この記事では、社会保険労務士の岡佳伸さん監修のもと、受給の条件や申請の手順などの基礎知識をはじめ、失業中や退職後の受給、コロナ療養など、よくある疑問についてしっかりと答えます。
※この記事は、 2023年1月26日に公開した内容を最新情報に更新しています。
傷病手当金の基本を解説!対象になる人・ならない人とは

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傷病手当金とは、健康保険などの被保険者が業務や災害以外の病気やケガで療養のため仕事を休み、給与などがもらえない時に申請・受給できる保険給付です1)。
対象となるのは、主に以下のような人です。
- 企業や官公庁で働く正社員
- 派遣社員や契約社員で、勤務先の健康保険に加入している人
- 週20時間以上勤務などの条件を満たして健康保険に加入しているパート・アルバイト
一方、対象外となるのは以下のようなケースです。
- 配偶者などの扶養に入っている人(健康保険の「被扶養者」)
- 国民健康保険に加入している自営業者・フリーランス
- 家族が加入する健康保険の扶養として保険料を納めていない人
つまり、傷病手当金を受給するには、自分自身が被保険者として健康保険(国民健康保険以外)に加入していることが前提条件となります。
傷病手当金の受給条件とは?4つの条件を解説
傷病手当金を受け取るには、以下の4つの条件を満たす必要があります。
- 連続する3日間を含み4日以上、療養のために仕事を休んでいる
- 業務外の病気やケガで療養している
- 療養のために今まで従事していた仕事ができない(労務不能の)状態である
- 休んだ期間の給与を支給されていない
それぞれの条件について、詳しく解説していきます。
①連続する3日間を含み4日以上、療養のために仕事を休んでいる
傷病手当金は、会社を休んだ日が連続して3日続いた上で、4日目以降、休んだ日に対して手当金が支給されます。この3日の連続した休みのことを「待期3日間」といいます。
〈図〉待期3日間の考え方

図の【例1】のように、「2日休んで、2日出社し、2日休んだ」といった場合は、合計で4日間休んでいますが、【例2】や【例3】のような3日連続の休みがないので、「待期3日間」が成立せず、支給の対象にはなりません。ちなみに、土日・祝日も「待期3日間」に含めることができます。
②業務外の病気やケガで療養している
傷病手当金は、業務外の時間で起きた病気やケガが対象です。たとえば、休日のレジャーで重傷のケガを負った場合やうつ病の発症などが該当します。
業務中に発生した病気・ケガは労災保険の給付対象であり、健康保険の給付対象ではありません。加えて、歯列矯正や美容整形など、病気の治療とみなされない医療行為は、傷病手当金の対象外です。
③療養のために今まで従事していた仕事ができない(労務不能の)状態である
傷病手当金を受けるには、療養のためにそれまでしてきた仕事ができる状態でないことを証明する必要があります。労務不能かどうか判断する際は、医師(又は歯科医師)の意見や仕事内容などから、加入する健康保険組合などが最終的に判断します。
自宅療養であっても、医師が業務できる状況にないと判断すれば、傷病手当金の対象になる可能性が高いでしょう。一方、自分で「業務ができない」と判断して業務を休んでいる場合は、支給の対象外となるため、注意しましょう。
④休んだ期間の給与を支給されていない
傷病手当金を受け取るには、休んでいる期間に給与が支払われていない状況でなければなりません。傷病手当金は、病気やケガにより休業している人の収入を補填する制度だからです。
給与が支払われていれば、休業中も収入を得ていることになります。そのため、最低限度の生活が保障されているとみなされるのです。
また、有給休暇で病気やケガの療養をした場合も、休暇中に給与が支払われているため、傷病手当金は受け取れません。
ただし、支払われた給与の日額が、本来の傷病手当金の日額より少ないのであれば、差額が手当として支給されます。
①~④に該当する人は長期療養の場合、通算で1年6カ月間まで受給することが可能です。
傷病手当金が支給されないケース

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傷病手当金が支給されないケースとしては、以下の3つが考えられます。
傷病手当金の対象とみなされないケースや、ほかの給付との兼ね合いから対象外となるケースが想定されます。それぞれ詳しく見ていきましょう。
①会社から給与が支給されている
会社から給与が支払われている場合、傷病手当金は受け取れません。傷病手当金はあくまで療養中の生活を保障するものであり、療養中の収入がない場合に受け取れるものだからです。
会社から給与を受け取っていれば、療養中も収入があるため、生活に困る可能性は高くありません。傷病手当金の目的は休業中の自身と家族の生活を保障する制度であり、収入がある場合の受給は原則認められていないのです。
ただし、「支払われる給与の日額<傷病手当金の日額」の場合は、本来の手当日額と給与日額の差額が支給されます。
②労災保険の対象になっている場合
業務中や通勤・退勤中に発生した病気やケガで仕事を休んでいる場合は、労災保険の「休業(補償)等給付」の対象であり、傷病手当金は支給されません1)。
傷病手当金と休業(補償)等給付は併給できません。両方を受給すると、本来受け取れる賃金以上の給付を受けることになってしまいます。
病気やケガの事由が業務中かどうか判断しにくい場合は、会社の総務・人事担当者と相談しながら申請する給付を決めるとよいです。
③障害年金や老齢年金との併給制限
障害年金や老齢年金をすでに受け取っている人は、傷病手当金の支給が制限されます。
同じ病気やケガを理由に障害厚生年金を受け取っている場合は、たとえ傷病手当金の支給条件を満たしていても、受給できません。(ただし、障害厚生年金の額が低い時は差額を受けることができる場合があります)また、病気やケガが治り軽度の障害が残った際に受け取れる「障害手当金」(※)を受給する場合は、傷病手当金の合計額が障害手当金の額に達するまで支給停止となります1)。
加えて、退職などで健康保険の資格喪失後に傷病手当金を継続して受け取っている人が、原則65歳から受け取れる老齢年金を受給している場合、傷病手当金の支給は停止されます。ただし、受け取っている年金額の1/360が傷病手当金の日額よりも低い場合は、差額が支払われます1)。
※:障害手当金とは、初診日から5年以内に病気やケガが治り、障害厚生年金を受けるよりも軽い障害が残った時に支給される一時金。
退職後でも傷病手当金を受給できる?条件と注意点

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退職をすると、健康保険などの被保険者の資格を喪失します。ただし、一定の要件を満たす場合、退職後も傷病手当金を受給することができます。
しかし、受給の条件を理解していないと、うっかり受給資格を失ってしまうこともあり得ます。退職間際の場合には、以下の条件を満たすように注意しましょう2)。
【退職後の傷病手当金受給の条件】
1.退職日まで継続して1年以上の被保険者期間があること
2.退職日に出勤していないこと
3.失業給付を受けていないこと
4.支給開始から1年6カ月以内であること
5.退職日の前日までに連続3日以上の労務不能期間があること
特に注意したいのが、②です。療養のために休職していても、退職の挨拶のために出社をしてしまうと、受給資格を喪失してしまいます(退職日に出勤扱いの場合)。また、傷病手当金を受給しながら、老齢年金などを受け取ると、傷病手当金は支給されない点も留意しておきましょう。
参考資料
失業中に傷病手当金を受給できる?条件と注意点

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総務省によると、失業者(完全失業者)の定義は、以下の3つの条件を満たす人です3)。
【失業者(完全失業者)の定義】
1.仕事がなくて、少しも仕事をしなかった(就業者ではない)。
2.仕事があれば、すぐ就くことができる。
3.仕事を探す活動や事業を始める準備をしていた(過去の求職活動の結果を待っている場合を含む)。
つまり、失業者は「労務可能」であり、「仕事を探している」状態です。一方、傷病手当金の受給条件には、「療養のために今まで従事していた仕事ができない(労務不能)状態である」とあるので、矛盾が生じることになります。
在職中に傷病手当金を受給していた人が、退職してから就職活動をすると、「失業者」の定義に当てはまってしまうため、「労務可能」とみなされ、傷病手当金の受給資格を失います。
ただし、雇用保険の基本手当の受給資格認定後に、病気やケガが原因で就職活動ができなくなった場合には、健康保険の「傷病手当金」は受給できないものの、雇用保険の「傷病手当」を受給することができます。
なお、傷病手当金に関しては、ほかの制度との兼ね合いから誤解されることがよくあります。「このケースだと傷病手当金はもらわないほうがいい?」と考えたら、以下の記事を読んでみてください。
【関連記事】傷病手当金、もらわないほうがいい? そんなよくある疑問について、詳しくはコチラ
参考資料
パートや派遣でも傷病手当金は受給できる?条件と注意点

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令和2年5月成立の改正年金法による社会保険の適用拡大によって、パート・アルバイトや派遣社員であっても、条件を満たす場合には傷病手当金を受給できるようになりました4)。適用対象となるのは、令和6年10月からは「従業員数51人以上の企業で働くパート・アルバイト」で以下の条件を満たした場合になります5)。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 月額賃金が8万8,000円以上
- 2カ月以上の雇用の見込みがある
- 学生ではない
なお、パート・アルバイトの場合には、「時給×1日の労働時間×年間所定労働日数÷12カ月」で標準報酬月額を算出します。
傷病手当金を受給できる期間
傷病手当金は、「通算1年6カ月」の間、受給することができます。
以前は「支給開始日から1年6カ月」で、出勤をして傷病手当金が支給されない期間も支給期間に含まれました。しかし、健康保険法等が改正されたため、令和4年1月1日からは支給開始日から「最長1年6カ月」ではなく、「通算1年6カ月」に変更になりました6)。
〈図〉支給期間の考え方

つまり、出勤をして傷病手当金が不支給になる期間は支給期間として含まれないようになり、再発の可能性がある病気での受給にやさしい条件となりました。ただし、傷病手当金の支給開始が、令和2年7月1日以前である場合は、法改正前の支給開始日から「最長1年6カ月」の受給となります。
傷病手当金の受給金額を算出する計算方法
傷病手当金の1日当たりの金額は給与の額によって異なり、【支給開始日以前の継続した12カ月の各月の標準報酬月額を平均した金額÷30日×2/3】という計算式で算出します1)。
標準報酬月額とは、従業員の月々の給与を等級で表すもので、健康保険や厚生年金保険ではこの等級をもとに保険料や保険給付の金額を計算します。
〈図〉標準報酬月額の考え方

標準報酬月額は、原則その年の4~6月の3カ月間の給与の平均月額をもとに毎年7月1日に算出されます(定時決定)。上の図のように、申請のタイミングによって保険の給付額が変動することを留意しましょう。(ただし、大幅に固定給が変動した場合は随時改定として変更される場合もあります)
図のように、2月からの支給の場合、前年の3月から支給月である2月までの金額で計算します。事例では9月に昇給を受けているので、標準報酬月額の平均額は以下の計算式で算出します。
【標準報酬月額の平均額】
(30万円×6カ月)+(32万円×6カ月)÷12カ月
なお、健康保険に加入して1年未満の場合、標準報酬月額は支給開始日の属する月以前の「直近の継続した各月の標準報酬月額」の平均、または協会けんぽの平均値である第23等級(32万円)、(令和7年4月からの額、年度で変更になります)いずれか低い額で計算されます1)。
【関連記事】傷病手当金の金額や併給できる制度などについて、詳しくはコチラ
傷病手当金受給のための申請方法

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傷病手当金を受給するには、全国健康保険協会や健康保険組合などの保険者に申請をする必要があります7)。
申請するには、まず保険者から傷病手当金支給申請書を取り寄せます。申請書は、全国健康保険協会(協会けんぽ)などのウェブサイトからPDFで入手することができます。自分で「被保険者記入用(2枚)」を記入するほか、医師に「療養担当者記入用(1枚)」、勤め先に「事業主記入用(1枚)」の記入を依頼し、これらの書類を揃えてから、保険者に申請を行います。

「被保険者記入用(2枚)」には、住所、氏名、被保険者証の番号(保険証の番号)、振込先指定口座、療養のため休んだ期間や仕事の内容などを記入し、給与や年金の受給に関する質問に回答します。

「療養担当者記入用(1枚)」は休職期間中、労務不能であったことを医師に証言してもらう書類です。診療や入院の期間、症状や治療の内容、労務不能と認められた医学的初見などを記入してもらいます。

一方、「事業主記入用(1枚)」は、休職期間中、給与を支払っていないことを雇用主が説明するもので、勤務状況や賃金の支払い状況などを記入してもらいます。
支給申請は雇用主の企業を通して行うのが一般的ですが、保険者に直接郵送することも可能です。
なお、申請から振り込みまでどのくらいの時間がかかるのか、申請する時のコツなどは、以下の記事で詳しくご紹介しています。
参考資料
新型コロナウイルス感染症での自宅療養。傷病手当金を申請できる?

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新型コロナウイルス感染症を罹患した場合でも、もちろん傷病手当金は受給できます。
ただし、新型コロナウイルスの罹患については、特別休暇で処理されているケースがあるようです。厚生労働省の調査8)によると、回答企業2,601社のうち54.7%が、新型コロナウイルス感染症に関わる有給の特別休暇を導入していると回答しました。また、7.0%が無給での特別休暇を導入していると回答しました。そのため、大半の企業が傷病休暇以外の手段を推奨していることがわかります。
傷病手当金を申請する場合には、上司などに療養期間を「欠勤」として扱ってもらうように申告する必要がある点にも注意が必要です。
以前は療養期間が14日未満なら医師による療養担当者意見欄の証明は不要でしたが、この措置は令和5年5月7日に廃止されました。現在は医師に書類を記入してもらう必要があるため、そのぶん手間がかかるようになりました9)。
企業側の回答からも推察できるように、短期間の療養であれば、有給休暇などを割り当てる選択のほうが手軽でしょう。
制度を理解して、療養期間には傷病手当金を活用しよう
傷病手当金は、業務や災害以外の病気やケガでの療養が長期にわたる時、経済的な不安を軽減してくれます。「通算1年6カ月」の受給が可能なので、再発の恐れがある病気の療養時にも役立ちます。もしもの時のために、そのしくみを理解して活用しましょう。