「今後も独身のつもりだけど、老後資金はどう準備すればいいんだろう? 今から始めたほうがいいの?」
ライフスタイルの変化から生涯独身の方も増えていますが、中には老後の暮らしに不安を抱える方もいるでしょう。そこでこの記事では、金融ライター・ファイナンシャルプランナーの品木彰が、独身の方に必要な老後資金をシミュレーションします。最後まで読めば、将来に備えて今から対策することができるようになるでしょう。
独身の場合に必要な老後資金はいくら?

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独身の方は、いくらの老後資金を準備すればよいのでしょうか。
必要な老後資金の額を考える時は、老後の生活費やそのほかの費用がいくらかかるのかを把握することが大切です。ここでは、老後における生活費の平均額や生活費以外に必要となる費用の種類を解説します。
老後に必要な生活費の内訳
総務省が2021年に実施した「家計調査」1)によると、65歳以上の単身無職世帯の実収入(毎月の平均収入)は13万5,345円なのに対し、消費支出(毎月の平均生活費)と非消費支出(税金や社会保険料など)の合計は14万4,747円となり、毎月9,402円の赤字が発生しています。
支出の内訳は、以下の通りです。
〈表〉高齢単身無職世帯の実収入と消費支出の内訳
実収入 | 13万5,345円 | |
---|---|---|
非消費支出 | 1万2,271円 | |
消費支出(生活費) | 13万2,476円 | |
生活費の内訳 | 食料 | 3万6,322円 |
住居 | 1万3,090円 | |
水道・光熱 | 1万2,610円 | |
家具・家事用品 | 5,077円 | |
被服・履物 | 2,940円 | |
保健医療 | 8,429円 | |
交通・通信 | 1万2,213円 | |
教育 | 0円 | |
教養娯楽 | 1万2,609円 | |
その他の消費支出 (諸雑費・交際費・仕送り金) | 2万9,185円 |
仮に、65歳から95歳までの30年間を「老後」とすれば、老後に不足する金額は以下になります。
9,402(円)×12(カ月)×30(年) =338万4,720円 |
しかし、不足分である約340万円の老後資金を準備すれば、平均的な老後生活を送れるとは限りません。
たとえば2020年の調査2)では、新型コロナウイルス感染症の影響による外出自粛や店舗休業により、娯楽や交通などの支出が減りました。また10万円の特別定額給付金が支給されて所得が増えたため、毎月の赤字は7,723円と、2021年の調査結果よりも少なくなっています。
さらに2019年の調査3)では、実収入が12万4,710円、支出が15万1,800円であり、毎月2万7,090円の赤字が生じる結果でした。
2019年を基準に考えると、不足額は30年で約975万円となり、平均的な老後生活を送るために約1,000万円の老後資金が必要な計算となります。調査の対象となった年によって、老後資金の試算結果は異なるのです。
ライフスタイルは、人それぞれです。必要な老後資金の額は、現在の生活をもとにご自身の老後生活を考えた上で算出しましょう。
持ち家か賃貸かでも老後資金は変わってくる

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また、持ち家と賃貸のどちらで生活をするかで老後の住居費が大きく異なるため、必要な老後資金の額も変わってきます。
2021年の「家計調査」によると、65歳以上の高齢無職単身世帯の住居費は平均1万3,090円です。持ち家の住宅ローンを完済している方や、親から引き継いだ実家に住んでいる方であれば、住居費の負担は軽い場合が多いでしょう。
しかし賃貸マンションや賃貸アパートに住むのであれば、家賃の支払いが必要になるため、住居費は平均以上になる可能性が高いでしょう。持ち家で老後生活を送る方よりも、多くの資金が必要になるかもしれません。
一方で持ち家に住む場合も、住宅ローンを老後も引き続き返済するのであれば、住居費は高くなります。また住宅を所有している方は、固定資産税を毎年支払う必要があります。
さらにマンションであれば、住宅ローンを完済したあとも管理費や修繕積立金を支払っていかなければなりません。マンションによっては、修繕積立金が段階的に値上がりすることもあります。
このように生活する場所によって、老後の住居費は異なります。必要な老後資金を考える時は、老後にどこで生活しているのかをイメージしてみましょう。
用意するのは生活費だけじゃない!

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老後資金を試算する時は、生活費だけでなく以下のとおり介護費用や葬儀関連の費用など、特別な支出についても考えることが大切です。
〈表〉介護費用・葬儀費用など、老後に必要な特別な支出
介護費用 | ・訪問介護や訪問入浴などを利用するための費用 ・介護ベッドや車椅子などの購入費用 ・手すりの設置や段差の解消など自宅の改修費用 |
---|---|
住環境の整備費用 | ・住居や設備の修繕費用・メンテナンス費用 ・自宅をリノベーションするための費用 ・有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅に入居するための費用 |
葬儀関連の費用 | ・葬儀費用・式典の飲食費、返礼品代 ・お墓の購入費用 ・遺品の整理費用 |
子どもや孫への資金援助 | ・結婚資金や住宅購入費用の援助 ・孫の誕生祝い・進学費用 |
上記のうち、特に準備する必要性が高いのは「介護費用」と「葬儀関連の費用」です。
生命保険文化センターの調査4)によると、2021年の介護費用の月額は平均8万3,000円でした。介護期間の平均は61.1カ月であるため、合計は単純計算で8万3,000円×61.1カ月=約507万円です。住宅の改修費用や介護ベッドの購入費用などの平均額74万円を加えると、1人あたりの介護費用は約580万円となります。
特に独身の方は、葬儀費用を自身で準備しておきたい場合も多いでしょう。葬儀費用については、株式会社鎌倉新書5)の調査によると、飲食費や返礼品代も含めて平均184万円です。また同社の調査では、お墓の購入費用は平均169万円となっているため、合計すると約353万円の費用がかかることになります。
2021年時点で、老後に平均的な生活を送るために赤字を補う資金が約340万円だとしても、介護費用の約580万円と葬儀費用の353万円を足すと、老後資金の合計額は最低でも1,274万円という結果になります。
〈図〉老後に必要になる介護費用・葬儀関連の費用の平均(2021年時点)

この結果は、平均値をもとにした目安にすぎませんが、老後資金の必要額を試算する上で、介護費用や葬儀関連の費用なども重要であるとご理解いただけたのではないでしょうか。
参考資料
4)生命保険文化センター「2021(令和3)年度生命保険に関する全国実態調査」
5)株式会社鎌倉新書「第4回お葬式に関する全国調査」「お葬式に関する全国調査(2013-2020年)」
老後の支出の内訳について、もっと詳しく知りたい方は以下の記事も併せてご覧ください。
老後資金、男女別シミュレーション

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では、老後資金はどのくらい必要なのでしょうか? 男性と女性それぞれの老後資金を試算してみましょう。
性別を分けてシミュレーションする理由は、男性と女性で「平均寿命」と「平均年収」が異なるためです。
厚生労働省が2020年に発表した「簡易生命表」6)によると、平均寿命は男性81.64歳、女性87.74歳です。よって女性のほうが男性よりも、6歳ほど平均寿命が長くなっています。また男性と女性では平均年収が異なるため、老後の年金受給額にも差があります。
前出の「家計調査」では男女別のデータがないため、ここでは総務省の「2019年全国家計構造調査」7)をもとに老後資金を試算します。
なお今回のシミュレーションでは、介護費用を600万円、葬儀関連の費用を300万円と想定し、必要な資金の額を試算します。
女性の場合のシミュレーション

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調査によると、高齢無職単身世帯(女性)の実収入は14万1,646円でした。税金や社会保険料などの非消費支出を差し引くと、本人が自由に使える金額(可処分所得)は、13万3,107円となっています。一方、消費支出は14万607円であるため、データ上では毎月7,500円の赤字となりました。
〈図〉高齢無職単身世帯(女性)の実収入と支出(2019)

老後生活を送る期間が、65歳から平均寿命を迎える88歳までの23年間である場合、生活費の不足額は、合計で7,500円×12カ月×23年=207万円となります。これに介護費用600万円と葬儀費用300万円を加えると、必要な老後資金は約1,107万円と算出されました。
ただし調査結果では、住居費が消費支出14万607円の11.6%である1万6,310円となっているため、調査の対象になった人の多くが持ち家に住んでいたと考えられます。
仮に家賃が8万円のマンションに住む場合、毎月の生活費は20万4,297円となります。可処分所得13万3,107円を差し引くと、7,500円だった赤字は約7万1,190円に膨れ上がります。23年間での不足額は7万1,190円×12か月×23年=約1,965万円となり、介護費用と葬儀費用を合計すると約2,865万円の資金が必要となる計算です。
男性の場合のシミュレーション

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高齢無職単身世帯(男性)の実収入は、16万3,492円です。そこから税金や社会保険料などの非消費支出を差し引くと、本人が自由に使えるお金(可処分所得)は14万4,243円となります。毎月の生活費(消費支出)は14万3,354円であるため、収支は毎月889円の黒字となりました。
〈図〉高齢無職単身世帯(男性)の実収入と支出(2019)

調査結果では、毎月わずかに黒字であるため、老後資金は介護費用600万円と葬儀費用300万円の合計900万円があれば足りる計算となります。
しかし住居費を見てみると、消費支出の9.1%である1万3,045円であり、高齢の独身女性と同様にほとんどの方が持ち家に住んでいると想定されます。老後に持ち家に住むのであれば、修繕費用やメンテナンス費用なども見込んで老後資金を試算しなければなりません。
また持ち家ではなく家賃8万円の賃貸マンションに住むとしたら、毎月の生活費は21万309円となり、可処分所得14万4,243円を差し引くと毎月6万6,066円の赤字が発生します。
老後生活が、65歳から男性の平均寿命82歳までの17年間であるとするなら、合計不足額は6万6,065円×12カ月×17年=約1,348万円です。介護費用600万円と葬儀費用300万円を合計すると、必要な老後資金は約2,248万円と算出されました。
老後資金がない!? 独身の方が今のうちからできること

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老後生活を迎えるまでに1,000万円や2,000万円の資金を準備するのは難しい、と考えている方もいるのではないでしょうか。
たしかに老後生活で、多額の資金が必要になる可能性はあります。しかし、だからといって現在の生活に支障をきたしてまで、老後資金の積立をする必要はありません。
ここでは、老後資金を積み立てる時のポイントを年代ごとに解説していきます。
20代の場合

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20代は、30代以降の方よりも年収が少ない傾向にあります。特に一人暮らしをしているのであれば、生活費の支払いで家計に余裕がなく、まったく貯蓄できていない方も少なくないでしょう。
そこで貯蓄をする余裕がない方は、お金を積み立てる「習慣」だけでも身に付くように意識してみてはいかがでしょうか。積み立てる習慣が身に付いていれば、30代や40代になって収入が増えた時、比較的簡単に積立額を増やせるでしょう。
また早いうちから積立を始めていれば、少ない積立額で大きな資産を築ける可能性があります。たとえば25歳から毎月5,000円を積み立てるだけでも、65歳までの40年間で240万円貯まります。投資信託をはじめとした方法で運用すれば、さらに資産を増やせるかもしれません。
一方で20代は、勉強や資格取得などで積極的に自己投資をすべき年代でもあります。まずは1,000円でも5,000円でもよいので、日々の生活や自己投資に支障がない範囲で少しずつ積立を始めてみましょう。
30代の場合

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30代は、20代よりも年収が増える傾向にあるため、より多くを老後資金の積立に回せる可能性があります。その一方で、お金が必要なライフイベントにも備えながら資産を形成することが大切です。
たとえばそれまで勤めていた会社を辞めて転職する場合、新たな勤め先を探すまでの間に収入が減って、資産を取り崩しながらの生活となる可能性があります。「自分は独身のまま老後を迎えるだろう」と考えていても、将来結婚するかもしれませんし、子どもが生まれる可能性もあります。そうなると、結婚式の費用や子どもの教育費などが必要になるでしょう。
老後資金を積み立てる時、iDeCoを利用する方も少なくありません。iDeCoは、毎月一定額の掛金を支払って、投資信託や保険などで運用し、老後の年金を準備する制度です。
iDeCoには「掛金が所得控除の対象になり、所得税や住民税を節税できる」などのメリットがありますが、積み立てたお金は老後まで基本的に引き出せません。そこでライフイベントが発生した時のために、iDeCoよりも比較的お金を引き出しやすい預貯金や財形貯蓄なども組み合わせて資金を準備するとよいでしょう。
【関連記事】iDeCoの基本やメリット・デメリットを詳しくまとめた記事はコチラ
40代以上の場合

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40代以降の方は、老後生活について本格的に考えなければならない時期にあるといえます。現在の生活をもとに老後の生活費を試算し、具体的な目標額を決めて老後資金を積み立てていきましょう。
老後に受給できる年金の見込額も確認すると、積立の目標額を決めやすくなります。年金の受給見込額は「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」で確認が可能です。


令和3年度「ねんきん定期便」(50歳未満)の場合 8)
● ねんきん定期便:毎年の誕生月に、公的年金保険の加入者に送られる書類
● ねんきんネット:インターネット上で年金見込額や年金加入履歴などが確認できるサービス
特にねんきんネットは、利用者登録をすると職業や年収などを設定し、将来の年金受給額をシミュレーションできるため、老後資金の目標額を決める時に役立ちます。
また会社員や公務員などは、退職金についても確認しておきましょう。退職金の支給額や支給される条件などの詳細は、就業規定で確認できます。できることから1つずつ、着実に老後生活の準備を始めることが大切です。
【関連記事】ねんきん定期便の見方について、詳しく解説した記事はコチラ
老後生活をイメージして老後資金を準備しよう
老後資金の必要額は、個人のライフスタイルや年金の受給額など、様々な要因で異なります。1,000万円で十分な方もいれば、2,000万円以上なければ足りない方もいるでしょう。自分自身にとって必要な金額を考えることが重要です。
老後資金や年金の受給額などをより具体的に知りたいのであれば、ファイナンシャルプランナーに相談するのもよい方法です。現在の生活や定年までのキャリア形成などに支障がない範囲で、少しずつ準備していきましょう。