この記事では、ファイナンシャルプランナー・藤井亜也さん監修のもと、産休中にボーナスを受け取れる可能性のある理由や条件のほか、産休中の社会保険料免除との関係についても解説します。
産休中もボーナスをもらえる可能性はある
結論からいいますと、ボーナスは産休中の方でも受け取れる可能性があります。
産休中は原則として給与が支払われませんがボーナスは別です。「ボーナスの支給日に産休を取得しているケース」「ボーナスの算定期間内に産休を取得しているケース」といういずれの場合でも、ボーナスを受け取れる可能性があるのです。
その理由は、男女雇用機会均等法第9条1)で、婚姻・妊娠・出産などを理由に女性労働者に不利益を与えることが禁じられているためです。産休を理由にボーナスを支払わないことも不利益に該当すると考えられます。
ボーナスの支給を会社の業績などで判断する会社が多いため、必ず支払われるとは断言できませんが、ほかの従業員にボーナスが支払われている中、自分だけが産休を理由にボーナスが支払われないことはないでしょう。
産休中にボーナスがいくらもらえるか就業規則で確認
ボーナスの支給要件、算定期間、金額などは就業規則で決まっています。会社ごとに就業規則は異なるので、詳細を知りたい方は就業規則を確認してみましょう。ここでは、就業規則を確認する際のポイントを解説します。
支給要件(支給の対象となる人)
多くの会社の就業規則には「賞与は支給算定期間中に勤務し、支給日に在籍している従業員に対して支払われる」といった一文が記載されています。また、ボーナスの支給要件として「いつから働いていたか」「いつの時点で在籍しているか」といった支給の対象となる方についても記されています。
支給要件に産休・育休に関する記載はないケースがほとんどでしょうが、「査定期間中に2/3以上出勤している」「勤続年数1年以上」といった条件が記載されていることも多いです。このような要件に該当しない場合はボーナスが支払われません。
算定期間(金額算定の対象期間)
就業規則には「4〜9月までの業績を賞与の算定期間とする」といった記載がされているケースがあります。この場合、算定期間中に勤務していれば、支給日が産休中だとしてもボーナスは支払われます。
また、算定対象期間の勤務日数によってボーナスの金額が決まるケースも多くあります。算定期間の途中で産休期間に入った場合などは、ボーナスは支払われても金額は少なくなる可能性があります。詳しくはつぎの章「産休中のボーナスが減額される2つのケース」で解説します。
金額(ボーナスの計算式)
ボーナスの金額の決め方が就業規則に記載されていることがあります。給与1カ月分といったように金額が固定されているケースのほか、会社や個人の業績、評価に応じて金額が変わるケースもあります。具体的な計算方法が記載されていることもありますので確認してみましょう。
会社の業績を理由に支払われない可能性はある
ただし、「会社の業績などに応じて賞与を支払われることがある」という一文しか記載がない就業規則も多いです。もちろん、このような場合でも、会社側が「産休で休んでいたから」という理由だけでボーナスの支払いを拒否することは法律上認められませんが、業績変動や貢献度などを加味した支給になる場合、ボーナスの支払いが行われないケースもあるでしょう。
産休中のボーナスが減額される2つのケース
産休中にボーナスを受け取れる可能性はありますが、金額が少なくなることもあります。代表的なケースとして、「算定期間中に産休・育休を取得していた場合」と「給料が年俸制の会社に勤めていた場合」を紹介します。
ボーナスの算定期間中に産休・育休を取得した場合
ボーナスの支給額が算定期間の勤務実績で変動する会社では、算定期間中に産休・育休を取得すると、休業期間が欠勤扱いになり、ボーナスの金額が減る可能性があります。
産休を取得したことでボーナスが減るケースと減らないケースの具体例を以下にまとめました。
〈図〉産休・育休によるボーナス算定への影響例
たとえば、ボーナスの算定期間が4〜9月、支給が12月の場合、産休期間の一部が4〜9月にかかると、取得した日数に応じてボーナスが減る可能性があります。もちろん、産休と育休で算定期間中にずっと休業していた場合は、ボーナスが支払われない可能性もあります。一方で算定期間が産休期間に入る前の場合には、産休を理由にボーナスを減額されることはないでしょう。
人事評価などで産休・育休の期間を出勤扱いにするか、欠勤扱いにするかは会社によって異なるので、就業規則を確認しましょう。なお、有給休暇の算定としては、産休・育休は出勤扱いにすることが決まっていますが(労働基準法第39条10項2))、人事評価は異なります。間違いやすいのでご注意ください。
参考資料
給与体系が年棒制の場合
給与体系が年俸制の場合、ボーナスは給与の一部として支払われていることがあります。
たとえば年俸420万円でボーナスは年2回、給与の1カ月分が支払われるとします。この場合、ボーナスが給与とは別に支払われる場合は「420万円÷14=30万円」、ボーナスが給与に含まれる場合は「420万円÷12=35万円」といった形で支払われていることになります。
<給与とボーナスが別で支払われる場合>
420万円÷14=30万円
給与30万円×12カ月、ボーナス30万円×年2回
<給与にボーナスが含まれている場合>
420万円÷12=35万円
給与35万円×12カ月(内、毎月5万円はボーナス分)
前者の場合、ボーナスは年俸とは別で支払われていますが、後者は年俸の中からボーナスも支払われています。つまり、ボーナスとして従業員に支払われていますが、実質は年俸を分割してもらっているだけです。
産休・育休中は基本的に給与が支払われません。そのため、後者のように給与の一部としてボーナスが支払われると、産休・育休の期間分はボーナス分を受け取れなくなり、結果として年棒が減る可能性があります。
給与体系が年俸制の方は、就業規則や賃金規定でボーナスがどのように支払われているかを確認しましょう。
ボーナスをもらっても産休中の手当は減らない
「産休・育休中に給与をもらうと手当を受け取れなくなる」という噂を聞いたことがある方もいるでしょう。産休・育休中は基本的に給与は支払われませんが、休業期間中に仕事を行い、給与の支払いを受けた場合は、出産手当金や育児休業給付金を受け取れなくなる可能性があります。
そのため、ボーナスを受け取ったら出産手当金や育児休業給付金を受け取れなくなるのではと心配する方もいるかもしれません。しかし、ご安心ください。産休・育休中にボーナスをもらっても、出産手当金や育児休業給付金の受け取りに影響はありません。
ただし、前述したとおり給与体系が年俸制の場合は、給与にボーナスが含まれているケースがあり、影響を受けることがあリます。事前に会社などに確認しておきましょう。
なお、出産手当金の支給要件や金額の計算方法は以下の記事で解説しています。気になる方は併せてご覧ください。
【関連記事】出産手当金の計算方法、支給要件などについて、詳しくはコチラ
産休中にボーナスをもらった場合、社会保険料はどうなる?
産休中は社会保険料が免除されますが、これはボーナスにも適用されます。
通常、ボーナスが支払われる場合、支給金額から所得税と社会保険料が徴収されますが、産休中にもらうボーナスでは所得税だけ徴収され、社会保険料は免除されます。
ただし、産休に伴う社会保険料の免除は「産休開始日の月から、産休が終わった翌日の前月分まで」3)というルールがあるため、ボーナスの支給日次第では社会保険料が免除されないこともあります。
たとえば、以下のように、ボーナス支給日が8/10で社会免除期間が5〜7月になるケースだと社会保険料は免除されません。
〈図〉ボーナスの社会保険料が免除されない一例
上記の例では、ボーナスが支払われたのは産休期間中(8/10)ですが、社会保険料の免除期間は7月までとなります。そのため、ボーナスは社会保険料免除の対象外です(産休後に育休を取得すれば、育休による社会保険料の免除対象になる可能性はあります)。
また、ボーナスの算定期間中に産休を取得し、ボーナスが支払われた時にすでに職場復帰を果たしているケースも社会保険料は免除されません。
産休中の社会保険料の免除に関して、時期や免除額、条件などは以下の記事で詳しく解説しています。気になる方は、併せてご確認ください。
産休を理由にボーナスがもらえなかったら、どうすればいい?
ここまで解説してきたように産休を取得した場合でもボーナスを受け取れる可能性があります。もし産休を理由にボーナスが支払われなかったら、会社が法律違反をしている可能性があるでしょう。その際にできることは「会社に相談する」「労働組合や労働センターに相談する」という2つです。
まずは会社に相談し、ボーナスが支払われない理由を聞いてみましょう。会社側の説明不足で産休以外の理由があるかもしれません。しかし、「会社が理由を話してくれない」「産休が理由だと明らかになった」など、会社の説明に納得できなかったら、その時は労働組合やお住まいの地域の労働センターに相談することも考えましょう。
ただし、労働組合や労働センターに相談すると事が大きくなり、会社との関係性が悪化するおそれがあります。労働組合や労働センターへの相談は慎重に判断しましょう。
なお、厚生労働省の「総合労働相談コーナーのご案内」からお住まいの地域の労働センターを検索することができます。
産休・育休中の手当・経済的支援
妊娠・出産・育児にはお金がかかりますから、生活の不安を解消する意味でもボーナスを期待している方も多いでしょう。産休中は給与を受け取れませんが、代わりに出産手当金や出産一時金を受け取れるほか、ほかにも様々な経済的支援が用意されています。
産休・育休中に受け取れる手当や経済的支援などを一覧にまとめました。
〈表〉産休・育休中に受けられる手当・経済的支援
項目 | 対象者 | 申請時期 | 金額 |
---|---|---|---|
社会保険料免除4) | 産休・育休の取得者全員 | 産休取得前 | 全額免除 |
妊婦健診費の助成5) | 申請する自治体による | 妊娠の発覚後 | 自治体による |
医療費(3割負担、高額療養費制度)6) | 異常分娩で出産をした人 | 申請不要(事前申請も可能) | 年収による |
医療費控除7) | 妊娠・出産をした人 | 確定申告時 | 年収による |
出産・子育て応援交付金8) | 妊娠・出産をした人 | 自治体による | 5万円相当の応援ギフトなど |
育児休業給付9) | 育休の取得者 | 初回は育休開始4カ月後の月末 | 育休開始から180日目までは休業開始前の賃金の67%、以降は50%で計算 |
児童手当10) | 中学卒業までの児童を養育している人 | 出生日から15日以内 | 月額1万5,000円(3歳未満の場合)など |
特別児童扶養手当11) | 20歳未満で精神または体に障害を有する児童を家庭で監護、養育している人 | 受給資格認定後 | 月額 1級:5万3,700円 2級:3万5,760円 |
児童扶養手当12) | ひとり親世帯等で18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある児童を養育している人 | 常時(毎年8月に現況届の提出が必要) | 月額4万3,070円(児童1人全部支給の場合)など |
産休・育休中に受け取れるお金、免除される支払いに関しては産休前に把握しておくことをおすすめします。ボーナスを含め、何をいつ頃にいくら受け取れるか目星をつけておくと、産前産後の家計を管理しやすくなるでしょう。
なお、産休中や育休中に受け取れる手当や経済的支援については、以下の記事でも詳しくまとめています。併せてご覧ください。
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ボーナスはもらえる可能性がある。産休中の収入を事前に確認しよう
産休中は収入が減ることが予想され、出産や赤ちゃんのために支出も増える時期です。経済的な不安を感じている方は、ボーナスを受け取れると不安の緩和につながりますので、会社に相談したり、就業規則を確認したりして、ボーナスをいくら受け取れるのかチェックしておきましょう。産休までにまだ時間がある方は、就業中と産休・育休中の収入差を確認し、減収分を補うために産休に入るまでに貯蓄を始めることもおすすめです。