「生活費は一体いくら必要なの?」
「今の収入でやっていけるのかな?」
など、様々な不安があるかもしれません。この記事では、人には聞きづらい母子家庭の生活費やその内訳、子どもの人数ごとの生活費のシミュレーションなどを、自身もシングルマザーである女性のお金の専門家・山﨑かづ偀がご紹介します。
この記事を読むことで、どのくらい生活費を切り詰めたほうがいいのか、余裕を持たせたほうがいいのはどのような項目なのかなどを考える一助にしてください。
この記事の著者
山﨑 かづ偀(やまさき かづえ)
ファイナンシャルプランナー、マイライフエフピー®認定ライター、女性のお金の専門家。
証券会社や銀行のコールセンターで、通算8年半で延べ7万件以上の顧客対応を行う。自身の離婚後、保険の見直しや節約術で赤字家計を改善し貯金を増やす。「明るい未来のお手伝い」をモットーに、家計の見直しに悩む人へ講座や執筆、相談業務を行っている。
シングルマザーの1カ月平均の生活費は約20万円
厚生労働省が公表している「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」1)によると、母子家庭の困りごとの上位3つは以下のようになっています。
〈表〉母子家庭の困りごとTOP3
順位 | 項目 | 割合 |
---|---|---|
1位 | 家計 | 50.4% |
2位 | 仕事 | 13.6% |
3位 | 自分の健康 | 13.0% |
この結果から、多くのシングルマザーの人は家計について頭を悩ませているということがわかります。
それでは、母子家庭では一体いくら生活費が必要なのでしょうか。あくまでも一例ですが、総務省統計局が公表している「2019年全国家計構造調査」2)によると、母子家庭の生活費の全国平均額は以下のようになっています。
〈表〉母子家庭の生活費の全国平均額(概算)
内訳 | 全国平均額 |
---|---|
住居費 注1 | 2万8,000円 |
食費 | 5万1,000円 |
水道光熱費 | 1万5,000円 |
通信費・交通費 | 3万1,000円 |
日用品・被服費 | 1万5,000円 |
教育費 | 9,000円 |
交際費・レジャー費 | 1万9,000円 |
医療費 | 7,000円 |
その他 | 2万円 |
合計 | 19万5,000円 |
以上のように、合計すると、1カ月に約20万円の生活費がかかっています。その内訳をそれぞれ見てみましょう。
(1)住居費の平均額:約2万8,000円/月
住居費は、支出に占める割合が大きい項目です。上記の表を参考にすると、総支出に対して約14%を占めています。ただし、持ち家か賃貸か、またはどの地域に住むのかによって毎月の負担が大きく変わる可能性があります。これから住み替えを考えているという人は、慎重に検討していただきたいところです。
(2)食費の平均額:約5万1,000円/月
食費は、支出に占める割合が最も大きく、前述の表では全体の約26%を占めています。ただし、この金額はあくまでも平均額です。子どもの年代や人数によって大きく変わることには留意しましょう。
(3)水道光熱費の平均額:約1万5,000円/月
水道光熱費は、毎月必ずかかり、季節によって多少変動するのが特徴です。電気料金プランや契約先の見直しで、長期的にみると大きな節約効果が得られる可能性があります。
(4)通信費・交通費の平均額:約3万1,000円/月
スマホ代や移動にかかる費用です。電気料金プランと同様に、スマホ代は料金プランや契約先の見直しで、長期的に節約効果が得られる可能性があります。交通費は、主な移動手段が公共交通機関なのか、自家用車なのかによっても違いがあるでしょう。
(5)日用品・被服費の平均額:約1万5,000円/月
日々使う消耗品(洗剤、トイレットペーパーなど)や、衣料品などにかかる費用です。衣料品は育ち盛りの子どもがいると、すぐに買い替えが必要になり、負担が大きくなるでしょう。
(6)教育費の平均額:約9,000円/月
教育費はシングルマザーの人が、大いに頭を悩ませる費用です。子どもが幼稚園から高校を経て、大学まで通うとなると、すべて国公立だったとしても約800万円近くかかる3)4)と試算できます。子どもの年齢によって大きく変わるので、平均額はあくまでも参考と考えましょう。
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(7)交際費・レジャー費の平均額:約1万9,000円/月
交際費は、ママ友や仕事関連との付き合いで、ある程度の出費が避けられないものでしょう。その分、レジャー費はシングルマザーの人が削りがちな項目です。
(8)医療費の平均額:約7,000円/月
自治体によりますが、子どもにかかる医療費が無償である場合も少なくありません。ただし、シングルマザーの人自身も病気やケガになることがあるため、この場合は想定外の出費となってしまうことがあります。家計に余裕のない母子家庭にとっては、急な出費は負担が大きいものでしょう。民間の保険に加入するかどうかなど、いざという時の保障についても考えておきたいところです。
なお、シングルマザーの人が保険に加入する時のポイントなどについて、以下の記事でご紹介しています。ぜひ読んでみましょう。
シングルマザーの収入の平均は? 貯金をする余裕はあるの?
シングルマザーの平均年収は約306万円
生活費の目安はわかりましたが、シングルマザーの人の収入はどれくらいなのでしょうか。厚生労働省が公開している「2019年 国民生活基礎調査の概況」5)によると、母子家庭の世帯年収は約306万円(手当なども含む)です。この金額を12カ月で割ると、1カ月あたり約25万5,000円ということになります。
シングルマザーの平均貯蓄額は約400万円。ただし、「貯蓄なし」は約3割
これはあくまでも平均値ですが、支出の平均が19万5,000円であることを考えると、「貯金の余裕は多少あるかも…」と思われるかもしれません。しかし、上記の年収には、各種手当や元夫からの養育費、家族からの援助や同居している親の年金などの様々な要素が含まれています。なお、養育費の平均額や目安に関しては以下の記事で詳しく解説しています。
【関連記事】シングルマザーの養育費の相場は? 詳しくはコチラ
実際には厚生労働省「ひとり親家庭等の支援について」6)によると、正社員で働いている人の年間就労収入は平均305万円、パート・アルバイトなどの人は平均133万円です(就労しているシングルマザーの人のうち、正社員の割合は44.2%、パート・アルバイトなどの割合は43.8%)。正社員の人はまだしも、半分近くのパート・アルバイトなどで生計を立てるシングルマザーの人は、毎月貯金をする余裕などない経済状況にあるのです。
【関連記事】シングルマザーの平均収入や収入状況の詳細は? 詳しくはコチラ
その証拠として、厚生労働省のデータ5)によると、母子家庭の平均貯蓄額※は389万8,000円ですが、内訳を見ると貯蓄額が200万円未満の家庭が約58%を占めています。中央値(データを小さいものから大きいものに並べた時の真ん中の順位の値)を含む貯蓄区分は50〜100万円です。
※厚生労働省のデータから引用している金額は「貯蓄額」です。「貯蓄」とは、預貯金や投資を含む金融資産全体を指します。
中央値のほうが、実態により近いデータとなっているため、あまり貯蓄額が多くないことがわかるでしょう。また、貯蓄額別のグラフをよく見ると、貯蓄がない家庭が突出して多く、約32%にのぼります5)。一部の貯蓄の多い母子家庭が平均値を引き上げているため、平均貯蓄額が高くなっているのです。
〈図〉18歳未満の児童のいる世帯と母子世帯の貯蓄額
一方で、18歳未満の児童がいる世帯全体での平均貯蓄額は723万8,000円、中央値は300~400万円です。母子家庭の70%以上がフルタイムで働いていることを踏まえても、全体の数値と比較するとやはり貯蓄額が少ない状況にあることが読み取れます。
また、近年子どもの貧困が社会問題になっていますが、厚生労働省のデータ5)によると、子どもがいる世帯(世帯主が18歳以上65歳未満)での貧困率は、大人が2人以上いる場合は11.2%、大人が1人の場合は48.3%となっています。
専業主婦の家庭もありますから一概にはいえませんが、収入を得られる大人が少ない分、ひとり親家庭は厳しい状況に置かれていることがわかります。
なお、母子家庭の収入や貯金に関して、より詳しく知りたい人は、以下の記事をぜひご覧ください。
【関連記事】シングルマザーのリアルな貯金額はいくら? 詳しくはコチラ
シングルマザーは節約よりも公的援助の活用を優先しよう
ここまで、母子家庭の支出と収入を見てきました。前述したように、シングルマザーの人は日々の生活を守るために、余裕の少ないなかでやりくりをしている状況がうかがえます。
一般的に、家計状況を改善するための方法としては、支出を抑えるための「節約」が思い浮かびます。しかし、母子家庭は、すでに余裕の少ない状態のため、さらに節約をすることは精神的にも肉体的にも大きな負担となってしまいます。
たとえば、総務省統計局のデータ2)によると教育費は、母子家庭の平均が月約9,000円で、子どもがいる夫婦世帯は月平均約3万1,000円です。比較すると3分の1にも満たないのです。
あくまでも筆者の私見ですが、子どものために教育費を出してあげたいけれど、お金に余裕がないので削らざるを得ないという人が少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。
シングルマザーの人には、心身の健康と子どもたちとの生活を守るために、ぜひ知っておいていただきたいことがあります。それは、「自分ひとりで頑張りすぎないで、使える支援制度を見つけよう!」ということです。
国や自治体には様々な支援制度があります。手当を受け取ることができたり、経済的な負担を軽減・免除してくれたりと、母子家庭を手助けしてくれます。以下では、シングルマザーの人が受けられる代表的な手当や制度を説明します。
手当①児童扶養手当
児童扶養手当7)は、高校卒業までの子どもを育てるひとり親家庭が受けられる手当です。シングルマザーの人ももちろん受け取ることができますが、世帯収入によって、受け取ることができる金額が変わります。
手当②児童手当
児童手当8)は、中学卒業までの子どもを育てる親が受けられる手当です。収入や子どもの数によって金額が変わってきます。
減免制度①国民年金保険料免除・納付猶予制度
経済的に納付が難しい場合は、申請することによって、国民年金保険料の納付の免除や一部減額、または猶予される制度です。9)追納ができるのは、追納が承認された月の前の免除期間に限られます。
減免制度②国民健康保険料の軽減
国民年金保健料免除・納付猶予制度と同様で、こちらも申請することによって、保険料が減額となります。
減免制度③ひとり親家庭等医療費助成制度
ひとり親家庭等医療費助成制度10)は、ひとり親世帯の医療費負担をサポートしてくれる制度です。
減免制度④ひとり親控除
ひとり親控除11)は、ひとり親世帯が受けられる税制優遇措置です。所得税や住民税の負担が小さくなります。
減免制度⑤ひとり親世帯の家賃補助
「ひとり親世帯の家賃補助」は、地域独自の制度で内容には違いがあります。詳しくは、お住まいの市区町村の窓口に問い合わせてみましょう。
減免制度⑥幼児教育・保育の無償化
幼稚園や保育所、認定こども園についての制度12)です。0~2歳児クラスについて、住民税非課税世帯は無料。3~5歳児クラスは原則無料となります。
減免制度⑦就学援助(小・中学生が対象)
経済的に困っている世帯向けに、小中学校で必要な学費を援助してくれる制度13)です。学用品費や新入学児童生徒学用品費、校外活動費などの様々な費用が対象となります。認定基準は、各市区町村によって異なります。
減免制度⑧高等学校等就学支援金(高校生が対象)
授業料の一部またはすべてを支援する制度14)です。収入制限があります。
減免制度⑨高等教育の修学支援新制度(大学生を対象)
2020年からスタートした制度15)です。入学金・学費の免除・減額や、給付型の奨学金が受けられます。世帯の収入によって受けられる支援内容が変わります。
このほかにも様々なサポート制度があります。これらの制度を知っているかどうかで、生活に大きな違いが出てくるので、自分に条件が当てはまるものは積極的に活用しましょう。
シングルマザーの人が受けられる手当や制度に関しては、より詳しく以下の記事でご紹介しています。生活を助けてくれる制度ばかりですので、有効に使うためにもぜひ読んでみてください。
【関連記事】シングルマザーが受けられる手当はいくら? 詳細はコチラ
シングルマザーの生活費シミュレーション
ここまでご紹介した母子家庭の収入と支出は、あくまで全国平均であり、住む場所や子どもの年齢・人数などで変動します。そこで、総務省統計局の「2019年全国家計構造調査」2)を参考に、実際に必要な生活費を具体的にシミュレーションしてみました。
【シミュレーションの条件】
あくまでも仮定での事例として、下記の条件を定めてシミュレーションを行いました。
条件①東京近郊の賃貸物件に暮らしている
条件②一番上の子どもが小学校低学年以下
条件③予備費や貯蓄は家計に含まない
なお、家賃は同じ東京都でも地域によって大きく差が出るため、参考に止めましょう。また、子どもにアレルギーのある場合などは食費の負担が大きくなるため、この点は幅を持たせた家計シミュレーションとしています。
【Case 1】子どもが1人の場合の生活費
子どもが1人で年齢も低いうちは、食費や習い事代などはそれほど大きな負担にはならないかもしれません。しかし、それでも15万〜21万円ほどの生活費はかかることになるでしょう。
内訳 | 金額 |
---|---|
家賃(1LDK~2DK)注1 | 5万~7万円 |
食費(外食含む) | 3万~4万円 |
水道光熱費注2 | 1万~1万5,000万円 |
日用品・被服費 | 2万~3万円 |
交際費・レジャー費 | 1万円 |
通信費 | 2,000~1万円 |
給食費注3 | 5,000円 |
習い事費 | 5,000~1万円 |
保険料 | 1万~1万5,000円 |
医療費 | 1万円 |
合計 | 15万2,000~21万5,000円 |
【Case 2】子どもが2人の場合の生活費
子どもが2人の場合、20万〜27万円ほどの生活費がかかる見込みです。子どもが2人いると、給食費や習い事費など子どもにかかる費用が倍になり、金銭的な負担が大きくなります。食費や日用品費はあまり無理をして削ろうとせずに、固定費の見直しを考えるといいでしょう。
内訳 | 金額 |
---|---|
家賃(2LDK~3DK)注1 | 6万~8万円 |
食費(外食含む) | 4万~5万円 |
水道光熱費注2 | 1万5,000~2万円 |
日用品・被服費 | 2万5,000~3万5,000円 |
交際費・レジャー費 | 1万~1万5,000円 |
通信費 | 5,000~1万円 |
給食費注3 | 1万円 |
習い事費 | 1~2万円 |
保険料 | 1万2,000~1万7,000円 |
医療費 | 1万5,000円 |
合計 | 20万2,000~27万2,000円 |
【Case 3】子どもが3人の場合の生活費
子どもが3人の場合、24万〜32万円ほどの生活費がかかる見込みです。子どもが3人ともなると、家計の負担はかなり大きくなるのがわかります。ただし、扶養人数が増えると、児童扶養手当やひとり親家庭等医療費助成制度等の受給要件である収入制限の限度額も大きくなるため、各種の手当や優遇措置が受けやすくなります。母子家庭をサポートしてくれる制度を積極的に探して、申請するようにしましょう。
内訳 | 金額 |
---|---|
家賃(2LDK~3DK)注1 | 6万~8万円 |
食費(外食含む) | 5万~6万円 |
水道光熱費注2 | 1万8,000~2万5,000円 |
日用品・被服費 | 3万~4万円 |
交際費・レジャー費 | 1万5,000~2万円 |
通品費 | 7,000~1万5,000円 |
給食費注3 | 1万5,000円 |
習い事費 | 1万5,000~2万5,000円 |
保険料 | 1万5,000~2万円 |
医療費 | 2万円 |
合計 | 24万5,000~32万円 |
支出を抑えたいなら固定費を見直すのがコツ
シミュレーションはあくまで一例ですので、それぞれの家族構成や事情によっても変わってくるでしょう。自身の現在の収入と支出に照らし合わせてみた中で、支出のバランスが気になるという人は、固定費の見直しを検討してみましょう。たとえば、スマホ代や電気・ガスなどの料金プランの見直し、保険料の見直しなどが挙げられます。
また、自治体によっては、交通機関の運賃補助や、水道代の減免制度など、母子家庭の暮らしをサポートしてもらえる方法がいろいろとあります。気になる人は調べてみましょう。教育費の準備や将来のためにも、家計の黒字化を目指していきたいものです。
母子家庭でもやりくり次第で生活費をまかなうことができる!
母子家庭の生活は決してゆとりがあるものではないでしょう。けれども、今の収入はどれくらいなのか、毎月かかっている支出はどれくらいなのか、こういったことがわかると様々な対策が取れるようになります。また、自分が利用できる支援制度にはどんなものがあるのか、といったことにも目を向けて、積極的に活用していただきたいと思います。