病気やケガなどによる入院は、予期せぬタイミングで起こるものです。

「急な病気やケガで手術や入院が必要になった時に、高額な入院費が支払えないかもしれない…」
「費用が支払えない場合は、入院することができないの?」

など、不安を感じる人もいることでしょう。ましてや入院中は、収入の減少も否めません。この記事では、ファイナンシャルプランナー・黒田尚子さん監修のもと、入院費が支払えない場合にどのようなことが起こるのかに加え、費用を準備できない場合の対処法を解説。いざという時に使える公的制度もご紹介しているので、参考にしてみてください。

この記事の監修者

黒田 尚子(くろだ なおこ)

ファイナンシャルプランナー。CFP® 1級ファイナンシャルプランニング技能士。CNJ認定 乳がん体験者コーディネーター。消費生活専門相談員資格所有。SEとして(株)日本総合研究所に在籍中、ファイナンシャルプランナーの資格を取得し独立。現在では各種セミナーや講演・講座の講師、新聞・書籍・雑誌・ウェブサイト上での執筆、個人相談を中心に幅広く行う。

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【注】この記事では特に言及しない限り、自己負担額は3割負担を例に紹介します。

入院費を支払えない場合はどうなるの?

画像: 画像:iStock.com/pcess609

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そもそも、多くの病院では入院前に保証金を納める

入院費が支払えないケースについて考える前に、まず知っておきたいのが、病院側の未払い医療費対策についてです。

多くの病院では、入院する前に一定額の保証金を納めることをルール化しています。これは入院保証金(予納金)と呼ばれるもので、金額は病院や入院期間によって異なりますが、10万〜30万円程度の範囲にしているところが多いようです(金額目安は監修者調べ)。

入院費が入院保証金より少なければ退院時に差額が返金され、入院保証金を超えた場合には退院時に差額を支払います。

また、入院時に身元保証人を立てることも、病院側の未払い医療費対策のひとつといえます。もしも、入院した本人に支払い能力がない場合は、身元保証人が代わりに支払うことになります。

支払えない場合、督促・法的手続きなどが行われる

入院前にこれらの対策が行われた上で、それでも退院時に請求された入院費が支払えない場合、つぎのような順番でトラブル解決が図られることが多いです。

① 入院した本人宛に督促がくる
② 身元保証人に連絡がきて、入院費を支払う
③ 病院側が弁護士を立てて、法的な手続きが行われる

このように、基本的に支払い免除になることはなく、何らかの形で支払えるように病院との交渉が行われます。

なお、入院費の相場やその内訳については、以下の記事で詳しく解説しています。支払いに不安を感じている人はこちらの記事も併せて読んでみてください。

【関連記事】入院費の相場はいくら? 詳しくはコチラ

入院費を支払わなくても退院はできる? 死亡した場合は?

入院にかかった費用は、退院当日など、退院日までに支払うのが原則です。しかし、支払いができなかったからといって退院できないわけではありません。退院した月の月末までを支払期限としている病院も多く、分割払いを交渉できる場合もあります(詳しくは後述します)。

万が一、入院した本人が死亡してしまった場合には、通常は入院時に指定した身元保証人が入院費を支払うことになります。仮に身元保証人が本人の親族で、入院費を当事者の「マイナス財産」と考えた場合には、相続放棄することで入院費の支払いをする必要がなくなりますが、よくあるケースとはいえないでしょう。

入院費が支払えない場合の対処法

画像: 画像:iStock.com/kokouu

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では、入院費が支払えない場合は、どうしたらいいのでしょうか。まず、病院に相談してみるといいでしょう。

病院にもよりますが、分割払いや後払いなどの対応をとってくれる場合があります。また、クレジットカードが使える病院なら、いったんクレジットカードで支払いをするのもおすすめです。その後、クレジットカード会社側に申請して、分割払いに変更する方法も考えられます。

それでも支払えない場合は、高額療養費貸付制度1)を利用することもひとつの方法です。高額療養費貸付制度は、高額療養費支給見込額の8割相当額を、全国健康保険協会から無利子で借りることができる制度です。このほか、お住まいの市区町村社会福祉協議会に相談することで、生活福祉資金貸付制度2)を利用することもできます。

なお、高額療養支給見込額の計算方法など、高額療養費制度については、つぎの項目で詳しく説明します。

自己負担額を減らしてくれる公的制度を知っておこう

画像: 画像:iStock.com/itakayuki

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家計に貯えがない場合、高額な入院費をすぐに支払えないというケースはあるでしょう。また、病院に行かなければならないのに、給料日前だったり、大きな買い物をしたばかりだったりなどの事情で手持ちのお金が少ないという状況もあり得ます。

そのような時は、公的制度を利用することによって自己負担額を減らすことができるかもしれません。公的制度にはいくつか種類があり、医療費の払い戻しや救済給付が受けられる制度などがあります。ここでは、入院費を含めた医療費が高額になってしまった際に使える代表的な制度を5つご紹介します。

(1)高額療養費制度

高額療養費3)とは、健康保険法などにもとづき、保険医療機関の窓口で支払う医療費を一定額以下にとどめる、公的医療保険制度における給付のひとつです。国保(国民健康保険)、社保(社会保険・健康保険)を問わず、健康保険に加入している人なら利用できます。

1カ月間にかかった自己負担額を合算し、自己負担限度額を超えた額が給付されます。

〈図〉高額療養費制度のしくみ

画像: (1)高額療養費制度

高額療養費の上限額は、69歳以下の人と70歳以上の人とで計算方法が異なり、年収・所得によっても上限額が異なります。69歳以下の計算式は、以下のとおりです(70歳以上の場合は後述します)。

〈表〉高額療養費の計算方法(69歳以下の場合)

所得区分自己負担限度額多数該当※1
の自己負担限度額
標準報酬月額83万円以上25万2,600円+(総医療費-84万2,000円)×1%14万100円
標準報酬月額53万円~79万円16万7,400円+(総医療費-55万8,000円)×1%9万3,000円
標準報酬月額28万円~50万円8万100円+(総医療費-26万7,000円)×1%4万4,400円
標準報酬月額26万円以下5万7,600円4万4,400円
低所得者※23万5,400円2万4,600円
※全国健康保険協会「高額療養費簡易試算(平成27年1月診療分から:70歳未満)」4)より作成。
※1 「多数該当」とは、直近の1年間に3カ月以上の高額療養費の給付を受けている
(限度額適用認定証等を使用し、自己負担限度額を負担した場合も含む)場合、
4カ月目から自己負担限度額が軽減される制度のこと。
※2 「低所得者」とは、療養を受けた月の年度(療養を受けた月が4月から7月まで
の場合は前年度)において、市区町村民税が非課税の被保険者とその被扶養者。
また、療養を受けた月に生活保護法の要保護者であって、
低所得者の特例を受けることにより生活保護を必要としない被保険者とその被扶養者。

平均的な収入の会社員の場合は、目安として、1カ月の自己負担額が約9万円を超えると超過分が高額療養費として給付されると考えればいいでしょう。

なお高額療養費は、退院後に申請する必要があります。また、すぐに給付されるわけではなく、申請してから給付されるまで3カ月程度の時間がかかる点に注意が必要です。高額医療費制度については、下記の記事で詳しく解説しているので、確認してみましょう。

【関連記事】「高額医療費制度」には対象外となる費用もある。しくみや計算方法を解説した記事はコチラ

(2)限度額適用認定証

高額療養費制度によって超過分があとから払い戻されるとはいえ、一時的な支払いは、生活の大きな負担になります。そこで活用したいのが、加入している健康保険などに申請することで受給できる限度額適用認定証5)です。

保険証と併せて医療機関などの窓口に提示すれば、1カ月(1日から月末まで)の窓口での支払いが、高額療養費制度適用後の自己負担限度額までになります。

〈図〉限度額適用認定証発行を利用する流れ

画像: (2)限度額適用認定証

69歳以下の人の場合、自己負担限度額の計算式は以下のとおりです。

〈図〉限度額適用認定証を提示した際の、69歳以下の人の自己負担限度額

所得区分自己負担限度額多数該当
①区分ア(標準報酬月額83万円以上の方)25万2,600円+(総医療費-84万2,000円)×1%14万100円
①区分イ(標準報酬月額53万~79万円の方)16万7,400円+(総医療費-55万8,000円)×1%9万3,000円
②区分ウ(標準報酬月額28万~50万円の方)80万100円+(総医療費-26万7,000円)×1%4万4,400円
③区分エ(標準報酬月額26万円以下の方)5万7,600円4万4,400円
④区分オ(低所得者)(被保険者が市区町村民税の非課税者等)3万5,400円2万4,600円
※ 総医療費とは保険適用される診察費用の総額(10割)。
注)「区分ア」または「区分イ」に該当する場合、市区町村民税が非課税であっても、
標準報酬月額での「区分ア」または「区分イ」の該当となります。

限度額適用認定証は、社保、国保を問わず、健康保険に加入しているすべての人が利用できます。

(コラム)高齢者が限度額適用認定証を申請する際の注意事項

もともと限度額適用認定証は70歳未満の人に給付されるもので、70歳以上の人には給付されていませんでした。70歳以上75歳未満の前期高齢者は「高齢者受給者証」、75歳以上の後期高齢者は「保険証」がその代わりとなり、それを提示することで窓口での支払いは自己負担限度額までで済んでいたのです。

しかし、制度改正に伴い、現役並み所得者の中で区分が新たにつくられたことで、高齢者受給者証などだけでは、どの所得区分に属する人なのかがわからなくなりました。

そこで、2018年8月診療分より、所得区分が「現役並みⅡ」、「現役並みⅠ」の人が、窓口での支払いを自己負担限度額に抑えたい場合、限度額適用認定証が必要になりました。

70~74歳の高齢者の高額療養費制度による自己負担限度額の計算式は、下記のとおりです5)

〈図〉限度額適用認定証を提示した際の、70~75歳未満の人の自己負担限度額

画像: (コラム)高齢者が限度額適用認定証を申請する際の注意事項

申請にはマイナンバーカードを取得し、健康保険証として登録が必要です。さらに、マイナンバーカードの健康保険証利用対応の医療機関・薬局であれば、マイナンバーカードの提示だけで認定証は不要となります。

なお、マイナンバーカードの健康保険証利用に対応する医療機関はコチラからご確認ください6)

(3)傷病手当金制度

会社員で、病気やケガのために4日以上(連続する3日間を含む)会社を休み、事業主から報酬が受けられない場合には、健保から所定の手当金を傷病手当金7)として受給することができます。給料の3分の2程度が支払われるので、入院費の助けになるでしょう。

(4)付加給付制度

付加給付制度8)とは、大手企業などの健康保険組合(組合健保)において、1カ月間の医療費の自己負担限度額を決めておき、限度額を超過した費用を払い戻す制度のことです。すべての人が使える制度ではありませんが、付加給付は高額療養費に上乗せして適用されます。

たとえば、1カ月の自己負担限度額を2万5,000円に決めている付加給付制度を導入している組合健保に加入しているとします。高額療養費制度利用後の入院による自己負担額が5万円だった場合、2万5,000円が払い戻されるのです。

金額は加入している組合健保によって異なります。金額や手続きなどの詳細は、所属している会社の人事部や総務部、組合健保などに確認してみましょう。

(5)医療費控除制度

医療費控除9)とは、1年間に支払った医療費が一定の額を超えた場合に、確定申告をすることで、納めた所得税の一部が還付金として戻ってくる制度です。確定申告をすることで申請ができるので、国保、社保を問わず利用できます。

医療費控除の申請は、医療費を支払った翌年の確定申告の期間内に行うのが原則ですが、会社員のように本来確定申告をしなくてもいい場合は、確定申告期間より前でも申告することができます。また、申告を忘れた場合でも、5年前までさかのぼることが可能です。

妊娠や出産でかかる費用には、健康保険が適用されませんが、医療費控除の対象にすることができます。これにより、金銭的な負担を軽くすることが可能です。詳しくは下記の記事から確認してみてください。

【関連記事】妊娠・出産時に対象となる「医療費控除」について、詳しくはコチラ

民間の医療保険も備えとして考えておこう

画像: 画像:iStock.com/Altayb

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公的医療保険制度が充実している日本の場合、高額療養費制度によって、限度額を超えた入院費を公的医療保険でまかなうことができます。

しかし、前述のとおり、高額療養費の払い戻しは、申請から3カ月程度の時間がかかってしまいます。また、会社員の場合、業務外の病気やケガなら傷病手当金が給付されますが、給料の3分の2程度の金額なので、生活に支障が出ることになるでしょう。

そこで、まず考えたいのがある程度の貯えです。高額療養費の払い戻しが申請から3カ月程度かかることなどを考慮し、目安としては、独身なら生活費の3カ月分、家族持ちなら半年分程度の貯えがあれば不安を軽減できるでしょう。

もちろん、民間の保険も備えとして有効です。入院の際に心強い保険としては、医療保険や就業不能保険などがあります。また、入院費の助けとすることを目的とするなら、入院費がかさむ、がんや脳血管疾患の入院や治療に対応する特定疾病への特約がある商品を検討するといいでしょう。また、がん保険などもおすすめです。

下記の記事で、民間の保険会社から受け取れる入院給付金について解説しています。気になる人は参考にしてみてください。

【関連記事】入院給付金とは? 金額設定のポイントや支給タイミングに関して、詳しくはコチラ

入院費が支払えない場合、まずは病院に相談を

画像: 画像:iStock.com/PeopleImages

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お金の心配がありながら入院するのは、大きな不安を抱えることでしょう。また、この記事で説明した公的制度の内容も複雑でわかりにくいと感じることもあるかもしれません。そんな時には、繰り返しになりますが、病院に事情を説明してみましょう。

大きな病院であれば、メディカルソーシャルワーカーと呼ばれる医療にかかる公的・福祉制度に詳しい専門職の人がいます。自分が使える公的制度にはどんなものがあり、どこまで自己負担を軽減できるのかを一緒に考えることができます。この記事で読んだことをメディカルソーシャルワーカーの人に質問するなどして、少しでも支払いに対する不安を解消しましょう。

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