新年度、または新学期がひと段落するゴールデンウイーク明け頃に、心身の不調をきたした経験がある人は多いと思います。「五月病」という名前で知られているこの不調は、どうして起こるのでしょうか? 精神科専門医、臨床精神神経薬理学専門医である勝久寿(かつ ひさとし)先生の監修による、五月病のしくみや、症状の軽減につながる対処法や予防法を紹介します。

この記事の監修者

勝 久寿(かつ ひさとし)

人形町メンタルクリニック院長。医学博士。精神保健指定医、精神科専門医、臨床精神神経薬理学専門医、日本医師会認定産業医、日本精神科産業医協会・認定会員。著書に『「いつもの不安」を解消するためのお守りノート』。
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そもそも「五月病」とは?

画像: 画像:iStock.com/Yue_

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ゴールデンウイーク明け頃に、仕事や学業に対する不安が高まり、憂うつな気分が強くなったり眠れなくなったりするほか、頭痛やだるさ、吐き気といった身体の不調が出ることで、会社や学校へ行くことが辛くなってしまう状態を、「五月病」という言葉で表現する場合がよくあります。

しかし「五月病」は、実は正式な病名ではありません。元々は、受験戦争を終え大学に入ったものの、緊張から解き放たれた虚脱感や理想と現実とのギャップから目標を失い、無気力に陥った大学生の状態を指す言葉として、1960年代から使われるようになりました。現在では学生だけでなく、就職、転職、異動といった大きな環境の変化によるストレスに適応できない社会人に対して使われるのが、一般的になっています。

五月病は正式な病名ではないと書きましたが、それは五月病が病気ではない、という意味ではありません。具体的な症状からみた場合、いわゆる五月病の多くは「適応障害」と診断される場合が多いのです。そこで、ここでは五月病を一種の適応障害と考え、その原因や対処法や予防法について解説していきます。

五月病(適応障害)の主な症状は?

画像: 画像:iStock.com/RyanKing999

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社会生活を送るうえで、辛い出来事や思い通りにならないことはたくさんあります。そうしたストレスによって、不安が高まったり憂うつな気分になったりすることは、多くの方が経験されたことがあると思います。

適応障害とは、これらの社会生活上におけるストレスに対する反応が強くあらわれることで、仕事や学業、家庭生活が困難な状態になる病気といえます。つまり、誰でも遭遇し得るストレスによって予想以上の精神的ダメージを受け、適応できなくなった状態が適応障害というわけです。

適応障害の主な症状は以下の4つに分類することができます。いわゆる五月病の経験がある人なら、いずれかの症状におぼえがあるのではないでしょうか。

〈表〉五月病(適応障害)の主な症状

不安症状を中心とする状態不安や恐怖感、焦燥感などと、それにともなう動悸、吐き気といった身体症状
うつ症状を中心とする状態憂うつ、絶望感、喪失感、涙もろさ、無気力など
問題行動を中心とする状態勤務怠慢、過剰な飲酒、物や人にあたるなどの年齢や社会的役割に不相応な行動
身体症状を中心とする状態頭痛、倦怠感、腰背部痛、感冒(かぜ)に近い症状、腹痛など

五月病(適応障害)と他の病気を見分ける3つのチェックポイントは?

画像: 画像:iStock.com/Ralf Geithe

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ここで注意していただきたいのが、適応障害でみられる症状の一部は、うつ病やパニック障害といった他の病気にもあてはまることです。つまり症状だけでは、適応障害と他の病気を見分けることが難しいのです。

そこで重要なチェックポイントとなるのが、適応障害ならではの特徴です。上記の症状に悩まされており、さらに下記に挙げたポイントに心当たりがあるようなら、あなたが現在抱えている不調が適応障害によるものという可能性が高くなります。ここでは、いわゆる五月病のシチュエーションにあてはめて、適応障害ならではの特徴を紹介します。

チェック① 環境の変化がストレスの主原因だと考えられる

学生の場合は入学や転校、社会人の場合は就職、転職、異動など、大きな環境の変化が不調を招くストレスの原因(ストレス因子)であるという自覚があるなら、適応障害の可能性が高いといえます。

チェック② 環境の変化が起こってから3カ月以内に症状があらわれた

ストレス因子となる環境の変化が起こってから、間もなく症状があらわれることが、適応障害の典型的な特徴といえます。米国精神医学会が作成した診断基準『精神障害の診断と統計マニュアル』(DSM-5)によると、適応障害と診断するためには、ストレス因子の始まりから3カ月以内に症状が出なければならない、とされています。4月に新年度や新学期を迎えた人なら6月までの間に症状が出た場合に適応障害の可能性が高いといえます。

チェック③ 休日には症状が軽減される場合が多い

ストレス因子から離れることで症状が軽減される場合が多いことも、適応障害の特徴です。たとえば会社がストレス因子となっている場合、会社に行かなくてもよい休日や終業後に、症状が軽減されることが多いようなら、適応障害の可能性が高いといえます。逆に、会社に向かっている時にもっとも強く症状が出ることが多いという人も、適応障害の可能性が高いといえるでしょう。

さらに適応障害の特徴として、ストレスが終結してから6カ月程度で症状が改善する場合が多いことも挙げられます。五月病のシチュエーションにたとえれば、会社や学校での生活に慣れてから半年程度で、症状が解消するということになります。

●コロナ禍と五月病の関係は?

画像: 画像:iStock.com/staticnak1983

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緊急事態宣言が出されるなど、コロナ禍の影響により社会生活にも大きな変化が起こっています。そのなかでも、五月病と関係が深いといえるのがテレワークや、オンライン授業でしょう。

会社や学校の人間関係がストレス因子となる場合の五月病なら、自宅で働いたり学んだりすることでストレス因子を回避できるため、五月病のリスクが軽減されると考えることができます。ただし、再び会社や学校に戻ることに対する不安が病気を招く可能性もある点には注意が必要でしょう。

一方で、テレワークやオンライン授業は、人間関係を築きにくく、わからないことがあっても上司や同僚、先生や同級生に相談しにくいほか、仕事や勉強に対する周囲の評価がわかりにくいため、ストレスを受けやすいというデメリットがあります。また、テレワークやオンライン授業自体も、大きな環境の変化と捉えることができるため、そのストレスから、適応障害やうつ病を引き起こす可能性があります。

五月病を見過ごすと、より深刻な病気になる可能性も

画像: 画像:iStock.com/Kayoko Hayashi

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先ほども書いたように、適応障害でみられる症状の一部は、うつ病やパニック障害など他の病気にもあてはまります。

また、適応障害が重症化することにより、うつ病やアルコール依存症など、別の病気になる可能性がある点にも注意が必要です。たとえば、適応障害からうつ病に発展した場合は、休日や終業後などストレス因子となる会社から離れた状態でも、症状が軽減されなくなるほか、休職や退社でストレス因子から解放されたとしても、治療をしなければ症状が続いてしまいます。

適応障害もきちんとした病気であり、適切な診断と治療を受けることで改善が期待できます。また、うつ病など他の病気の可能性もありますから、上記に挙げた症状や特徴のポイントに心当たりがあるようなら、まずは専門家に相談することを強くおすすめします。

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五月病になりやすい人の特徴は?

画像: 画像:iStock.com/monzenmachi

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五月病を、社会生活における環境の変化がストレス因子となる適応障害の一種と考えた場合、入学や転校、就職、転職、異動を直近に経験した人なら、誰でもリスクがある病気といえます。

特に、以下のような傾向が強い人は、五月病のリスクが高いと考えられるため注意が必要です。

(1)大きな環境の変化に慣れていない人

たとえば過去に何度も転職を経験し、それを乗り越えている人なら、同種のストレスに対してある程度の耐性ができていると考えられます。一方で、新入社員の場合は、会社でのすべてが初めての経験ですから、ストレスを強く感じるのは当然のことといえます。

(2)周囲のサポートを得にくい状況にいる人

会社や学校がストレス因子となる五月病の場合は、仕事や勉強の進め方や、社内や学校における人間関係について相談できる人が周囲にいるかどうかが、症状の強さに影響を及ぼすと考えられます。ストレスの対処法を教えてもらえるだけでなく、周囲(社会)とのつながりを持つこと自体がストレスの軽減につながるからです。

(3)完璧主義の傾向が強い人や、悲観的な性格の人

失敗を許せない完璧主義だったり悲観的な性格の人は、ストレスのもとになるトラブルを上手に処理できなかったり、過大に考えてしまう場合があります。

五月病の改善&予防に役立つ5つのポイント

画像: 画像:iStock.com/recep-bg

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五月病を、会社や学校がストレス因子となる適応障害の一種と考えた場合、症状を軽減させる方法として、まず考えられるのが、休暇を取ってストレス因子である会社や学校から離れることです。しかし、それだけでは根本的な解決にはなりません。何故なら、休暇を取ってもストレス因子が消えてしまうわけではないからです。

もちろん、一時的にストレス因子から離れることは、具体的な症状を軽減するための対症療法として有効です。しかし会社や学校に対するネガティブなイメージが残ったまま休暇を過ごしていると、かえって出社や登校に対する恐怖心が高まり、五月病が改善されないばかりか、場合によっては重症化によって、うつ病など別の病気になる可能性も否定できません。

五月病を改善させる、または予防するためにもっとも大切なのは、病気を引き起こす原因となるストレス因子(五月病の場合は会社や学校)と上手に付き合う術を身につけることです。五月病の改善法、予防法として役立つものを、いくつか紹介しましょう。

ポイント① 会社や学校の悩みを相談できる人を探す

画像: 画像:iStock.com/YinYang

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五月病になりやすい人の特徴として、物事を悲観的に捉える傾向が強いことが挙げられます。そういう人が会社や学校の悩みをひとりで抱え込んでしまうと、ネガティブなイメージを増幅させてしまいがちなので、日頃から悩みを相談できる相手を探しておくと良いでしょう。

上司や先生など直接的な関係者に相談しサポートを受けることができればベストですが、家族や友人にグチをこぼしてみるだけでもストレス軽減につながります。

もし、悩みを相談できる人が周囲にいない場合は、まず自分自身を相談相手と仮定し、現在抱えている悩みを紙に書きだし整理した後で、自分ならどうアドバイスをするか考えてみると良いでしょう。自分の悩みを客観視することも、ストレスの軽減や解決策の発見につながります。

ポイント② 自分の悩みや困りごとを人に伝える習慣を身につける

画像: 画像:iStock.com/itakayuki

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会社や学校の悩みを相談できる人を見つけることが、五月病改善や予防で特に有効な対策ですが、他人に頼りにくい性格の人も多いと思います。

そこでおすすめしたいのが、自己主張を苦手とする人に向けたカウンセリング手法のひとつである「アサーショントレーニング」です。相手に不快な思いをさせずに、会社や学校で自分の悩みや気持ちを素直に表現できるようになれば、ストレスの軽減につながるでしょう。

自己表現が苦手という自覚がある人は、手順を記した解説書を参照したり、実践法を教えてくれるセミナーに参加するなど、アサーショントレーニングについて学んでみてはいかがでしょうか。

ポイント③ 会社や学校の「良いところ」を探す習慣を身につける

画像1: 画像:iStock.com/chee gin tan

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悲観的な性格だったり、失敗を許せない完璧主義の傾向が強かったりする人は、嫌な出来事や失敗が強く記憶に残りがちです。しかし多くの場合、会社や学校での生活は、嫌な出来事や失敗ばかりではありません。そうした良いところを積極的に記憶に留めておけば、五月病のもとになるネガティブなイメージを和らげることができます。

手軽な「良いところ」探しの方法として、おすすめしたいのがポジティブ心理学の第一人者であるセリグマン博士が開発した「スリー・グッド・シングス」です。

手順は簡単で、要点としては毎晩寝る前に今日起こった「良いこと」を3つ思い出し、それが起きた理由と一緒に書くだけ。これを毎晩続けることで、ポジティブな方向に気持ちを変える効果が期待できるとされています。

ポイント④ 趣味の集まりなど、会社や学校以外の居場所を持つ

画像2: 画像:iStock.com/chee gin tan

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会社や学校での生活は、人生の大きな柱になるものですが、人生を支える柱はひとつだけではありません。

家族や友人との関係や趣味の集まりなど、人生を支える柱を増やしておけば、会社や学校という柱が揺らいでも、対処することが可能になります。様々な人とつながることができる居場所を複数持つことを心がけましょう。

また、自分だけの居場所として、会社や学校のストレスを一時的でも忘れることができる趣味を持つことも、五月病の改善や予防に役立ちます。

ポイント⑤ 適度な運動やバランスの良い食事を心がける

画像: 画像:iStock.com/kuppa_rock

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バランスの良い食事適度な運動により健康を維持することで、ストレスに対する耐性は高まります。逆にいえば、食生活の乱れや運動不足が、五月病を招く原因にもなりかねないので、日頃の生活習慣にも注意しましょう。

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病院で受けられる五月病の治療の内容は?

画像: 画像:iStock.com/bymuratdeniz

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適応障害の一種と考えられる五月病の治療は、最終的に患者さんがストレスに適応し、会社や学校で活動できるようになることを目的に行われます。

具体的にはカウンセリングなどを通じ、病気を引き起こすストレスの原因を特定したうえで、周囲からのサポートを促すことを含め、ストレスに適応するための方法を一緒に考え、対策を指導していくことになります。

カウンセリングなどのほかに、現在の苦痛を和らげるための対症療法として、不安や不眠を軽減するための薬を処方する場合もありますが、その目的は、苦痛を和らげることでストレスに立ち向かうためのサポートが主となります。

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ストレスの原因と正しく向き合い、五月病を克服しましょう

画像: 画像:iStock.com/show999

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五月病でもっとも注意すべきは、会社や学校などのストレス因子を回避し続けることにより余計にストレスが大きくなって、五月病が重症化し、うつ病やアルコール依存症など別の病気になってしまうことです。また、問題となっているストレスへの対処法を身につけない限り、五月病(適応障害)が慢性化する恐れもあります。

ストレスに立ち向かうのは簡単なことではありませんし、時間がかかるかもしれませんが、周囲や医師のサポートを受ければ克服も十分可能です。ひとりで悩まず、ぜひ誰かに相談してみることをおすすめします。

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