この記事では、ファイナンシャルプランナーの原絢子さん監修のもと、扶養控除のしくみや控除される金額、配偶者控除との違いについて解説します。また、扶養控除を受ける時の注意点などについてもご紹介。2023年1月から変更となった、国外居住親族の扶養控除の要件についても触れているので、参考にしてみてください。
この記事の監修者
原 絢子(はら あやこ)
FPサテライト株式会社 所属ファイナンシャルプランナー。大学卒業後、翻訳・編集業務に従事。金融とは無縁のキャリアを積んできたが、結婚・出産を機にお金の知識を身につけることの大切さを実感。以来、ファイナンシャルプランナーとして活動を始める。モットーは「自分のお金を他人任せにしない」。執筆・監修、セミナー講師などを通して、マネーリテラシーの重要性を精力的に発信している。
扶養控除は所得控除の一種
所得税や住民税を計算する際には、納税者の家族構成などの事情に応じて、一定額を課税所得から差し引ける「所得控除」というしくみがあります。扶養控除はこの所得控除の一種で、扶養控除の対象となる親族(控除対象扶養親族)がいる場合に、一定額の控除を受けられます。
扶養控除を受けると、税額を計算する際にベースとなる「課税所得」を減らすことができ、納めるべき所得税・住民税の金額が少なくなります。
扶養控除の対象となる親族は、控除を受ける年の12月31日の時点で、つぎの5つの条件にすべて当てはまる人です1)。
- 16歳以上である(なお、16歳未満の子どもは、扶養控除ではなく「児童手当」の対象)
- 配偶者以外の親族(6親等内の親族および3親等内の姻族)または里子など
- 納税者と生計を同一にしている
- 年間の合計所得金額が48万円以下(給与収入103万円以下)
- 青色申告者の事業専従者給与を受けていない、または白色申告者の事業専従者でない
たとえば、生計を同一にしている(同居している、あるいは生活費などの仕送りをしている)16歳以上の子どもがいて、その子どものアルバイト収入が103万円以下の場合は、扶養控除の対象となります。収入などの要件を満たす親がいる場合も同様です。一方で、配偶者は扶養控除の対象にはなりません。
参考資料
扶養控除の金額は?
扶養控除の金額は、扶養親族の年齢や同居の有無などによって異なります。また、所得税と住民税でも、控除額が異なります。
〈表〉所得税および住民税の扶養控除額
年齢 | 区分 | 所得税の控除額 | 住民税の控除額 |
---|---|---|---|
16歳以上 | 一般の控除対象扶養親族 | 38万円 | 33万円 |
19歳以上23歳未満 | 特定扶養親族 | 63万円 | 45万円 |
70歳以上 | 老人扶養親族 (同居老親など) | 58万円 | 45万円 |
老人扶養親族 (同居老親等以外の人) | 48万円 | 38万円 |
19歳~22歳が「特定扶養親族」として控除額が大きくなっているのは、この年齢は専門学校や大学などでお金がかかる時期であることを配慮したものです。
同居老親等の「同居」については、病気の治療のため入院していてその期間が長期にわたっても、住民票の住所が同じである場合は同居とみなされます。一方で、老人ホームなどに入所している場合は、同居しているとはいえません。
また、扶養控除の適用人数に制限はありません。たとえば、納税者に子どもが2人(16歳と20歳)いて、78歳の母親とも同居している場合、所得税の扶養控除額は、38万円(16歳の子ども)+63万円(20歳の子ども)+58万円(78歳の母親)=159万円となります。
配偶者控除との違いは?
前述のとおり、配偶者は扶養控除の対象にはなりません。
扶養控除の対象は「配偶者以外の親族」で、配偶者は含まれないのです。その代わり、一定の要件を満たす配偶者は、「配偶者控除」「配偶者特別控除」の対象となります。
「配偶者控除」「配偶者特別控除」も所得控除の一種です。適用を受けるには、納税者本人の合計所得金額が1,000万円以下で、配偶者の合計所得金額が一定額以下(配偶者控除は48万円以下、配偶者特別控除は48万円超133万円以下)である必要があります。
それぞれの所得税の控除額は、以下のとおりです。
〈表〉配偶者控除の金額2)
配偶者の区分 | 納税者本人の合計所得金額 | ||
---|---|---|---|
900万円以下 | 900万円超 950万円以下 | 950万円超 1,000万円以下 | |
69歳以下の配偶者 | 38万円 | 26万円 | 13万円 |
70歳以上の配偶者 | 48万円 | 32万円 | 16万円 |
〈表〉配偶者特別控除の金額3)
配偶者の合計所得金額 | 納税者本人の合計所得金額 | ||||
---|---|---|---|---|---|
900万円以下 | 900万円超 950万円以下 | 950万円超 1,000万円以下 | |||
48万円超 95万円以下 | 38万円 | 26万円 | 13万円 | ||
95万円超 100万円以下 | 36万円 | 24万円 | 12万円 | ||
100万円超 105万円以下 | 31万円 | 21万円 | 11万円 | ||
105万円超 110万円以下 | 26万円 | 18万円 | 9万円 | ||
110万円超 115万円以下 | 21万円 | 14万円 | 7万円 | ||
115万円超 120万円以下 | 16万円 | 11万円 | 6万円 | ||
120万円超 125万円以下 | 11万円 | 8万円 | 4万円 | ||
125万円超 130万円以下 | 6万円 | 4万円 | 2万円 | ||
130万円超 133万円以下 | 3万円 | 2万円 | 1万円 |
参考資料
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税制度上と健康保険制度上の扶養の違い
扶養にはもう1つ、健康保険制度上の扶養があります。この2つの違いについて説明します。
税制度上の扶養は、給与収入103万円以下などの要件を満たす家族が対象となる扶養のことで、税金の計算に関わるものです。子どもや親などは扶養控除、配偶者は配偶者控除・配偶者特別控除の対象となり、納税者本人の所得税や住民税の負担が軽減されます。
一方、健康保険制度上の扶養は、収入が一定額以下(原則130万円未満、障がい者は180万円未満)などの要件を満たす家族が、家計を主に支える人の加入する健康保険制度に加入できるしくみです。健康保険制度上の扶養に入った家族は、自分で健康保険料を納める必要がなくなります。
税制度上の扶養と健康保険制度上の扶養では、対象となる家族の範囲や年収の上限が異なります。よく耳にする「130万円の壁」は、扶養に入れる家族の収入の目安ですが、税制度上の扶養を指している場合もあれば、健康保険制度上の扶養を指している場合もありますので注意が必要です。
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扶養控除を受ける時の注意点
扶養控除を受けるにあたって、つぎの点に注意しましょう。
子どもがアルバイトをする場合:103万円の壁に注意する
前述のとおり、扶養控除の対象となるには、給与収入が年間103万円以下でなければなりません。
子どもがアルバイトなどをしている場合、稼ぎ過ぎて103万円を超えてしまうと、扶養控除の対象から外れてしまいます。特に、子どもが19歳~22歳の「特定扶養親族」にあたる場合は、所得税・住民税とも控除額が大きく、比較的大きな税負担の軽減を見込めるため注意しましょう。
共働き夫婦の場合:子どもをどちらの扶養に入れるか
最近は夫婦共働きが多数派になり、二馬力で家計を支えている家庭が増えました。このように同じ世帯に所得者が2人以上いる場合、その子どもなどは、重複しない限り、いずれの所得者の扶養親族としても構いません4)。たとえば、控除対象の子どもが2人いて、1人の子どもは夫の扶養親族とし、もう1人の子どもは妻の扶養親族とすることもできます。
ただし、累進課税である所得税は、収入が多いほど税率も高くなるため、一般的には、収入の多い人が扶養控除を受けるほうが、税負担を軽減できます。
もっとも、夫婦の収入が同じくらいで、控除対象の子どもが複数いる場合は、それぞれの扶養に入れるほうが世帯での税負担を軽減できることもあります。また、ほかの控除との兼ね合いもあり、どちらの扶養に入れたほうが世帯全体でメリットがあるかは一概にはいえませんので、慎重に判断するようにしましょう。
扶養控除についてよくある質問
最後に、扶養控除に関するよくある質問について解説します。
扶養控除を受けるためにはどうすればいいの?
所得控除を受けるためには、年末調整や確定申告で自ら申告する必要があります。
会社員などで年末調整の対象となる場合には、会社から配布される「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」に必要事項を記入して、会社に提出しましょう。
個人事業主や一部の会社員(年収2,000万円超など)は、確定申告により扶養控除を受けることになります。確定申告書に必要事項を記入して、期限内に管轄の税務署に提出しましょう。
海外留学している子どもは扶養控除の対象になる?
海外に1年以上住んでいる親族のことを「国外居住親族」といいます。国外居住親族でも要件を満たせば、扶養控除の対象になります。
ただし、2023年1月から、扶養控除の対象となる国外居住親族に一定の制限が設けられました。
具体的にいうと、30歳以上70歳未満の国外居住親族は原則として扶養控除の対象外となりました。30歳以上70歳未満の国外居住親族について扶養控除を受けるには、以下のいずれかの条件を満たさなければなりません5)。
- 留学のため海外に住んでいる
- 障がいがある
- 生活費または教育費として年間38万円以上の仕送りを受けている
扶養控除のしくみを理解して、上手に制度を利用しよう
扶養控除は、扶養している家族がいる場合に、所得税や住民税の負担が軽減される制度です。
扶養控除の金額は、扶養親族の年齢や同居の有無などによって異なります。特に、19歳~22歳の「特定扶養親族」にあたる家族がいる場合は控除額が大きくなっていますので、忘れずに申告するようにしましょう。