ライフプランに関する書籍やネット記事を読むと、「民間の医療保険は、本当に必要なの?」というテーマを扱っているものが多くあります。考え方は人それぞれですし、必要派・不要派に意見がわかれるのも当然ですが、皆さんはどのように考えるでしょうか?

そこで、あらためて民間の医療保険について考えるヒントが得られるように、公的医療保険と民間の医療保険との違いから、民間の医療保険のメリット、賢く利用するために知っておきたいポイントなどを、ファイナンシャル・プランナーの荒木千秋が解説します。

一生の間に必要な医療費は2,724万円

最初に、一生の間に必要な医療費がどれくらいになるかをイメージしておきましょう。

厚生労働省の発表1)では、平成29年度の1人当たりの一生の間にかかる医療費は2,724万円(男女別だと、男性は2,622万円、女性は2,831万円)と推計しています。

私たちの医療保険制度をもとに、推計データから生涯の医療費の自己負担額を、小学生以上69歳以下が3割、小学生未満と70歳以上74歳以下が2割、75歳以上が1割として計算すると、およそ500万円の医療費を一生のうちに支払っていることになります。

もちろん大きな病気をすれば、これ以上の金額を負担する可能性もあるわけです。

民間の医療保険不要派の意見

画像1: 画像:iStock.com/maroke

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生涯でおよそ500万円もの医療費を負担する可能性があるにもかかわらず、民間の医療保険は不要と考える人も一定数存在しています。では、不要と考える人は、なぜそう思うのでしょうか? 話を聞くと次のような意見が出てきました。

「公的医療保険で十分じゃない?」

まずは、日本では公的な医療保険制度が整備されているので、民間の医療保険がなくても十分だとする意見です。

医療保険制度があることによって、病気やケガをした時にかかった医療費を、患者は多くても3割負担するだけで済んでいます。

それだけでなく、医療費が高額になったとしても「高額療養費制度」があるため、医療費の自己負担は一定額に抑えられるしくみになっています。

高額療養費制度とは、1カ月間の医療費が自己負担限度額を超えた時、超えた金額が支給される制度のこと。自己負担限度額は69歳以下と70歳以上で計算方法が異なります。ここでは、69歳以下を例に説明します。

69歳以下の場合、自己負担限度額は所得によって5つに区分されています。

〈表〉69歳以下の方の上限額

適用区分1カ月の上限額(世帯ごと)
年収約1,160万円~252,600円+(医療費-842,000)×1%
年収約770~約1,160万円167,400円+(医療費-558,000)×1%
年収約370~約770万円80,100円+(医療費-267,000)×1%
~年収約370万円57,600円
住民税非課税者35,400円
厚生労働省保険局「高額療養費制度を利用される皆さまへ(平成30年8月診療分から)」2)を基に作成

たとえば、年収が約400万円の会社員Aさん(30歳)が20日間入院して、100万円の医療費がかかったとしましょう。その場合の自己負担限度額は、87,430円。計算式は以下のようになります。

80,100円+(医療費−267,000円)×1%

本来は、医療費100万円のうち3割負担の30万円を支払う必要があるのですが、高額療養費制度のおかげで87,430円の支払いで済むわけですね。

〈図〉Aさんの自己負担額

画像: 総額が100万円でも、最終的なAさんの自己負担額は87,430円になる

総額が100万円でも、最終的なAさんの自己負担額は87,430円になる

入院時の食費代の一部や差額ベッド代、先進医療の技術料など、高額療養費制度の対象外になる費用もありますが、これだけ負担してくれるのなら、公的医療保険で充分と考える人が多いのも納得です。

「貯蓄でカバーできるんじゃない?」

また、公的医療保険で賄える範囲以上の医療費は、「民間の医療保険ではなく、自分の貯蓄でカバーできそうだから」とも聞くことができました。

仮に、先ほどの会社員Aさんが、23歳の時に1カ月の保険料が2,700円の医療保険に加入していたとしましょう。このケースだと、30歳に病気になるまで支払った保険料の総額は、単純計算で2,700円×12カ月×7年=226,800円となります。

Aさんは、自己負担限度額が87,430円でしたから、支払った保険料と同額の226,800円を貯蓄していれば、医療費を支払っても、差し引きで139,370円の貯蓄が残るというわけです。

〈図〉Aさんの自己負担額と貯蓄の比較

画像: Aさんの自己負担額と貯蓄の比較

Aさんの自己負担額と貯蓄の比較

もちろん、貯蓄の目的には医療費以外の備えも含まれるため、一概にはいえませんが、これもまた、民間の医療保険が不要と考える根拠のひとつといえるでしょう。

民間の医療保険必要派の意見

画像2: 画像:iStock.com/maroke

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一方、医療保険がやっぱり必要だとしている人にも話を聞きました。

「病気にはいつなるかわからない」

先ほどの会社員Aさんの場合は、7年貯めていたので自己負担限度額を充分にカバーすることができました。しかし、病気にいつなるかなんてわかりませんよね? その「いつか」に備えるため、民間の医療保険に頼りたいとおっしゃっていました。

極端な話、明日病気になるかもしれません。社会人になって間もない人や結婚してすぐの人などは、貯金額が少ない場合もあり、そこで大きな病気やケガを患ってしまうと急に経済的負担が降りかかることになります。

厚生労働省の調査「平成28年 国民生活基礎調査の概況」3)によると、29歳以下の世帯主がいる家庭において、1世帯あたりの平均貯蓄額は154.8万円ですが、平均借入額は263.4万円と貯蓄額を上回ります。

もちろん、先に示した通り、高額療養費制度はありますが、それでも大きな経済的負担になることは避けられませんし、重病で長期の休暇となれば、給与が減少する可能性も考えられます。

このように貯蓄だけで対応できない負担額に明日から備えられるのが、医療保険の特徴なのです。

「公的医療保険だけではカバーできない費用が心配だ」

さらに、高額療養費制度の対象にならない医療費や、入院にかかる諸費用で、家族に金銭面の心配をさせたくないとの声も聞きました。

民間の医療保険が必要と考える人にとって、大きな根拠となるのは、公的医療保険だけでは賄えない治療等に対する備えです。では、どのような費用がカバーできないのでしょうか。

まず、先進医療の技術料などの特殊な治療は、高額療養費制度の対象外となります。また、入院する場合、通常6人部屋などの大部屋は公的医療保険の対象となりますが、少人数の部屋や個室は、差額のベッド代がかかる場合が大半で、これも高額療養費制度の対象からは外れます。

また、入院には治療費以外の出費もかさみます。入院時の衣類や日用品以外にも、テレビ代や冷蔵庫代がかかる病院もあります。ある病院では、テレビを半日付けて800円弱、冷蔵庫が1日200円、例えば16日間入院で16,000円ほどかかります4)。さらには、お見舞いなどにかかる家族の交通費も、意外に大きな出費のひとつとなります。

実際に病気になって、自分の望む環境で、望む治療を受けるための準備ができていれば安心ですよね。

このような、公的医療保険だけでは賄えない出費をカバーする、ひとつの手段となるのが民間の医療保険というわけなのです。

参考資料
4)厚生労働省「平成30(2018)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況」より。一般病床の平均在院日数は16.1日。

民間の医療保険とはそもそもどんなもの?

画像: 画像:iStock.com/Chatchai Limjareon

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民間の医療保険が必要か不要かを検討するためにも、まずは、民間の医療保険の基本について知っておきましょう。

医療保険に加入する目的

民間の医療保険の加入目的は、病気やケガの入院・手術にお金の面で備えることです。

いつ、どのような病気にかかるかは、誰にもわかりません。そのため、医療費がいくらかかるかも予測ができません。また、まとまったお金を貯めるまでには時間がかかります。そのために医療保険が頼りになるのです。

主な保障と概要

民間の医療保険の主な保障は、「入院給付金」と「手術給付金」にわけられます。「入院給付金」のうち、火災や事故などケガで入院した場合に受け取れるのが「災害入院給付金」、病気で入院した場合に受け取れるのが「疾病入院給付金」です。

〈表〉医療保険の主な保障と概要

(1)入院給付金
(災害入院給付金、
疾病入院給付金)
・ケガや病気で入院した場合に受け取れる
・支給額は入院日数によるものが多い
・契約によって入院限度日数が異なる
(2)手術給付金・ケガや病気で手術を受けた場合に受け取れる
・支給額は主に手術内容や入院の有無による

さらに、自分の目的に応じた保障を「特約」として組み合わせることもできます。代表的なものとしては、女性特有の病気に備える「女性疾病特約」や、特定の疾病に備える「生活習慣病入院特約」「がん入院特約」、先進医療に該当する治療を受けると対象になる「先進医療特約」などがあります。

民間の医療保険の種類

保障期間で考えた場合、民間の医療保険は「終身タイプ」と「定期タイプ」に分類することができます。「いつまで保障されるのか」は、医療保険を選ぶ上で大切なポイントといえるでしょう。

(1)終身タイプ

終身タイプは、一生涯の保障が続く医療保険です。「60歳まで」など期間を決めて保険料を払い込む「有期払込タイプ」や、保険料を一生涯払い込む「終身払込タイプ」があります。加入した時点の保険料が生涯続くので、若い時に加入していれば安い保険料で続けられるのがメリットといえます。

(2)定期タイプ

定期タイプの医療保険は、保障の期間が決まっています。たとえば5・10・15年満了など、一定期間が終わるたびに更新できる「年満了タイプ」があり、更新ごとに保険料が上がるのが一般的です。60歳や80歳など一定の年齢まで保障される「歳満了タイプ」もあります。

〈表〉終身タイプと定期タイプの違い

終身タイプ定期タイプ
保険期間一生涯一定期間
保険料一定更新ごとに上がる
満期ないある

限定告知型保険

一般的に、保険に加入するには健康状態の告知をしなければなりません。しかし、持病などがある人にとっては、加入の障壁を感じてしまいがちです。そんな健康状態に不安がある人向けの医療保険として「限定告知型保険(引受基準緩和型保険・選択緩和型保険)」があります。過去に病気をしていて健康状態に不安がある人でも、告知項目に該当しなければ、持病があっても加入できるタイプの医療保険です。

ただし、保険料は割高になります。契約前から治療している病気の悪化や治療歴のある病気での入院給付金・手術給付金の支払が対象外になるなどの特徴があります。

医療保険はいくらもらえる?

画像: 画像:iStock.com/takasuu

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民間の医療保険を利用する上で、もっとも気になるのは、もしもの場合の保障額でしょう。

各保障でもらえる金額

入院給付金も手術給付金も、基本的な保障のしくみは同じです。しかし、医療保険の商品ごとに、受け取ることができる金額は大きく異なります。保険料だけに注目せず、自分の考えにあった医療保険選びが大切です。

一般的な保障のしくみと、どんな時にいくら受け取れるのかを確認しましょう。

入院給付金

入院給付金は、「入院日額×入院日数分」というように、入院1日につき受け取れる金額が決まっているのが一般的です。医療保険によっては、入院日数に関わらず一時金として受け取れるタイプや、5日以内の入院では、入院日額×5といった一律の金額が支給されるタイプもあります。

手術給付金

手術給付金は、「入院日額の何倍」と計算するのが一般的で、手術の種類によって倍率が決まっています。また、保障対象の手術であれば「一律50,000円」と一定の額が決まっているタイプもあります。

医療保険給付額の一般的な算出方法

では、入院日額10,000円のプランの医療保険に入っている会社員Cさんを例に給付額を算出してみましょう。

Cさんが20日間入院し、倍率が10倍の手術した場合、医療保険の給付額は以下のようになります。

(一般の計算式)
医療保険の給付額=入院給付金+手術給付金
(各給付額の計算式)
・入院給付金=10,000円×20日=200,000円
・手術給付金=10,000円×10倍=100,000円

よって 給付額=200,000円+100,000円=300,000円を受け取ることができます。

医療保険の比較ポイント

では、医療保険の加入時にどのようなポイントに注目すればいいかを解説していきます。

入院給付金の比較ポイント

入院給付金で比較する際のポイントは、

  • 入院日額の金額
  • 入院後、何日目から入院給付金が受け取れるのか
  • 入院の支払限度日数・通算支払限度日数は何日か

などです。自分が入院した場合にどのくらい費用がかかるのかを具体的にイメージすると比較するとよいでしょう。

手術給付金の比較ポイント

また、手術給付金で比較する際のポイントは、

  • 対象の手術にはどんな手術があるか
  • 給付金は、手術ごとに異なる倍率なのか、一定額なのか

などがあります。手術ごとに倍率が異なる場合、保険会社によって細かい設定をしていることもあります。複数の医療保険を比較して、自分にあったものを選びましょう。

医療保険の申請方法

画像: 画像:iStock.com/MangoStar_Studio

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万が一の事態に陥った場合でも、医療保険に加入していれば、自動的に保険金が支払われるというわけではありません。ここでは、保険金を受け取るための手続きや注意事項について解説しましょう。

保険金の受け取りに必要な書類

保険金を受け取るために必要な書類は、医療保険の種類によって異なります。一般的には以下の3点が必要になります。

  • 保険会社所定の給付金請求書
  • 診断書
  • 公的な本人確認資料のコピー

ちなみに、入院期間が短いなどの条件付きで、診断書を省略して給付金請求書と領収書のみで対応できる保険会社もあります。

申請から振込までにかかる期間はどのくらい?

書類に不備がなければ、保険会社に書類が到着してから振込までにかかる期間は平均1週間程度です。ただし、診断書の作成にはおおむね2週間程度の時間がかかるのが一般的ですので、入院中に作成を申請できる病院であれば、準備を進めておきましょう。

申請の一般的な手順

(1)証券番号を確認する
(2)入院日や手術名を記載した明細を準備する
(3)保険会社へ連絡し必要書類を請求する
(4)必要書類を提出する

(1)証券番号を確認する

はじめに、証券番号がわかる書類を準備します。契約時に送られてくる保険証書や、契約確認のために定期的に保険会社から送られてくる書類に、証券番号が記載されています。

証券番号がわからなかった場合、電話等で保険会社に問い合わせると回答してくれるので、心配する必要はありません。

(2)入院日や手術名を記載した明細を準備する

入院日や退院日、病名、手術名などの明細を準備しておけば保険会社へ問い合わせた時にスムーズに必要書類の請求手続きができます。

(3)保険会社へ連絡し必要書類を請求する

次に、契約している保険会社に必要な書類を請求するため、電話またはネットで問い合わせを行います。問い合わせ先パンフレットや約款、保険証券、定期的に送られてくる書類などに記載されています。

書類を紛失して、連絡先がわからなくても、ネットで「(自分が契約している保険の)保険会社名 保険金請求」などと検索すればOK。必要な資料をネットでダウンロードできる会社もあります。

(4)必要書類を提出する

必要な書類がそろったら、保険会社に提出しましょう。支払の対象として認められれば給付金を受け取れます。入金のお知らせが届くので、支払内容や金額を確認しましょう。

加入・申請の注意点

最後に、民間の医療保険に加入または保険金を申請する際に、気を付けておきたいポイントについて解説しておきましょう。

長期入院の場合の適用範囲

医療保険は、1回の入院ごとの「支払限度額日数」があります。入院が長期化すると、「支払限度額日数」を超えた分は、入院給付金の対象から外れてしまいます。

60日や120日が多いですが、中には180日や360日まで保障してくれるタイプもあります。特定の病気で入院した場合は、支払限度日数が延長されたり、無制限になったりするタイプもあります。

医療保険の適用外ケース

医療保険の給付金は、約款に書かれている「支払事由」に当てはまれば受け取ることができます。しかし、以下のようなケースでは医療保険の適用外となります。

  • 病気やケガの原因が保険契約の前にあった
  • 入院日数が契約条件に満たない
  • 告知書で過去の病歴を正しく告知していない
  • 飲酒運転のような交通違反による事故
  • 抜歯
  • 美容整形
  • 正常分娩
  • 人間ドックや検査入院(異常が認められない場合)

自分で判断するのが難しいケースは、給付金を受け取れる対象か、契約している保険会社に問い合わせてみましょう。

指定代理人請求制度の登録は忘れずに

一般的に、医療保険の請求手続きは、本人しか行うことができません。しかし、「余命宣告を受けているので、本人に病名を知らせたくない」、「本人が寝たきり状態になってしまっているため、手続きができない」といったケースがあるかもしれません。

そうしたケースに備えるために利用したいのが「指定代理人請求制度」です。保険の受取人である本人に特別な事情があり、請求の手続きができない時にあらかじめ指定している代理人が本人に代わって手続きができるようになります。

指定代理人請求制度の登録とともに、代理人には、どの保険会社で契約しているか、また、保険証券の保管場所を伝えておくとよいでしょう。「念には念を」で、対策しておきましょう。

目先の損得で考えると、医療保険の支払は損と感じる人もいるかもしれません。でも将来、医療保険が役立つ日が来ないとは限りません。自分の考えをもとに、必要か、不要か、どのような保険を選択するのか、検討してみてくださいね。

この記事の著者

荒木 千秋

荒木FP事務所代表。10年間の銀行勤務を経て独立。これからの女性が人生を楽しむためには「お金・投資」との付き合い方を変えなければならないと確信し、現在は、大学講師、セミナー、WEB執筆、個別相談等を行っている。 著書に『「不安なのにな〜にもしてない」女子のお金入門(講談社)』がある。
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