安静にすることもひとつの対策ですが、できるだけ早くめまいから解放される方法を知りたい方も多いことでしょう。そこで、めまい専門医である横浜市立みなと赤十字病院の新井先生監修のもと、めまいが起こるメカニズムから、良性発作性頭位めまい症ならではの特徴、そして症状が出た時の対処法までを詳しく紹介します。
めまいが起こるメカニズムとは?
めまいの対処法を紹介する前に、そもそもどうしてめまいが起こってしまうのか、めまいの原因となる部位とそのメカニズムを解説します。
めまいの70%に関係しているのが、内耳です1)。よく脳を心配される患者さんもいますが、救急外来を受診するような激しいめまいであっても、脳が関係しているものは全体の5%以下しかありません1)。
耳を原因とするめまいのなかで最も多い病気は、「良性発作性頭位めまい症」というものです。この病気はめまいの症状を引き起こす病気のなかでも世界中で最も多く、耳が関係するめまいを100%とすると、およそ40%が良性発作性頭位めまい症にあたると言われています2)。
日本では、元サッカー日本代表の澤穂希さんが発症したことで有名になりました。症状が起こりやすい年齢としては50~60歳、女性の方が男性よりも2倍ほど発生率が高いと言われています3)。
〈図〉めまいに関係している「内耳」
良性発作性頭位めまい症の原因は、内耳の耳石器にある耳石が剥がれ、三半規管に入ってしまうことです。耳石の大きさは直径0.01mm、1万粒ほどの数が耳のなかにあります。
通常この耳石は、耳石器の一部の耳石膜という膜の上で動いていますが、何らかの影響で、1万粒ほどある耳石のうち100粒以上が耳石膜から離れ、三半規管に入り込んでしまうことがあるのです。三半規管に入り込んでしまった耳石は、耳石塊と呼ばれる塊になります。
〈図〉めまいのメカニズム
耳石が入り込んでしまう三半規管とは、①耳石器から見て上向きの“前半規管”、②中央の“外側半規管”、③下向きの“後半規管”という3つの輪からなる器官のことです。
三半規管のなかはリンパ液で満たされており、振り向くなどの回転系の加速度をリンパ液が感知することで、私たちの体のバランスを取っています。
しかし、三半規管に耳石が入り、耳石の塊となってしまうと、リンパ液の流れが乱れ、脳に誤った情報が伝わってしまいます。これが、めまいが起こるメカニズムです。
なお、耳石は中高年の方であれば年齢変化の受けやすい後半規管に、年齢が比較的若い方であれば外側半規管に入ってしまうことが多いです。
参考資料
1)内藤 泰『めまいを見分ける、治療する』中山書店、2012、P3
2)日本めまい平衡医学会診断基準化委員会編『良性発作性頭位めまい症診療ガイドライン(医師用)』Equilibrium Research 68: 218-225, 2009
3)『耳鼻咽喉科診療プラクティス 6 EBMに基づくめまいの診断と治療』文光堂、2001、P38-39
めまいの原因になる病気の種類
病気の種類①良性発作性頭位めまい症
20年前は、めまいの原因の病気としてメニエール病が有名でしたが、現在は「耳が原因のめまいといえば、良性発作性頭位めまい症」というほど、この病気は増えています。そのため、めまいが起きたら、まずは良性発作性頭位めまい症を疑いましょう。
病気の種類②メニエール病
そのうえでメニエール病を疑う場合は、めまい以外の症状の有無を確認しましょう。メニエール病の場合、症状はめまいだけではありません。耳鳴り・難聴も起きているのであれば、メニエール病の可能性があります。メニエール病は、めまいとともに難聴・耳鳴りが連動して悪化します。
耳に関係するめまいのうち10%程度の患者数を占めるメニエール病ですが4、5)、最近は「耳のストレス病」とも言われるようになりました。私たちの耳は、実は非常に繊細な器官です。ストレスで心が壊れてしまうとうつになりますが、心が壊れないように踏ん張れていても、耐え切れずに壊れてしまうのが耳なのです。まさに“耳のうつ”と言えるのが、メニエールです。その呼び名の通り、メニエール病は耳の治療だけでは治らず、心のケアも必要になります。
参考資料
4)『耳鼻咽喉科診療プラクティス EBMに基づくめまいの診断と治療』文光堂、2001、2-3頁
5)『メニエール病診療ガイドライン2011年度版』金原出版、2011、P71
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病気の種類③自律神経失調症
また、自律神経失調症の症状のひとつとしてめまいを訴える方もいらっしゃいます。自律神経失調症は、自律神経のバランスが乱れることで様々な症状が現れる病気ですが、主観的な苦痛などを訴える一方、明らかな身体的な原因が見られない方に言い渡されることの多い病名でもあります。
しかし中には、良性発作性頭位めまい症の軽いタイプやめまいが軽快してもわずかにふらつきが残るタイプ、メニエール病の軽いタイプは自律神経の不調を合併する場合もよくあるのです。また、自律神経失調症はうつ病との関連性が深く、症状が悪化するとうつ病になってしまう可能性があります。
自律神経失調症と診断された方のなかには、他の病気が隠れていることもあるので、めまいの症状がある方は、めまいの専門医を受診する方が良いかもしれません。
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病気の種類④前庭性片頭痛
めまいのなかには内耳ではなく、前庭性片頭痛と呼ばれる片頭痛が関係するめまいもあります。こちらも、良性発作性頭位めまい症と同じく、女性に多い症状です。
片頭痛もちの方には、ご自身の母親が重い頭痛で寝込んだり、吐いたりしていた方や、中学・高校時代に頭痛が原因で頻繁に保健室に行っていた方も多いはずです。このような方々が30代の中頃になると、激しいめまいに見舞われる傾向にあります。
耳の聞こえ方には問題がないものの、頭痛が頻繁に起こり、光が眩しい、匂いに敏感だったなどの症状が若い頃からある方は、前庭性片頭痛の可能性があります。
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めまいが起こった時、すぐにするべき対処法
めまいをすぐに治す方法はあるの?
めまいに悩まされている方は、いち早くこの症状から抜け出したいと思っている方がほとんどのことでしょう。しかし、残念ながら、専門医を受診する前の段階では、めまいをすぐに治す方法はありません。
じつは良性発作性頭位めまい症の場合、三半規管に入った耳石を元へ戻す運動は存在します。専門家であればどの三半規管に耳石が入っているか、目の動きで分かり、位置が把握できた後は、耳石を正しい位置に戻すためのトレーニングなどの処置を行えます。
これによりめまいを取り除くこともできるのですが、原因が明確ではない状態(耳石がどこに入ったかわからない状態)で行うと、悪化する危険性があるので、推奨できません。
ただし、良性発作性頭位めまい症の場合、つらいでしょうがトレーニングをして、頭を動かした時に生じるめまいに強くなることは必要です。これがめまいをなくすための一番の近道だと言えるでしょう(めまいのトレーニングは後述します)。
(1)激しいめまいが起こった時の対処法
もし激しいめまいに襲われ、ぐるぐると目が回って吐いてしまうような時には、安静にする以外に方法はありません。吐瀉物が気管に入らないようにするため、顔を横に向けて休んでください。
この時、左右どちらかの耳を下にした方が、気分が楽になる側があります。その理由は、耳石器は重力のセンサーですから、悪い耳を下にすると重力刺激を受けてめまい症状が強くなります。悪い方の耳を上にすることで、重力刺激が緩和され、少しめまいと気分が楽になるはずです。
〈図〉激しいめまいが起こった時の寝方
もし30分経過しても状態が良くならなかったら、救急病院に行きましょう。点滴を打ってもらう、脳の検査をしてもらうなどしつつ、医師に病状を判断してもらってください。
(2)めまいが続く・慢性的に起こる場合の対処法
慢性的にめまいが起こる場合、まずは専門医を受診しましょう。「めまいは治らない」と考えている方が多いですが、積極的に治療を行えば治すことが可能な症状です。めまいは寝ていては治りません。「訓練・トレーニングで治るということを知る」「知識を得る」ということから始めましょう。
最近は新型コロナウイルス感染症の影響でステイホームが推奨されていますが、めまいの症状がある方の場合、安静を優先すると寝る時間が増えてしまいます。
寝る時間が増えると、お年寄りは特に顕著に筋肉低下を招きます。また、30歳を過ぎると徐々に筋肉が減っていき、60歳を超えるとさらに筋肉が減っていく傾向にあります。筋力が落ちると、今度は自分を支える柱が弱くなり、余計にふらつきやすくなってしまうのです。
「平衡機能が落ちる」→「安静にする時間が増える」→「筋力が落ちる」→「平衡機能が落ちる」というように悪い循環になってしまうので、できるだけ早めに専門医にかかり、寝たきりのような状態は絶対に避けるようにしましょう。
(3)めまいが増悪したり、病院に行けない場合の対処法
めまいが増悪し、すぐに病院には行けないような場合は、トラベルミンなどの酔い止め・吐き気止め薬を所持しておき、めまいが起こりそうだと思ったら飲んでください。かかりつけの医師がいる場合には、処方してもらうと良いでしょう。
めまいに訓練が効く理由・改善&予防トレーニング法
なぜ、めまいをトレーニングで治すことができるの?
上述しましたが、めまいはトレーニングをすることで改善し、治すことができます。しかし、なぜめまいにトレーニングが有効なのかでしょうか? その理由を説明するのに分かりやすい例がフィギュアスケートです。
フィギュアスケーターの方々の演技を見て、「よくあんなに回っていられるな」と思う方も多いことでしょう。実はフィギュアスケーターの方々も、最初から平気で回転できるようになったわけではありません。体を回転させると、必ずめまいは起こるからです。
じつは回転している時には、スケーターの方々もめまいがしています。しかし、回転が止まった時に、回転を打ち消すブレーキが働き、めまいが起こらないようにしています。このようなめまいを打ち消すためのシステムを、トレーニングで獲得しているのです。
トレーニングで鍛えるのは「小脳」
では、人間の体のどのパーツが、めまいを打ち消す力を獲得できるのでしょうか。その答えは「小脳」です。
人間の平衡機能は、「目」から入る視刺激、体の回転(三半規管)や傾き(耳石器)などを感知する前庭刺激、体の位置や動きなどを「足の裏」で感じ取る深部感覚刺激という3つの情報が「小脳」に集約されて保たれています。
しかし、生活習慣や交通事故での刺激などが原因で、バランス感覚が取りにくくなってしまうこともあるのです。これがめまいやふらつきの原因になります。
ただし、これは不可逆的なものではなく、機能が落ちてしまってバランスが悪くなったとしても、もととなる小脳の働きが良くなれば、めまいは治せます。そのためにも小脳を鍛え、バランスを取る力をあげることが有効なのです。
めまいを治す「小脳のトレーニング」のやり方
今回は、内耳を刺激して小脳を鍛える、最も有名な訓練を紹介します。良性発作性頭位めまい症・高齢のめまい・片頭痛のめまいといったすべてに効くトレーニングなので、ぜひ実践してください。
〈図〉小脳トレーニング
このトレーニングのポイントは、目線が爪から離れないようにすることです。なかには頭を振った時に目線が爪から離れやすい、または見にくい側があることに気付く方もいることでしょう。その場合、離れやすい・見にくい側の内耳の機能が落ちています。
このトレーニングを行ってみて、クラッとする方は、めまいがあるか、これからめまいが発症する予備軍の方です。なかにはクラッとすることでトレーニングを止めてしまう方もいますが、クラッとするからこそ実践しましょう。
何度も繰り返していくうちにめまいがしなくなるので、日々トレーニングに取り組んでめまいの対策をしてください。
日常生活で気をつけたい、めまいの予防・改善方法
日常生活でめまいが悪化する1番の原因は、睡眠不足です。内耳は、髪の毛1本ほどの細い血管によって栄養が届けられています。疲労の蓄積や睡眠不足で、血のめぐりを悪化させてしまうと、内耳に影響を及ぼします。
自身で予防できる最たる方法は、寝不足を回避することです。また、ストレスもめまいの原因のひとつなので、ストレスが多い時には、自分なりの解消法を見つけることも重要です。
また、良性発作性頭位めまい症でめまいが起こっている方の場合、耳石が離れている方が多いため、枕を高くする・上半身を高くして就寝するのも予防法のひとつです。
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食事の面でいえば、サーモン・卵などを代表としたカルシウム・ビタミンD・ビタミンKを含まれている食品の摂取がおすすめです。骨は炭酸カルシウムを多く含んでいますが、骨密度が低い方のほうが、耳石が剥がれやすい・めまいが再発しやすいという報告も出ています7)。骨密度にも良く、耳石の観点でも良い、骨粗鬆症予防になる食品を取りましょう。
参考文献
7)山中敏秋、他「BPPVと骨粗しょう症の臨床的関係」Equilibrium Research 71: 33-9, 2012
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めまいを本格的に治したい時に行うべきこと
受診するなら、脳神経外科? 耳鼻科?
めまいの90%は内耳が関係しているので、専門は耳鼻科になります。ただし、「脳になにか起きているのではないか」と不安になる方も多いでしょうから、まずは脳に問題ないことを確認するために、脳神経外科などを受診してもいいでしょう。
近隣の病院でCT・MRIを撮り、脳が関係していないことを確認してから、耳鼻科に薬などをもらいにいきましょう。もし耳鼻科での治療でなかなか治らないという方は、めまいを専門にしている専門医・相談医を受診してください。
めまい専門医での診断・問診の流れ
脳に問題がないと分かっている方の場合は、まず下記の流れで診察・検査を行います(全ての専門医がこのような流れとは限りません。あくまで一例としてご覧ください)。
〈表〉めまい専門医での診察・検査の流れ
1)問診 |
2)聞こえの検査 |
3)ふらつきの検査(重心動揺) |
4)眼振 |
上記の結果からメニエール病か、加齢性のふらつきがあるか、脳のふらつきがないかなどを確認して、良性発作性頭位めまい症であれば、耳石の問題であること、どこに耳石があるかを確定していきます。
耳石が三半規管にあまり入っておらず、ふらつきが少ない方には、薬を使い治療を進めていきます。軽い症状の方に薬を使用する理由は、現状ではめまいを緩和するトレーニングの指導に保険が適用できないからです。薬で治らない方、薬物抵抗性のある方には、トレーニングを実施するという流れになります。
アメリカではめまいのトレーニングは標準治療のひとつとして取り入れられていますが、日本ではめまいのトレーニング施設が徐々に増えている段階です。めまいのトレーニングを専門家のもとでできる機会が多くないからこそ、自分でトレーニングをすることが特に重要なのです。
めまいは寝てては治らない。専門家の診断で正しい治療を
めまいがなかなか治らなかったり、慢性的に発症してしまったりして「つらい」「治らない」と言葉にしてしまう方も多いことでしょう。しかし、めまいも、ふらつきも、寝ていては治りません。まずは治療法があること、リハビリがあることを知っていただきたいと思います。