました。その後、社会人になり東京へ上京。1〜2年目は外回りの営業や東京での生活に慣れず忙しい日々が続いていましたが、社会人3年目になって仕事にも慣れてきたからか、時間と気持ちの面で余裕ができてきたんです(笑)。もともと会社が副業を容認していたこともあり、せっかく時間があるなら自分の為になることをしようと思って副業を検討し始めました。

――副業はどのように探したのでしょうか?

経験がなくても気軽に始められる副業はなんだろう、と思いビジネス系YouTuberの動画を見たりネットで検索をしたりしていたら、“アフィリエイト”と“モデル”という選択肢にたどり着きました。

アフィリエイトは少ない初期投資で始められる点、モデルは学生時代のタレント業で培った社交性を生かせる点が自分と相性がいいと思ったんです。

――モデルを副業として選ぶのはハードルが高そうです。そもそも仕事を獲得するのも難しいイメージですが…。

一般にはそうだと思います。しかし、会社員や主婦の登録が多く、スマホで気軽に登録してモデル活動が始められる「週末モデル」※というウェブサービスの存在を知ったので、これなら続けられると感じました。最初はアフィリエイトとモデルを両方していましたが、今は仕事が順調なモデルを副業の軸に置いています。

※普段、会社員や看護師、主婦などの本業を持ちながら、週末にモデルをやってみたいという女性と、モデルを探している企業をつなぐマッチングアプリ。2017年12月にサービス開始。登録企業数は900社、登録モデルは4,000名以上。ウェブサイト

プロのモデルに負けないようPDCAを回す日々

画像: 実際のモデル活動の様子

実際のモデル活動の様子

――タレント活動はしていたものの、モデル業は未経験ですよね。

そうなんです。「週末モデル」の登録者には、撮影慣れしているセミプロのモデルさんもたくさんいます。ほぼ素人の私が感覚的に「やりたい」と思った仕事に応募したところで、簡単には採用されません。ただ、最初からうまくはいかないことはわかっていたので、戦略的に案件獲得を狙いました。

――どのような戦略を立てたのでしょうか。

まず「週末モデル」に掲載される案件の動きを注意深く見るようにしていたんです。しばらく続けていたら、毎日午後1時前後に新しい案件が掲載されることが多いと気づきました。それからは毎日お昼休みにアプリを開いて、あまり選り好みせず自分の都合が合う新規案件に応募するようにしたんです。平均すると3日に1件ほどのペースで応募していましたね。

――すごい! かなりのマーケティング的な取り組みですね。

はい(笑)。なぜ自分が案件を獲得できなかったのか、原因をしっかり振り返って小さなことでも常に改善することも意識しました。

「週末モデル」では、仕事を終えたら依頼主である企業から評価を受けます。これは“カラット”と呼ばれる5段階でのレビュー機能なのですが、この評価が高くなれば、案件獲得率も高くなります。Amazonや食べログと似たような評価機能ですね。

そこで、カラット数の多いモデルさんを分析してみたところ、「プロフィールページの写真や文章が充実している」「小さな仕事でもコツコツ受けて地道に信頼を上げていく努力をされている」ということがわかったんです。

――なるほど。では分析したあと、具体的にどのような対策を取ったのでしょうか。

プロフィール写真については、ナチュラルから派手めまで化粧や服装の雰囲気でバリエーション持たせたうえで、斜めや正面など、いろいろなアングルの写真を合計10枚以上載せました。

「週末モデル」では、お仕事を依頼される際、クライアント様に会うことなく、写真だけを見て判断されることがほとんどです。つまり、いろいろな表情を見られるほうが安心して選ぶことができるのではないかと考えたのです。

そしてプロフィールの文章には、「撮影前のメッセージにはすぐに対応」「頂いたお仕事には責任を持つ」などの文言を添えました。業界関係者の方が「この業界は意外にドタキャンが多くて困る」と言っていたことを覚えていたので、クライアント様に安心して仕事を任せられると思われた方が得策であると考えたからです。また、誠実さをアピールするために文量を多めにした上で、読みやすいように何度も書き直しました。

また、たとえ単価が低くても選ばれやすい小さな案件をたくさん受けて実績を重ねることにこだわりました。しばらくこれを続けると、人気雑誌のモデルや広告モデルの仕事が決まるようになったのです。

副業のおかげで将来の選択肢が増えた

画像: 副業のおかげで将来の選択肢が増えた

――とても努力家で感心しています……! モデルのお仕事をして良かったことはありますか?

3つあります。1つ目はモデル仲間ができたことですね。みなさん本業では色々なお仕事をされていて、様々な経験やスキルを持っているのでとても刺激になります。

2つ目は本業の営業先のクライアントさんにも顔と名前を覚えてもらいやすくなり、コミュニケーションが円滑になったこと。

最後は、「週末モデル」の活動のおかげで自分にも少し自信を持てるようになり、「なんだか最近、雰囲気が明るくなったね!」と言われることも多くなったことです。

――本業やプライベートでもプラスになっているんですね。そんな副業での収入はいくらくらいですか。

月に5〜6万円です。仕事をがんばったご褒美として、マッサージに行ったり美味しいものを食べに行ったりもしますが、お小遣い稼ぎというよりはゲーム感覚でやっています。

「現在の自分」と「理想の自分」の差を目に見えるような形で定量化して、その差を縮めていく作業を繰り返すのがすごく好きなんです。「1年前は案件が取れずに悩んでいたのに、今ではこんなに仕事をもらえるようになった!」と成長を実感できて嬉しくなります。

――お金よりも経験を重視した方が副業も楽しく続けられそうですね。

はい。純粋に楽しんでいます! また、副業のおかげでキャリアの選択肢も増えました。引き続き営業職もモデルも両立させて生活を充実させようと思っていたのですが、最近マーケティングにも興味を持ち始めました。自分という商品の魅力をどのように上げてどうPRするのか、といった副業で得たノウハウを生かして、マーケティング部に異動希望を出してみるのもアリかな、なんて考えています。

砂原みゆ(25歳)が考える「フクギョウとの正しい付き合い方」

画像: 砂原みゆ(25歳)が考える「フクギョウとの正しい付き合い方」

――最後に、みゆさんが考える「フクギョウとの正しい付き合い方」を教えてください!

副業をどういう位置付けにして付き合っていくかを考えるのが大切ではないでしょうか。

私の場合、副業は趣味でやっているという意識です。だからうまくいかなくてもそこまで落ち込みません。あくまでも、小さな目標を持って地道に経験を積み上げていくプロセスを楽しんでいるんです。

つまり、いろいろな経験を積んでいくことが本業でのキャリアアップにもつながっていく、というのが私の副業に対する価値観です。

――モデルという仕事は一般の人にとってハードルの高いイメージだと思いますが、考え方とやり方次第でビジネスの経験や目線が生かせる場であることがわかりました。本日はありがとうございました!

撮影/牛島康介

この記事の著者

橋本岬

1991年生まれ。ファッション誌の編集を経てフリーランスへ。2018年からフリーライターを続けながら、シューマツワーカー広報に。主にIT業界、女性の働き方について書いています。
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