失業保険は職に就いていない人に対し、当面の生活費を保障する制度です。しかし、場合によっては失業保険を利用できないケースがあります。
この記事では、ファイナンシャルプランナーの中村賢司さん監修のもと、失業保険を利用できない主なケースを7つ紹介します。受給期間や、受給しないほうがいい場合なども徹底解説。最後まで読んでいただくと、受給条件や、自分が受給可能かどうかがわかるでしょう。
※本記事で紹介する内容は、厚生労働省「Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)~」をもとに構成しています。
※この記事は2022年10月7日に公開した内容を最新情報に更新しています。
失業保険とは、つぎの仕事を安心して探すための制度
そもそも、失業保険は正式には雇用保険といい、この雇用保険に加入している人が失業や自己都合退職などの“特定の条件下”で受給できるお金のことを、失業手当(正確には基本手当)といいます。この失業手当は、現職を離れ、つぎの就職先が見つかるまでの期間の生活費を保障することを目的としています。
失業手当の金額は、年齢や前職の給与額などによって変わりますが、おおむね前職の月給の5〜8割です。退職して収入が途絶えてしまった人にとっては心強い制度でしょう。
失業手当をもらうためには、一定期間、雇用保険に加入している必要があります。基本的には、離職日以前の2年間で、被保険者期間が12カ月以上あることが条件です。
失業手当の受給条件は、以下の記事で詳しく解説しています。失業手当を申請する予定のある人は、併せてご覧ください。
失業保険がもらえない7つのケース
雇用保険に加入していた人であれば、基本的に失業手当をもらえます。しかし、状況によっては失業手当がもらえないケースがあります。失業手当がもらえない主なケースは、以下のとおりです。
それぞれ詳しく解説します。
①働く意思や能力がない
退職後に働く意思がない場合や、病気やケガなどにより働ける状態にない場合は、失業手当をもらえません。失業手当をもらうには、意欲的につぎの仕事を探しており、かつすぐにでも職に就ける状態であることが条件だからです。そのため、しばらく働かずに休みたい場合や、留学したい場合は、働く意思がないと見なされます。
病気やケガにより就業できないケースや、妊娠中の場合も働くことができない状態と判断されます。失業保険は、あくまで再就職を支援する制度であることを覚えておきましょう。
②雇用保険の加入期間が所定未満
離職した時点で、雇用保険の加入期間が所定未満だった場合は、失業手当をもらえません。原則として、離職日以前の2年間のうち、被保険者期間が12カ月以上あることが受給の条件です。つまり、新卒で入社してすぐに自己都合で退職した人は失業手当をもらえないので、注意が必要です。また転職後12カ月未満で自己都合退職した場合も、失業手当をもらうことはできません。
ただし、ケガや勤務先の倒産などの理由で退職した場合は、離職日以前の1年間のうち加入期間が6カ月以上あれば失業手当をもらえます。これらは、特定理由離職者や特定受給資格者という区分にあたります。
もう少しで雇用保険の加入期間が受給条件を満たせるという場合には、退職時期を遅らせることも1つの手段でしょう。
③ハローワークで失業認定を受けていない
失業手当をもらうには、ハローワークで失業認定を受ける必要があります。失業認定とは、28日間に1度、ハローワークで失業状態であることを認めてもらう手続きのことです。失業認定を受けていない場合は、失業手当をもらえません。失業手当の申請から、失業認定を受けて手当を受給するまでの流れは以下のとおりです1)。
〈表〉失業手当を受給するまでの流れ
①退職後、ハローワークで失業手当の申請をする ②受給資格が決定する ③雇用保険受給者初回説明会に参加する ④失業認定を受ける ⑤失業手当を受給する |
受給資格が決定すると、ハローワークから認定日の案内があります。28日に1度訪れる失業認定日には、ハローワークに行って失業認定を受ける必要があります。
認定日に窓口へ行かなかった場合は、失業状態であると見なされないため、失業手当を受給できません。認定日は受給者が任意で決めたり、変更したりできないので、忘れないようにしましょう。
【関連記事】失業保険の申請方法や受給までの流れについて詳しくはコチラ
④副業をしている
本業は失業中でも、副業を続けている場合は、失業手当を受給できません。これは、失業状態にあると見なされないためです。ただし、雇用保険の加入条件である「1週間の所定労働時間が20時間以上」「同一の事業主に31日以上雇用されることが見込まれる」を満たさなければ、ハローワークに申請することで失業状態だと認めてもらえます。
その際は、副業をした日をきちんとハローワークに申請する必要があります。申請しなかったり、虚偽の申請をしたりすると不正受給にあたり、失業手当の返還や不正に受給した金額の2倍の納付が命じられるペナルティーが課せられるので注意しましょう2)。
⑤年金を受給している
年金を受給している人は、失業手当を受給できない可能性があります。失業手当と老齢厚生年金は、同時に受給できないためです。
失業手当を受給している間は、老齢厚生年金や退職共済年金の支給が全額停止されます。ただし、これは失業手当の受給内容が変更されるわけではなく、あくまで年金の支給がストップするという意味です。
老齢厚生年金や退職共済年金を受給する予定がある場合は、どちらを受け取るほうがメリットがあるか、金額を比較してよく考える必要があるでしょう。
⑥傷病手当金を受給している
傷病手当金は社会保険・健康保険の保障の1つで、病気やケガで働けなくなった場合に、一定額の手当がもらえる制度です。基本的に、傷病手当金と失業手当は同時に受け取ることはできません。
失業保険は働く意思と能力があるものの、現在職に就けていない人に向けた保障です。それに対し、傷病手当金はケガや病気で働けない人に向けた保障です。つまり、傷病手当金を受給している人は、働けない状態であるため、失業保険の受給資格を満たしません。
⑦自営業に転身した
会社を辞めて自営業に転身した場合も、失業手当を受給できません。自営業を行っているということは、失業状態ではないためです。
ただし、失業後の求職活動中に創業の準備・検討を行う場合は失業手当を受給できる可能性があります。
また、自営業を営む場合は雇用保険の被保険者にはなれず、国民健康保険や国民年金などを自分で負担する必要があります。雇用保険は、あくまで雇用されている人を守る制度であることを覚えておきましょう。
【コラム】自己都合退職だと失業保険はもらえない?
ここでは、自己都合で退職した場合に失業手当が受給できるかどうかについて説明します。
自己都合退職とは、結婚や出産、職場が原因ではない病気を理由とした療養、両親の介護といった理由で退職することをいいます。結論からいうと、自己都合退職でも前述の条件に当てはまらない場合は、失業手当を受給することができます。これは会社都合で退職した場合と同じです。ただし、失業手当がもらえる期間や受給開始のタイミングは会社都合で退職したケースとは異なります。
以下で詳しく説明します。
失業保険をもらえる日数やタイミングは離職理由によって変わる
失業手当は、90日から最長で360日間※受給できます。失業手当の給付日数を決定するのは、離職した理由です。具体的には、以下の2つに分けられます。
離職した理由によって、給付日数だけでなく受給開始のタイミングも異なります。退職の予定がある場合、自分がどちらの離職理由に当てはまるかを確認しておくといいでしょう。それぞれを詳しく解説します。
※360日間が当てはまるのは、障害者などの就職困難な人のうち、45歳以上65歳未満の人のみです。
【自己都合退職】失業手当の給付日数と受給開始日
会社を辞めた理由が自己都合の場合、所定の給付日数は90日から150日です。雇用保険に加入していた期間によって、給付日数が変わります。加入期間と給付日数の関係は、以下の表のとおりです。
〈表〉自己都合退職の場合の所定給付日数3)
離職時の年齢 | 被保険者期間 | ||
---|---|---|---|
1年以上※ 10年未満 | 10年以上 20年未満 | 20年以上 | |
65歳未満の場合 | 90日 | 120日 | 150日 |
自己都合退職の場合、失業手当の受給が始まるのは7日間+2カ月後からとなります。受給資格の決定から初回説明会までの待期期間が7日間、そのあと給付制限期間が2カ月設定されています。なお、待期期間は離職理由にかかわらず全員に適用されますが、給付制限期間は自己都合で退職した人だけに適用されます。
【会社都合退職】失業手当の給付日数と受給開始日
会社を辞めた理由が会社都合の場合、所定の給付日数は90日から330日です。会社都合とは、人員削減や倒産、給与未払いなど、やむを得ない理由を指します。この場合、雇用保険に加入していた期間と年齢により、給付日数が変わります。加入期間と年齢、給付日数の関係は、以下の表のとおりです。
〈表〉会社都合退職の場合の所定給付日数3)
離職時の年齢 | 被保険者期間 | ||||
---|---|---|---|---|---|
1年未満 | 1年以上 5年未満 | 5年以上 10年未満 | 10年以上 20年未満 | 20年以上 | |
30歳未満 | 90日 | 90日 | 120日 | 180日 | – |
30歳以上 35歳未満 | 90日 | 120日 | 180日 | 210日 | 240日 |
35歳以上 45歳未満 | 90日 | 150日 | 180日 | 240日 | 270日 |
45歳以上 60歳未満 | 90日 | 180日 | 240日 | 270日 | 330日 |
60歳以上 65歳未満 | 90日 | 150日 | 180日 | 210日 | 240日 |
また、失業手当を受給できる権利があるのは、基本的に離職日の翌日から1年間のみです。手続きが遅れてしまうと、受給できる上限日数分を受給できない可能性もでてくるので、離職後すぐに手続きすることをおすすめします。
失業保険の申請方法や受給までのスケジュールは以下の記事で詳しく説明しています。併せてご覧ください。
【関連記事】【失業保険の受給条件とは?】受給期間や金額、手続きの方法を徹底解説
失業保険をもらわないほうがいい2つのケース
失業手当は離職中の生活を保障してくれる、心強い制度です。しかし、場合によっては失業手当を受給・申請しないほうがいいケースもあります。失業手当を受給しないほうがいいケースは、以下の2つです。
それぞれ詳しく解説します。
離職したあと、すぐに再就職する場合
そもそも、つぎの就職先が決まっている場合、失業保険の申請はできません。また、自己都合退職の場合は2カ月間の給付制限期間(失業手当を受給できない期間)があるため、申請をしても失業手当を受給する前に入社する可能性も考えられます。
手続きが無駄になってしまうため、再就職の目処が立っている場合は、無理に申請をしなくてもいいでしょう。
雇用保険の加入期間をリセットしたくない場合
失業手当を受給すると、雇用保険の加入年数がリセットされます。そのため、雇用保険の加入期間をリセットしたくない場合も、失業手当を受給しないほうがいいでしょう。
失業手当を受給せず退職から1年以内に就職できれば、雇用保険の加入期間の引き継ぎが可能です。加入期間が長くなることで、つぎに退職した場合に失業手当の給付日数が増える可能性もあります。よって加入期間をリセットしたくない場合は、受給を見送りましょう。
失業保険の条件を理解して、賢く利用しよう
失業手当を受給できないケースや、受給しないほうがいいケースを解説しました。失業手当は失業者の生活を保障する制度です。そのため、働く意思がない人や、働ける状態にない人は失業手当を受給できません。
失業手当を一度受給すると、雇用保険の加入期間がリセットされます。失業手当の給付日数は加入期間によって異なります。再就職先がすぐに見つかった場合や、いざという時のために加入期間をリセットしたくない人は、失業手当を受給しないほうがいいでしょう。
失業手当を受給する予定がある人は、ぜひこの記事の内容を参考にしてみてください。