今回は、厚生年金の平均受給額や目安額を導き出すための計算式を、ファイナンシャルプランナーのタケイ啓子さん監修のもと徹底解説します。さらに、もらえる年金を増やす方法についても紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
※この記事は2023年9月22日に公開した内容を最新情報に更新しています。
この記事の監修者
タケイ 啓子(タケイ ケイコ)
ファイナンシャルプランナー(AFP)。36歳で離婚し、シングルマザーに。大手生命保険会社に就職をしたが、その後、保険の総合代理店に転職。保険の電話相談業務に従事。43歳の時に乳がんを告知される。治療を経て、現在は治療とお金の相談パートナーとして、相談、執筆業務を中心に活動中。
厚生年金とは? 日本の年金制度のしくみ
厚生年金は、法律によって加入が義務付けられている「公的年金」のひとつで、加入者は会社員や公務員です1)。
公的年金には、厚生年金のほかに国民年金(基礎年金)があります。以下の図は公的年金制度の構造を表したものです。すべての人が対象になる「国民年金」に、会社員や公務員が対象になる「厚生年金」が上乗せされる2階建ての構造になっています。
〈図〉公的年金制度の構造
この構造からもわかるように、厚生年金は国民年金に上乗せされる制度となります。厚生年金と国民年金は別々に加入する制度だと誤解されがちですが、実際には厚生年金の保険料には国民年金の保険料も含まれています。つまり厚生年金に加入している人は、国民年金の保険料も支払っていることになり、将来的に両方の年金をもらうことができるのです。
厚生年金をもらうためには、厚生年金または国民年金の保険料を納付していた期間が10年以上あることが前提条件となります。その期間が10年未満だと、年金をもらうことができません。この期間には保険料免除期間なども含まれます。
厚生年金の受給は、原則65歳からです。保険料は、給与や賞与に保険料率をかけて算出され、事業主と従業員で折半する形で支払います。厚生年金の保険料率は、平成29年に18.3%に固定されました2)。厚生年金も、老齢給付金以外に、障害や死亡による事由でも受給が可能です。
なお、厚生年金の受給額は、厚生年金の加入期間と収入や賞与の総額で決まります。厚生年金の加入期間が長く、基本的に収入が高いほど、厚生年金は多くもらうことができます。
なお、年金制度全般については下記の記事で解説していますので、併せて参考にしてみてください。
【関連記事】年金制度とは?公的年金と私的年金の種類やしくみ、保険料などをわかりやすく解説
厚生年金の平均受給額は約14.6万円
厚生労働省年金局の「厚生年金保険・国民年金事業の概況」3)によると、令和4年度の厚生年金の平均受給額は月額14万4,982円となっています。直近5年間の平均受給額は以下のとおりです。
〈表〉厚生年金の平均受給額の推移3)
年度 | 平均受給額 |
---|---|
令和4年度 | 14万4,982円 |
令和3年度 | 14万5,665円 |
令和2年度 | 14万6,145円 |
令和元年度 | 14万6,162円 |
平成30年度 | 14万5,865円 |
毎年の推移を見ると、令和4年度は14万4,000円台に落ち込んでいるものの、この数年は14万6,000円前後で推移していることがわかります。ただし、厚生年金の平均受給額はあくまで全体の平均であって、実際には年齢や性別によって変わります。年齢別と性別の平均受給額を見てみましょう。
年齢別の平均年金受給額
令和4年度の厚生年金の平均受給額を年齢別で確認していきましょう。
〈表〉年齢別厚生年金の平均受給額の推移3)
年齢 | 平均受給額(月額) |
---|---|
65歳 | 14万3,504円 |
70歳 | 14万1,350円 |
75歳 | 14万4,523円 |
80歳 | 15万1,109円 |
85歳 | 15万9,289円 |
90歳以上 | 15万8,753円 |
厚生年金の年齢別の平均受給額をみると65歳は月額14万3,504円で、前述した厚生年金の平均受給額(月額14万4,982円)約1,500円下回ります。一方、80歳以上は平均受給額が増えています。理由は厚生年金に加入していた期間の大半が平成15年3月以前であることだと考えられます。平成15年3月以前に厚生年金に加入していた場合、受給額の計算式が今とは一部異なり、今の計算式より高くなるからです。
男女別の平均年金受給額
さらに男性と女性それぞれの平均受給額を確認してみましょう。男女別で示す理由は、厚生年金の受給額の平均が男性と女性で違うためです。「厚生年金保険・国民年金事業の概況」3)を参考にした男女別の平均受給額は以下になります。
〈表〉男女別厚生年金の平均受給額3)
性別 | 平均受給額 |
---|---|
男性 | 16万3,875円 |
女性 | 10万4,878円 |
男性の平均受給額は女性よりも約6万円多い結果となっています。しかし、これは「男性だから平均受給額が多い」というわけではありません。男性でも女性でも厚生年金に加入中の収入が同じであれば、同じ金額の年金をもらうことができます。
では、なぜ男性の平均受給額が多いのかというと、現在年金をもらっている人が現役世代だった時代は、男性が女性より高収入を得る傾向にあったからです。厚生年金の受給額は収入が高いほうが多くなるため、当時の収入差が現在の受給額に影響していると考えられます。また、結婚を機に退職し、専業主婦やパートタイムの仕事に就くために、国民年金の第3号被保険者に切り替えた女性も少なくありません。その結果、男性より厚生年金の加入期間が短くなり、受給額も男性より少ないという状況となっています。
【加入期間・月収別】厚生年金の受給額早見表
厚生年金の受給額は、加入月数や収入によって人それぞれ異なります。以下は厚生年金に加入した場合の月収別の受給金額を示した早見表です。あくまでもらえる金額の目安ですが、参考になるでしょう。
〈表〉加入期間・月収別の受給見込額(月額)
月収 | 10年 | 20年 | 30年 | 40年 |
---|---|---|---|---|
15万円 | 7万6,222円 | 8万4,443円 | 9万2,665円 | 10万886円 |
20万円 | 7万8,962円 | 8万9,924円 | 10万886円 | 11万1,848円 |
30万円 | 8万4,443円 | 10万886円 | 11万7,329円 | 13万3,772円 |
40万円 | 9万472円 | 11万2,944円 | 13万5,416円 | 15万7,888円 |
50万円 | 9万5,405円 | 12万2,810円 | 15万215円 | 17万7,620円 |
65万円 | 10万3,627円 | 13万9,253円 | 17万4,880円 | 21万506円 |
報酬や老齢基礎年金は変動するため、あくまで参考程度ですが、自身の厚生年金の加入月数や収入にあてはめ、おおよその金額をイメージしてみましょう。
【年収別】厚生年金の受給額早見表
年収別の受給金額の目安についても算出しました。こちらも参考にしてください。なお、国民年金でもらえるのが老齢基礎年金、厚生年金でもらえるのが老齢厚生年金です。
〈表〉年収別の受給見込額(月額)
平均年収 | 老齢基礎年金 | 老齢厚生年金 | 合計額 |
---|---|---|---|
約300万円 | 6万8,000円 | 4万9,987円 | 11万7987円 |
約400万円 | 7万815円 | 13万8,815円 | |
約500万円 | 8万5,394円 | 15万3,394円 | |
約600万円 | 10万4,139円 | 17万2,139円 | |
約700万円 | 12万2,884円 | 19万884円 | |
約800万円 | 13万5,381円 | 20万3,381円 |
厚生年金に10年加入するといくらもらえる?
前掲の表から10年加入した場合を抽出すると、以下のようになります。
〈表〉加入期間10年の場合の受給額(月額)
月収 | 受給額 |
---|---|
15万円 | 7万6,222円 |
20万円 | 7万8,962円 |
30万円 | 8万4,443円 |
40万円 | 9万472円 |
50万円 | 9万5,405円 |
65万円 | 10万3,627円 |
なお、厚生年金は加入期間10年未満でも受け取ることができます。ただし、国民年金の受給資格を満たしていないと、厚生年金も受け取ることができない点に注意しましょう。
国民年金の受給資格は、「保険料納付済期間と保険料免除期間などを合算した受給資格期間が10年以上ある場合」5)なので、結果的に厚生年金を受給するには、10年以上国民年金へ加入することが必須となります。
いくらもらえる? 厚生年金の計算方法
繰り返しになりますが、厚生年金に加入している人は、厚生年金と国民年金の受給額を合わせた年金をもらうことができます。以下では、厚生年金でもらえる老齢厚生年金と国民年金でもらえる老齢基礎年金の計算方法について詳しく解説します。
厚生年金の計算方法
老齢厚生年金は以下の3つの要素を足した合計額をもらうことができます。6)
老齢厚生年金=報酬比例部分
+経過的加算+加給年金額
老齢厚生年金の内訳である、報酬比例部分、経過的加算、加給年金額について見ていきましょう。
①報酬比例部分
報酬比例部分は、厚生年金に加入していた期間と給与によって決まる金額です。以下の計算式を使って算出します7)。
報酬比例部分の計算式は、平成15年3月以前(計算式A)と平成15年4月以降(計算式B)で変わります。両方の期間で厚生年金に加入していた場合は、AとBを足した金額が報酬比例部分となります。
報酬比例部分の計算方法
報酬比例部分(A+B)
A 平均標準報酬月額×7.125÷1,000×
平成15年3月までの加入期間の月数
B 平均標準報酬額×5.481÷1,000×
平成15年4月以降の加入期間の月数
Aの平均標準報酬月額とは、月収を1等級(8万8,000円)から32等級(65万円)までの32等級に分け、その等級に該当する金額のことです。 Bの平均標準報酬額は賞与を加算して計算します。
報酬比例部分は、平均標準報酬月額・平均標準報酬額と加入月数を使って算出するため、平均年収が高く、加入期間が長いほど金額が大きくなります。また、老齢厚生年金の金額は報酬比例部分でおおよそが決まるため、報酬比例部分の計算式が老齢厚生年金の計算式として紹介されていることもあります。
②経過的加算
経過的加算とは「もらえない分の老齢基礎年金を補うお金」のことです。老齢基礎年金は、20〜60歳の厚生年金の加入月数で受給額が決まります。たとえば、厚生年金に加入していたのが20〜60歳なら老齢基礎年金は40年分をもらえます。
一方で、厚生年金に加入していた期間が25~65歳だった場合、厚生年金に40年加入していますが老齢基礎年金は35年分しかもらえません。20歳未満や60歳以降は、厚生年金の保険料を支払っていても老齢基礎年金の対象にはならないのです。
そのため、以下のように20〜60歳以外の期間で厚生年金に加入していた場合に、経過的加算として老齢基礎年金を補う金額が、厚生年金から加算されるのです。
〈図〉経過的加算のしくみ
経過的加算の計算式6)8)
1,701円×︎厚生年金加入月数
-81万6,000円
×︎20歳以上60歳未満の
厚生年金保険加入月数÷480
1,701円と81万6,000円(老齢基礎年金の満額)は令和6年度の場合です4)。上記の図解の場合だと経過的加算は以下のように計算できます。
1,701円×︎480-81万6,000円×︎420÷480=10万2,480円
経過的加算により年金の受給額が年間約10万円以上増えることになります。
③加給年金額
加給年金とは、簡単にいうと家族手当のことです。厚生年金に20年以上加入している人が65歳を迎えたタイミングで、生計を維持している配偶者や子どもがいる場合などに受給額が増えます。条件や金額は以下のとおりです。
〈表〉加給年金額の受給条件9)
対象者 | 加給年金額 | 年齢制限 |
---|---|---|
配偶者 | 23万4,800円 | 65歳未満 |
1人目・2人目の子ども | 1人あたり 23万4,800円 | 18歳到達年度の末日までの間の子ども(※) または1級・2級の障がいの状態にある20歳未満の子ども |
3人目以降の子ども | 1人あたり 7万8,300円 | 18歳到達年度の末日までの間の子ども(※) または1級・2級の障がいの状態にある20歳未満の子ども |
上記に当てはまれば、加給年金をもらえます。ただし配偶者が過去に20年以上、厚生年金の加入実績がある場合は加給年金をもらえない可能性があります。また、配偶者の生年月日によっては「特別加算額」として上記に金額が上乗せされることもあります。
加給年金については下記の記事で解説していますので、併せて参考にしてみてください。
【関連記事】【図解】加給年金とは?もらえる条件や金額をわかりやすく解説
国民年金の計算方法
老齢基礎年金は、20〜60歳の40年間の国民年金と厚生年金の加入期間に応じて支払われる年金です。厚生年金に加入している場合、国民年金分が老齢基礎年金として支払われます。
20~60歳の40年加入していると満額がもらえ、令和6年度の場合は81万6,000円です4)。未納や免除の期間があると、その分の受給額は少なくなります。加入月数が40年未満の場合は、以下の計算式で受給額を算出することができます5)。
国民年金の受給額の計算式(年間)
81万6,000円×保険料納付済み月数÷(40年×12カ月)
ただし国民年金保険料の一部免除がある場合は、この限りではありません。保険料免除期間×免除割合で計算したものをそれ以外の納付月数に加えます。以下のように、免除の割合によって受給額は変わります5)。
〈表〉保険料免除期間がある場合の計算
全額免除の場合 | ×1/2(平成21年3月以前の期間は1/3) |
---|---|
3/4免除の場合 | ×5/8(平成21年3月以前の期間は1/2) |
1/2免除の場合 | ×3/4(平成21年3月以前の期間は2/3) |
1/4免除の場合 | ×7/8(平成21年3月以前の期間は5/6) |
この計算式を用いて、未納の期間が1年、5年、10年ある場合の国民年金の受給額を計算した結果が以下になります。
〈表〉未納・全額免除期間別の老齢基礎年金の受給額
未納・全額免除年数 | 年額 |
---|---|
1年 | 80万5,800円 |
5年 | 76万5,000円 |
10年 | 71万4,000円 |
全額免除年数が1年だと年額で約1万円の差ですが、10年だと年額で約10万円、月額でも1万円ほど、受給額が少なくなってしまいます。
【世帯・働き方別】受給額シミュレーション
老齢基礎年金の受給額は加入期間によって異なりますが、前述のように老齢厚生年金の受給額は収入によってももらえる年金額が異なります。特に2人以上世帯の場合は、働き方の組み合わせによって受給額は大きく異なります。以下では、4つのパターンについて、受給額をシミュレーションで紹介します。
なお、厚生年金に加入している場合の年収別の受給見込額は以下の表を参照しています。家族がいる場合を考慮せず、22歳から60歳までの38年間、厚生年金に加入している想定です。
〈表〉年収別の受給見込額(月額)
平均年収 | 老齢基礎年金 | 老齢厚生年金 | 合計額 |
---|---|---|---|
約300万円 | 6万8,000円 | 4万9,987円 | 11万7,987円 |
約400万円 | 7万815円 | 13万8,815円 | |
約500万円 | 8万5,394円 | 15万3,394円 | |
約550万円 | 9万1,642円 | 15万9,642円 | |
約600万円 | 10万4,139円 | 17万2,139円 | |
約700万円 | 12万2,884円 | 19万884円 | |
約800万円 | 13万5,381円 | 20万3,381円 |
①単身者の場合
単身者の場合、会社員は上表の「合計額」、自営業は「老齢基礎年金」の欄が該当の金額です。
②会社員同士の夫婦の場合
国税庁「令和4年分 民間給与実態統計調査」によると、男性の平均給与は563万円、女性の場合は314万円です10)。夫の平均年収は約550万円、妻の平均年収は約300万円と仮定し、前掲の表を使用して年金の受給見込額を算出すると、以下のとおりになります。
〈表〉会社員同士の夫婦の受給見込額(月額)
老齢基礎年金 | 老齢厚生年金 | 合計額 | |
---|---|---|---|
夫 | 6万8,000円 | 9万1,642円 | 15万9,642円 |
妻 | 6万8,000円 | 4万9,987円 | 11万7,987円 |
世帯合計 | 13万6,000円 | 14万1,629円 | 27万7,629円 |
夫と妻が厚生年金に加入する正社員で22歳から60歳まで平均的な給与をもらう場合、受給額は月約30万円になることがわかります。
参考資料
③会社員と専業主婦(夫)の夫婦の場合
では、2人以上世帯で1人が会社員、1人が専業主婦(夫)の場合はどうなるでしょうか。夫が会社員で平均年収が550万円、妻が専業主婦と仮定すると、受給見込額は以下のとおりです。
〈表〉会社員と専業主婦(夫)の夫婦の受給見込額
老齢基礎年金 | 老齢厚生年金 | 合計額 | |
---|---|---|---|
夫 | 6万8,000円 | 9万1,642円 | 15万9,642円 |
妻 | 6万8,000円 | なし | 6万8,000円 |
世帯合計 | 13万6,000円 | 9万1,642円 | 22万7,642円 |
合計額は22万7,642円ですが、妻が扶養家族の場合、加給年金(年額23万4,800円)が追加されます。ゆえに、合計額(月額)は、24万7,208円となります。
④自営業同士の夫婦の場合
自営業同士の夫婦の場合、厚生年金に加入していないので、受給額は年収に左右されません。
〈表〉自営業同士の夫婦の受給見込額(月額)
老齢基礎年金 | 老齢厚生年金 | 合計額 | |
---|---|---|---|
夫 | 6万8,000円 | なし | 6万8,000円 |
妻 | 6万8,000円 | なし | 6万8,000円 |
世帯合計 | 13万6,000円 | 0円 | 13万6,000円 |
世帯合計で13万6,000円と、会社員同士の夫婦の半分以下の金額になります。
老後にもらえる年金額を増やす方法
厚生年金の保険料を支払っている以上、少しでも多く年金をもらいたいと考える人が多いのではないでしょうか。そこで厚生年金の受給額を増やすポイントを5つ紹介します。
以下でそれぞれについて詳しく説明します。
①年金の加入期間を長くする
繰り返しになりますが、年金の受給額は加入期間が長いほど増えます。早見表を見ればわかるように、加入期間の違いで受給額が何十万円も変わる可能性もあります。
厚生年金は65歳以降も加入できるので、70歳まで働いて厚生年金に加入し続けていれば、その分、受給額を増やすことができます。なお、65歳から70歳まで月収20万円で仕事を続けた場合、1年につき年額で約1万3,000円ずつ受給額が増えます11)。
ただし、厚生年金保険に加入しながら働く場合、在職老齢年金制度に注意しなければなりません。在職老齢年金制度について詳しい内容は以下の記事で解説していますので、併せてご覧ください。
【関連記事】在職老齢年金とは?満額の年金をもらいながら働く方法2つ
参考資料
②収入を増やす
収入が多いほどもらえる年金は増えます。早見表を見ると、厚生年金の加入期間が同じ40年でも、月収が15万と65万円では年額で約100万円以上違います。
収入が増えると保険料が上がることを懸念する意見もありますが、手取り金額が増え、将来の年金も増えるため、保険料が上がることは必ずしも悪いことではありません。ただし、副業で収入を増やしても、厚生年金の保険料を計算する標準報酬額に影響しない収入の場合、将来の受給額は増えないので注意しましょう。
③繰下げ受給をする
厚生年金は原則65歳からもらえますが、「年金の繰上げ・繰下げ受給」という制度により、受給年齢を早めたり遅らせたりすることができます。この制度では受給開始年齢を最大で75歳まで遅らせることができ、その場合、65歳から受給を開始した場合と比べて84%増の金額をもらうことができます12)。
75歳以降、長期にわたって年金をもらえば、トータルでの受給額は増える可能性があります。
年金の受給開始年齢の繰上げと繰下げについては、以下の記事で説明していますので、併せて確認してみてください。
【関連記事】厚生年金はいつまで支払う?働きながら支払う場合や受給について解説
参考資料
④iDeCoや個人年金保険を利用する
公的年金に上乗せするには、私的年金制度を利用するのも一手です。
個人年金保険とは、公的年金に年金額を上乗せする目的で、自身で老後の準備をするための民間の保険です。契約時に決めた年齢に達するまで保険料を払込み、払込満了後は保険料に応じた年金を受け取ることができるのが特徴です。
個人年金保険加入中に支払った保険料は、一定の条件を満たせば個人年金保険料控除として所得税・住民税の控除の対象となり、一定金額の控除を受けることができます。
一方、iDeCoは、確定拠出年金法に基づいて運用されている私的年金制度です。国民年金被保険者であれば、誰でも加入できます。iDeCoも加入は任意ですが60歳になるまで引き出すことができません。
また、国民年金などの公的年金とは異なり、iDeCoでは老後に受け取れる金額が運用実績によって変動します。iDeCoのメリットは、運用の成績がよかった場合には、運用益を受け取ることができます。さらに、運用の掛金に合わせて高い収益が上乗せされる場合があります。
【関連記事】個人年金保険とiDeCoの違いを徹底比較。詳しくはコチラ
⑤NISAを活用する
NISAとは、イギリスのISA(Individual Savings Account〈個人貯蓄口座〉)をモデルにした少額投資非課税制度です。少額から投資ができ、運用益(売却益、配当・分配金)が非課税と、ほかの投資方法にはないメリットもあり、安定的に資産形成しやすいと考えられています。短期間で大きな利益を手にしたい場合には向いていない手段ですが、長期的に老後資金を用意するのであれば、おすすめの選択肢です。
【関連記事】新NISAをやらないほうがいい?見落としがちなデメリットと対策はコチラ
【Q&A】厚生年金についてよくある質問
ここでは、厚生年金に関するよくある質問をまとめました。
Q1.厚生年金の保険料を安くする方法はある?
厚生年金の保険料を安くする方法はあります。ただし、選択肢は少なく、自身の意思でコントロールできる範囲は限られています。そもそも、厚生年金の保険料は給与や制度の基準に基づき計算されるため、安くするための明確な方法というものはありません。
また、厚生年金の保険料を軽減すると、生涯年収が減少したり、将来の受給額が減少したりするといった可能性があるため、必ずしも軽減することが最善とはいえません。
以下の記事では、厚生年金の保険料を安くする方法とそのデメリットについて説明しています。長期的なライフプランや収入減少のリスクを考慮した上で、検討してみてください。
【関連記事】厚生年金の保険料を安くする3つの方法とは?詳しくはコチラ
Q2.厚生年金の保険料はいつまで支払えばいいの?
厚生年金の保険料は、会社員または公務員である限り70歳までは支払い続けます。65歳で定年退職をした場合は退職まで支払うことになり、退職後、再雇用などで仕事を続ける人は70歳まで支払う義務があります。70歳以降は仕事を続けても支払いは不要です。
また、厚生年金の受給開始は65歳のため、65歳以上で働き続ける人は保険料を支払いながら年金がもらえます。
年金の支払い期間については、以下の記事で詳しく説明していますので、併せて確認してみてください。
Q3.厚生年金の受給額の確認方法は?
日本年金機構が運営する「ねんきんネット」の年金見込額試算で、将来の受給額を確認することができます。現在の条件で年金に加入し続けた場合にもらえる年金はもちろん、将来の独立や転職、受給年齢の引き下げなどを見越した詳細な条件設定も可能です。
なお、「ねんきんネット」の利用には、マイナポータルとの連携、ユーザーIDの取得が必要です。詳しくはねんきんネットのサイトで確認してください。
Q4.厚生年金を20万円もらうためには年収はいくら必要?
厚生年金の受給額は収入と加入期間で決まります。前掲の早見表を確認すると、平均標準報酬額が65万円で40年間、厚生年金に加入していると、毎月20万円以上の年金をもらえることがわかります。月収が65万円は年収約800万円です。つまり、年金を月20万円もらうには40年間、年収約800万円を維持し続ける必要があります。
【関連記事】年金を20万円もらう方法について、詳しくはコチラ
Q5.厚生年金は満額だといくらもらえる?
結論からいうと、厚生年金に満額はありません。理由としては、厚生年金は加入期間と収入に応じて受給額が決まるからです。ただし、加入期間は40年、報酬月額は63万5,000円、賞与は1回150万円という上限が設けられているため、その条件を満たす場合は、満額をもらえるといえるかもしれません。
あまり現実的ではありませんが、厚生年金に18歳または22歳から加入し、70歳までの期間中の月収がずっと65万円以上なら以下の年金をもらうことができます。
〈表〉年金受給額の上限例(月額)
月収 | 18歳から厚生年金に加入 | 22歳から厚生年金に加入 |
---|---|---|
65万円 | 約25万円 | 約24万円 |
18歳から70歳までだと約25万円、22歳から70歳までだと約24万円という結果になりました。この金額が高校卒業から厚生年金に入った人、大学卒業から厚生年金に入った人の満額ともいえる金額です。ただし、ほとんどの人は加入期間中の収入の増減で保険料が毎年変わるので、厚生年金の満額をもらうことはあまり現実的ではないでしょう。あくまで参考程度と捉えてください。
年金のしくみを理解して、早めの老後資金対策を
老後にもらえる厚生年金は、加入期間と収入に比例します。「年金を多くもらいたい」と考える人は、「厚生年金に長く加入すること」「収入を増やすこと」を意識すれば、将来もらえる年金が増えるかもしれません。
また、年金だけでは将来のお金が不安という人は、個人年金保険の加入などを今のうちから検討してみましょう。お金のプロに相談すれば、自分に合った老後の資産形成について知ることができるので、利用してみてはいかがでしょうか。