「そもそも年金を月20万円もらうことは可能なの?」
今の生活と将来もらえる年金を考えた時に、具体的に毎月いくら年金をもらえるのか、気になるものです。贅沢はできなくても、老後にある程度ゆとりを持って生活するために、毎月20万円は年金をもらいたいと考える人も少なくないのではないでしょうか。
今回は、毎月20万円の年金をもらうためにはいくらの年収が必要なのか、職業別の目安をファインナンシャルプランナーの頼藤太希さん監修のもと解説します。年金の平均受給額や高齢世帯の平均支出額、老後の収入を増やす制度についても併せて紹介します。
この記事を読めば、毎月20万円の年金をもらうために必要な資産形成の方法がわかります。自身の状況と照らし合わせて、最適な方法を模索しましょう。
※この記事は、2023年4月20日に更新しています。
【1】公的年金を毎月20万円もらうためには、会社員や公務員だと年収約732万円が必要。(令和5年度時点)
【2】自営業の場合、いくら高年収でも毎月20万円の公的年金はもらえない(厚生年金がないため)。
【3】厚生年金にも加入している場合、平均年金月額は14万3,965円。(令和5年度時点)
【4】老後の収入を増やすためには、各種制度や個人年金などを利用する必要がある。
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この記事の監修者
頼藤太希(よりふじ たいき)
Money&You代表取締役/マネーコンサルタント
中央大学客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生保にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に(株)Money&Youを創業し、現職へ。女性向けWebメディア『FP Cafe』や『Mocha(モカ)』を運営すると同時に、マネーコンサルタントとして、資産運用・税金・Fintech・キャッシュレスなどに関する執筆・監修、書籍、講演などを通して日本人のマネーリテラシー向上に注力している。『はじめての資産運用』(宝島社)、『1日5分で、お金持ち』(クロスメディア・パブリッシング)、『はじめてのNISA&iDeCo』(成美堂)など著書多数。日本証券アナリスト協会検定会員、ファイナンシャルプランナー(AFP)、日本アクチュアリー会研究会員。
年金を毎月20万円もらうために必要な年収を職業別に解説

画像:istockphoto.com/kazuma seki
公的年金を毎月20万円もらうために必要な年収を、以下の職業に分けて解説します。
- 会社員・公務員
- 自営業
会社員や公務員の場合は年収約732万円が必要
公的年金を毎月20万円もらうには、年額で240万円の受給が必要です。令和5年度では、国民年金が満額で79万5,000円(年額)受給できるので、厚生年金保険(以下「厚生年金」と表記)で足りない分の160万5,000円を受給する必要があります1)。
老齢厚生年金の金額は、おおよそ「平均年収÷12×0.005481×加入月数」という式で概算できます。この計算式から、平均年収が高く、加入月数が長いほうがもらえる金額も増えることがわかります。
仮に、厚生年金に40年(480カ月)加入した場合に、必要な平均年収は以下のようになります。
老齢厚生年金の年額(160万5,000円)=平均年収÷12×0.005481×480
平均年収=160万5,000円×12÷0.005481÷480
平均年収=約732万円
つまり、40年間加入した場合には、平均年収で約732万円が必要ということがわかります。
上記は、1人で毎月20万円をもらうために必要な年収ですが、夫婦で毎月20万円として考えると、結果は変わります。専業主婦(夫)世帯の場合には、国民年金が2人分で合わせて満額159万円受給できるため、厚生年金で81万円を受給する必要があります。1人の際の条件と同じく40年間の加入で計算すると、平均年収で約370万円が必要になります。
また、共働きの場合はさらに必要な年収が低くなります。同じく40年間、夫婦のどちらもが厚生年金に加入したとすると、必要な年収は約185万円になります。
〈表〉毎月20万円年金をもらうために必要な平均年収
世帯構成 | 必要な平均年収 |
---|---|
1人世帯 | 約732万円 |
専業主婦(夫)世帯 | 約370万円 |
共働き世帯 | 約185万円 |
【関連記事】専業主婦(夫)が年金をいくらもらえるかについて、詳しくはコチラ
自営業の場合は高年収でも20万円はもらえない
自営業の人は、いくら年収が高くても公的年金を毎月20万円もらうことはできません。自営業の人がもらえる公的年金は国民年金のみで、厚生年金は受給できないためです。
国民年金は、収入の多寡によって金額が変わるわけではなく、上限額が月額6万6,250円に設定されています1)。そのため、自営業の人が老後により多くの年金を得るなら、年金を補填する制度を利用する必要があります。
年金の平均受給額を解説

画像:iStockphoto.com/takasuu
厚生労働省の「令和3年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」2)によると、国民年金の平均年金月額(老齢基礎年金)は5万6,368円。男女別でみると、男性が5万9,013円、女性が5万4,346円です。
厚生年金にも加入している場合は、平均年金月額が14万3,965円。男女別の平均年金月額は、男性が16万3,380円、女性が10万4,686円です。
〈表〉国民年金と厚生年金の平均年金月額
国民年金のみ | 国民年金+厚生年金 | |
---|---|---|
男性 | 5万9,013円 | 16万3,380円 |
女性 | 5万4,346円 | 10万4,686円 |
男女計 | 5万6,368円 | 14万3,965円 |
上記のデータをもとに、世帯構成別の平均年金月額を以下の表にまとめたので、ご覧ください。
〈表〉世帯構成ごとの平均年金月額
世帯構成 | 夫婦でもらえる年金の合計/月 |
---|---|
自営業の夫・専業主婦の妻 | 11万3,359円 |
会社員の夫・専業主婦の妻 | 21万7,726円 |
会社員の夫婦 | 26万8,066円 |
専業主夫の夫・会社員の妻 | 16万3,699円 |
【関連記事】将来もらえる年金はいくら? 年金の種類別の計算方法など詳しくはコチラ
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年金を多くもらうためには長い期間納付することが大切

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年金を多くもらうためには、長い期間保険料を納付することが大切です。年金は現在、国民年金・厚生年金ともに最低10年間保険料を納付すれば受給できます。しかし、国民年金で満額をもらうためには、20歳から60歳までの40年間(480カ月)の納付が必要です。
もらえる年金額は、厚生年金であれば収入の多寡や納付期間の長さ、国民年金であれば納付期間に抜けがないかに左右されます。保険料を納められない期間があったり、未加入の期間があったりすると、受給できる金額が少なくなるので注意しましょう。
老後の収入を増やすための制度7選

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ここからは、老後の収入を増やすための制度を7つ紹介します。
老後に20万円以上の収入を得るためには、上記の制度を利用することも視野にいれるといいでしょう。それぞれ詳しく解説します。
①繰下げ受給
国民年金の老齢基礎年金と、厚生年金の老齢厚生年金は、基本的に65歳から受け取れますが、受け取りを開始する年齢を遅らせると、もらえる額が増額します。この制度を、繰下げ受給と呼びます。繰下げ受給のメリットは、以下の2つです。
- 繰下げ期間に応じて毎月の年金額が増える
- 繰下げで増えた毎月の年金額は一生変わらない
国民年金と厚生年金の両方を受け取れる人は、それぞれ別々に繰下げができます。国民年金の場合は、「65歳に達した月から繰下げ申出月の前月までの月数」×0.7%ずつ増額され、最大で84%増額ができます3)。2022年の4月からは、繰下げの上限年齢が70歳から75歳まで延長され、より受給額を増やすことができるようになりました。
ただし、繰下げ受給を行うと、受け取り始めが遅くなるため長寿でない場合には受け取れる年金総額が少なくなる可能性もあります。
繰下げ受給と反対の「繰上げ受給」によるメリットやデメリットについては、以下の記事で解説しているので、併せてご覧ください。
【関連記事】年金は60歳からもらったほうが賢い? 繰上げ受給のメリット・デメリットについて詳しくはコチラ
②任意加入制度
任意加入制度とは、以下の場合に60〜65歳で国民年金に加入できる制度4)です。
- 60歳までに受給資格を満たしていない場合
- 40年の納付期間が達成できず満額受給できない場合
任意加入制度は、年金額が少ない人の救済を目的としています。加入条件は以下のとおりです。
- 現在日本国内に住所がある
- 60~65歳の年齢に当てはまる
- 国民年金の繰上げ支給をしていない
- 20~60歳までの保険料の納付月数が480カ月(40年)未満
- 厚生年金保険や共済組合などに加入していない
③iDeCo
iDeCoとは、掛金を積み立てて運用する私的年金制度の1つです。掛金は定期預金や保険商品、投資信託に投資して運用します。運用益が上がれば、積み立てた金額以上の年金を受け取れます。
iDeCoは、老後の資産形成を目的としています。そのため、掛金は原則として60歳まで引き出すことができませんが、以下の税制上の優遇が受けられます。
- 掛金全額が所得控除の対象
- 運用益を非課税で再投資可能
- 年金として受け取るときは公的年金控除の対象
- 一時金として受け取るときは退職所得控除の対象
【関連記事】iDeCoの節税メリットや始め方について、詳しくはコチラ
④つみたてNISA
つみたてNISAとは、年間40万円までの投資に対する利益を、最長20年間非課税にできる制度です。投資先は、金融庁の厳しい条件をクリアした商品に限定されています。長期積立分散投資がしやすい商品ラインナップなので、投資初心者をはじめ、年代を問わず利用しやすい制度です。
つみたてNISAのメリットは、以下のとおりです。
- 100円から始められる
- 金融庁が投資商品を厳選している
- いつでも引き出せる
- 20歳以上(2023年から18歳以上)であれば誰でも始められる
【関連記事】つみたてNISAのメリット・デメリット、注意点について詳しくはコチラ
⑤国民年金基金
国民年金基金とは、自営業の人や個人事業主などを対象とする、国民年金にプラスして加入できる年金制度です。
会社員や公務員は厚生年金に加入しているため、老後に多くの年金を受給できます。しかし、自営業やフリーランスなどは厚生年金に加入できないため、将来もらえる公的年金は国民年金しかありません。
国民年金基金に加入すれば、会社員や公務員との年金受給額の格差を埋めることができます。なお、掛金は全額、社会保険料控除の対象です。
掛金は月額上限6万8,000円で、口数単位で調整できます。加入方法には、様々なタイプが用意されているので、詳しくは国民年金基金のウェブサイトをご覧ください。
⑥付加年金
毎月納める国民年金にプラスしてお金を納付することで、受給する国民年金を増やせます。毎月追加の保険料(付加保険料)を納めるだけのシンプルなしくみなので、誰でも利用しやすい制度です。
付加保険料は月額400円。受け取れる年金の追加金額は「200円×付加保険料の納付月数」で計算され、2年以上受給すれば元を取れることになります5)。
付加保険料を長く納めれば納めるほど、将来もらえる年金額は多くなります。
⑦個人年金保険
個人年金保険は保険商品の1つで、個人年金保険料控除により、税制優遇を受けられます。個人年金保険には、以下の種類があります。
- 確定年金
- 有期年金
- 終身年金
確定年金は、定められた期間中に年金を受け取れます。本人が死亡した場合、期間中であれば満了まで遺族が年金を受け取れます。有期年金のしくみは確定年金と基本的に同じですが、本人が死亡したらその時点で受給が終了します。終身年金は、本人が死亡するまで生涯年金を受け取れます。
個人年金保険は投資と違い、保険料に応じた年金を保険会社から受けとれるため、計画的に資金を貯められます。厚生年金を受け取れない自営業の人にはおすすめです。
年金額は日本年金機構のウェブサイトで試算できる

画像:istockphoto.com/ThitareeSarmkasat
将来いくら年金をもらえるか気になる場合は、日本年金機構のウェブサイト6)で試算できます。画面をクリックするだけの「かんたん試算」や、詳細な条件を入れた試算も可能です。なお、日本年金機構のウェブサイトで試算をするには、ねんきんネットのアカウント作成が必要です。
また、年金の見込み受給額はねんきん定期便でも確認できます。以下の記事では、ねんきん定期便の見方を詳しく解説しているので、併せてご覧ください。
【関連記事】ねんきん定期便の見方を図解付きで解説! 詳しくはコチラ
年金額が毎月20万円では生活が厳しいことも

画像:istockphoto.com/kazuma seki
老後は毎月20万円の年金があれば十分に生活できると思っている人も多いかもしれません。しかし、毎月20万円の年金では厳しい生活を強いられる可能性があります。
総務省が2022年に行った「家計調査」7)によると、高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上)の消費支出は、1カ月あたり23万9,441円。高齢単身無職世帯(65歳以上)の消費支出は、1カ月あたり14万3,139円です。夫婦で毎月20万円の場合には、消費支出のほうが超え、赤字になってしまうことがわかります。
また単身の場合でも、たとえば介護付き有料老人ホームに入る場合、利用料で年金がほとんどなくなってしまうことも考えられます。
老後、安心して生活をするためには、年金を極力多くもらう必要があるでしょう。様々な制度を利用して、年金を毎月20万円以上もらうための工夫をすることが大切です。
参考資料
様々な制度を利用して年金を毎月20万円以上もらおう

画像:istockphoto.com/JGalione
年金を毎月20万円もらうために必要な年収や、年金を補填する制度を解説しました。しかしながら、会社員で20〜60歳まで年収700万円を維持するのは難しいかもしれません。また、受給額や支出額の平均を考慮すると、公的年金だけでは不安な人が多いのではないでしょうか。
そのため、年金を補填するための制度を利用し、自分で資産形成をすることが大切です。この記事で紹介した制度の中で、取り組めそうなものがあれば、ぜひ利用してみてはいかがでしょうか。