「育児休業給付金っていくらもらえるの?」
「どうやって計算すればいいの?」
など、育児休業給付金について疑問がある人は少なくないでしょう。特に支給額に上限と下限がある点は、あらかじめ知らないとあとで困ってしまうかもしれません。
この記事では、ファイナンシャルプランナー・藤井亜也さん監修のもと、出産や育児に臨む人に向けて育児休業給付金について解説します。支給額の基礎知識に加え、2022年・2023年の育児・介護休業法改正についても説明するので、参考にしてみてください。
育児休業給付金の上限は最大で月31万143円
育児休業給付金の支給額は、休業開始時の賃金の67%(育児休業開始から181日目以降は50%)という計算式で算出されます。ただし支給額には上限があり、支給率67%の場合は31万143円、支給率50%の場合は23万1,450円です1)。毎月の額面給与が46万円以上の場合、上限額の支給となります。
なお、この支給上限額は毎月勤労統計の平均定期給与額の増減をもとにしており、毎年8月1日に変更されることがあります。つまり上述の支給上限額は令和5年8月1日以降の金額です。
育児休業給付金の支給要件と申請の手順
育児休業給付金とは、雇用保険の被保険者が原則1歳未満の子どもを養育するために育児休業(育休)を取得した場合、受け取ることができるお金です2) 。受け取るには以下の要件を満たす必要があります。
〈表〉育児休業給付金の支給要件
・雇用保険に入っている
・1歳未満の子を養育するために育児休業を取得している
・育児休業開始前の2年間に、11日以上就業している月が12カ月以上ある
・育児休業期間中の各1カ月で、就業している日数が最大10日あるいは80時間以下
雇用保険に入っているのであれば、正社員だけではなく、パートなどの有期雇用労働者や派遣社員でも取得することができます。
育児休業給付金は原則として、会社が2カ月に1度の頻度でハローワークに支給申請を行い、育休中の従業員に2カ月分がまとめて支払われます。育休を取得している期間=給付金が支給される期間です。
申請の方法は、まず育休開始予定日の1カ月前までに勤務先に申し出ます。以下が申請の必要書類です。
〈表〉育児休業給付金申請の必要書類
①雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書
②育児休業給付受給資格確認票
③(初回)育児休業給付金支給申請書
④賃金台帳、労働者名簿、出勤簿など
⑤母子健康手帳の写し
⑥育児休業給付金振込先の通帳の見開きのコピー
申請する人が勤務先から③の書類を受け取って必要事項を記入し、⑤と⑥を添えて勤務先に提出すると、勤務先が①②④を用意し、まとめてハローワークに書類提出・申請を行います。提出書類が多いので、もれがないように注意しましょう。
参考資料
2022年・23年の育児・介護休業法改正で変わった点は?
会社を休んで1歳未満の子どもを育てる人にうれしい育児休業給付金ですが、制度が用意されていても、職場によっては育休自体が取りづらいという人もいるでしょう。そんな環境を改善するため、育児・介護休業法は2022年4月1日から3段階で改正が施行されました。改正のポイントは以下の5点です3) 。
〈表〉2022年・2023年の育児・介護休業法改正のポイント
①雇用環境の整備、個別の周知・意向確認の義務化
②有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和
③産後パパ育休(出生時育児休業)の創設
④育児休業の分割取得
⑤育児休業取得状況の公表の義務化
※:①②は2022年4月1日施行、③④は2022年10月1日施行、⑤は2023年4月1日施行
先にも説明しましたが、今回の改正は、男女共に仕事と育児を両立できるように育休を取りやすくする目的で施行されました。男性と女性が共に育休を取りやすい環境を整えることで、保育施設確保の困難といった職場復帰へのハードルを下げることにもなります。
①は心情的に男性が育休を取りづらい環境を改善するための対策といえます。育休の取得状況公表を義務化する⑤も同様で、社会全体に育休の推進を促す施策です。③の「産後パパ育休」は特に男性をフォローするもので、育休(開始1カ月前まで)よりも開始日の設定が柔軟(開始2週間前まで)で、育休より短期(最大4週間)である点がポイントです。
②は契約形態が正社員ではない労働者をサポートする施策です。これまで有期雇用労働者の育休取得要件に含まれていた「引き続き1年以上雇用されていること」が撤廃になりました。また、これまで一括でしか取得できなかった育休ですが、④によって2分割できるようになりました。キャリアや仕事への影響を考えて、長期間の育休取得をためらっていた人でも取得しやすくなったのではないでしょうか。
本改正は育児休業給付金の支給額には影響がありませんが、育休を取得しやすくなったことで、育児休業給付金を申請する人が増えることが考えられます。
育児・介護休業法の改正についてもっと知りたい人は、以下の記事で詳しく紹介しているので、ぜひ併せてご覧ください。
【関連記事】2022年・2023年の改正のポイントは? 詳細はコチラ
育児休業給付金の計算方法
育児休業給付金の支給額は以下の計算式2)で算出します。
〈表〉育児休業給付金の支給額
育休開始から180日(6カ月)まで | 休業開始時賃金日額×支給日数(※)×67% |
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育休開始から181日(6カ月)以降 | 休業開始時賃金日額×支給日数×50% |
賃金日額とは、原則、育児休業開始前の6カ月間に支払われた賃金の総額を180で割った金額を指し、ハローワークへの申請時に事業主が提出する「休業開始時賃金月額証明書(票)」に記されています。休業を開始した日以前の2年間に完全な賃金月が6カ月に満たない場合は、賃金支払いの基礎となった時間数が80時間以上である6カ月間に支払われた賃金の総額で計算します。
育児休業給付金の計算方法や支給額についてもっと知りたい人は、以下の記事で詳しく紹介しているので、ぜひ併せてご覧ください。
育児休業給付金のお金に関するよくある疑問
振込日や税金など、育児休業給付金のお金に関するの「よくある疑問」について、以下で解説します。
Q1育児休業給付金はいつ振り込まれるの?
育児休業給付金は原則として2カ月に1回、会社が支給申請を行います。初回の申請は育休開始から2カ月経過後、4カ月を経過する日の属する月の末日までです。
支給申請を行うと、支給の可否と支給額が記載された「育児休業給付金支給決定通知書」が交付され、会社から自宅に届きます。そして支給決定日から約1週間〜10日後に指定した口座に振り込まれます。振込日は特に日付が決まっているわけではありません。
Q2育児休業給付金から税金や社会保険料は引かれるの?
育休期間などにおける社会保険料の免除要件は令和4年10月1日に改正されました。これ以降に育休を開始した場合、開始日の属する月から終了日の翌日が属する月の前月までの社会保険料は免除になります4)。また、ボーナスについては、賞与月の末日を含んだ連続した1カ月を超える期間を取得した場合に限り、免除の対象となります。
また、育児休業給付金は非課税のため、所得税はかからず、翌年度の住民税算定額にも含まれません。収入が給付金だけで給与所得がなければ、雇用保険料も発生しません。
Q3育児休業期間中のボーナスはもらえる?
原則として、育休期間中であっても、ボーナスは支給されます。ただし、就労していた場合と同額が支給されない可能性があります。ボーナスの対象となる算定期間や評価基準は会社によって就業規則で定められているので、支給要件を確認しましょう。
また、給与が年俸制でボーナスが給与の一部として支払われる場合、ボーナス額と給与が明確に区分できないため、“一定額以上の給与を受け取った”とみなされて、育児休業給付金が減額される恐れがあります。年俸制の人は注意しましょう。
年収が多いほど支給上限額の影響を受ける
育休期間中は給付金が出るとはいえ、支給上限額が決まっているため、年収が多い人ほど、就労している期間に比べて、収入が減ってしまうことになります。だからといって早急な復帰を目指しても、保育施設探しなどで育休を延長せざるを得ない場合もゼロとはいえません。経済的に困らないように、産休や育休に入る前にその期間の資金繰りを計画的に考えたり、配偶者と交代で育休を取ったりするなど、工夫するのが得策でしょう。