「もらえる年金額を増やす方法はあるの?」
上記のような疑問を抱く専業主婦(夫)の人は多いでしょう。年金の受給額は、世帯収入や共働きをしているかどうかによって異なります。生活資金などに関して、働いているパートナーの収入に頼っている部分の大きい専業主婦(夫)にとっては、自分がいくら年金をもらえるかは大きな心配事の1つではないでしょうか。
今回は、専業主婦(夫)は年金をいくらもらえるのかについて、ファイナンシャルプランナーの頼藤太希さん監修のもと徹底解説します。共働き世帯との違いや、年金額を増やす方法も紹介します。専業主婦の年金額についての不安を抱いている人や、これから専業主婦(夫)になる予定の人は、ぜひ最後までご覧ください。
※この記事は、2023年4月20日に更新しています。
この記事の監修者
頼藤太希(よりふじ たいき)
Money&You代表取締役/マネーコンサルタント
中央大学客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生保にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に(株)Money&Youを創業し、現職へ。女性向けWebメディア『FP Cafe』や『Mocha(モカ)』を運営すると同時に、マネーコンサルタントとして、資産運用・税金・Fintech・キャッシュレスなどに関する執筆・監修、書籍、講演などを通して日本人のマネーリテラシー向上に注力している。『はじめての資産運用』(宝島社)、『1日5分で、お金持ち』(クロスメディア・パブリッシング)、『はじめてのNISA&iDeCo』(成美堂)など著書多数。日本証券アナリスト協会検定会員、ファイナンシャルプランナー(AFP)、日本アクチュアリー会研究会員。
老後に受給できる年金は国民年金と厚生年金の2種類

画像:iStock.com/banabana-san
年金の制度を大きく分けると、法律によって加入が義務付けられている「公的年金」と、企業や個人が任意で加入できる「私的年金」の2つです。
公的年金には、「国民年金」と「厚生年金保険(以下「厚生年金」と表記)」の2種類があります。すべての人が対象になる「国民年金」に、会社員や公務員が対象になる「厚生年金」が上乗せされる2階建ての構造になっています。
〈図〉公的年金制度の構造

以下では、国民年金と厚生年金について、もらえる金額の目安や加入できる人、専業主婦(夫)が加入する条件などを解説していきます。まずは年金の基本的な知識を押さえましょう。
①国民年金
国民年金は日本在住の20〜60歳までの全員が加入する義務のある公的年金です。納める保険料は物価や賃金の伸びに合わせ精査され、国によって決定されます。
将来もらえる金額は、保険料の納付期間・免除期間で決まります。20〜60歳までの40年間(480カ月)もれなく納付していれば、原則65歳から年金を満額もらうことができます。仮に保険料を納めていない期間があれば、満額受給することはできません。(※)
令和4年度の満額の年金額は79万5,000円(年額)となります1)。専業主婦(夫)がもらえるのは、原則国民年金のみです。
※国民年金保険料の免除・未納期間がある場合には、60〜65歳の間に任意加入することで受給できる年金を満額にする制度があります。
②厚生年金
厚生年金とは、会社員や公務員が加入する公的年金です。国民年金に上乗せして支払うので、将来受給できる年金額は大きくなります。保険料の半額を事業主が負担する労使折半のしくみを取っていることが特徴です。
パートナーが会社員や公務員の場合、専業主婦(夫)はパートナーの厚生年金の扶養に入れます。扶養に入ると、自動的に専業主婦(夫)は国民年金の「第3号被保険者」になります。
第3号被保険者は保険料を自己負担する必要がありませんが、将来受給できるのは国民年金のみになります。つまり、「第2号被保険者」であるパートナーは厚生年金と国民年金の両方を将来受給できますが、専業主婦(夫)は国民年金のみしかもらえません。
専業主婦の平均年金額は約5万4,000円

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年金をもらえるのは国民年金、厚生年金ともに原則65歳以降です。専業主婦(夫)は、一体年金をいくらもらえるのでしょうか。
専業主婦と共働きで働く女性の年金額の違い
前述のとおり、専業主婦(夫)は国民年金のみ受給できます。そこで、国民年金と厚生年金の男女別の平均額から、ここでは専業主婦と共働きで働く女性の年金額の違いを確認しましょう。
厚生労働省の「令和3年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」2)によると、国民年金の平均年金月額(老齢基礎年金)は平均で5万6,368円。男女別でみると、男性が5万9,013円、女性が5万4,346円です。
厚生年金にも加入している場合は、平均年金月額が14万3,965円。男女別の平均年金月額は、男性が16万3,380円、女性が10万4,686円です。
〈表〉国民年金と厚生年金の平均年金月額
国民年金のみ | 国民年金+厚生年金 | |
---|---|---|
男性 | 5万9,013円 | 16万3,380円 |
女性 | 5万4,346円 | 10万4,686円 |
男女計 | 5万6,368円 | 14万3,965円 |
したがって、専業主婦の平均受給額は月5万4,346円、共働きで働く女性の平均受給額は月10万4,686円と考えられ、専業主婦と共働き世帯の妻では、年金額に約2倍の差が出ることがわかります。
夫婦でもらえる具体的な年金額
共働きの世帯と、専業主婦(夫)がいる世帯では、年金額はいくら異なるのでしょうか。前述の厚生労働省のデータをもとに算出した、夫婦でもらえる具体的な年金額は以下のとおりです。
〈表〉世帯構成ごとの毎月の年金額
世帯構成 | 夫婦でもらえる年金の合計/月 |
---|---|
自営業の夫・専業主婦の妻 | 11万3,359円 |
会社員の夫・専業主婦の妻 | 21万7,726円 |
会社員の夫婦 | 26万8,066円 |
専業主夫の夫・会社員の妻 | 16万3,699円 |
以下の記事では、もらえる年金額を職業ごとにシミュレーションしているので、併せてご覧ください。
【関連記事】将来もらえる年金はいくら? 計算方法や老後資金の増やし方について詳しくはコチラ
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専業主婦(夫)がもらえる年金額を増やす方法4選

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専業主婦(夫)のいる世帯は、必然的に年金額が少なくなります。不足している年金額を補うには国の制度を利用したり、自身で資産形成を行ったりするのがおすすめです。ここでは、専業主婦(夫)がもらえる年金額を増やす方法を4つ紹介します。
①保険料納付月数が480カ月(40年)未満なら、60歳以降も国民年金に加入する
②付加保険料を納付する
③iDeCoを利用する
④繰下げ受給を行う
以下では、それぞれの方法を解説します。
①保険料納付月数が480カ月(40年)未満なら、60歳以降も国民年金に加入する
国民年金には、60歳以降も年金を納められる任意加入制度があります。任意加入制度は、20〜60歳の間に免除や未納などで保険料を納めていない期間がある場合に利用でき、年金を満額にすることが可能です。
以下の条件をすべて満たせば、国民年金の任意加入が可能です。
- 現在日本国内に住所がある
- 60~65歳の年齢に当てはまる
- 国民年金の繰上げ受給をしていない
- 20~60歳までの保険料の納付月数が480カ月(40年)未満
- 厚生年金保険や共済組合などに加入していない
なお、年金の受給資格期間を満たしていない65~70歳の人や、外国に住む20〜65歳の人も任意加入ができます。申請者が日本国籍でない場合は、医療滞在や観光、保養目的で入国していない場合にのみ、任意加入の申請ができます。
②付加保険料を納付する
毎月納める国民年金にプラスしてお金を納付することで、受給する国民年金の金額を増やせます。毎月追加して保険料(付加保険料)を納めるだけのシンプルなしくみなので、誰でも利用しやすい制度です。
付加保険料は月額400円。受給できる年金の追加金額は「200円×付加保険料の納付月数」で計算され、2年以上受給すれば元を取れることになります。
付加保険料を長く納めれば納めるほど、将来もらえる年金額は高くなります。
年金の支払い状況は「ねんきん定期便」などで確認することができます。以下の記事では、「ねんきん定期便」の見方について解説しているので、併せてご覧ください。
【関連記事】【図版・用語解説あり】ねんきん定期便の見方ガイド。年金の納付状況の確認方法について詳しくはコチラ
③iDeCoを利用する
iDeCoなどで投資を行い、自身の資産を増やすのも1つの手です。iDeCoは個人型確定拠出年金と呼ばれ、自分で年金を積み立てられる制度です。
〈図〉iDeCoのしくみ

※運用する商品によっては、元本割れを起こす場合もあります。
iDeCoのメリットは、運用益によって資産を増やせる点です。また、掛金は全額所得控除されるので、節税対策にもなります。上記図のとおり、自身で設定した拠出額に加えて、選択した運用商品の運用益を受け取ることが可能です。
貯金だけでは老後の生活資金をまかなうことが難しい場合、iDeCoはよい選択肢になるでしょう。運用商品の手数料水準も低いため、気軽に始めてはいかがでしょうか。
④繰下げ受給を行う
国民年金の老齢基礎年金と、厚生年金の老齢厚生年金は、基本的に65歳から受給できますが、受給を開始する年齢を遅らせると、もらえる額が増額します。この制度を、繰下げ受給と呼びます。繰下げ受給のメリットは、以下の2つです。
- 繰下げ期間に応じて毎月の受給額が増える
- 繰下げで増えた毎月の受給額は一生変わらない
国民年金と厚生年金の両方を受給できる人は、それぞれ別々に繰下げができます。国民年金の場合は、「65歳に達した月から繰下げ申出月の前月までの月数」×0.7%ずつ増額され、最大で84%増額できます。
ただし、繰下げ受給を行うと、受取り始めが遅くなるため長寿でない場合には受け取れる年金総額が少なくなる可能性もあります。
以下の記事では、繰下げ受給の仕組みや年金を受給する年齢について解説しているので、併せてご覧ください。
【関連記事】年金は60歳からもらった方が賢い? 年金の繰上げ・繰下げ制度についても解説
専業主婦(夫)が年金をもらう際の2つの注意点

画像:iStock.com/itakayuki
専業主婦(夫)が毎月十分な年金を受給するためには、働いているパートナーに頼らざるを得ない場合が多いでしょう。そのため、離婚やパートナーの退職が、年金の受給額を減らす大きなリスクになる可能性があります。ここでは、専業主婦(夫)が年金をもらう際に気を付けるべき注意点を2つ紹介します。
①離婚すると受給額が半分になる
②パートナーが退職すると第1号被保険者へ切り替えが必要
それぞれ詳しく解説します。
①離婚すると受給額が半分になる
専業主婦(夫)がパートナーと離婚した場合、受給できる年金額は減少します。夫婦の両方が国民年金のみに加入していた場合、単純計算でもらえる金額は1人分に変わります。
パートナーが厚生年金に加入していた場合には、「3号分割」という制度が専業主婦(夫)側に適用されます。3号分割とは、パートナーが支払った厚生年金の半分を専業主婦(夫)だった人が受給できるしくみです。3号分割の請求にあたっては、双方の合意が不要なのもポイントです。
国民年金と厚生年金いずれの場合でも、専業主婦(夫)が離婚後に受給できる金額は夫婦2人がもらえる予定だった年金額の半分程度になると覚えておきましょう。
②パートナーが退職すると第1号被保険者へ切り替えが必要
厚生年金に加入していたパートナーが退職した場合、専業主婦(夫)は第3号被保険者の資格を失います。そのため、パートナーの退職が決まったらすぐに、第1号被保険者への切り替え手続きをしなければなりません。
特に注意したいケースは、パートナーが定年退職を迎える場合です。その場合、パートナー側は切り替えを行う必要がないため、専業主婦(夫)側が保険の切り替えを忘れてしまう可能性があります。切り替えを忘れると無保険の期間が存在することになり、国民年金の受給額が減ってしまいます。受給額が減らないよう、切り替え時期には注意してください。
専業主婦(夫)でも、もらえる年金は増やせる

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現在の制度ですと、専業主婦(夫)が将来もらえる年金額は、パートナーの職業に依存してしまいます。会社員や公務員の人が将来もらえる年金額は高く、自営業の人はやや低くなりがちです。専業主婦(夫)がいる世帯は、将来受給できる年金を積極的に増やすべきでしょう。紹介したとおり、iDeCoなどの確定拠出年金を積み立てたり、保険料を追納したりして、将来もらえる年金を増やすことを考えましょう。
この記事を参考に、もらえる年金を増やすためのアクションを起こしてみてください。