「医療保険(入院給付金)は自分に必要なのか?」
「入院給付金の支払限度日数は、どのくらいに設定すればいいの?」
「入院給付金はいつ支払われるの?」
など、様々な疑問を抱いている人もいることでしょう。そこで、ファイナンシャルプランナー・タケイ啓子さん監修のもと、入院給付金のしくみや日額を設定する際の考え方を、パターン別に解説します。併せて、入院給付金の請求方法や支払われるまでの期間もご紹介しています。ぜひ、医療保険を検討する時などに参考にしてみてください。
この記事の監修者
タケイ 啓子(たけい けいこ)
ファイナンシャルプランナー(AFP)。36歳で離婚し、シングルマザーに。大手生命保険会社に就職をしたが、その後、保険の総合代理店に転職。保険の電話相談業務に従事。43歳の時に乳がんを告知される。治療を経て、現在は治療とお金の相談パートナーとして、相談、執筆業務を中心に活動中。
【注】この記事では特に言及しない限り、自己負担額は3割負担を例に紹介します。
入院給付金の概要としくみ
入院給付金とは
入院給付金とは、医療保険の被保険者が病気やケガを治療する目的で入院した場合に支払われる給付金のことです。
1日につき5,000円や1万円というように入院給付金日額を設定し、入院した日数に応じて支払われる金額が決まるのが一般的です(以下、「日額タイプの入院給付金」と呼びます)。
ただし、医療保険によっては、入院日数にかかわらず1回の入院につき決まった金額が一時金としてまとめて支払われる場合もあります(以下、「一時金タイプの入院給付金」と呼びます)。
〈図〉日額タイプ・一時金タイプの入院給付金の違い
入院給付金の支払限度日数とは
日額タイプの入院給付金では、最大30日または60日というように、契約によって1回の入院につき支払われる限度日数が決まっています。
また、ひとつの契約で支払われる通算の支払限度日数を設定している医療保険が大半です。
たとえば、1回の入院の支払限度日数が30日に設定されている医療保険に加入している場合、連続で100日入院したとしても日額タイプの入院給付金の支払いは30日分までとなります※。また、前回の入院から180日以内に同じ病気やケガが原因で入院した場合は、継続した1回の入院とみなされるのが一般的です。
※連続した入院日数が支払限度日数を超過しても、異なる病気やケガの治療を目的として追加入院した場合、入院給付金の支払われる日数がリセットして支払われることがあります。詳しい条件については、保険会社に問い合わせましょう。
〈図〉支払限度日数30日で契約した場合の、給付金の支払い例
なお、通算の支払限度日数に達すると、それ以降に入院しても、入院給付金は支払われません。ただし、通算の支払限度日数は、1,000日以上となっている医療保険が多いです。よほどのケースでない限り、支払限度日数に達することはないでしょう。
入院したのに入院給付金がもらえないケースもある?
入院給付金が支払われるのは、原則として病気やケガの治療を目的に入院した場合のみです。ですから健康診断や人間ドックなど検査を目的とする入院では、入院給付金は支払われません。
また、美容整形での入院も入院給付金の支払い対象外となります。そのほか、昔の医療保険の場合は、4日以内など短期間の入院が支払いの対象外になっていることがあります。過去に加入した医療保険を利用しようとしている場合は、事前によく確認しましょう。
なお、出産のための入院は、原則として入院給付金の支払い対象外ですが、出産時に帝王切開などの医療行為が行われた場合、支払い対象となることがあります。
(コラム)新型コロナウイルス感染症で、自宅療養になった場合でも入院給付金はもらえるの?
契約している保険会社によりますが、新型コロナウイルス感染症と診断され、医師から自宅療養の指示があった場合などには、自宅療養の日数に応じて入院給付金が支払われる場合もあります。
本来であれば入院して治療する必要がある病気であるにもかかわらず、病床数不足といった理由でやむなく自宅療養となることが主な理由です。新型コロナウイルス感染症への対応は保険会社によって異なるので、詳しくは契約している保険会社に確認しましょう。
入院給付金はなぜ必要?
日本では医療費の負担を軽減する公的医療制度が充実しています。たとえば、医療費の自己負担額に、年齢や所得に応じて上限額を定めた高額療養費制度があります。また、会社員などで社保(社会保険・健康保険)に加入している場合は、病気やケガで働けなくなった際に給料の3分の2程度が支払われる、傷病手当金があります。そのため、「民間の医療保険に加入し、入院給付金を利用する必要はない」と考える人もいるのではないでしょうか。
しかし、病気やケガで入院した場合にかかる費用の中には、下記のように、保険適用の対象外、つまり自己負担となる項目があります。
〈表〉入院費のうち、自己負担となる主な項目
・先進医療の技術料 ・差額ベッド代 ・入院中の食事代(入院時食事療養費) ・日用品や衣類など入院時に必要な物品にかかる雑費 ・家族がお見舞いする際の交通費 |
特に、入院時に個室や少人数部屋を希望した際にかかる差額ベッド代は、1日あたり数千円以上と高額になることが多く、入院が長期になった場合には、大きな負担となります。そして、病気やケガの種類によっては、高額な先進医療を受ける場合もあるでしょう。こうした重い病気やケガによる長期入院に備えるだけの貯えがない場合には、医療保険の入院給付金が大きな助けとなります。
また、入院で働けなくなった場合の助けとなる傷病手当金は、会社員などが加入する健康保険の制度です。そのため、個人事業主や会社を退職した人などで、国民健康保険に加入している場合は、傷病手当金を受け取ることができません。このように、公的医療保険ではカバーできない場合の保障として、入院給付金が役立ってくれるでしょう。
ほかにも、入院費の自己負担額を減らす方法として、公的制度を利用するという方法があります。詳しくは、下記の記事から確認してみましょう。
【関連記事】自己負担額を減らしてくれる公的制度とは? 詳しくはコチラ
入院給付金の請求方法は? もらえるタイミングはいつ?
入院給付金を受け取るためには、まず保険会社に連絡し、入院給付金の請求手続きを行う必要があります。手順は、以下のとおりです。
①保険会社へ連絡する
まず、契約している保険会社へ連絡し、必要な書類を取り寄せます。連絡をする際には、あらかじめ「被保険者(本人)の氏名」「証券番号」「入院日」がわかるようにしておきましょう。すでにわかっていれば、「病名」「手術日・手術名」「退院日(予定日)」を伝えておくと、手続きがよりスムーズになります。なお、保険会社によっては、ウェブサイトから書類をダウンロードできることがあります。
②必要な書類を保険会社に提出する
保険会社に連絡すると、請求手続きに必要な書類が届きます。通常、書類の種類は「請求書」と「保険会社所定の診断書」の2種類です。このうち「保険会社所定の診断書」は、入院している病院側で記入してもらうことになります。その際、文書作成の費用を病院から請求される点に注意しましょう。病院によって金額は異なり、1万円程度が一般的ですが、それ以上の金額になる場合も増えています。最近では診断書の代わりに領収書でも対応をしてくれる保険会社もあります。
また、複数の民間の医療保険を契約している場合、保険会社によっては、他社の診断書のコピーでも対応してくれることがあります。あらかじめ確認しておくといいでしょう。必要な書類の準備が整ったら、郵送などで保険会社へ提出します。
③審査が行われ、入院給付金が振り込まれる
書類を受け取った保険会社では、その内容をチェックし問題がなければ、入院給付金の支払い手続きを進めます。入院給付金は通常、受取人指定の金融機関口座に振り込まれます。そのあと、保険会社から受け取りの内容・金額の明細書が送付されるので、間違いがないか確認しましょう。
保険会社によってはウェブサイトで請求手続きができる
なお、保険会社によっては、ウェブサイトから請求手続きを行える場合もあります。ウェブサイトから請求手続きが行える場合、請求から支払いまでの期間が短くなるのが一般的です。自分が加入している保険で、ウェブサイトでの請求手続きができるかを確認してみましょう。
入院給付金が振り込まれるまでどれくらいかかる?
請求手続きに必要な書類の内容に問題がなければ、保険会社で書類を受け取ってから10日間程度で入院給付金が振り込まれる場合が多いです(ただし、2022年時点では、新型コロナウイルスの影響により請求件数が増え、請求手続きから振り込みまで10日間以上かかる場合も増えています)。
書類の記載内容に誤りがあったり、医療保険の契約時に申告した健康状態などの情報と食い違いがあったりした場合には、書類の再提出を求められることもあるので注意しましょう。
入院給付金の請求手続きはいつまでにすればいい?
「病院側で記入してもらう書類がある」などの理由から、入院給付金の請求手続きは通常、退院日が決まったタイミングで行います。退院後でも手続きは行えますが、基本的に3年以内に手続きをしないと、入院給付金が支払われなくなる場合が多い点に注意しましょう。
請求手続きをせず3年以上経過してしまっても、手続きができる場合もあるので、忘れていた人は契約している保険会社に相談することをおすすめします。
入院給付金の請求手続きは本人以外でもできる?
入院給付金は、原則として医療保険の被保険者(本人)でなければ請求することができません。ですから、重い病気やケガをしている場合は、請求手続きが難しい場合もあります。そのような場合に備えるため、本人に代わって請求手続きが行える指定代理人を立てておくことをおすすめします。
指定代理人になれるのは通常、本人の配偶者または3親等以内の親族です。しかし、保険会社によっては本人と同居している内縁関係の人や同棲しているパートナーを指定代理人にすることも可能です。詳しくは、契約している保険会社に確認しましょう。ちなみに、指定代理人の登録は保険の契約後でも可能です。
(コラム)本人が死亡した場合でも、入院給付金は受け取れる?
前述したように、入院給付金を請求できるのは、原則として医療保険の被保険者(本人)のみです。ただし、本人が死亡してしまった場合は、指定代理または本人の遺族が、入院してから死亡するまでの期間に応じた入院給付金を受け取ることが可能です。
その際の注意点は、入院給付金が相続対象となることです。そのため、遺族の間で遺産分割協議を行い、その結果を保険会社に伝えるまでは、入院給付金の支払いは実行されません。
日額タイプの入院給付金はいくらに設定すればいい? 考え方と目安金額をご紹介
医療保険に加入する際、日額タイプの入院給付金をいくらに設定すればいいのか悩む人は多いでしょう。個人の考え方次第になるため、一概にはいえないですが、何を基準に設定すればいいかを示すことはできます。いくつかのパターンに分けてご紹介します。
パターン1.差額ベッド代の平均額から考える
前述したように、日本では医療費を軽減する公的医療制度が充実しているので、入院にかかる費用の大半は公的医療制度の範囲内でまかなうことができます。しかし、一部の費用は自己負担となります。
中でも、特に金額がかさむのが、入院時に個室や少人数部屋を希望した場合にかかる差額ベッド代です。厚生労働省の調査1)によれば、差額ベッド代の平均は、1日あたり約6,500円となります。
〈表〉平均的な1日あたりの差額ベッド代(令和2年7月1日現在)
項目 | 金額 |
---|---|
1人部屋 | 8,221円 |
2人部屋 | 3,122円 |
3人部屋 | 2,851円 |
4人部屋 | 2,641円 |
平均 | 6,527円 |
入院した時に個室や少人数部屋を利用したい場合は、自己負担となる差額ベッド代を入院給付金でまかなうと考え、それに見合った金額を設定するのも、ひとつの方法といえるでしょう。
その場合、日額給付金は5,000円から1万円程度に設定するといいでしょう。
パターン2.入院1日あたりの自己負担額の平均から考える
一方、入院1日あたりの自己負担額を基準にするという考え方もあります。生命保険文化センターの「令和元年度 生活保障に関する調査」2)によれば、1日あたりの入院費の自己負担額の平均は2万3,300円となっています。
公的医療制度でまかなえない分を入院給付金で補うとすれば、この金額を基準に設定することもできます。
ただし、日額給付金を高額に設定すると、その分だけ毎月の保険料も高くなってしまいます。一般的に日額給付金を2万円以上に設定する場合、月々支払う保険料が高くなるため、貯えや家計とのバランスを考えましょう。
パターン3.傷病ごとの入院日数と入院費用から考える
親族に糖尿病を患った人がいる場合など、特定の病気による入院の心配がある人もいるでしょう。傷病別の平均入院日数と入院費用の目安は、厚生労働省が公表している「平成29年患者調査の概況」3)と「令和2年社会医療診療行為別統計の概況」4)から、ある程度導き出すことができます。
〈表〉代表的な傷病ごとの平均入院日数と入院費の目安 ※1
傷病名 | 平均入院日数 | 1日あたりの費用 | 入院費 | 自己負担額(3割) |
---|---|---|---|---|
大腸がん(結腸及び直腸の悪性新生物) | 15.7日 | 7万1,994円 | 113万306円 | 33万9,092円 |
乳がん(乳房の悪性新生物) | 11.5日 | 7万5,196円 | 86万4,754円 | 25万9,426円 |
糖尿病 | 33.3日 | 3万3,828円 | 112万6,472円 | 33万7,942円 |
虚血性心疾患 | 8.6日 | 12万8,532円 | 110万5,375円 | 33万1,613円 |
脳梗塞 | 78.3日 | 4万1,112円 | 321万9,070円 | 96万5,721円 |
統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害 | 531.8日 | 1万3,745円 | 730万9.591円 | 219万2,877円 |
気分[感情]障害(躁うつ病を含む) | 113.9日 | 1万7,227円 | 196万2,155円 | 58万8,647円 |
骨折 | 37.2日 | 4万6,355円 | 172万4,406円 | 51万7,322円 |
(番外)新型コロナウイルス感染症※2 | 軽症:10.9日 中等症:15.5日 重症:22.0日 | 軽症:6.1万円 中等症:8.0万円 重症:14.2万円 | 軽症:66.49万円 中等症:124万円 重症:312.4万円 | 医療費は全額公費負担 |
上の表を参照すると、たとえば、糖尿病で入院した人の平均入院日数は約33日で、自己負担額は約34万円となっています。日額給付金が1万円で、支払限度日数が30日だった場合は30万円受け取ることができますから、自己負担額をほぼまかなえることになります。一方、大腸がんの場合の平均入院日数は約16日で、自己負担額は約34万円ですから、日額給付金を1万円に設定すれば、自己負担額の半分程度をまかなうことが可能です。
このように、心配される傷病の種類によって入院給付金を設定する考え方もあります。しかし、この場合も貯えや家計とのバランスを考えることが大切になるでしょう。
入院日数や傷病ごとの入院費の目安を、下記の記事でご紹介しています。併せて参考にしてみましょう。
入院日数は減少傾向。日額タイプだけではなく一時金タイプも検討しよう
日本の医療体制は現在、医療費削減などの観点から、入院日数を短くする方針に変わりつつあります6)。病気やケガの種類にもよりますが、入院して手術と術後の治療のあとは自宅療養にする、1回の入院日数は2週間もない、という場合が多くなっています。
こうした傾向を考えた時、場合によっては日額タイプの入院給付金よりも、1回の入院につき定額を受け取れる一時金タイプの入院給付金のしくみがある医療保険を選んだほうが、トータルで考えると助けになる可能性もあります。
なお、保険金額によりますが、一時金タイプは短期入院に適している一方で、長期入院などでかかる費用をカバーしきれないことがあります。また、医療保険によって、様々な金額設定や条件で契約することができますので、加入を検討する時に相談してみましょう。
どんな病気やケガにも対応している点が、入院給付金の強み
入院給付金の最大のメリットは、傷病の種類を問わず、治療目的で入院すれば設定した保障額を受け取ることができるところです。医療保険を契約する際、様々な特約を組み合わせるのもひとつの方法といえますが、なるべくシンプルにしたいのであれば、入院給付金を手厚くするという選択肢は十分考えられるでしょう。最も納得できる考え方と家計状況に合わせて、入院給付金を設定するようにしましょう。