この記事では、アレックス脊椎クリニックの吉原潔院長に、正しい姿勢のチェックポイントやおうちで簡単にできる姿勢改善トレーニングを教えてもらいました。さっそく今日から始めて、美しい姿勢を手に入れましょう!
この記事の監修者
吉原 潔
アレックス脊椎クリニック・院長。
脊椎外科医であり、フィットネストレーナーであるダブルライセンスの医師。日本でまだ数少ない脊椎内視鏡手術技術認定医の資格を有し「小さな傷での内視鏡手術」を得意とする一方で、「本格的な運動療法の指導」も行う。病人からプロスポーツレベルまで治療対応を行なっている。著書に『腰の痛い人が読む本(エイ出版社)』『脊柱管狭窄症 自力克服大全(わかさ出版)』など。
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なぜ「姿勢を良くすること」がいいの?
歪んだ姿勢だと“無駄な負荷”がかかる
まずは、姿勢が歪むことがなぜ良くないのか、その理由を見ていきましょう。簡単に言うと、歪んだ姿勢でいると肩こりや腰痛などの体の不調を来たしてしまうからです。また、このような不調の原因は、「使わなくていい力を使ってしまう」ことにあります。
例えば、1本の柱がまっすぐ立っていれば、倒れる心配はありません。しかし、柱が斜めになっていたら、倒れないように支える必要があります。
人間の体も同じで、「まっすぐ立っていない」状態が続くと、それを支えようとして全身に無駄な力がかかってしまいます。
背すじを曲げたまま長時間デスクワークをしたり、首が前に倒れるような体勢でスマホを触ったりするのは、「まっすぐ立っていない」状態です。そのため、そのような状況が続くと疲れやすくなり、負荷がかかりやすい首や肩、腰などに痛みが生じてしまいます。
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体の力を抜くと背すじは曲がる
では、なぜ使わなくてもいい力を使ってまで、歪んだ姿勢で過ごしてしまうのでしょうか?
その理由は、「体の力を抜くと背すじが曲がるから」です。ソファに座ってくつろぐ時の、背もたれによりかかるように座る姿勢を思い浮かべてみてください。
背中はカーブを描き、首はまっすぐに伸びます。まさに、猫背でストレートネック(首が伸び切って前に倒れている)の状態です。力を抜いてリラックスする姿勢だと、かえって首や背中に余計な負荷がかかるのです。
しかし、体の力を抜いてリラックスすることも健康には欠かせない要素です。体の力を抜くことが悪いわけではありません。大切なのは、このような姿勢をとり続けすぎないことです。こまめに体勢を変え、背すじを伸ばすことを意識することが、姿勢を良くする第一歩です。
自分の姿勢はいい?悪い?セルフチェック
正しい姿勢を手に入れる前に、現在の姿勢をチェックしてみましょう。自分では背すじが伸びていると思っていても、実際は猫背気味だったりするものです。
(1)壁際に立って「ストレートネック」チェック
(2)イスに座って「巻き肩」チェック
座った時、次の写真のように肩が丸まってしまう人は、巻き肩の兆候があります。自分では確認しづらいので、人に写真を撮ってもらうと、判断しやすくなります。
横から見ると、このような姿勢です。巻き肩の場合、腕が自然と内側に入り込みます。
(3)体が左右にズレていたら医療機関へ
まっすぐ立ってみて、片方の肩が上がっていたり、首が左右どちらかに傾いていたりする場合は、骨格に問題がある可能性があります。背骨が曲がる「側弯症」などの恐れもあるので、ひどい場合は医療機関の受診を検討しましょう。
体に覚えさせたい基本の「立ち方」「歩き方」「座り方」
ここからは、良い姿勢の基本となる「立ち方」「歩き方」「座り方」を紹介します。
(1)ピンと胸を張る「立ち方」
まずは、すべての姿勢の基本となる「立ち方」です。
姿勢チェックと同じように、壁に背中をつけて立ちます。頭のてっぺんから糸でつられているような感覚で、立ってみましょう。この時に、後頭部、肩甲骨、おしり、(可能であればふくらはぎ)、かかとを壁につけた状態が正しい立ち方です。
肩を下げ、手はズボンのサイドの線の位置に保ちます。また、おしりを壁につけたまま股間を前に出すことを意識しましょう。すると、骨盤が立つ状態が確保でき正しい立ち方となります。腰と壁の間に手のひら1枚分くらいの隙間を空けられると、見栄えも美しくなります。
この姿勢を、1日5分を目安にとってみましょう。最初はきついかもしれませんが、徐々に筋肉が鍛えられて、壁がなくても基本の立ち方で立てるようになります。
また、巻き肩の人は肩甲骨を壁につけると、肩が前方に突き出てしまいます。そんな時は、手の甲を壁につけることで正しい姿勢を取りやすくなります。
(2)脚をまっすぐ前に出す「歩き方」
「歩き方」は、基本の立ち方の応用です。
背すじを伸ばして立った状態で体を少し前傾させると、体を支えるために片方の脚がまっすぐ前に出ます。この動作こそ、基本の歩き方です。
下駄の鼻緒の位置(親指と人差し指の間)を進行方向に向けて足を踏み出すように意識します。
足をつく時には、同じく鼻緒の位置に重心をかけて地面を踏みしめるようにすると、体が安定します。また、膝を曲げずに脚がまっすぐ前に出るように足を運ぶことも大切です。さらに、胸を張って、腕は後ろに大きく振るように意識しましょう。
「歩き方」は普段の生活の中で「姿勢が悪くなっているな」と気づいた時に、意識するようにしましょう。そうすれば、そのうちに意識しなくても正しい歩き方ができるようになっていくはずです。特に、ガニ股や内股は姿勢が歪む原因になってしまうため、この「正しい歩き方」を積極的に取り入れてみてください。
(3)背もたれに頼らない「座り方」
「座り方」も基本の立ち方と同様に、後頭部からおしりまでの一直線を意識しましょう。深く腰掛けて、ひざは直角に曲げ、背もたれに寄りかからずに座った状態が、基本の形です。解剖学的には手のひらを上に向けた状態が自然で、巻き肩(画像参照)を防ぎます。
基本の座り方ができると、下の写真のように、肩のラインが一直線になります。
慣れないうちは、背中と背もたれの間にタオルや薄いクッションを挟むと、姿勢を保ちやすくなります。おしりの後ろの方にタオルを置き、少し高くして座る方法でも、同様の効果が得られますよ。
おしりを突き出す「物の持ち上げ方」の基本
「立ち方」「歩き方」「座り方」のほかに、普段の生活の中で意識したい動きが「物の持ち上げ方」です。腰への負担を軽減できるので、仕事や引っ越しなどで物を持ち上げることがある場面では、是非意識してみてください。
前かがみの姿勢で腰を丸くして、猫背で物を持ち上げる人が多いと思いますが、正しい姿勢は腰を曲げるのではなく股関節とひざを曲げるのです。
背すじを伸ばして立った状態から、背中を丸めないようにしておしりだけを後ろに突き出し、股関節とひざを曲げた姿勢が、基本の持ち上げ方。腰を守るだけでなく、頭とおしりの重さが釣り合ってバランスがとれるため、重い物も安定して持ち上げられます。
うまくできない場合は、ひざの後ろにイスの座面を当て、イスに座るイメージでおしりを突き出す練習をしましょう。
姿勢改善に効果あり!お役立ちグッズ3選
基本の「立ち方」「歩き方」「座り方」を意識するためには、グッズをうまく活用するのもひとつの手段です。グッズを取り入れるだけで姿勢が良くなる!というものではなく、あくまで「正しい姿勢を意識する」ためのものであることを忘れず、上手に使っていきましょう。
(1)またいで座るだけで姿勢が良くなるイス
変わった形状のアーユル・チェアーは、基本の座り方に導いてくれる椅子です。足を開き、深く腰掛けることで骨盤が立ち、背すじが伸びやすくなり、肩こりや腰痛の軽減にもつながります。
アーユル・チェアー キャスタータイプ【オクトパス】/アーユル・チェアー ジャパン
48,000円(税抜)
(2)場所をとらない万能筋トレグッズ
筋トレの幅を広げてくれるセラバンドは、握力が弱い人でも握りやすく、すべりにくい素材のゴムバンドです。うまく活用して背筋を鍛えると、美しい姿勢を保ちやすくなります。詳しい筋トレ方法は、この後ご紹介します。
セラバンド ブリスターパックグリーン/D&M
2,100円(税抜)
(3)安定感を高める5本指ソックス&シューズ
足の指を意識するだけでも、立った時、歩いた時の安定感が増します。5本指ソックスやシューズは指を1本ずつ動かしやすくなり、足の力が強まるのでおすすめです。
TOE SOXシリーズ/ToeSox Japan
2,000円(税抜)〜
VibramFiveFingers/Barefootinc Japan
15,800円(税抜)
毎日少しずつ続けたい!正しい姿勢を保つ4つの筋トレ
正しい「立ち方」「歩き方」「座り方」をやってみて、姿勢をキープするのが意外と難しい!と思った方も多いのではないでしょうか。実は、美しい姿勢を保つには、筋力が不可欠なのです。
悪い姿勢を続けると「骨」が固まってしまい、ストレートネックや巻き肩になると思ってしまいがちですが、実際に姿勢に大きな影響を及ぼしているのは「筋肉」です。ストレートネックは首の後ろ側の筋肉、巻き肩は背中の筋肉が伸び切ってしまっているために生じます。
背すじを伸ばした状態が保てない人は、必要な筋肉が足りていないと考えられます。正しい姿勢を手に入れるには、ある程度のトレーニングが欠かせません。必要な筋肉をつけることができれば、疲れにくくなり、肩こりや腰痛の改善にもつながります。
ここからは、正しい姿勢を保つための筋トレを紹介します。
(1)小指の筋トレで安定感UP
基本の立ち方、歩き方のベースは足にあります。ほとんどの人は下駄の鼻緒の部分とかかとの二点で体を支えているため、体が左右にブレて、立位や歩行が安定しません。姿勢を安定させるポイントは、小指の筋力を鍛えることです。体重を鼻緒の部分、かかと、小指の三点で支えると、ぐっと安定感が増します。
小指の筋トレは簡単です。足を床につけた状態で、グーを作るように小指に力を入れ、パーに戻す。この動きを、10~15回くり返しましょう。立っていても座っていてもOKです。
(2)筋トレグッズ活用で背筋強化
背すじを伸ばして胸を張るには、背筋が必要です。背筋を鍛える引っ張る動作は、日常生活ではあまりない動きなので、筋トレで補っていくことが重要です。
おすすめグッズで紹介したセラバンドを柱に引っ掛け、立てひざの状態から両手で引っ張ると、背筋が鍛えられます。胸を張ってあごを引き、肩を上げずにひじを後ろに引くイメージで行いましょう。3秒で引き、2秒キープして、3秒で戻すトレーニングを、1日10回程度行ってください。
(3)大腰筋(腸腰筋)を使って10秒間足上げ
猫背の原因の1つに、大腰筋(腸腰筋)が縮こまってしまうことが挙げられます。この筋肉を鍛えることで、背すじを伸ばした姿勢を保ちやすくなります。
イスに浅めに腰をかけ、ひざを曲げた状態で、足をできる限り上げて10秒キープします。大腰筋(腸腰筋)が鍛えられます。
上半身が後ろに傾いてしまう場合は、両手でイスを持ち、上半身をまっすぐに保ちましょう。
このトレーニングは、足を持ち上げた状態で10秒キープするのを1セットとし、1日3セットを目安に行うと良いでしょう。
(4)毎朝したい骨盤エクササイズ
基本の立ち姿勢から、背すじを伸ばしたまま、ひざを曲げずにおしりを後ろに突き出す動き「グッドモーニングエクササイズ」もおすすめです。
朝行うことで骨盤の動きが良くなり、脚の後ろ側にあるハムストリングスという筋肉が伸びるので、立っている姿勢が楽に感じられるようになります。手を後ろに組み、多少反動をつけてもOKです。
この動きは15回を1セットとして、1日に3セットを目安に行いましょう。
楽しみながら姿勢改善。姿勢を良くする習い事
姿勢を良くするためには、習い事を取り入れるのもおすすめです。楽しみながら続けられるものを見つけて、チャレンジしてみてはいかがでしょうか。
〈表〉おすすめの習い事と費用の目安
習い事 | 費用の目安 |
---|---|
パーソナルトレーナーによる ジムトレーニング | 1,000円程度~/1回 |
バレエ | 【入会金】0円~10,000円程度 【月謝】5000円~10,000円程度 |
フラ | 【入会金】0円~5,000円程度 【月謝】2,000円~10,000円程度 |
太極拳 | 【入会金】0円~5,000円程度 【月謝】0円~5,000円程度 |
それぞれの習い事について、詳しく見ていきましょう。
(1)ジムトレーニングはトレーナーに教えてもらうところから
ジムで筋トレを行う場合は、独学で始めるのではなく、最初はパーソナルトレーナーについてもらうといいでしょう。見よう見まねで行うよりも、運動のポイントを専門家に教えてもらう方が、早く適切なトレーニングを習得できます。
一般的に料金は10分1,000円程度ですが、保有資格やトレーナーの知名度によって変わることもあります。1回から体験できる場合も多いので、相性を見ながら選んでみましょう。
(2)年齢問わずできるダンスや太極拳もおすすめ
つま先立ちや片足立ちをすることの多いバレエは、足の力が強くなるため、姿勢の改善につながり、腰痛予防にもいいといわれています。ちなみに、バレエ教室でのレッスンは、ひと月10,000円程度が相場で、そのほかに入会金などがかかる場合もあるでしょう。
基本の姿勢を保つには骨盤が正しい位置におさまっていることも重要なので、脚を使って骨盤を動かすフラもおすすめです。フラ教室も入会金などがかかり、ひと月10,000円程度が相場となっています。地域のカルチャースクール等で受けられる安価なレッスンも多いので、自分が住んでいる地域のスクールを調べてみましょう。
ゆっくりとした動きで、体を安定させながら足腰の筋力を鍛える太極拳も、良い姿勢を保つのに良いでしょう。ただし、正しいフォームで行わないと、かえって痛みが出てしまうことがあるので、最初は教室で習うことが大切です。レッスン料の相場はひと月5,000円程度です。
「正しい姿勢」は1日にして成らず
「姿勢を良くしたい」と思ったら、意識を変えることが最も重要です。ダイエットと同様に、正しい姿勢もラクして手に入るものではないからです。
できるだけ普段から姿勢を意識し、気になった時に背すじを伸ばし、トレーニングも継続して筋力をつけていく。その積み重ねを継続していくことで、健康かつ美しい姿勢で過ごせるようになることでしょう。