老後の生活費、平均支出は約13万~22万円!
老後を迎えると、毎月いくらの生活費が必要なのでしょうか。総務省が2021年に行った「家計調査」1)をもとに、夫婦世帯と単身世帯それぞれの生活費を確認してみましょう。
夫婦世帯の生活費平均は約22万円
高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上)の、実収入(毎月の平均収入)は23万7,988円。その約90%である21万4,530円が、国からの年金をはじめとした社会保障給付です。また消費支出(毎月の平均生活費)は22万8,305円で、実収入の約96%が生活費に充てられているといえます。
さらに税金や社会保険料など非消費支出3万1,789円を差し引くと、2万2,106円の赤字となっています。
実収入 | 23万7,988円 | |
---|---|---|
消費支出(生活費) | 22万8,305円 | |
生活費の内訳 | 食料 | 6万6,118円 |
住居 | 1万6,425円 | |
水道・光熱 | 1万9,563円 | |
家具・家事用品 | 1万568円 | |
被服・履物 | 5,147円 | |
保健医療 | 1万6,383円 | |
交通・通信 | 2万6,909円 | |
教育 | 7円 | |
教養娯楽 | 1万9,831円 | |
その他の消費支出 (諸雑費・交際費・仕送り金) | 4万7,356円 |
独身世帯の生活費平均は約13万円
高齢単身無職世帯(65歳以上)においては、世帯の人数が少ない分、実収入と消費支出のどちらも夫婦世帯より少なくなっています。実収入が13万5,345円で、その約89%である12万470円は年金などの社会保障給付です。一方、消費支出は、13万2,476円となり、収入のほぼすべてが生活費に充てられているといえます。
なお独身世帯では、税金や社会保険料などの非消費支出1万2,271円を収入から差し引くと、9,402円の赤字が発生しています。
実収入 | 13万5,345円 | |
---|---|---|
消費支出(生活費) | 13万2,476円 | |
生活費の内訳 | 食料 | 3万6,322円 |
住居 | 1万3,090円 | |
水道・光熱 | 1万2,610円 | |
家具・家事用品 | 5,077円 | |
被服・履物 | 2,940円 | |
保健医療 | 8,429円 | |
交通・通信 | 1万2,213円 | |
教育 | 0円 | |
教養娯楽 | 1万2,609円 | |
その他の消費支出 (諸雑費・交際費・仕送り金) | 2万9,185円 |
独身の場合にかかる老後の生活費について、下記記事でより詳しく解説しています。併せてご覧ください。
参考資料
賃貸、持ち家など住居によっても変わる老後資金
老後の住居費は、持ち家と賃貸で大きく異なります。住宅ローンを組んで持ち家を購入した場合、老後生活が始まるまでに完済できれば住居費を抑えられます。しかし老後も返済が続くのであれば、返済負担が家計を圧迫するかもしれません。返済負担を抑えたいのであれば、老後生活を迎える前に一括返済するのがおすすめです。
ただしローンの返済が終わったとしても、持ち家の場合は固定資産税を毎年支払わなければなりません。エリアによっては、都市計画税もかかります。またマンションであれば、管理費・修繕積立金、駐車場代や駐輪場代(契約している場合のみ)もかかります。
賃貸アパートや賃貸マンションなどに住み続けるのであれば、老後も家賃や共益費を支払っていかなければなりません。このように暮らす場所によって、老後の住居費は大きく変わってくるのです。
以下の記事では、老後の住まいについて解説しているので、併せてご覧ください。
【関連記事】老後はマンションだと後悔する?戸建てとの違いや物件選びのコツはコチラ
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生活費以外に必要な老後資金は?
安定した老後生活を送るためには、生活費以外の資金も準備することが大切です。ここでは、生活費のほかに必要になる代表的な費用を解説します。
介護費用
介護が必要な状態になると、訪問介護や訪問入浴などの介護サービスを利用するための費用がかかります。ほかにも、介護ベッドや車イスの購入費用、手すりを設置したり段差を解消したりするための自宅の改修費用も必要になるかもしれません。
40歳以上の方は、公的介護保険に加入しているため、老後生活で介護が必要な状態になると所定の介護サービスを1~3割の自己負担で利用が可能です※。さらには1カ月で支払った自己負担額が所定の限度額を超えた時は、高額介護サービス費を申請すると超過分を払い戻してもらえます。
一方で公的介護保険の給付を受けられたとしても、介護費が高額になる可能性はあるため、自分自身でも資金を準備しておきましょう。
2021年の生命保険文化センターの調査2)によると、毎月の介護費用は平均で8万3,000円です。また住宅改修や介護用ベッドの購入など一時的な費用の平均は74万円でした。介護期間の平均は61.1カ月(約5年1カ月)であることを踏まえると、8万3,000円×61.1カ月+74万円=581万1,300円の介護費用が発生しています。
〈図〉月額介護費用の平均
〈図〉介護期間の平均
平均値をもとにした試算結果にすぎませんが、介護に備えて約580万円の資金が必要になる可能性があります。家族に金銭的な負担をかけないためにも、介護費用は計画的に準備しておきたいものです。
※介護が必要な度合いや所得などに応じた利用上限額があります。
住環境の整備費用
家は時間とともに老朽化していくため、壁や床、水回り(キッチン、トイレ)などは定期的なメンテナンスが必要です。戸建て住宅では、外壁や屋根などの修繕費用も準備しなければなりません。持ち家に住んでいるのであれば、修繕費用を計画的に準備しましょう。
まとまった資金を準備できていれば、風呂やトイレなどを最新のものに取り替えられるだけでなく、リノベーションをして老後も暮らしやすい間取りにすることも可能です。現在の家を引き払って、老後に生活しやすい広さの家を購入し直したり、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅へ入居したりといった選択肢も増えるでしょう。
暮らしの環境を整えるための費用を準備しておくと、老後の生活をより快適なものにできます。どのような住環境で老後を送りたいのか考えて、資金を準備しましょう。
葬儀費用・お墓の購入費用
老後の資金計画を立てる時は、亡くなったあとの葬儀費用やお墓の購入費用、遺品の整理費用なども支出として見込んでおきましょう。
株式会社鎌倉新書の調査3)によると、葬儀費用や飲食費、返礼品代などは平均184万円です。また同社の調査では、一般的なお墓の購入価格は平均で169万円です。葬儀費用と合計すると、約353万円もの費用がかかります。
一方で、葬儀費用は会場の規模や参列者の数などで異なります。お墓については、樹木葬や納骨堂などを選択して費用を抑えることもできるでしょう。ご自身の希望も踏まえて、葬儀代やお墓の購入費を考えてみましょう。
参考資料
3)株式会社鎌倉新書「第4回お葬式に関する全国調査」「お葬式に関する全国調査(2013-2020年)」
子ども・孫への援助資金
子どもや孫がいる場合には、資金を援助したいと考える方は少なくありません。子どもの結婚費用や新居の購入費用、孫の誕生祝いや進学資金など援助する方法は様々です。
老後を迎えたあと、子どもや孫を経済的に支援したいのであれば、援助資金も見込んで必要な老後資金を試算しましょう。
支出に対して、収入はどうなる?
必要な老後資金を試算する時は、生活費をはじめとした支出だけでなく収入も考えなければなりません。ここでは、老後資金の必要額の考え方や、老後の年金収入について解説します。
「2,000万円問題」は収入と支出の差から来ている
そもそも、なぜ老後資金に2,000万円が必要といわれ始めたのでしょうか。これは、2019年に発表された金融庁の報告書4)が発端です。
報告書には、総務省が2017年に公表した「家計調査報告」5)のデータが引用されました。そして「高齢夫婦無職世帯では毎月5万5,000円の赤字が発生するため、20年で約1,300万円、30年で約2,000万円の金融資産を取り崩す必要がある」といった旨が記載されたのです。この記述だけが話題となった結果、老後2,000万円問題といわれるようになったのです。
しかしこれは、あくまで調査結果に記載されている平均値をもとにした数値にすぎません。前述のとおり、2021年は毎月2万2,106円の赤字、一方で新型コロナウイルス感染症の影響により支出が減った2020年では1,111円の黒字6)というように、同じ高齢夫婦無職世帯でも平均収支は毎年変わってきます。
とはいえ、将来的に平均寿命が100歳に到達するといわれている中、老後資金が不要とはいい切れません。大切なのはご自身の世帯における老後の収支から、必要な資金額を考えることです。
年金のしくみを改めて確認しよう
日本では「国民皆年金」を採用しており、年齢などの要件を満たす方は、必ず公的年金保険に加入しなければなりません。公的年金保険には、大きく分けて1階部分の「国民年金」と、2階部分の「厚生年金」の2種類があります。日本国内に住む20代以上60歳未満のすべての方が国民年金に加入し、さらに会社員や公務員などは厚生年金にも加入するしくみです。
〈図〉公的年金保険の種類
国民年金に加入している方は、原則として65歳から老齢基礎年金を受給できます。老齢基礎年金の受給額は、加入していた期間や保険料の支払いを免除してもらっていた期間などで決まります。厚生年金に加入した期間があれば「老齢厚生年金」も受給が可能です。受給額は、厚生年金の加入期間や働いていた時の収入などで決まります。
年金は、個人によって受給額が大きく異なります。老後資金を準備する時は、自分自身がいくらの年金を受給できるのかを知ることが大切です。
自分が将来受給できる公的年金額は調べられる
年金の受給見込額は「ねんきん定期便」と「ねんきんネット」7)で調べられます。ねんきん定期便は、毎年の誕生月に、公的年金保険の加入者に送られる書類です。これまで加入していた期間や支払った保険料等に応じた年金見込額が記載されています。
ねんきんネットは、インターネット上で年金見込額や年金加入履歴などが確認できるサービスです。職業や収入など、詳細な期間を設定して、将来の年金額をシミュレーションすることもできます。またパソコンだけでなく、スマートフォンからも閲覧が可能です。
ねんきん定期便の見方については、下記記事で詳しく解説しています。
【関連記事】ねんきん定期便の見方。最低限チェックすべき項目と何がわかるかを解説した記事はコチラ
老後の収支が赤字になるなら…。老後資金を準備するには?
自分自身の老後生活を考えた時、収入よりも支出のほうが多い可能性がある場合、どのように資金を準備すればよいのでしょうか。
企業からの退職金を老後資金にしようと考えている方は多いでしょう。しかし退職金だけで、老後資金のすべてを準備するのは困難であるため、ほかの方法も検討する必要があります。
退職金は年々減少傾向に
定年退職金は、会社を定年まで勤め上げてくれた従業員の老後の生活を金銭的に支える意味合いで支給されるお金です。
退職金は、年々減少傾向にあります。厚生労働省の調査9)によると、大学・大学院卒の退職金額は、2003年に2,499万円であったのが、2018年には1,788万円へと減少しました。
基本的に退職金は、勤続年数が長いほど支給額が増えます。すでに終身雇用は崩壊したといわれており、これから転職をするのが当たり前の時代となりつつある中、退職金の支給額は今後さらに減少していくと考えるのが妥当でしょう。そのため貯蓄や投資などで積極的に老後資金を確保することが大切です。
参考資料
9)厚生労働省「平成15年就労条件総合調査の概況」「平成30年就労条件総合調査」
老後資金は貯金だけでなく投資も活用しよう
2022年4月現在、日本は歴史的な低金利ということもあり、銀行にお金を預けていても効率的な資産形成は期待できないと考えられます。そこで、預貯金と投資を組み合わせて老後資金を準備するとよいでしょう。近年は、iDeCoやつみたてNISAといった、初心者でも投資を始めやすい制度が利用できます。
たとえば預貯金のみで35歳から毎月5万円を積み立てると、65歳までに準備できる老後資金は1,800万円です。仮に5万円のうち2万5,000円を投資に回し、年利3%の複利で運用できると合計で2,347万円の老後資金を準備できます。
もちろん投資をしたからといって、必ず年利3%以上の複利で運用できるとは限りません。どの程度のリスクまで許容できるのか考えた上で、ご自身に合った配分で投資も組み合わせ、老後資金を準備するのがおすすめです。
【関連記事】老後資金を貯めるために、何歳から月々いくら投資に回せばいい? 詳しく解説した記事はコチラ
老後資金は自分のライフスタイルをもとに準備を始めよう
老後資金は、平均値を参考にしながら、希望する老後のライフスタイルや受給できる年金額をもとに考えることが重要です。より正確な老後資金額を知りたいのであれば、ファイナンシャルプランナーに算出してもらうのも1つの方法です。
一方で老後のことばかり考えて、現在の生活や子どもの教育をおろそかにしては本末転倒といえます。現在の生活に支障が出ない範囲で、少しずつ老後資金の準備を始めてみてはいかがでしょうか。