そこで、腰痛をはじめ脊椎まわりの治療を中心に行うアレックス脊椎クリニックの吉原潔院長に、“寝ながらできる”腰痛改善ストレッチを教えてもらいました。5種類のストレッチをすべて実践しても、所要時間は5分程度。これなら仕事や家事で忙しい人も、なかなか長続きしない人も、継続できるはずです。
この記事の監修者
吉原 潔(よしはら きよし)
アレックス脊椎クリニック・院長。
脊椎外科医であり、フィットネストレーナーであるダブルライセンスの医師。日本でまだ数少ない脊椎内視鏡手術技術認定医の資格を有し「小さな傷での内視鏡手術」を得意とするほか、「本格的な運動療法の指導」で患者からプロスポーツレベルまで治療対応を行なっている。著書に『腰の痛い人が読む本(エイ出版社)』『脊柱管狭窄症 自力克服大全(わかさ出版)』など。
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痛みのタイプは? 症状から知る自分の「腰痛」
ストレッチを始める前に、腰痛にはどんな種類があるのか把握しましょう。
痛む部位や痛み方によって、腰痛の原因は異なることが想定されます。場合によっては、すぐに病院を受診した方がいいこともあるので、改めて自分の腰痛と向き合ってみましょう。
(1)押して痛む腰痛
腰を指で押して痛む場合、原因は筋肉にある可能性が高いといえます。痛みの原因が、皮膚に近いところにあると考えられるからです。これらの腰痛は筋・筋膜性腰痛といいます。
筋肉を酷使することで炎症が起こる、いわば筋肉痛の状態なので、慣れない運動を行ったり、普段使わない筋肉を使った時に起こりやすく、痛みの箇所をピンポイントで特定できるのが特徴です。
しかしながら押して痛む場合でも、筋肉が原因でない場合もあります。棘突起(背骨の真ん中の骨)を押して痛む場合は、椎間板ヘルニアや腰椎分離症、腰椎圧迫骨折などの疑いも出てくるでしょう。もし自分が当てはまると感じた場合には、早めに病院を受診することをおすすめします。
(2)後ろに反ると痛む腰痛
背骨を反らすことで痛む場合は、筋肉や椎間関節に原因のある腰痛である可能性が高いといえます。
筋肉に原因がある場合には、「(1)押して痛む腰痛」と同様に筋・筋膜性腰痛であるといえます。(1)にも当てはまることですが、腹筋が弱いために反り腰になっている人は比較的なりやすいといえます。
椎間関節に原因がある場合には、背骨の後ろ側にある椎間関節、特に腰椎の椎間関節が炎症を起こしたり、ぶつかり合うことで痛みが発生します。
左右どちらかに症状が現れることが多く、後ろに反る動作のほか、腰を捻る動作でも痛みが出るのが特徴です。これらの腰痛は椎間関節性腰痛といいます。
高齢者に多い症状ですが、脊柱管狭窄症や圧迫骨折の疑いもあります。
下肢に痛みやしびれがともなう、歩行がおぼつかないなどの場合には、脊柱管狭窄症がより悪化している可能性が高いため、早めの受診をおすすめします。
(3)前に屈むと痛む腰痛
腰を屈めることで痛む場合は、椎間板ヘルニアなど、椎間板が原因となっている可能性が高いといえます。
前屈みになった際に、腰の椎骨の間にあるクッション材「椎間板」が圧迫されて痛みが発生します。前屈みになりやすい座位よりも、立っている方が楽な場合もあるのが特徴です。
他の腰痛とは違い、高齢者よりも20代〜40代の若い人にも多い症状です。
下肢に痛みやしびれがともなう、高度な腰痛などの場合には椎間板ヘルニアが進行している可能性があるので、早めの受診をおすすめします。
(4)じっとしていても痛みがひどい腰痛
体を動かさなくても強く痛む場合は、腎結石や子宮内膜症、大動脈瘤など、内臓の病気が原因となっている可能性が高いといえます。発熱が伴う場合は、なんらかの細菌感染症も疑いましょう。
安静にしていても腰痛が続く、または痛みが強くなるようであれば、すぐに病院で診てもらいましょう。
(5)ストレスが原因の腰痛
あまり知られていないことですが、腰痛はストレスによって生じた自律神経の乱れが原因となるケースもあります。
「毎日、深夜12時まで働いている」「上司から厳しく指導されている」など、日常的に強いストレスを感じている場合は、心の状態が体の不調を起こしている可能性があるので、一度仕事を休み、ゆっくりと休養を取ることで、腰痛が改善することもあります。
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「長時間のデスクワーク」は要注意!
デスクワークなどで長時間同じ姿勢でいると、猫背になりやすくなります。ずっと前屈みの姿勢でいると、上体の重さを腰で支えることになるため、腰に余計な負荷がかかるのです。その結果、(1)~(3)の腰痛のどれが発症してもおかしくありません。
日頃から、合間の休憩やストレッチを実践することで、腰痛の改善が期待できます。痛みの様子を見ながら、腰痛対策に努めましょう。
腰痛が長引き、改善が見られない場合は、整形外科などで、専門医に診てもらいましょう。
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今日から始めよう! 寝ながら腰痛改善ストレッチ5選
自分の腰痛と向き合ったところで、悩みの種であるそれらの痛みを改善していきましょう。
腰痛の改善にはまず自分の体を整えることが大切です。腰を曲げたり伸ばしたりひねったりして動かすことで、筋肉の緊張がとれて腰への負担が軽くなっていきます。
紹介するのは日常の中で、無理なくベッドや布団の上で寝ながらできるストレッチ5種類。5種類すべてを行っても5分で完了する簡単ストレッチなので、お風呂上がりや寝る前のリラックスタイムに、ぜひ実践してみましょう。
(1)タオルを使って「もも裏のばし」
太もも裏のハムストリングスが固まると、骨盤が後傾してしまい、猫背になってしまいます。「もも裏のばし」で筋肉を柔らかくし、骨盤の歪みを防止・改善しましょう。
やり方
① 仰向けに寝て、タオルを片方の足の裏にひっかけるように両手で持ちます。
② タオルをひっかけた足を、上に伸ばして10秒キープ。
③ ①②を片脚ずつ交互に行い、2〜3回繰り返しましょう。
【POINT】
下の脚を浮かせないように注意し、どちらの脚もひざをまっすぐ伸ばすイメージで行うと、ハムストリングス(太ももの裏の筋肉)が伸びやすくなります。
(2)呼吸で腹筋を収縮させる「ドローイン」
「ドローイン」で、インナーマッスルの1つである腹横筋を刺激することで、おなかが締まって、胴体が固定されやすくなり、腰への負担が軽減します。
やり方
① 仰向けに寝て、手を腰とベッドの間に挟んだ状態で、思いっきり空気を吸い込み、おなかを膨らませます。
② 一気に息を吐いて、おなかをへこませます。おなかをへこませたまま、30秒間、軽く呼吸を続けます。
③ ①②を1~2回繰り返しましょう。
【POINT】
①②の時、手が腰で押されるような圧迫感があれば、正しくストレッチができている証拠。
(3)おしりを持ち上げる「ヒップリフト」
太もも裏のハムストリングスと同様に、おしりの筋肉も固まると骨盤が後傾してしまいます。ヒップリフトで、おしりの筋肉を刺激し、骨盤のゆがみを改善・防止しましょう。
やり方
① 仰向けに寝て、ひざを立てます。足は肩幅くらいに開きましょう。
② ひざを斜め上に突き出すようなイメージで、おしりを上げます。この状態で、おしりに力を入れて10秒キープしたら、もとの姿勢に戻ります。
③ ①②を2~3回繰り返しましょう。
【POINT】
腰が反ってしまうとおしりに力が入らないので、腰を反らないように注意。体を一直線にすることをイメージしましょう。
(4)骨盤の位置を戻す「レッグツイスト」
腰を左右にひねることで、おなかの横を支えている腹斜筋が鍛えられると同時に、骨盤が正常な位置に戻る効果が期待できます。腰痛改善と同時にくびれ効果も期待できます。
やり方
① 仰向けに寝て、股関節を90度、ひざを90度に曲げます。
② 脚を曲げた状態で、右にゆっくり倒します。ベッドぎりぎりまで倒したら、ベッドに脚がつかないように1~2秒キープ。
③ 同じように左にも倒し、左右10往復しましょう。
【POINT】
左右に脚を倒した際、肩が浮かないように注意しましょう。
(5)反れる体を作る「スフィンクス」
腰痛がある人は、猫背になっていることが多いと考えられます。胸を張り、背骨を反らすことによって猫背の改善につながり、腰への負担も軽減できるのです。
やり方
① うつぶせに寝て、手は肩の近くに置きます。
② 息を吐きながら5秒かけて上体を上げ、胸を張って背骨を反らせた状態で2秒キープ。
③ 息を吸いながら5秒かけてうつぶせに戻ります。
④ ①から③を2~3回繰り返しましょう。
【POINT】
背骨を反らせる時、あごは上げず、頭と背骨を一直線にすることがポイント。目線を下斜め前に向けるとやりやすいでしょう。
間違った方法は逆効果! ストレッチのポイント
腰痛を改善し、“なんでもできる健康体を目指す”ためにも、日々のストレッチは効果的。
ただし、腰の痛みが出ている状態で無理をし、やってはいけないレベルで行うと、逆効果になってしまう場合があります。ストレッチを継続するためにも、適度な負荷で行うように心がけましょう。
ポイント1:痛みが出ない範囲で
「痛い」と感じるほどに筋肉を伸ばしてしまうと、翌日に痛みが強くなってしまうことがあります。ストレッチは痛みを感じない程度、無理のない範囲で行いましょう。
ポイント2:少しずつ負荷を増やす
ストレッチを毎日続けていくと、徐々に筋肉は柔らかくなっていきます。最初から完璧を目指さなくても大丈夫です。
できる範囲で始めて、日々少しずつ時間や回数を増やし、徐々にお手本のフォームへと近づけていきましょう。
ポイント3:“もどき”で慣れる
お手本のとおりに体を動かせない場合は、自分のできる範囲で真似すればOK。完璧を目指すよりも、日常的に継続していくことの方が大切です。
例えば、もも裏伸ばしで脚が伸ばせないのであれば、ひざを曲げた状態からチャレンジ。毎日続けることで、徐々に伸ばせるようになっていくはずです。
ヒップリフトでおしりが上げられなければ、手でサポートしてもいいですし、レッグツイストでベッドぎりぎりまで脚を倒せなければ、できる範囲でやってみましょう。
生活に取り入れよう! 高コスパ腰痛改善グッズ4選
ストレッチに加え、姿勢を矯正するサポーターや痛みを和らげる癒やしグッズを取り入れることで、効率的に腰痛改善を目指すことができます。どのグッズも“ながら”で使えて、日常に取り入れやすいものばかりなので、ぜひ参考にしてください。
背中に挟んで姿勢改善「背もたれ用クッション」
イスに座る時、背もたれと背中の間にクッションを挟むことで、骨盤の後傾を防ぐことができ、背骨をまっすぐの状態で保ちやすくなります。背すじを伸ばすことで、腰への負担が軽減するため、背もたれ専用のクッションを活用するのもいいでしょう。
MOGU(R)バックサポーターエイト/MOGU
3,080円(税込)
イスと背中の間に挟むクッションは、厚みのある座布団やたたんだバスタイルでも代用できます。腰よりちょっと高い位置に挟むと、より効果的です。
体を動かす時に欠かせない「コルセット」
運動をする時だけでなく、草むしりや引っ越しなど、普段行わないような屈む動作が多い作業を行う時には、コルセットをつけることで、腰への負荷を軽くすることができます。腰痛が気になる人は、1つ持っておくと安心です。
過去に病院などでもらったコルセットがあれば、清潔に保管して、再利用するのもありです。
背すじ伸ばしに効果的「フォームローラー」
セルフマッサージで大活躍のフォームローラーは、腰痛改善でも役立つグッズです。仰向けに寝た状態で、フォームローラーを胴体に対して横にして背中と床の間に挟み、背骨を反らすことで、猫背や腰痛の改善が期待できます。
フォームローラー スタンダード/IMPHY
4,378円(税込)
ストレッチポールも、フォームローラーと同じように背中に挟むことで、背骨を反らすことができます。
ストレッチポール(R)EX ネイビー/LPN
9,350円(税込)
痛みを和らげてリラックス「マッサージボール」
指圧に近い効果が期待できるボールを腰と床で挟み、コロコロと動かすことで、凝り固まった筋肉をほぐすことができます。マッサージなので、一時的な効果にはなりますが、痛みを和らげたい時、リラックスしたい時におすすめ。
硬式テニスのボールも、サイズや硬さがマッサージに向いています。痛みが出ずに、気持ちよく感じる程度の強度でのマッサージを心がけましょう。
常に意識しよう! 腰痛を繰り返さないための予防法
せっかくストレッチやグッズで腰痛が改善しても、症状が再発してしまっては意味がないですよね。そうならないためにも、日頃の予防が大切です。気をつけるべきポイントを紹介しましょう。
(1)長時間同じ姿勢のままでいない
デスクワークで座りっぱなしでいると、その間ずっと同じ姿勢になってしまいがちです。体を動かさないと、筋肉がその形のまま凝り固まってしまい、腰痛が起こりやすくなります。
1時間に1回程度、イスから立ち上がり、大きく伸びたり体をひねったりするのが理想ですが、自由に動き回れない仕事だったり、作業に没頭してしまったりすることもあるでしょう。その場合は、「ずっと同じ姿勢だ」と感じた時に肩を回す、腰をひねるといった小さな動きだけでも十分です。
「同じ姿勢のままでいない」ということを、意識するようにしましょう。
(2)正しい姿勢を心がける
猫背のように上体が前傾姿勢になっていると、上体の重さを腰で支えるため、腰痛につながってしまいます。一方、背筋を伸ばすと、骨盤で上半身の重さを支えられるので、腰への負荷が減るのです。
ただし、正しい姿勢を保つには、筋力が必要になります。ずっと背すじを伸ばし続けるのは大変なので、「猫背になっているな」と気づいた時に、背すじを伸ばすクセをつけましょう。
【関連記事】猫背を解消する「立ち方・歩き方・座り方」とは? 詳しい解説はコチラ
(3)体を冷やさない
体が冷えると、筋肉が固まりやすくなり、腰痛の悪化につながることがあります。筋肉を柔らかくするためにも、主に胴体は温めておいた方がいいでしょう。
夏場でも、屋内は冷房で冷えていることが多いので、腰回りを冷やさないように対策しましょう。
(4)適度な運動で筋力低下を防ぐ
前述したように、正しい姿勢を保つには筋力が必要です。なるべく背すじを伸ばしたままでいられるように、適度な運動も心がけましょう。ウォーキングや自宅でできる筋トレなど、習慣化できる範囲内で継続することが大切です。
無理せず動いて「腰痛知らずの体」を目指そう
腰に痛みや重みを覚えたら、安静にすることも大切ですが、同時にストレッチをして体を動かし、筋肉をほぐすことも重要です。ただし、無理は禁物です。自分のできる範囲で、楽しく続けていきましょう。
ストレッチやグッズを取り入れ、予防法を意識しても、腰痛が改善しない場合は、病院を受診すること。専門医に判断を仰ぎ、正しい治療や対策の方針を立ててもらいましょう。