この記事では、社会保険労務士の岡佳伸さん監修のもと、書類の申請手続きから振り込みまでのプロセスをわかりやすく解説します。
※この記事は、 2025年1月8日に公開した内容を最新情報に更新しています。
傷病手当金とは? まずは受給条件などの基礎知識を理解しよう

画像:iStock.com/ViktorCap
傷病手当金とは、健康保険などの被保険者が業務や災害以外の病気やケガで療養のため仕事を休み、給与などがもらえない時に申請・受給できる保険給付です。
受給するには、健康保険の被保険者である必要があるので、自営業者は対象となりません。また、「業務外の病気やケガで療養中である」「働くことができない」「給与の支払いがない」「連続する3日間を含み4日以上、療養のために仕事を休んでいる」などの条件を満たしている必要があります1)。長期療養の場合、通算で1年6カ月間まで受給することが可能です。
傷病手当金のより詳しい制度の内容や受給条件などは、以下の記事でご紹介しています。併せてご確認ください。
【関連記事】傷病手当金とは? 制度や受給条件について、詳しくはコチラ
【早見表】傷病手当金の初回・2回目の支給日
傷病手当金を申請してから支給されるまでは、2週間〜1カ月程度の時間がかかります2)。支給までは、以下のようなペースで進むとおさえておきましょう。
〈表〉傷病手当金の初回・2回目以降の支給日
申請書提出日 | 初回支給日 | 2回目以降の支給日 |
---|---|---|
4月上旬 | 4月下旬〜5月中旬 | 5月下旬〜6月上旬 |
5月中旬 | 6月上旬〜下旬 | 7月上旬〜中旬 |
6月末 | 7月中旬〜8月上旬 | 8月中旬〜下旬 |
申請から支給までの期間について、詳細を解説します。
参考資料
初回は約1カ月・2回目以降は約2週間が目安
傷病手当金が支給されるタイミングは、初回と2回目以降で異なります。初回の申請では、加入資格や申請内容の確認などを細かく審査するため、支給までに約2週間から1カ月ほどかかります。
2回目以降の支給は初回から継続して行われるものであり、比較的スムーズに手続きが進むのが一般的です。申請から、約2週間で手当が支給されます。
全国健康保険協会(以下、協会けんぽ)も、内容に不備がなければ、書類到着から約10営業日後を目処に支給決定するとしています2)。ただし、書類に不備がある場合は再提出が必要となるため、時間がかかる可能性が高いです。
健保組合・申請タイミングで変わるケース
実際に傷病手当金が支給されるタイミングは、協会けんぽや健康保険組合によって異なります。協会けんぽや健康保険組合の営業日やほかの給付の申請状況などによっては、時間がかかる可能性もあるでしょう。
また、組合独自のスケジュールで支給しているケースもあります。たとえば、トヨタ自動車健康保険組合は、毎月5日・15日・25日が傷病手当金の支給日です3)。
申請から支給まで実際にかかる期間は、加入する健康保険組合のWebサイトを見るか、直接問い合わせて確認するとよいでしょう。
傷病手当金受給のための申請、何をすればいい?

画像:iStock.com/takasuu
傷病手当金を受給するには、協会けんぽや保険組合などの保険者に申請をする必要があります。
申請するには、まず保険者から傷病手当金支給申請書を取り寄せます4)。申請書は、協会けんぽや各健康保険組合などのウェブサイトからPDFで入手することができます。自身で「被保険者記入用」を記入するほか、医師に「療養担当者記入用」、勤め先に「事業主記入用」の記入を依頼し、これらの書類を揃えてから、保険者に申請を行います。
協会けんぽの傷病手当金の申請書は計4枚あり、本人が記入する「被保険者記入用(2枚)」、医師が記入する「療養担当者記入用(1枚)」、勤め先が記入する「事業主記入用(1枚)」に分かれています。

「被保険者記入用(2枚)」には、住所、氏名、被保険者証の番号、振込先指定口座、療養のため休んだ期間や仕事の内容などを記入し、給与や年金の受給に関する質問に回答します。

「療養担当者記入用(1枚)」は休職期間中、労務不能であったことを医師に証言してもらう書類です。診療や入院の期間、症状や治療の内容、労務不能と認められた医学的初見などを記入してもらいます。

一方、「事業主記入用(1枚)」は、休職期間中、給与を支払っていないことを雇用主が説明するもので、勤務状況や賃金の支払い状況などを記入してもらいます。
支給申請は雇用主の企業を通して行うのが一般的ですが、保険者に直接郵送することも可能です。
なお、支給される金額に関しては、以下の記事で詳しく紹介しています。会社員と公務員での違い、傷病手当金と併給できる制度などについても説明しています。併せて把握しておきましょう。
【関連記事】傷病手当金の金額は? 会社員と公務員との金額の違い、併給できる制度について、詳しくはコチラ
参考資料
効率よく最短の期間で傷病手当を受給する3つのコツ

画像:iStock.com/takasuu
傷病手当金は、申請から振込日まで、2週間~1カ月はかかります。そのため、書類にミスがあれば、さらに振り込みが遅れてしまうこともあるのです。なるべく早く傷病手当金を振り込んでもらうためにできることを提案します。
添付書類の必要がないかを確認する
休職理由がケガの場合には「負傷原因届」、ケガの原因が第三者による場合にはさらに「第三者行為による傷病届」を添付する必要があります。また、健康保険に入って1年未満である場合、障害厚生年金や労災保険の休業補償などを受給している場合にも、別途、添付書類を用意する必要があります。ケガを原因とした傷病手当金の受給のほか、なにかしらの給付を受けている場合には、添付書類が必要かどうか、事前に確認しましょう。
余裕を持って、医師・雇用主に記入を依頼する
医師の書類作成には時間がかかる場合があるので、作業の所要時間を尋ねて、早めに依頼しておくと安心です。雇用主への依頼も、あらかじめ期日を相談しておくと、スムーズに書類を提出できます。
申請期間のズレに注意!
書類にミスがあると、申請に遅れが生じます。特に気をつけたいのが申請期間です。医師が労務不能と定めた期間に「被保険者記入用」と「療養担当者記入用」の申請期間も合わせる必要があるので、注意しましょう。
初回の支給が遅れる理由
傷病手当金の初回支給が遅れる主な理由は、以下の3つです。
- 資格確認や加入条件の審査が初回のみ発生する
- 傷病の内容や勤務状況に対する審査に時間がかかる
- 提出書類が多く、不備が起こりやすい
複数の理由がありますが、基本的には審査や書類提出といったシーンが要因となります。
なお、参考として2回目以降の支給が遅れる要因についても解説します。理由をおさえて、できる限りスムーズに申請を進められるようにしましょう。
資格確認や加入条件の審査が初回のみ発生する
初回の傷病手当金の申請では、資格確認や加入条件に関する審査が行われます。
傷病手当金を受け取れるのは、業務外の事由の病気やケガにより、連続する3日間を含む4日以上仕事に就けなかった場合です。休んだ日が連続して3日間あることが必要で有給休暇等で給与支給される場合でも問題ありません。申請書類をもとに、待期期間や病気・ケガの理由を細かく確認するため、時間がかかります。
2回目以降の継続給付であれば、審査は簡易的なものになるため、初回ほど支給までの期間に時間がかかりません。初回は通常よりも丁寧に審査をするため、どうしても支給が遅れてしまうのです。
傷病の内容や勤務状況に対する審査に時間がかかる
傷病手当金を受け取る際は、傷病状況から「本当に仕事に就ける状況でないか」を確認するため、初回審査は時間がかかりがちです。
傷病手当金の申請をすると、協会けんぽや健康保険組合が提出した書類から「仕事ができる状況でないか」「業務に関連した病気・ケガでないか」を確かめます。病気やケガの程度が要件に合致するかを確認するには、多少の時間を要するのです。
また、勤務状況も傷病手当金の受給資格のひとつです。不正受給にならないよう「確かに休業しているか」「休業中は給与が支払われていないか」が慎重にチェックされています。
生活に影響がでないよう、事業主に早いうちから申請を依頼しておきましょう。
記入箇所が多く、不備が起こりやすい
傷病手当金の申請は記入箇所が多く、記入ミスや添付書類の漏れなどが発生しやすくなります。不備があると書類の再提出が必要になり、支給に遅れが生じてしまいます。
たとえば、被保険者のマイナンバーを記載した際はマイナンバーカードの写しを添付する必要があります。マイナンバーカードがない場合は、住民票や本人確認ができる書類を添付しなければなりません。代理人が提出する際は戸籍謄本や委任状など、必要な書類はさらに増えます4)。
加えて、負傷・病気の原因がわかるものや、労災保険の休業補償給付を受けている場合は「休業補償給付支給決定通知書」を添しなければなりません4)。
状況にあった書類を的確に用意し、書類の記入は抜け漏れのないよう、複数人でチェックしてもらうようにしましょう。
(参考)2回目以降は継続申請の提出遅れが主な原因
2回目以降の提出が遅れる要因は、継続申請の提出漏れが主な要因と考えられます。
傷病手当金を継続して受け取るには、要件を満たしていることを確認して都度申請をしなければなりません。申請が遅れてしまうと、傷病手当金が支給されるタイミングも遅れてしまいます。
1カ月ごとに状況を確認し、申請対象となる際は都度忘れずに申請するようにしましょう。
支給が遅れている時に確認すべき3つのポイント

画像:iStock.com/takasuu
傷病手当金の支給が遅れている際は、以下の3つを試してみましょう。
- 申請状況を確認する
- 医師の記入箇所や会社の提出が済んでいるか確かめる
- 協会けんぽや健康保険組合に問い合わせる
まずは現状の申請状況を確かめます。書類の提出日のほか、提出物の写しから記入漏れやミスがないか確かめてみてください。また、郵送で送付した場合は、協会けんぽや健康保険組合に書類が到着する日も考慮する必要があります。
特に注意したいのは「医師の記入欄」です。傷病手当金の申請書には、医師が「療養により就労できなかったと認められる期間」「傷病名」「症状や経過」などを記載する必要があります。加えて、会社経由で書類を提出する場合も注意しましょう。なかなか振込されない場合は、現状を担当部署に確かめてみるとよいです。
2週間以上振込や連絡がない場合は、加入している協会けんぽや健康保険組合に問い合わせてみましょう。可能であれば、現在の審査状況などを確かめておくとよいです。もしなんらかの不備や不都合があるなら、再申請の準備を進めておきましょう。
傷病手当金の初回申請は“早めの準備”が安心
傷病手当金の初回申請時には、審査から振込みまで約2週間~1カ月、2回目以降も振り込みまでに2週間前後かかります。特に初回は、審査に時間がかかるケースがあるため、早めに準備を進めておくことが大切です。また、申請書類の記入や提出には、医師や勤め先の協力も必要なため、できるだけ余裕を持って手続きを行いましょう。