この記事では、社会保険労務士でファイナンシャルプランナーの岡佳伸さん監修のもと、空白期間中の病院の受診や、14日の期限を過ぎてしまった際の手続きなど、健康保険の切り替え時に空白期間ができる場合の対処法を解説します。
※この記事は2024年3月21日に公開した内容を最新情報に更新しています
この記事の監修者
岡 佳伸(おか よしのぶ)
社会保険労務士法人岡佳伸事務所代表。特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、宅地建物取引士。
大手人材派遣会社、自動車部品メーカーなどで人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険給付業務、助成金関連業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として活躍。各種講演会(東京商工会議所練馬支部、中央支部、公益社団法人東京ビルメンテナンス協会)講師および各種WEB記事執筆。日経新聞、読売新聞、女性セブンなどに取材記事掲載のほか、NHK「あさイチ」に専門家ゲストとしても出演(2020年12月21日、2021年3月10日)。
健康保険の空白期間は作ってはいけない

画像:iStock.com/Dilok Klaisataporn
まず前提として、日本の公的医療保険制度は「国民皆保険制度」と呼ばれており、原則としてすべての国民が、なんらかの公的医療保険に加入する(被保険者となる)ことが義務付けられています。
そのため、健康保険(社会保険)は原則国民全員が加入しなければならないため、そもそも空白期間を作ってはいけません。空白期間ができると、医療費が一時的に全額自己負担になったり、空白期間分の保険料をさかのぼって請求されたりする可能性があります。
会社員の場合は、転職や退職時にはそれまで加入していた健康保険を脱退する必要があります。退職日の翌日が転職先の入社日の場合は空白期間が生まれないので、特に何もする必要はありません。しかし、そのように退職日と入社日をうまく調整することは現実的に難しいでしょう。
健康保険の空白期間を作らないためには、以下のいずれかの手続きが必要です。
- 国民健康保険に加入する
- 家族の扶養に入る
- 健康保険を任意継続する
健康保険の任意継続をしない場合や家族の扶養に入らない場合、国民健康保険に加入することになります。国民健康保険とは、個人事業主や年金受給者などほかの医療保険(健康保険や共済組合など)に加入していない人が加入する保険です。
また、現職を退職したあとも、それまで加入していた健康保険を任意継続することができます。任意継続をする場合、これまで会社と折半していた保険料を全額負担しなければなりません。しかし、場合によっては国民健康保険よりも保険料が抑えられることもあります。
そのほか、条件を満たせば親や配偶者が加入している健康保険に被扶養者として加入できます。健康保険によって年収や失業給付受給の有無など条件があるので、自分が条件を満たしているか確認しましょう。
健康保険の空白期間ができる場合の手続き

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健康保険の空白期間ができてしまう場合の手続き方法を詳しく解説します。
なお、各健康保険の違いについては以下の記事で詳しく説明しているので、興味のある人は併せてご覧ください。
国民健康保険に加入する場合
国民健康保険に加入する場合、退職日の翌日から14日以内に居住地の自治体窓口で手続きが必要です1)。自治体によりますが、郵送やオンライン、マイナポータルからの申請も可能です。加入手続き自体は14日を過ぎても行えますが、保険料は退職日の翌日までさかのぼって支払う必要があります。
手続きに必要な書類は以下のとおりです。
〈表〉国民健康保険に加入する際に必要な書類
- 健康保険資格喪失証明書
- 離職票や退職証明書
- 本人確認書類
- 個人番号確認書類
自治体によって必要書類が異なる場合があるため、事前に確認しておきましょう。各自治体のウェブサイトから確認できます。
手続きが完了すれば、マイナ保険証の資格情報が更新され、そのまま利用できるようになります。なお、マイナ保険証を利用していない人の場合は、新しい資格確認書が発行されます。自治体によっては、データ更新や発行に数日かかる場合があるので、事前に確認しておきましょう。
また、離職票や退職証明書などの必要書類が手元に揃っていない場合は、以下のいずれかで対処しましょう。
- 年金事務所や健康保険組合で資格喪失証明の書類を発行する
- 任意継続被保険者の場合はマイナポータルで資格喪失日が確認・印刷し持参する
年金事務所では、日本年金機構が発行する「健康保険資格喪失確認通知書」を発行できます(ただし、協会けんぽに加入していた場合にかぎる)2)。健康保険資格喪失証明書や離職票などの代わりとして利用できます。
健康保険資格喪失証明書の代用として、退職後に健康保険の任意継続被保険者になった場合は、マイナポータルの健康保険証画面で確認できる資格喪失日や、資格確認書に記載された資格喪失日で認められるケースもあります3)4)。しかし、任意継続被保険者以外は保険証だけでは退職日を証明できないため、追加書類が必要な場合が多いです。 役所によっては、勤めていた会社に電話で退職日を確認してくれるケースもあるでしょう。その場合は、マイナポータルのスクリーンショットや資格確認書のコピーと本人確認書類、個人番号確認書類で申請が可能です。
健康保険の任意継続をする場合
健康保険を任意継続する場合は、以下の2つの条件を満たしている必要があります5)。
- 資格喪失日の前日までに健康保険の被保険者期間が継続して2カ月以上あること
- 資格喪失日から20日以内に「任意継続被保険者資格取得申出書」を提出すること
任意継続ができるのは最大2年間です。手続きについては、管轄の協会けんぽ支部に退職日の翌日から20日以内に「任意継続被保険者資格取得申出書」を提出します6)。
任意継続被保険者の資格取得日は、退職日の翌日です。マイナ保険証のデータが更新される(資格確認書が届く)までの期間も、健康保険給付の対象です。この期間に医療機関を受診して、医療費を全額自己負担した場合は、あとから申請すれば療養費として保険負担分を払い戻しできます。
なお、前述のとおり任意継続をする場合は、退職前まで会社と折半していた保険料を全額負担しなければならないため、国民健康保険料と比較して、どちらがいいか検討するとよいでしょう。
健康保険の任意継続については以下の記事で詳しく解説しています。
家族の扶養に入る場合

画像:iStock.com/PeopleImages
条件を満たしていれば、親や配偶者が加入している健康保険に被扶養者として加入できます。
家族の扶養に入るためには、主として被保険者の収入によって生計を維持されていなければなりません。認定の基準は、被保険者と同一世帯に属しているか否かで異なります。
同一世帯に属している場合は「年間収入が130万円未満(配偶者を除く19歳以上23歳未満の場合は150万円未満)かつ被保険者の年間収入の50%未満」が条件です7)。
一方、同一世帯に属していない場合の条件は「年間収入が130万円未満(配偶者を除く19歳以上23歳未満の場合は150万円未満)かつ被保険者からの援助による収入額より少ない場合」です。
扶養について詳しく知りたい人は、以下の記事もご覧ください。
【関連記事】健康保険の扶養が外れる条件について、詳しくはコチラ
失業保険(雇用保険の基本手当)を受給している場合は扶養に入れない可能性があるため、あらかじめ確認しておきましょう。
手続きは、被保険者が事業主を経由して「被扶養者(異動)届」を日本年金機構(協会けんぽ加入者の場合)または、加入する健康保険組合へ提出すれば完了です。配偶者が協会けんぽ以外の健康保険被保険者の扶養に入る場合は「国民年金第3号関係者届」を日本年金機構に提出しましょう8)。
(コラム)年金の手続きにも注意しよう
転職や退職をする時は、健康保険と併せて年金の手続きも必要です。退職後、同月内にほかの会社に転職する場合は、厚生年金に継続して加入できるため切り替え手続きは必要ありません。
しかし、転職先の入社日が退職日の翌月以降になる場合には、国民年金へ切り替える手続きが必要です。手続きの期限は、退職後14日以内です9)。過ぎてしまった場合「国民年金未納保険料納付勧奨通知書(催告状)」が届き、空白期間分の保険料を支払わなければなりません。
国民年金保険料を未払いのままにしておくと、将来の年金が減ってしまう可能性があります。経済的な理由で支払えない場合は、納付の「猶予・免除制度」があるため、管轄の年金窓口で相談してみましょう10)。
健康保険の空白期間ができたらどうなる?
健康保険の空白期間ができた場合、健康保険に加入していない状態とみなされます。空白期間中にかかった医療費は、全額自己負担となります。万が一、空白期間ができてしまったら、すぐに国民健康保険か任意継続への切り替え手続きをしてください。
中には、「職場の退職日から転職先の採用日まで1日だけ期間が空く」「10日後に新しい職場へ行くことが決まっている」というように退職から再就職まで一定期間が空く人もいるでしょう。繰り返しになりますが、空白期間が1日の場合や10日の場合にかかわらず、どのような日数であっても切り替えが必要です。
| 空白期間の日数 | 健康保険切り替え手続き | 保険料の支払い |
|---|---|---|
| 1日 | 必要 | 加入手続きをした翌月から |
| 10日 | ||
| 14日以上 | 加入手続きをした翌月から ※:未加入期の保険料については退職日の翌日までさかのぼって支払う(最長2年間)11) |
期限までに切り替えが終わっていない場合は、さかのぼって保険料が徴収されます。健康保険の空白期間を作らないよう、すぐに切り替え手続きをしましょう。
なお前述のとおり、健康保険の切り替え期限は、国民健康保険への加入の場合退職日の翌日から14日以内、健康保険の任意継続の場合退職日の翌日から20日以内になります。
通院日に新しい健康保険が間に合わない場合はどうする?
健康保険の切り替え手続き完了後、マイナ保険証のデータ更新や資格確認書の交付までの間に通院しなければならない場合は、医療費を全額自己負担することになります。のちほど加入している協会けんぽまたは健康保険組合に申請することで、保険給付相当分について療養費の払い戻しを受けられる場合があります。
あらかじめ通院日が決まっている場合は、新しい職場に相談するか、管轄の年金事務所に相談しましょう。協会けんぽ加入事業所の場合は、「健康保険被保険者資格証明書」を発行してもらうことができます。「健康保険被保険者資格証明書」はマイナ保険証や資格確認書の代わりとなる書類で、有効期間は発行後20日間です。健康保険被保険者資格証明書を受け取るには、事業主もしくは被保険者が年金事務所へ所定の申請書を提出する必要があります(窓口持参もしくは郵送)。
証明書は原則申請当日に受け取れます。証明書があれば医療費を自費で立て替える必要がありません。手間はかかりますが余計な金銭負担がなくなるため、立て替えに不安のある人は利用しましょう12)。
健康保険の空白期間ができる場合の注意点

画像:iStock.com/Valeriy_G
空白期間ができる場合の注意点は、主に以下の2つです。
- 健康保険に加入していない期間、医療費が全額自己負担になる
- 保険料をさかのぼって徴収される可能性がある
健康保険に加入していないまま医療機関を受診すると、医療費を全額自己負担しなければなりません11)。健康保険に加入している人は、通常3割負担で医療機関を受診できます。病気やケガはいつ起こるか予測できないため、必ず健康保険に加入しましょう。
また、健康保険に加入していないままでも、最大2年前までさかのぼって健康保険料を徴収される可能性があります11)。
ただし、さかのぼって健康保険に加入すれば、未加入期間に受診した医療費の、保険診療分(7割)の金額が療養費として払い戻しされます。
健康保険の空白期間に関するよくある質問
最後に、健康保険切り替え時の空白期間に関するよくある質問をまとめました。
マイナ保険証でも健康保険の切り替え手続きは必要?
マイナ保険証を利用している場合でも、健康保険の切り替え手続きは必要です。退職や転職によって加入する保険が変わるため、国民健康保険への加入や任意継続、家族の扶養に入るなどの手続きを行う必要があります。手続き後にマイナ保険証の資格情報が更新され、医療機関で利用できるようになります。
国民健康保険の切り替え期限14日を過ぎた場合はどうなる?
国民健康保険の加入手続きは、退職日の翌日から14日以内に行うことが原則です。ただし、期限を過ぎても手続きは可能です。その場合でも、保険料は退職日の翌日にさかのぼって課されるため、未加入期間が長くなるほどまとめて支払う保険料が増える可能性があります。
空白期間が1日でも健康保険加入の手続きは必要?
退職日の翌日から転職先の入社日まで1日でも期間が空く場合は、原則として健康保険の切り替え手続きが必要です。国民皆保険制度により、すべての人が何らかの公的医療保険に加入する必要があります。空白期間を作らないためにも、国民健康保険や任意継続などの手続きを行いましょう。
空白期間中に病院を受診した場合はどうなる?
健康保険に加入していない空白期間中に医療機関を受診すると、医療費は一時的に全額自己負担となります。ただし、あとから健康保険に加入した場合は、保険診療分について療養費として払い戻しを受けられます。空白期間ができた場合は、早めに手続きを行いましょう。
国民健康保険に加入したあと、転職先の健康保険に入る場合にやることは?
転職先の健康保険に加入したあとは、居住地の自治体で国民健康保険の脱退手続きが必要です。新しい健康保険の資格取得日が確認できる書類(資格確認書や資格情報のお知らせなど)を持参して手続きを行います。手続きをしないと国民健康保険料が請求され続ける場合があるため注意しましょう。
国民健康保険と任意継続、どちらを選べばいい?
どちらが有利かは、収入や家族構成によって異なります。任意継続は退職前と同じ健康保険を最長2年間利用できますが、会社と折半していた保険料は全額自己負担になります。一方、国民健康保険は前年の所得などをもとに保険料が決まるため、保険料を比較して選ぶことが大切です。
健康保険の空白期間は作らないようにしよう

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健康保険の空白期間ができた場合の対処法を解説しました。健康保険は原則国民全員が加入しなければなりません。
空白期間の対処法は、「国民健康保険への加入」「健康保険の任意継続」「扶養に入る」の3つです。自分はどの対処法が利用できるのかを確認して、迅速に対応しましょう。
健康保険に未加入の状態だと、医療費を全額自己負担するほかにあとから保険料を徴収される可能性があるので注意が必要です。








