「年金だけでは老後の生活費には足りない?」
など年金に関する疑問がある人は少なくないでしょう。老後生活のための資金づくりは自助努力が必要といわれる時代、年金制度についてもきちんと理解しておく必要があります。
この記事では、ファイナンシャルプランナー・藤井亜也さん監修のもと、老後に備えたい人に向けて年金制度について解説します。よくある疑問に回答しますので、ぜひ参考にしてください。
※この記事では、「公的年金」を「年金」と表現しています。
年金の受給額は年金制度によって異なる

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職業や働き方で加入できる公的年金は異なり、年金の受給額もそれに準じて変わります。公的年金には、国民年金と厚生年金の2種類があり、加入対象者は以下のとおりです。
〈表〉国民年金被保険者の種別1)
国民年金 | 厚生年金 | |
---|---|---|
第1号被保険者 (自営業、フリーター、学生、無職など) | 〇 | × |
第2号被保険者 (会社員や公務員など) | 〇 | 〇 |
第3号被保険者 (第2号被保険者に扶養されている配偶者) | 〇 | × |
第1号被保険者に扶養されている配偶者 | 〇 | × |
国民年金は20歳以上60歳未満の国民が加入するもの、厚生年金は民間企業や公的機関などに所属する人が加入するものです。
日本の年金は「3階建ての構造」といわれ、1階部分は「国民年金」、2階部分は「厚生年金」、3階部分は任意で加入する国民年金基金や確定拠出年金などの私的年金で成り立っています。以下では公的年金で受け取ることができる金額について説明をします。
3階部分である私的年金について知りたい人は、以下の記事で詳しく紹介しているので、ぜひ併せてご覧ください。
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年金受給額の計算方法

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年金の受給額はどのように計算されているのでしょうか。以下で、国民年金と厚生年金、それぞれの計算方法を説明します2)。また、受給額をより簡単に試算する方法についても紹介します。
①老齢基礎年金の受給額(国民年金被保険者)
国民年金の保険料を10年以上納付している場合、「老齢基礎年金」として原則65歳から年金が受け取れます。未納期間や免除期間がある場合や繰上げ受給をする場合には、その分、受給額が減る点に注意しましょう。
老齢基礎年金受給額(年間)
79万5,000円×保険料納付済期間÷40年×12カ月
老齢基礎年金の受給額は、「保険料の納付済期間」で決まります。20歳〜60歳までの40年間、保険料を毎月欠かさず納めている場合、令和5年4月分以降の年金受給額(※)は、最大でひと月あたり6万6,250円、年間で79万5,000円となります3)。
保険料の免除期間がある場合は、保険料免除期間×免除割合で計算したものをそれ以外の納付月数に加えます。免除の割合によって受給金額は変わります。以下を参照ください。
〈表〉保険料免除期間がある場合の計算
全額免除の場合 | ×1/2(平成21年3月以前の期間は1/3) |
---|---|
4/3免除の場合 | ×5/8(平成21年3月以前の期間は1/2) |
1/2免除の場合 | ×3/4(平成21年3月以前の期間は2/3) |
1/4免除の場合 | ×7/8(平成21年3月以前の期間は5/6) |
※新規裁定者(67歳以下の人)の場合
②老齢厚生年金の受給額(厚生年金被保険者)
厚生年金の場合も、原則65歳から「老齢厚生年金」として受給を開始します。老齢厚生年金は、保険料の納付期間だけではなく、収入の金額によっても受給額が変わります。
老齢厚生年金の受給額(年間)
報酬比例部分+経過的加算+加給年金
報酬比例部分とは、年金の加入期間や過去の報酬などに応じて決まり、保険料の納付月と収入額が多いほど、受給額も大きくなります。以下のように計算します。
報酬比例部分(A+B)
A 平均標準報酬月額×7.125÷1,000×平成15年3月までの加入期間の月数
B 平均標準報酬月額×5.481÷1,000×平成15年4月以降の加入期間の月数
経過的加算は、特別支給の老齢厚生年金の定額部分として計算した額から、厚生年金保険の被保険者期間のうち昭和36年4月以降で20歳以上60歳未満の期間の老齢基礎年金相当額を算出し、定額部分から差し引いた金額です。以下の計算式で導きます。
経過的加算
定額部分として計算した金額-79万5,000円×昭和36年4月以降で20歳以上60歳未満の厚生年金被保険者月数÷(加入可能年数×12カ月)
加給年金は、厚生年金に20年以上加入している人で、65歳到達時点で、加入者に生計を維持されている配偶者または子どもがいる時に以下の金額が加算されます。ただし、年齢制限がある点、配偶者が老齢厚生年金を受け取る資格がある場合には配偶者加給年金額は停止となる点に注意しましょう。
〈表〉加給年金の金額
加給年金 | ||
---|---|---|
対象者 | 加給年金額 | 年齢制限 |
配偶者 | 22万3,800円(※1) | 65歳未満であること(※2) |
1人目・2人目の子ども | 各22万3,800円 | 18歳到達年度の末日までの間の子ども。または1級・2級の障害の状態にある20歳未満の子ども |
3人目以降の子ども | 各7万4,600円 | 18歳到達年度の末日までの間の子ども。または1級・2級の障害の状態にある20歳未満の子ども |
いくらもらえる? 受給額をシミュレーション

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年金の受給額は前述の計算式で導き出せますが、計算式が複雑な上、家族形態の変化や転職や昇給があった場合、正しく計算するのは大変です。
もっと簡単に年金の受給額を計算したい人は、厚生労働省の公的年金シミュレーターを使ってみましょう。年金額を簡単に試算することを目的としているため、実際の年金額と必ずしも一致しませんが、受給額の概算をするには十分です。
また、日本年金機構の「ねんきんネット」でも受給額の試算は可能です。同サイトでは、将来受け取る年金の見込み額や年金記録などの確認ができます。
実際、いくら年金をもらっている? 現在の平均額

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厚生労働省4)によると、令和3年度の年金の平均受給額は国民年金が5万6,368円、厚生年金が14万5,665円です。直近3年間の平均月額は以下のとおりです。
〈表〉年金受給額の平均月額の推移
年度 | 国民年金 | 厚生年金(国民年金を含む) |
---|---|---|
令和3年 | 5万6,368円 | 14万5,665円 |
令和2年 | 5万6,252円 | 14万6,145円 |
令和元年 | 5万5,946円 | 14万6,162円 |
日本の年金制度は「賦課方式」のため、60歳までの現役世代が納めた保険料が、その時点の年金受給者の年金支給へ充てられています。少子高齢化が進む日本では、年金受給者に比べて、現役世代の人数の減少傾向の方が年々強まっていることなどから、年齢が若いほど年金受給額が低くなるように調整されています。年齢別の平均受給金額は以下のとおりです。
〈表〉年齢別の平均年金受給額
年度 | 国民年金 | 厚生年金(国民年金を含む) |
---|---|---|
65歳〜69歳 | 5万7,739円 | 14万3,613円 |
70歳〜74歳 | 5万7,127円 | 14万4,357円 |
75歳〜79歳 | 5万6,100円 | 14万8,293円 |
80歳〜84歳 | 5万6,607円 | 15万7,500円 |
老後の生活費、平均額は?

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老後の家計について具体的に想像がつかない人も少なくないでしょう。そこで、総務省「家計調査報告」5)から65歳以上の無職世帯の1カ月の家計収支を引用して説明します。
65歳以上の1人暮らし無職世帯では、社会保障給付などで実収入が13万5,345円であるのに対し、支出は14万4,747円で、9,402円が不足する状態でした。一方、2人以上の世帯のうち世帯主が65歳以上の無職世帯では、社会保障給付などで実収入が23万6,576円であるのに対し、支出は25万5,100円で、18,524円が不足する状態でした。
なお、実収入を世帯主の年齢階級別にみると、65~69歳の世帯は27万1,086円、70~74歳の世帯は24万8,556円、75歳以上の世帯は23万9,876円でした。同調査によると、消費支出は65~69歳の世帯が26万1,123円と最も多く、年齢階級が上がるにつれて支出額が下がっています。
老後の生活費について知りたい人は、以下の記事で詳しく紹介しているので、ぜひ併せてご覧ください。
【関連記事】老後の生活費はいくら? 平均額や家計収支の詳細はコチラ
年金の受給額は様々な要素で変動する

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物価・賃金の変動率やマクロ経済スライド調整率など、様々な要因で年金の受給額は変動します。たとえば、令和5年4月分からの年金額は、前述の厚生労働省の発表によると、令和4年度から新規裁定者(67歳以下の人)で2.2%、既裁定者(68歳以上の人)で1.9%の引き上げとなりました。受給額変動の参考指標はつぎの4点でした。
〈表〉令和5年度の参考指標
物価変動率 | 2.5% |
名目手取り賃金変動率 | 2.8% |
マクロ経済スライドによるスライド調整率 | -0.3% |
前年度までのマクロ経済スライドの未調整分 | -0.3% |
「名目手取り賃金変動率」とは、2年度前から4年度前までの3年度平均の実質賃金変動率に前年の物価変動率と3年度前の可処分所得割合変化率を乗じたものです。
「マクロ経済スライド」とは、賃金や物価の改定率を調整し、緩やかに年金の給付水準を調整するしくみです。賃金や物価の上昇が大きい場合、マクロ経済スライドによる調整が行われ、年金額は賃金や物価上昇率の範囲内に抑制されます。賃金や物価の上昇が小さい場合、年金額の改定は行いません。一方、賃金や物価がマイナスの場合、マクロ経済スライド年金額の引き下げ調整は行わないため、賃金や物価の下落分のみ年金額を引き下げとなります。また、調整しきれずに翌年度以降に繰り越す場合もあります。
名目手取り賃金変動率が物価変動率を上回る場合、新規裁定者の年金額は名目手取り賃金変動率を、既裁定者の年金額は物価変動率を用いて改定することが法律で定められています。このため、令和5年度の年金額は、新規裁定者は名目手取り賃金変動率を、既裁定者は物価変動率を用いて改定しています。さらに、令和5年度のマクロ経済スライドによる調整、令和3年度・令和4年度のマクロ経済スライドの未調整分による調整が行われて、上述の金額に改定されました。
このように年金の受給額は変動することに加え、前述のように年齢が若くなるほど金額が低くなるように調整されています。このため、現時点で試算をしても実際の受給額とはズレが生じる可能性が高いことを念頭に置きましょう。
年金に関するよくある疑問に回答

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海外に移住した場合や年金をもらっている配偶者が死亡した場合など、年金はどうなるのでしょう。以下では、年金についてのよくある疑問に回答します。
Q1.年金の保険料を支払っていない場合、老後はどうなる?
年金の保険料を支払っていない場合、年金は受給できない、もしくは受給できる金額が少なくなります。個人で貯蓄や資産運用をする、私的年金に加入するなどして、老後の資金を用意する必要があります。
Q2.配偶者が死亡した場合、年金はどうなる?
厚生年金の場合、被保険者によって生計を維持されていた遺族は「遺族厚生年金」6)を受給できます。ここでいう遺族は、「配偶者」「子ども」「父母」「孫」「祖父母」を指します。
一方、国民年金には「遺族基礎年金」があります。ただし、これは「18歳到達年度の末日までにある子ども(障害の状態にある場合は20歳未満)のいる配偶者」または「子ども」しか受給できません。
Q3.海外に移住した場合、年金の受け取りは?
移住前に自治体に「海外転出届」を提出すれば、海外に移住しても年金を受給7)することができます。海外の金融機関を振込先として指定する時は、金融機関名や口座番号などを記載の上、その口座証明、小切手帳の写し、通帳の写しなどを添付して提出します。
老後の準備は、まず年金制度を理解することから

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老後の資金を準備するにあたって、まずは年金制度を理解することが重要です。試算をすれば、老後に定期的に入るお金のおおまかな目安がわかります。その上で貯蓄や資産運用、保険加入などをすることで、資金の不足分を補い、老後に備えることができます。