この記事の監修者
頼藤太希(よりふじ たいき)
Money&You代表取締役/マネーコンサルタント
中央大学客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生保にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に(株)Money&Youを創業し、現職へ。女性向けWebメディア『FP Cafe』や『Mocha(モカ)』を運営すると同時に、マネーコンサルタントとして、資産運用・税金・Fintech・キャッシュレスなどに関する執筆・監修、書籍、講演などを通して日本人のマネーリテラシー向上に注力。『1日1分読むだけで身につくお金大全100』(自由国民社)、『はじめてのFIRE』(宝島社)、『はじめてのNISA&iDeCo』(成美堂出版)など著書多数。日本証券アナリスト協会検定会員、ファイナンシャルプランナー(AFP)、日本アクチュアリー会研究会員。
老後資金は結局いくら必要なの?

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老後に必要な金額の目安として、よく知られているのが「2,000万円」です。この金額の根拠は、どこにあるのでしょうか。まずは、話題となった「2,000万円問題」について解説しましょう。
「2,000万円」という金額は、2017年に総務省が公表したアンケート調査「家計調査報告」1)のデータをもとにしています。具体的には、高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯)が30年間「平均的」な生活をするために必要と考えられる金額の試算結果から生まれたものです。
2017年の「家計調査報告」に記載された「高齢夫婦無職世帯の家計収支」によると、年金が中心となる毎月の実収入は20万9,198円です。一方、支出の合計(消費支出+非消費支出)は26万3,717円となっており、毎月5万4,519円の赤字となります。
仮に「老後」を65歳から95歳とした場合、毎月5万4,519円の赤字が30年間続くわけですから、夫婦2人で「平均的」な老後の生活を送るためには、年金とは別に30年間で約2,000万円が必要になる、というわけなのです。
ただし、この金額はあくまでも2017年の「家計調査報告」の調査結果をもとにしたものです。多くの方が「平均的」だと考える生活に必要な資金は、その時の社会情勢によって変化するので、この結果が現在の生活にマッチしているとは限りません。
最新データから、必要な老後資金を試算してみよう

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それでは2022年時点の老後資金は、どれくらいを目安と考えればよいのでしょうか。前出の「家計調査報告」の2021年版2)をもとに、老後に必要な資金を試算してみます。
ここでは、夫婦(高齢夫婦無職世帯)と独身(高齢単身無職世帯)が、65歳から95歳までの「老後」30年間を暮らすために必要と考えられる、年金収入以外の資金を試算します。
なお以下の試算では、夫婦・独身とも、持ち家で暮らしており、住宅ローンの返済が完了しているものとします。
夫婦・独身別、老後に必要な資金の目安

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まずは、夫婦の老後資金の目安を試算してみましょう。
2021年の「家計調査報告」の調査結果を見ると、高齢夫婦無職世帯の実収入の平均額が23万7,988円となっているのに対し、支出の合計(消費支出と非消費支出)は、26万94円となっています。つまり毎月の不足額は、2万2,106円ということになります。
「老後」を65歳から95歳とした場合には、毎月2万2,106円の赤字が30年間続くわけですから、2021年の基準における「平均的」な生活を送るためには、約800万円の資金が必要と考えることができます。
2万2,106(円)×12(カ月)×30(年) =795万8,160円 |
つぎに、独身の場合の老後資金の目安を試算してみましょう。
同じく2021年の「家計調査報告」の調査結果を見ると、高齢単身無職世帯の平均実収入が13万5,345円なのに対し、支出の合計は14万4,747円となり、毎月の不足額は9,402円となります。65歳から95歳までの30年間を「老後」とすれば、2019年基準の「平均的」な生活を送るためには、約338万円の資金が必要と考えることができます。
9,402(円)×12(カ月)×30(年) =338万4,720円 |
介護に必要な費用

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ここで注意したいのが、「家計調査報告」の支出には、介護にかかる費用が含まれていないことです。
子どもがいない方の場合はもちろん、子どもがいる場合でも介護の費用は自分たちで用意しておきたいと考える方は多いでしょう。つまり「平均的」な生活を送りつつ、「もしも」に備えるためには、プラスアルファの貯えが必要となるわけです。
生命保険文化センターが公表した「生命保険に関する全国実態調査(2021年度)」3)をもとに試算すると、介護費用の月額平均は8万3,000円、介護が必要な期間は平均で61.1カ月(約5年1カ月)です。介護費用の平均は、8万3,000円×61.1(カ月)=507万1,300円と計算できます。
さらに、住宅改修や介護用ベッドの購入などの一時費用の合計額は同調査によると平均74万円です。これを加えると1人あたり約580万円の備えが必要になると考えることができます。
つまり、生活費に加えて介護の「もしも」に備える資金まで用意するなら、夫婦の場合は約1,380万円、独身の場合は約920万円が必要ということになります。
ただし、この試算は、あくまでも前出の2021年の「家計調査報告」をもとにした「平均的」な生活を送る場合の計算結果である点には、ご留意ください。
老後に必要な生活費や介護費用の平均額やその内訳について、以下の記事で夫婦・独身別により詳しく解説しています。併せてご覧ください。
【関連記事】FP監修!独身の男女がそれぞれ貯めるべき金額は?
【関連記事】夫婦の老後資金はいくらあれば安心?目安と内訳を徹底解説
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老後資金、みんないくら貯めてるの?
必要な老後資金の目安がわかったところで、つぎに気になるのが、実際にほかの人がどれだけの老後資金を貯めているかでしょう。
夫婦の場合

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まずは、夫婦の場合です。金融広報中央委員会が公表している「家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査]」(2020年版)4)によれば、60代(世帯)の金融資産保有額の平均値は1,745万円となります。
さらに、この数値は平均値ですから、資産保有額がかなり高い方も含まれています。実態に近い金額の目安を把握したいなら、中央値のほうが適していると考えられます。
中央値を参照すると、60代(世帯)の金融資産保有額は875万円となっています。つまり、多くの世帯は、必要な老後資金が足りていないということになります。
独身の場合

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続いて、独身の場合です。同じく金融広報中央委員会が公表している「家計の金融行動に関する世論調査[単身世帯調査]」(2020年版)5)によれば、60代(世帯)の金融資産保有額の平均値は1,305万円となり、中央値は300万円となっています。夫婦の場合と同様、老後資金を十分に準備できていないことになります。
この結果をどう考えるかは人によって異なるでしょう。しかし、老後の不安をなるべく少なくしておきたいなら、先ほど試算した金額(夫婦の場合は1,380万円、独身の場合は920万円)を目安に、老後資金を準備するためのプランを立てることをおすすめします。
老後資金準備はいつから始めればいいの? 月々貯めるべき金額は?
それでは、夫婦の場合は1,380万円を、独身の場合は920万円を目安として、65歳までに老後資金を用意するためには、どうすればよいのでしょう。
退職金は減少傾向に。なるべく貯蓄や資産運用をしよう

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老後資金の準備を考える際、退職金をあてにしている方も多いと思います。2018年の総務省統計局「就労条件総合調査」6)によれば、大学・大学院卒の場合、退職金の平均額は1,788万円となっています。この金額だけを見れば、確かに老後資金の多くを退職金でまかなうことができそうです。
しかし、過去の「就労条件総合調査」を参照すると、大学・大学院卒の場合で2008年は2,323万円、2013年は1,941万円というように、退職金の平均額は減少傾向にあります。この傾向が続けば「退職金があるから老後資金は安心」とも、いい切れないわけです。
また、ここで紹介している退職金は、勤続20年以上かつ45歳以上で退職した場合の平均額で、そのうち6割以上が定年退職です。働き方が多様化している現在では、この条件に合致しない方も増えてきているのではないでしょうか。
さらに、りそな年金研究所が公表しているアンケート調査7)によると、特に中小企業では退職金の制度を廃止する企業の数が増加傾向にあります。
〈表〉退職給付制度の実施状況割合の推移(中小企業)
2002年 | 88.8% |
2004年 | 83.4% |
2006年 | 83.4% |
2008年 | 83.4% |
2010年 | 81.3% |
2012年 | 77.7% |
2014年 | 78.9% |
2016年 | 69.8% |
2018年 | 71.3% |
2020年 | 65.9% |
このことからも、退職金だけを老後資金のあてにすることには、リスクが伴うと考えることができます。ある程度余裕のある老後を過ごしたいなら、そのための準備を自分でしておく必要があるでしょう。
老後資金を貯金だけで準備する場合

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それでは、65歳までに老後資金を準備するためには、毎月どれくらいの貯蓄が必要になるのかをシミュレーションしてみましょう。単純計算で現在の年齢から毎月、同額の貯金をした場合の目標額のシミュレーションは以下のようになります。
〈表〉夫婦の場合(65歳までに1,380万円を貯める場合)
現在の年齢 | 65歳までの年数 | 毎年の目標額 | 毎月の目標額 |
---|---|---|---|
25歳 | 40年 | 34万5,000円 | 2万9,000円 |
30歳 | 35年 | 39万5,000円 | 3万3,000円 |
35歳 | 30年 | 46万円 | 3万9,000円 |
40歳 | 25年 | 55万2,000円 | 4万6,000円 |
〈表〉独身の場合(65歳までに920万円を貯める場合)
現在の年齢 | 65歳までの年数 | 毎年の目標額 | 毎月の目標額 |
---|---|---|---|
25歳 | 40年 | 23万円 | 2万円 |
30歳 | 35年 | 26万3,000円 | 2万2,000円 |
35歳 | 30年 | 30万7,000円 | 2万6,000円 |
40歳 | 25年 | 36万8,000円 | 2万9,000円 |
ただし、これは単純に貯金した場合の計算です。実際には、銀行や郵便局に預けた場合には利息が付くことになります。とはいえ現在の金利で考えると、利息はほとんど期待できません。
老後資金を投資で準備する場合

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そこで、検討したいのが投資です。特に長期運用の積立投資を行えば、リスクを低く抑えながら、銀行や郵便局の普通貯金に預けているよりも高い運用利率を期待することができます。
たとえば30歳から準備を始めた夫婦が、毎月の目標額となる3万3,000円を貯金ではなく、長期運用の積立投資に充てたと考えてみましょう。投資に慣れていない方でも堅実にお金を増やせる制度iDeCoとつみたてNISAなどを利用して毎月積立投資を行い、その際の運用利率を、仮に年3%(複利)とし、税金は考慮しないものとします。貯金の場合と比較した結果は、以下のようになります。
〈表〉30歳の夫婦が毎月3万3,000円を貯金した場合と、積立投資した場合の比較
貯金した場合 | 長期運用の積立投資をした場合※ | |
---|---|---|
5年後(35歳) | 198万円 | 213万6,000円 |
10年後(40歳) | 396万円 | 461万3,000円 |
15年後(45歳) | 594万円 | 748万4,000円 |
20年後(50歳) | 792万円 | 1,081万3,000円 |
25年後(55歳) | 990万円 | 1,467万1,000円 |
30年後(60歳) | 1,188万円 | 1,914万5,000円 |
35年後(65歳) | 1,386万円 | 2,433万円 |
つまり長期運用の積立投資をすれば、25年後の55歳で、すでに目標額に達する可能性があるわけです。
また、この比較表を別の角度から見ると、30歳の夫婦が65歳までの35年間の長期運用の積立投資で1,380万円を目指すとすれば、毎月3万3,000円も必要ないことがわかります。35年間で1,380万円を目指す場合、毎月約1万9,000円の積立投資で、目標達成できます。
30代、40代からでも間に合う! 月々の目標金額

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老後資金の目標額を達成するために必要な毎月の費用は、準備を始める年齢によって異なります。そこで年齢別で貯金と積立投資を比較した場合のシミュレーションをしてみました。
〈表〉夫婦:65歳までに1,380万円の老後資金をつくる場合
すべて貯金に充てた場合に必要な金額(円/月) | すべて積立投資に充てた場合に必要な金額(円/月)※ | |
---|---|---|
25歳からスタート | 2万9,000円 | 1万6,000円 |
30歳からスタート | 3万3,000円 | 1万9,000円 |
35歳からスタート | 3万9,000円 | 2万4,000円 |
40歳からスタート | 4万6,000円 | 3万2,000円 |
〈表〉独身:65歳までに920万円の老後資金をつくる場合
すべて貯金に充てた場合 | すべて積立投資に充てた場合※ | |
---|---|---|
25歳からスタート | 2万円 | 1万1,000円 |
30歳からスタート | 2万2,000円 | 1万3,000円 |
35歳からスタート | 2万6,000円 | 1万6,000円 |
40歳からスタート | 2万9,000円 | 2万1,000円 |
このように、貯金と比較した場合には積立投資のほうが、毎月の負担を少なくしながら、老後資金の準備をすることができる可能性があるでしょう。
さらに、早いうちから長期運用の積立投資を始めれば、負担額はより軽減されます。老後資金の準備を考える際には、ぜひ投資も併せて検討してみてください。ただし、投資商品は元本保証がされないものがほとんどです。一定のリスクはあることは理解の上、利用するようにしましょう。
老後資金を上手に貯める6つのポイント
最後に、老後資金をしっかり準備するために心得ておきたいポイントについてまとめておきましょう。
(ポイント1)老後資金の準備は早くから始めよう

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当然のことですが、貯金の場合でも投資の場合でも、早く始めるほど毎月の負担額が少なくなります。特に投資の場合は、運用期間が長いほど複利効果のメリットが得られます。最低限の生活を維持するための生活防衛資金を貯金した上で、すぐに準備を始めるようにしましょう。
(ポイント2)「貯め時」を逃さず準備をしよう

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一般的に、貯金や投資に充てるお金をつくるタイミングは「結婚するまで」「子どもが中学生(または高校生)になるまで」「子どもが独立してから自分がリタイアするまで」の3回といわれています。この「貯め時」には、しっかりと老後資金の準備をしましょう。
(ポイント3)自分が利用できる制度をフル活用しよう

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自営業の場合なら小規模企業共済、シングルマザー・シングルファザーの場合なら児童扶養手当などの補助制度、といったように、働き方や家族構成ごとに、老後資金の準備に役立つ制度が異なります。これらの制度は、自分で申請や手続きをしないと活用できないので、情報収集を欠かさずに行いましょう。
(ポイント4)「働き方」についても考えておこう

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今回の記事で試算した老後資金は、65歳から95歳までの30年間を無職で過ごすことを前提にしたものです。しかし、最近では65歳以上でも現役で働いている方が多くいます。たとえば70歳まで働くと考えれば、「老後」の期間は25年間となりますから、必要な老後資金も5年分少なくなるわけです。
高齢化社会に対応し、長く働くためのしくみも整備されている現在であれば、自分が何歳まで働くかということも予定に入れて、老後資金の金額を考えるとよいでしょう。
その際に大切なのは、元気に働き続けることができる健康維持です。そのための自己投資も、老後の準備のひとつとして考えておきましょう。
(ポイント5)年金の「繰り下げ受給」も検討してみよう

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長く働くことを前提に老後の期間を見直すなら、併せて検討してほしいのが年金の「繰り下げ受給」です。
年金受給の開始年齢は原則65歳からですが、60歳から75歳までの間なら、自分で受け取り開始のタイミングを選ぶことができます。年金の受給開始を遅らせることを「繰り下げ受給」、逆に早めることを「繰り上げ受給」といいます8)。
年金の受給開始を1カ月遅らせるごとに、受け取れる年金額は0.7%ずつ増加します。65歳ではなく70歳から年金を受け取ることにすれば、70歳時点で受け取れる金額は、42%も増やすことができるのです。2022年4月からは75歳まで受け取りを遅らせることができるようになり、この場合受け取れる金額は84%増加します。
逆に、年金の受給開始を早めると、受け取れる金額は減少していきます。これまでは受給開始を1カ月早めるごとに0.5%ずつの減少でしたが、2022年4月から法改正により0.4%の減額率に緩和されるようになりました。
【関連記事】2022年4月の年金制度改正について、詳しくはコチラ
一度年金受給を開始すると、年金額は生涯変更できなくなる点には注意が必要ですが、健康寿命が長くなる傾向にあることを考えれば、もらえる年金額を増やす「繰り下げ受給」は、魅力的な選択肢になるかもしれません。
参考資料
(ポイント6)定期的にライフプランの見直しをしよう

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老後に必要な資金のイメージは、その人の暮らし方や老後にしたいことによって異なります。また、生活スタイルも時代によって変化しますから、今回シミュレーションした老後資金の金額が、必ずしも絶対に必要ということにはなりません。
もちろん、早いうちから老後資金を準備することは大切ですが、それと併せて必要な老後資金の目安については、定期的に見直しすることをおすすめします。
先が読めない時代だからこそ、老後資金の準備はしっかりしておこう
ひとつの会社に長年勤め、退職金と年金で余裕のある老後を過ごすというライフスタイルは、残念ながら過去のものとなりつつあります。老後の生活設計に応じて必要な金額が変わるとはいえ、現在少しでも不安を感じているのなら、なるべく早いうちから老後資金の準備を始めておくべきでしょう。
とはいえ、老後の心配ばかり優先させて、今の暮らしで我慢をしすぎるのも考えものです。長い人生ですから、トータルのバランスを考えて、老後の準備プランを立ててください。