この記事では、社会保険労務士でファイナンシャルプランナーの岡佳伸さん監修のもと、任意継続のメリットをわかりやすく解説します。任意継続をするための手続きも解説するので、ぜひご覧ください。
※この記事は、2024年3月19日に公開した内容を最新情報に更新しています。
この記事の監修者
岡 佳伸(おか よしのぶ)
社会保険労務士法人岡佳伸事務所代表。特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、宅地建物取引士。
大手人材派遣会社、自動車部品メーカーなどで人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険給付業務、助成金関連業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として活躍。各種講演会(東京商工会議所練馬支部、中央支部、公益社団法人東京ビルメンテナンス協会)講師および各種WEB記事執筆。日経新聞、読売新聞、女性セブンなどに取材記事掲載のほか、NHK「あさイチ」に専門家ゲストとしても出演(2020年12月21日、2021年3月10日)。
健康保険の任意継続制度とは?
健康保険の任意継続制度とは、これまで勤めていた会社の社会保険に退職後も最大2年間継続加入できる制度です。詳しい内容は、以下の表を参照ください1)。
〈表〉健康保険の任意継続の詳細
項目 | 内容 |
---|---|
条件 | 資格喪失日の前日までに被保険者の期間が継続して2カ月以上ある |
申請方法 | 退職日の翌日から20日以内に、住んでいる都道府県の協会けんぽなどへ「資格取得申出書」を申請する |
任意継続できる期間 | 最大2年間 |
福利厚生 | 利用可能 |
扶養家族 | 引き続き被扶養者にできる |
会社を退職すると社会保険の加入資格を喪失します。しかし、上記の条件を満たせば、職場の社会保険にそのまま加入し続けられます。
任意継続では加入していた社会保険の福利厚生も引き続き利用できます。福利厚生の内容を改めて確認しておくといいでしょう。
任意継続被保険者の資格を喪失するのはどんな時?
では、任意継続の資格を喪失するのはどんな時でしょうか。以下の6つがそれにあたります1)。
1.任意継続被保険者となって2年が経過した時
2.保険料を納付期限までに納付しなかった時
3.就職して社会保険などに再加入する時
4.後期高齢者医療制度の対象となった時
5.任意継続被保険者でなくなることを希望する旨を申し出た時(申出が受理された日の属する月の翌月1日)
6.自身が亡くなった時
任意継続の加入期間は2年間のみです。2年を経過すると任意継続の資格を喪失するため、国民健康保険などへ加入して健康保険の空白期間をつくらないようにしましょう。任意継続期間中に再就職して職場の健康保険に加入する場合や75歳を迎えて後期高齢者医療制度の対象となった場合は、自動的にそれらの保険に切り替わります。
また、任意継続期間中に自身が亡くなった時や保険料を納付できなかった場合も、資格を喪失します。特に保険料を納め忘れてしまうと、期限翌日に資格を喪失してしまいます。任意継続の資格は、一度喪失してしまうと再取得できないため、必ず期限までに納付するようにしましょう。
なお、健康保険から国民健康保険への切り替えのタイミングや空白期間の対処法については、以下の記事で詳しく解説しています。気になる人は確認してみてください。
【関連記事】健康保険から国民健康保険に切り替えるタイミングについて、詳しくはコチラ
【関連記事】健康保険の切り替え時の空白期間の対処法について、詳しくはコチラ
また、健康保険についてより詳しく知りたい人は、以下の記事も参考にしてみてください。
【関連記事】健康保険とは? 制度の基本について、 詳しくはコチラ
健康保険を任意継続するメリット
健康保険の任意継続には、以下の5つのメリットがあります。
メリット①国民健康保険より保険料を抑えられる場合がある
メリット②健康保険の未加入状態を回避できる
メリット③健康保険の福利厚生を継続して利用できる
メリット④家族の扶養を外さなくていい
メリット⑤任意継続の保険料は確定申告で社会保険料控除になる
任意継続では、収入額によって国民健康保険よりも保険料を抑えられる可能性があります。詳細は後述しますが、たとえば、協会けんぽに加入している月収40万円以上の人は、国民健康保険へ切り替えるよりも、健康保険を任意継続したほうがメリットを受けられます。
健康保険料の負担率は、加入している健康保険によって異なります。現在加入している健康保険の負担額がいくらなのかを把握した上で、任意継続と国民健康保険のどちらが保険料を抑えられるか事前にチェックしましょう。
また、会社を退職すると社会保険の加入資格を失うので、別の社会保険に加入するか、国民健康保険に切り替える必要があります。社会保険の切り替えをしないと、保険に加入していないとみなされます。健康保険に入っていない期間は、医療費が全額自己負担になります。しかし、任意継続をすれば社会保険の未加入状態を防ぐことが可能です。医療費の負担も今までと変わりません。
健康保険の任意継続では国民健康保険にはない福利厚生を利用できるのもメリットといえます。加入している社会保険によっては、旅先での割引や介護サービスの割引といった福利厚生も用意されているでしょう。
任意継続する場合、要件を満たしていれば家族の扶養を外す必要もありません。国民健康保険への切り替えでは家族全員分の加入と保険料の支払いが必要です。しかし、任意継続であれば、家族を扶養に入れたままにできるため、被扶養者分の保険料を支払う必要はありません。
会社を退職して個人事業主になる人も、任意継続のメリットを実感できます。支払った保険料は「社会保険料控除」の対象です。任意継続の保険料は確定申告の際に全額控除できます。任意継続の保険料は年間で数十万円かかる場合もあります。全額控除できれば所得を減らせて節税にもつながりやすいのです。独立直後の税負担を抑えたい人は、任意継続を検討しましょう。
健康保険を任意継続するデメリット
健康保険の任意継続をする際のデメリットは、以下の3つです。
デメリット①保険料は全額自己負担になる
デメリット②国民健康保険より保険料が高くなる場合がある
デメリット③保険料を滞納すると加入資格を喪失する
任意継続をする場合、保険料は全額自己負担になります。社会保険の保険料は、会社と自身で折半して負担します。しかし、退職するとすべての保険料を支払う必要があります1)。今までの2倍の保険料がかかるため、人によっては負担に感じるケースもあるでしょう。
保険料の負担増に伴い、収入次第では国民健康保険よりも保険料が高くなることもあります。国民健康保険とどちらの負担が少ないかはしっかりと比較することが大切です。国民健康保険料の負担額は市区町村ごとに異なるため、事前に問い合わせて確認しておくといいでしょう。
また、任意継続は最大2年間ですが、保険料を滞納すると社会保険の加入資格を喪失してしまいます。一度任意継続の資格を喪失すると、再取得が一切できません。別の健康保険への加入手続きか国民健康保険への切り替えが必要となるため、手間もかかります。任意継続で保険料を抑えたい人は、一度納め忘れてしまうと保険料の負担が増えたり社会保険に加入していない時期が生まれたりといいことがありません。資格を喪失しないよう、保険料を忘れずに納付しましょう。
健康保険の任意継続の保険料
任意継続の保険料は、原則、退職時の標準報酬月額で決まります。標準報酬月額とは、月々の給与を切りのいい金額で区分した報酬額のことです。標準報酬月額と保険料率を掛けることで、保険料を算出できます。
たとえば、40歳未満で額面給与が20万円だった人の場合、任意継続の保険料は以下のとおりです2)。
〈表〉任意継続を選択した場合の保険料の変化
会社に勤めていた時の保険料 | 9,980円/月 |
---|---|
任意継続時の保険料 | 1万9,960円/月 |
任意継続を選択した場合の保険料は、単純計算で会社に勤めていた時の2倍です。
協会けんぽでは、2023年度の任意継続者の標準報酬月額の上限を30万円としています。会社での給与が40万円や50万円であっても、社会保険の計算上では標準報酬月額30万円で計算されます(※1)(※2)。「令和6年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表」によれば、毎月62万円以上の給与を受け取っている人は退職時に任意継続を選択すると今までよりも少ない保険料で引き続き社会保険に加入できます2)。
- 標準報酬月額30万円の被保険者における2024年3月分からの任意継続保険料=2万9,940円
- 標準報酬月額62万円の被保険者における2024年3月分からの健康保険料負担額(折半額)=3万938円
協会けんぽに加入している人は、高所得者ほど支払う保険料を抑えられると覚えておきましょう3)。
※1:標準報酬月額の上限は、各健康保険組合の平均標準報酬月額に基づくため、加入している社会保険の種類により異なります。
※2:一部の健康保険組合では標準報酬月額の上限を設けずに、退職した時の標準報酬月額のみで計算します。
健康保険の任意継続と国民健康保険、どっちがいい?
「任意継続と国民健康保険のどちらが保険料を抑えられるか」については、現在加入している健康保険や月収により異なります。ここでは、協会けんぽに加入している人を例に、任意継続と国民健康保険のどちらが負担を減らせるかを解説します。
協会けんぽに加入している人であれば、月収約40万円以上の世帯主なら国民健康保険よりも任意継続をしたほうが保険料の面でメリットがあるでしょう。
東京都江戸川区在住で月収が30万円の場合と40万円の場合を想定し、毎月の保険料の支払いモデルケースを以下にまとめました2)4)。なお、扶養家族の有無や住んでいる地域などによって保険料は異なるため、あくまで目安としてご覧ください。
〈表〉月収30万円の会社員30歳男性の場合
項目 | 内容 |
---|---|
任意継続 | 30万円(額面給与)×9.98%(保険料率)=2万9,940円(保険料) |
国民健康保険 | ①給与収入−所得控除=給与所得 360万円−116万円=244万円 ②給与所得−基礎控除額=算出基礎所得 244万円−43万円=201万円 ③算出基礎所得×8.00%=医療分所得割 201万円×9.40%=18万8,940円 ④(加入者数−未就学児数)×5万1,600円+未就学児数×2万5,800円=医療分均等割 (1−0)×5万1,600円+0×2万5,800円=5万1,600円 ⑤算出基礎所得×3.15%=後期高齢者支援金分所得割 201万円×3.15%=6万3,315円 ⑥加入者数−未就学児数×1万7,400円+未就学児数×8,700円=後期高齢者支援金分均等割 (1−0)×1万7,400円+0×8,700円=1万7,400円 ⑦医療分所得割+医療分均等割+後期高齢者支援金分所得割+後期高齢者支援金分均等割=年間保険料 18万8,940円+5万1,600円+6万3,315円+1万7,400円=32万1,255円 ⑧年間保険料÷12=月額保険料 32万1,255円÷12=2万6,771円 |
〈表〉月収40万円の会社員30歳男性の場合
項目 | 内容 |
---|---|
任意継続 | 30万円(標準報酬月額上限)×9.98%(保険料率)=2万9,940円(保険料) |
国民健康保険 | ①給与収入−所得控除=給与所得 480万円−140万円=340万円 ②給与所得−基礎控除額=算出基礎所得 340万円−43万円=297万円 ③算出基礎所得×9.40%=医療分所得割 297万円×9.40%=27万9,180円 ④(加入者数−未就学児数)×5万1,600円+未就学児数×2万5,800円=医療分均等割 (1−0)×5万1,600円+0×2万5,800円=5万1,600円 ⑤算出基礎所得×3.15%=後期高齢者支援金分所得割 297万円×3.15%=9万3,555円 ⑥加入者数−未就学児数×1万7,400円+未就学児数×8,700円=後期高齢者支援金分均等割 (1−0)×1万7,400円+0×8,700円=1万7,400円 ⑦介護該当者の所得×2.63%=介護分所得割 0円×2.63%=0円 ⑧介護該当人数×1万8,000円=介護分均等割0×1万8,000円=0円 ⑨医療分所得割+医療分均等割+後期高齢者支援金分所得割+後期高齢者支援金分均等割+介護分所得割+介護分均等割=年間保険料 27万9,180円+5万1,600円+9万3,555円+1万7,400円+0円+0円=44万1,735円 ⑩年間保険料÷12=月額保険料 44万1,735円÷12=3万6,811円 |
上記のモデルケースを見ると、任意継続でメリットがあるのは月収約40万円からといえます。協会けんぽの場合、任意継続被保険者の標準報酬月額の上限は30万円のため、所得が大きいほど国民健康保険より保険料を抑えられるでしょう。
また、特に任意継続がおすすめなのは、扶養家族がいる場合です。任意継続では、世帯主のみが保険料を支払い、扶養家族分の保険料は発生しません。この意味でも、家族全員に保険料がかかる国民健康保険と比較すると保険料を抑えられるでしょう。
家族全員分を含めてシミュレーションし、メリットのあるほうを選びましょう。
健康保険の任意継続するための手続き
これまでの会社で加入していた社会保険をそのまま任意継続する場合には、以下の手続きをしましょう。
①必要書類を取得する
②申請書へ記入する
③健康保険組合などに送付する
④新しい健康保険証を受け取る
任意継続の手続きは退職日から20日以内に行う必要があります1)。
必要書類は任意継続の資格取得に関する申請書です。家族を扶養に入れる場合には、扶養者届も必要になるので、加入している健康保険組合のウェブサイトなどから別途取得しましょう。
健康保険を任意継続する際の注意点
任意継続の手続きで気をつけたいのは、健康保険証や資格確認書(マイナ保険証を発行していない人に交付されるもの)です。マイナ保険証を使用している場合は問題ありませんが、健康保険証や資格確認書を使用していた場合は、会社にそれらを返却する必要があります。
資格確認書を使用し続ける場合、新しい資格確認書が交付されますが、手元に届くのは任意継続被保険者への加入手続きが完了してからです5)。そのため、資格確認書を携帯できない期間が発生するので注意が必要です。
なお、マイナ保険証を使用していて、任意継続被保険者への加入手続き中だったり、資格確認書がまだ発行されていなかったりする場合は、医療機関の窓口では健康保険証の切り替え中である旨を伝えましょう。このような申し立てを行うことで、医療機関窓口で原則3割の自己負担で受診できたり、あるいは全額支払ったとしても、その間に支払った医療費はあとで療養費として精算手続きができたりします。
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健康保険の任意継続に関するよくある質問
健康保険の任意継続に関する質問や疑問をまとめました。退職前や保険の切り替え時の参考にしてみてください。
Q1.任意継続している状態で就職したらどうなる?
健康保険の任意継続をしている最中に就職が決まった場合、新しい職場の社会保険に加入します。そのため、任意継続は新しい健康保険への加入日をもって資格喪失となります。
任意継続の被保険者でなくなる場合は、加入している健康保険協会や健康保険組合などに「資格喪失申出書」を提出しましょう。また、保険料を払いすぎていた場合は還付が生じます。還付請求をして、保険料の払い戻しをしてもらいましょう6)。
Q2.任意継続の場合の医療費は何割負担?
任意継続の場合の医療費負担はこれまでと変わりません。69歳未満の人は3割、70歳から74歳までの人は2割(一定の所得がある人〈退職時の標準報酬月額が28万円以上〉は3割)です7)8)。
ただし、退職日の翌日から任意継続の資格取得までに間が空き、その間に通院することがあれば一度すべての医療費を自費で立て替える必要があります。
任意継続のメリットとデメリットを把握して、利用するか考えよう
会社を退職したあとも、社会保険の任意継続ができます。人によっては国民健康保険よりも任意継続のほうが保険料を抑えられる可能性があります。任意継続を選ぶ上では、メリットやデメリットの両方を把握し、判断しましょう。
任意継続が特におすすめなのは、子育て世帯です。保険料がかかるのは世帯主のみのため、扶養家族の保険料を支払う必要はありません。この記事で紹介したポイントをしっかりおさえ、自分に適した方法を選びましょう。