この記事では社会保険労務士の岡佳伸さん監修のもと、受給金額の計算式のほか、ほかの給付金との調整が発生するケース、税金や社会保険料の支払いなど、傷病手当金のお金まわりについてくまなく解説します。
この記事の監修者
岡 佳伸(おか よしのぶ)
社会保険労務士、法人 岡佳伸事務所代表。大手人材派遣会社、自動車部品メーカーなどで人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険給付業務、助成金関連業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として活躍。各種講演会講師および記事執筆、TV出演などの実績多数。特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。
傷病手当金とは? まずは受給条件などの基礎知識を理解しよう
傷病手当金とは、健康保険などの被保険者が業務や災害以外の病気やケガで療養のため仕事を休み、給与などがもらえない時に申請・受給できる保険給付です。
受給するには、健康保険の被保険者である必要があるので、自営業者は対象となりません。また、「業務外の病気やケガで療養中である」「働くことができない」「給与の支払いがない」「連続する3日間を含み4日以上、療養のために仕事を休んでいる」などの条件を満たしている必要があります1)。通算で1年6カ月間まで受給することが可能です。
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いくら受給できる? 傷病手当金の計算方法
傷病手当金の1日当たりの金額は給与によって異なり、【支給開始日以前の継続した12カ月の各月の標準報酬月額を平均した金額÷30日×2/3】という計算式で算出します。
〈図〉健康保険の保険料額表(全国健康保険協会)2)
標準報酬月額とは、従業員の月々の「報酬」を等級で表すもので、全国健康保険協会(協会けんぽ)などの保険料額表(上)を見ると金額がわかります。
健康保険は全50等級に、厚生年金保険は全32等級に区分されており、健康保険や厚生年金保険はこれをもとに保険料や保険給付の金額を計算します。
標準報酬月額の「報酬」は、従業員が受け取る報酬の合計額から求めるもので、給与だけではなく、住居手当や扶養手当、通勤定期券なども含みます。
〈表〉第21~23等級の保険料額
標準報酬② | 報酬月額① 円以上~円未満 | |
---|---|---|
等級 | 月額 | |
21(18) | 28万 | 27万~29万 |
22(19)④ | 30万③ | 29万~31万 |
23(20) | 32万 | 31万~33万 |
仮にAさんの報酬月額が30万円である場合、まず「報酬月額①」で30万円が含まれる欄(29万円以上~31万円未満)を確認します。続いて、その左側にある「標準報酬②」の欄を見ると、Aさんの標準報酬月額は30万円③、健康保険は「第22級」④であることがわかります。
なお、健康保険に加入して1年未満の場合、標準報酬月額は支給開始日の属する月以前の直近の継続した各月の標準報酬月額の平均、または協会健保の平均値である第22等級(30万円)、いずれか低い金額で計算します。
参考資料
公務員は傷病手当金の受給額が違う?
国家公務員や地方公務員、幼稚園や学校の教員は、健康保険ではなく、それぞれ国家教員共済(国共済)、地方職員共済(地共済)、私学共済の被保険者です。国共済・地共済、私学共済は健康保険とは異なる計算式を用いており、傷病手当金の支給金額は健康保険よりも多い傾向にあります3)4)。
〈表〉国共済・地共済、私学共済の1日当たりの受給額を導く計算式
国共済・地共済 | [支給開始日以前の継続した12カ月の各月の標準報酬月額の平均した額] ÷ 22 × 2/3 |
私学共済 | [支給開始日以前の継続した12カ月の各月の標準報酬月額の平均した額] ÷ 22 × 80 ÷ 100 |
出産手当金や年金など。傷病手当金と併給できるのは?
障害厚生年金や出産手当金など、傷病などに関連する給付はほかにもあります。傷病手当金以外の給付を受給している場合、傷病手当金を併給できなかったり、支給額が減ったりする場合があります。
①出産手当金
出産手当金とは、健康保険の給付金のひとつで、出産する女性が対象です。出産予定日以前42日(多胎妊娠の場合は98日)から出産日の翌日以降56日までの間に、会社を休み、給与の支払いがなかった期間に対して支払われます5)。
傷病手当金と出産手当金は、両方を申請することもできますが、出産手当金が優先されます。ただし、出産手当金の日額が傷病手当金の日額より低い場合には、その差額を受給することができます。
参考資料
②障害年金・障害手当金
厚生年金保険の障害厚生年金は、病気やケガで仕事や生活が困難になった場合に受給できるものです。障害年金の規定よりも障害が軽度の場合には、一時金として障害手当金を受け取ることができます。
傷病手当金は労務不能となって最短で4日目から支給の対象になります。一方、障害年金・障害手当金は最短でも初診日から1年6カ月が経過しないと受給できません6)。このため、まず傷病手当金を受給し、障害年金・障害手当金に切り替えていき、重複分や差額分を調整するのが一般的です。
ただし、障害年金・障害手当金の受給中に、別の病気やケガで就労不能になった場合は、傷病手当金を別途、全額受給することができます。たとえば、手足のケガに対し、障害年金・障害手当金を受けている時に胃がんを患った、というケースなどが該当します。
参考資料
③休業補償給付
休業補償給付は、「業務上の病気やケガ」に対する労災保険の給付金です。傷病手当金は「業務外の病気やケガ」に対する給付金であり、前提条件が異なるため、これも併給はできません。
④育児休業給付金
育児休業給付(育休手当)は、雇用保険の被保険者が1歳未満の子どもを養育するために育児休業を取得する時に受給できる手当です7)。一方、傷病手当金は、健康保険制度の給付金です。別の制度の給付金なので、併給することが可能です。
参考資料
傷病手当金を受給中の住民税や社会保険料の支払いはどうなる? 気になる疑問をまとめて回答
傷病手当金は、給与代わりに受給できるものの、税金や社会保険料の支払いなど、異なる部分もあります。把握しておきたい注意事項をQ&A形式でお伝えします。
Q.傷病手当金の受給期間、確定申告は必要?
給与の代替として受給できる傷病手当金ですが、あくまでも「給付金」であり、「報酬」ではないので、「非課税所得」になります。よって、税金がかからないので、確定申告の必要はありません。
Q.傷病手当金の受給中、所得税や住民税、社会保険料は納めなくてもいい?
住民税は前年の収入に対して課税されるものです。そのため、現時点で雇用主から「報酬」を受け取っていなくても、納める必要があります。ただし、傷病手当金は「非課税所得」なので、受給期間中は所得税や住民税は課税されません。
一方で、厚生年金保険料や健康保険料、介護保険料などの社会保険料は、「報酬」をもとに計算されるわけではなく、毎年決定する「標準報酬月額」をもとに計算された金額を支払うものです。そのため、休職前と同じ金額を受給した傷病手当金から支払う必要があります。
Q.傷病手当金の受給中、副業やアルバイトは可能?
傷病手当金は原則、「労務不能」であるからこそ受給できます。「内職」「手伝い」程度はOKともいわれていますが、その定義が曖昧な状態です。保険者に尋ねるのも一手ですが、原則として副業やアルバイトをしないほうが安心です。
Q.傷病手当金の受給中に転職活動をしてもいい?
求職活動をするということは、「労務可能」な状態ということにほかなりません。傷病手当金は「労務不能」だからこそ受給できるものなので、「労務可能」とみなされる転職活動は行わないほうがいいでしょう。
受給金額を把握するには、社会保険料の支払いや税金についても理解しよう
業務外の病気やケガをした時に受給できる傷病手当金は、療養中の経済的不安を和らげてくれます。ただし、住民税や社会保険料などの出費を把握していないと、思っていた金額と違うと焦ることもあり得ます。申請時には社会保険労務士など、プロに相談してみると安心でしょう。