「妊娠・出産をきっかけに退職しても出産手当金をもらえるの?」
など、どんな人が出産手当金の支給対象となるかわからない人は多いのではないでしょうか。出産手当金は支給要件が決まっているため、残念ながら出産をする人全員がもらえるわけではありません。
この記事では、ファイナンシャルプランナーの藤井亜也さん監修のもと、出産手当金がもらえないケースについて詳しくご紹介します。また、妊娠・出産に伴い退職した場合の支給の有無についても解説します。
出産手当金が受け取れる期間は?
「出産手当金」とは、会社員として勤務している被保険者が出産に伴い健康保険協会などの保険者から受け取れる給付金のことです1)。
出産手当金の支給対象期間は、基本的に産前42日間と産後56日間の合計である98日間です。ただし、予定日と異なる日に生まれた場合は日数が変わります。
参考資料
出産手当金の支給要件
出産手当金は、出産するすべての女性が受給できるわけではありません。受給するためには、以下の要件を満たす必要があります2)。
①出産をする本人が健康保険の被保険者であること
②出産のために休業していること
③妊娠4カ月(85日)以後の出産であること
前提として出産する本人が健康保険に加入していない場合は、出産手当金を受給できません。そのため、家族の扶養となっている場合は出産手当金をもらえないので注意しましょう。
また、出産手当金は、原則として出産のために仕事を休んでいて、かつ産休中に会社から賃金の支払いを受けていない人に支給されます。ただし、産休中に会社から賃金の支払いがあった場合でも、支払額が産休前の給与より少ない場合は、その差額分を出産手当金として受給できます。
なお、ここでいう「出産」には、妊娠4カ月(85日)以後の出産のほか、流産や死産・人工妊娠中絶なども含まれます。
参考資料
出産手当金がもらえない5つのケース
基本的に前述した支給要件を満たせば出産手当金がもらえます。では、もらえない場合はどんなケースが考えられるのでしょうか。ここでは、出産手当金がもらえない以下の5つのケースをご紹介します。
ケース①出産をする本人が国民健康保険に加入している
前述したとおり、出産手当金は健康保険協会などのいわゆる社保(社会保険)に加入している女性が受け取れる手当です。国民健康保険に加入している場合は対象外となり、出産手当金はもらえません。つまり、自営業や個人事業主で国民健康保険に加入している人は、出産手当金の支給対象外となります。
ケース②出産をする本人が健康保険の扶養に入っている
個人事業主でなく会社に勤めている場合でも、勤務時間や収入が少ないと夫の扶養に入っている場合もあるでしょう。夫の扶養に入っている人は、出産手当金の支給対象外です3)。
出産手当金は出産する本人が健康保険に加入している場合に支給されます。出産をする本人に支給される手当なので、加入者である夫は支給対象にはなりません。
ケース③出産をする本人が健康保険任意継続制度に加入している
出産をする本人が健康保険の健康保険任意継続制度に加入している場合も、出産手当金の対象にはなりません。健康保険任意継続制度とは、会社を退職したあとも前職の健康保険に加入し続けられる制度です。
会社の健康保険に加入し続けている状態ではありますが、出産手当金や傷病手当金は支給対象外です4、5)。ただし、資格喪失日に受給資格を満たしている場合であれば受け取れることもあるため、一度加入している健康保険に確認してみましょう6)。
ケース④休業中に給与の支払いがある
産前・産後の休業中に給与が支給されている場合も、出産手当金がもらえません。基準となるのは出産手当金の支給額です。支給額の計算は以下のとおりです。
1日あたりの出産手当金 = 支給開始日以前1年間の標準報酬月額の平均額 ÷ 30日 × 2/3
期間中に支払われる給与が出産手当金の支給額を超えている場合、出産手当金をもらえません3)。たとえば、公務員は産前休業・産後休業制度があり、どちらも有給です7)。公務員は健康保険ではなく、共済組合に加入しています。共済組合にも出産手当金はありますが、産休中にも給料の支払いがあるため、出産手当金を受け取れない可能性が高いでしょう。ただし、給与が出産手当金の支給額よりも少ない場合は、差額分をもらうことができます。
なお、出産手当金がいくらもらえるかの計算方法については、以下の記事で詳しく解説しています。併せて確認してみてください。
参考資料
ケース⑤休業した日から申請までが2年を超えている
出産手当金の申請期限は、出産のために仕事を休みはじめた日から2年以内です3)。休業日の最終日から2年以内ではありません。2年を超えると請求権が失効してしまうため注意しましょう。
出産手当金は1日あたりに対して支給されるため、申請期限も休業日1日ごとに設定されます。せっかく受け取れる手当が失効してしまわないように、なるべく早く申請しましょう。
出産手当金の申請可能な期間や受給期間について以下の記事で詳しく解説しています。併せて確認してみてください。
【関連記事】出産手当金の申請時期・受給時期について、詳しくはコチラ
出産前に退職した場合、出産手当金はもらえるの?
出産後も仕事を継続する人がいる一方で、妊娠を機に退職することを選択肢のひとつとして考える人もいることでしょう。結論としては、出産を機に退職した場合でも一定の要件を満たせば出産手当金が受け取れます。詳しく見ていきましょう。
退職した場合の出産手当金の支給要件
退職をする場合、前述した出産手当金の支給要件に以下の2つが追加されます8)。
①退職日までに継続して1年以上の被保険者期間があること
②資格喪失時に出産手当金を受給しているか、または受給の条件を満たしていること
ひとつ目は退職日までの被保険者期間について、ふたつ目は資格喪失日に前述で解説した支給要件を満たしているかです。資格喪失日とは、退職日の翌日を指します9)。これらの要件を両方とも満たした場合のみ、出産手当金を受け取れます。
退職後に出産手当金をもらう場合に気を付けるべきポイント
退職後に出産手当金をもらう際に気を付けるべきポイントは以下の3つです。
特に②、③のポイントは、どちらも知識さえあれば簡単に回避できます。どのように注意すればよいのか、それぞれ詳しく解説します。
ポイント①退職日までに継続した1年以上の被保険者期間があるか確認する
まず、退職日までに継続して1年以上の被保険者期間がない場合は、出産手当金の支給対象外です。この被保険者期間には前述の任意継続制度の加入期間は含みません。また、健康保険協会の1年の加入期間が必要なため、一度退職して復職後の加入期間が1年未満の場合も支給対象外です。
そうなると悩むのが育児休業明けから1年未満で出産を迎えるケースです。育児休業中は社会保険料の支払いが免除されるため、支給対象にならないのではと考える人もいるでしょう。育児休業中は健康保険料の支払いは免除されますが、被保険者期間は継続されています10)。出産手当金は受け取れるので安心してください。
ポイント②退職日を出産手当金の支給期間に設定する
出産を機に退職する場合、退職日はとても重要です。退職日が出産手当金の支給期間でない場合、出産手当金は受け取れません7)。出産手当金の支給期間は、以下のとおりです。
【出産予定日に出産または、出産予定日より早く出産した場合】
出産日前42日(多胎妊娠の場合は98日) + 産後56日
【出産予定日より遅れて出産した場合】
出産予定日前42日(多胎妊娠の場合は98日) + 出産予定日から遅れた出産日までの日数 + 産後56日
計算を間違えると、たった1日の違いで支給対象外になってしまう可能性もあります。出産手当金を受け取るにはいつ退職すればいいか、会社と相談しながら慎重に決めましょう。
ポイント③退職日に会社に出勤をしない
会社を退職する日に出勤した場合も、出産手当金の支給対象外になります1)。職場やお世話になった人たちに挨拶をするために、最終日だけでも出勤しようと考える人もいるでしょう。しかし、退職日に出勤してしまうと継続給付を受ける条件を満たさなくなります。退職日以降の出産手当金は支給されなくなるため、注意しましょう。
退職日を支給期間内に調整したとしても、退職日に出勤すると、継続給付を受ける条件を満たさないため資格喪失後(退職日の翌日)以降の出産手当金は受け取れません。その点も踏まえて、引き継ぎや挨拶は事前に済ませましょう。
出産手当金の支給要件を正しく知っておこう
出産手当金は、支給要件があり全員が受け取れるわけではありません。また、出産手当金がもらえないケースの中には、少し気を付ければ支給要件に当てはまる場合もあります。この記事を参考に、出産手当金の支給要件ともらえないケースをしっかり把握して、事前に対策をしましょう。