妊娠時の検診や出産にかかる費用は、思っている以上に高額になるもの。子育てを前にその不安を抱えている人も多いことでしょう。しかし、妊娠や出産にかかる医療費が一定額を超えた場合には、「医療費控除」という制度を利用することで、費用の一部が「還付金」として戻ってくる可能性があります。「医療費控除」制度の概要から具体的な申請方法までを、ファイナンシャル・プランナーの荒木千秋が解説します。

医療費控除はどんな制度?妊娠・出産にはどれくらいお金がかかる?

画像: 画像:iStock.com/William_Potter

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出産にはお金がどれくらいかかる?

初めての妊娠・出産では、費用がどれくらいかかるか予想できず、お金の面で不安を感じるかもしれません。実際、病院によって出産費用の金額は異なりますが、正常分娩ではおよそ50万円かかるのが平均的となっています1)。しかも、基本的には全額自己負担となります。

しかし、出産費用の負担を軽くしてくれる公的制度がいくつか用意されていることを知っておけば、そこまで心配はいりません。

たとえば、出産費用をカバーしてくれる制度の中でも、額面が大きい公的制度のひとつに「出産育児一時金」があります。健康保険に加入していれば、子供1人につき42万円がもらえる制度です。ただ、これだけだと出産費用の平均額と比べれば、やや少ないので心許ないと思う人もいるでしょう。

そこで、出産育児一時金と一緒に活用したい公的制度が「医療費控除」なのです。

出産費用の負担を軽くしてくれる「医療費控除」とは

医療費控除とは、1年間に支払った医療費が一定の額を超えた場合、確定申告をすることで、納めた所得税の一部が「還付金」として戻ってくる制度です。

妊娠や出産でかかる費用には、健康保険が適用されませんが、医療費控除の対象にすることができます。これにより、金銭的な負担を軽くすることが可能なのです。

医療費控除の申請は、医療費を支払った翌年の確定申告の期間内に行わなければいけません。

なお、医療費控除は確定申告の一部に含まれますが、会社員のように本来確定申告をしなくてもよい人であれば、確定申告期間より前でも申告することができます。また、申告を忘れてしまっても5年前までさかのぼることが可能です。

Column「そもそも『控除』とは」

そもそも「控除」とは所得税のしくみの中でどういった意味で使われる言葉なのか、補足としてザックリと解説します。

所得税とは、「所得」に対して課せられる税金のこと。ここで注意しておきたいのが、「所得」と「収入」の違いです。受け取ったすべての収入額に対し、一定の金額を差し引いたものが「所得」となります。この差し引く額のことを「控除(所得控除)」と呼びます。

〈図〉所得と収入の関係

画像1: 妊娠・出産時に確認したい「医療費控除」の計算方法

控除として認められるのは、医療費を対象とした「医療費控除」のほか、保険料を対象とした「生命保険控除」や扶養親族となる人がいる場合の「扶養控除」など、生活のために必要な支出です。

つまり、控除できる金額が大きいほど課税の対象になる所得額が下がるため、すなわち税金が減るわけです。

医療費控除の対象となる費用・ならない費用

画像: 画像:iStock.com/XiXinXing

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医療費控除のしくみがわかったところで、さっそく医療費を集計してみましょう。

ただし、ここで注意しておきたいのが、病院で支払った費用であっても、医療費控除の対象になるものとならないものがあること。また病院以外で支払った費用でも、たとえば病院に向かう交通費などは医療費控除の対象となるので取りこぼしのないようにしましょう。

ここでは、妊娠・出産時に医療費控除の対象となる費用・ならない費用について解説します。

妊娠・出産時に医療費控除の対象となる例

妊娠・出産時に医療費控除の対象となる費用には、以下のようなものが挙げられます。

(1)出産時の分娩や入院費用
(2)妊娠と診断されてからの定期健診や検査などの費用
(3)不妊治療費用(医師が必要と認めた場合)
(4)治療または療養に必要な薬代
(5)通院のために電車やバスで移動した交通費
(6)タクシー代(出産で入院する時に、公共交通機関では来院が困難だったために利用した場合)
(7)入院代に含まれている食事代

先ほども説明したように、病院でかかった費用以外でも、通院のための交通費は医療費控除の対象となります。交通費は領収書がなくても、家計簿などに記録して交通費を明確に説明できればOKです。

また、入院中の食事代も、入院費用の一部として病院に支払いますので、一般的には医療費控除の対象となることもおぼえておきましょう。

妊娠・出産時に医療費控除の対象とならない例

一方で、妊娠・出産時に病院に支払った費用や交通費であっても、医療費控除の対象とならないものがあります。

(1)希望して入院時に個室を選んだ場合の差額ベッド代
(2)病気の予防、健康増進のための医薬品やサプリメント代
(3)入院時のパジャマや身の回り品の購入費用
(4)里帰り出産のための帰省費
(5)タクシー代(公共交通機関で通院できるにも関わらず利用した場合)
(6)自家用車で通院する場合のガソリン代や駐車場代
(7)入院中に病院外から取った出前代や外食代

差額ベッド代は、正式には「特別療養環境室料」といいます。特別療養環境室とは、いわゆる「大部屋」とは異なる部屋です。ベッド数が4床以下で、室内に個人用照明などの設備が揃っているなど、いくつかの条件を満たす部屋を指し、一般的な個室も含まれます。

なお、大部屋が空いていなかった場合など、病院側の都合で特別療養環境室に入院または移動した際の差額ベッド代は、医療費控除の対象となる点に注意しましょう。

また、妊娠期間中は葉酸などのサプリメントを服用することもありますが、サプリメントは対象外です。さらに、入院に際して寝巻きや洗面具など身の回り品を購入した費用も対象になりません。

交通費については、実家で出産するための帰省費や、入院中に家族が面会のために使った交通費は対象外となります。また食事代については、病院の外から出前を取ったり外食したりする時の代金も対象外です。

医療費控除の対象となるかどうかの基準は、「治療に関する費用か否か」です。対象となるのか迷ったら、国税局電話相談センター2)に聞いてみましょう。

還付金の計算方法:3つのステップ

画像: 画像:iStock.com/lovelyday12

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妊娠・出産時に支払った費用には、医療費控除の対象となる場合とならない場合があるとわかりました。では、医療費控除でいくら戻ってくるのでしょうか? 計算してみましょう。

実際の計算の流れは次のようになります。

計算の流れ

【STEP1】
医療費控除対象額を算出する

【STEP2】
所得税率を確認する

【STEP3】
医療費控除対象額に所得税率をかける

以下、それぞれについて概要を記します。

なお、ここで説明する計算の手順は、妊娠・出産時にかかった費用に限らず、その他すべての医療費控除の計算と同様です。妊娠・出産にかかった費用の医療費控除を受ける際でも、通常はその他の医療費を含めて計算をすることになります。

【STEP1】医療費控除対象額を算出する

まず、1月1日から12月31日までの1年間の医療費を集計し、保険金や給付金の額も調べましょう。医療費控除対象額は、以下の計算式で求められます。

〈図〉医療費控除対象額の計算式

画像: 医療費控除対象額の計算式

医療費控除対象額の計算式

計算の結果、医療費控除対象額がプラスになれば、医療費控除を受けることができます。まずは計算を行い、医療費控除の手続きが必要かどうかを確かめましょう。なお、医療費控除対象額の最高金額は200万円です。

医療費から差し引かれる保険金や給付金には、民間の医療保険の入院給付金や手術給付金、公的な健康保険の高額療養費制度、出産育児一時金などが含まれます。産休・育休中、給料の代わりに会社から受け取る出産手当金は、医療費の代わりではないため含まれません。

【STEP2】所得税率を確認する

医療費控除対象額が計算できたら、次に所得税率を確認します。所得税率は課税される所得金額に応じて変わります。

会社員や公務員の人は、源泉徴収票を見れば、課税される所得金額がわかります。「給与所得控除後の金額」から「所得控除の合計額」を差し引いた金額が課税所得金額です。

課税所得金額の算出方法

課税所得金額 = 給与所得控除後の金額 − 所得控除の合計額

課税される所得金額がわかったら、次の表に当てはめてみましょう。所得税率がわかります。

〈表〉所得税率表(平成27年分以降)

課税される所得金額税率
195万円以下5%
195万円を超え 330万円以下10%
330万円を超え 695万円以下20%
695万円を超え 900万円以下23%
900万円を超え 1,800万円以下33%
1,800万円を超え 4,000万円以下40%
4,000万円超45%
国税庁「所得税の税率」所得税の速算表 3)を基に作成

所得額が高いほど所得税率は高くなります。つまり、控除によって所得額を下げることで、所得税率が下がる可能性もあるわけです。

【STEP3】医療費控除対象額に所得税率をかける

医療費控除で戻ってくる金額は、「医療費控除対象額×所得税率」で計算できます。

〈図〉還付金の計算式

画像: 【STEP3】医療費控除対象額に所得税率をかける

還付金の計算例

では、医療費控除で実際にいくら返ってくるのか、具体的な例を挙げて実際に計算してみましょう。

条件は、以下だったとします。

Aさん家族の場合

  • 課税所得金額:450万円

〈医療費の内訳〉

  • 出産費用(自然分娩):65万円
  • 医療費、交通費:5万円
  • 保険金、給付金の金額:42万円(出産育児一時金)

計算式に当てはめると、次のようになります。

画像: 還付金の計算例

よって、医療費控除によって返ってくる金額は36,000円です。

ちなみに、医療費控除で還付金が戻ってくる人は、住民税も減額されます。所得にかかる住民税は、所得税率に関係なく10%なので、Aさんの場合は「医療費控除対象額{(65万円+5万円)-42万円-10万円}×10%」=18,000円が翌年度の住民税から減額されます。

申請方法:4つのステップ

画像: 画像:iStock.com/Yagi-Studio

画像:iStock.com/Yagi-Studio

医療費控除を申請するためには、確定申告の手続きが必要です。では、確定申告で具体的にどのように手続きをすれば、医療費控除を受けられるのか、理解していきましょう。

医療費控除申請の流れ

まずは、医療費控除申請をするために、確定申告の全体の流れを把握しておきましょう。確定申告から口座への入金までは以下のようになります。それぞれの概要は後述します。

医療費控除を行うための確定申告の流れ

【STEP1】
確定申告に必要な書類を準備する

【STEP2】
確定申告書、医療費控除の明細書を作成する

【STEP3】
書類ができたら、税務署に提出する

【STEP4】
口座への入金を確認する

【STEP1】確定申告に必要な書類を準備する

医療費控除を申請するために必要な書類は次の通りです。

  • 確定申告書
  • 医療費控除の明細書
  • マイナンバーカード
    (持っていない場合は通知カードと本人確認書類)
  • 医療費の領収書(注:保管しておくことを忘れずに)

確定申告書の原紙は国税局のホームページから印刷するか、区役所や税務署でもらいましょう。マイナンバーカードや本人確認書類も準備しておきます。

また、明細書を作成するために、支払った医療費を証明するための領収書やレシートも準備しましょう。確定申告をする際に医療費の領収書を提示する必要はありませんが、税務署から求められると必要なので、5年間保管しておきましょう。

【STEP2】確定申告書、医療費控除の明細書を作成する

必要な書類が準備できたら、明細書を作成します。明細書の書き方は少し細かい作業なので後述します。なお、健康保険組合等が発行する「医療費のお知らせ」があれば、代わりに添付することで明細書の記入が省略できます。

【STEP3】書類ができたら、税務署に提出する

3つの提出方法があります。

(1)所轄の税務署に持参する。
(2)郵送で住所地の所管の税務署に提出する。
(3)国税庁のウェブページで作成した確定申告書をe-Tax(インターネット)で提出する。

【STEP4】口座への入金を確認する

口座振り込みをお知らせするハガキが届きます。間違いがないか念のため確認しましょう。

Column「医療費控除の明細書の書き方」

明細書は、国税庁のホームページ(詳しくはコチラ)で取得できます。明細書は、「医療を受けた人」と「支払先」を分けて、それぞれ合計した金額を記入しています。

領収書やレシートを利用する場合は、明細書の「2 医療費(上記1以外)の明細」の欄に記入していきます。事前に領収書を仕分けしておくとスムーズに記入できます。

医療費の明細の記入が終われば、控除額の計算をして終了です。

〈図〉医療費控除の明細書(内訳書)のイメージ

画像2: 妊娠・出産時に確認したい「医療費控除」の計算方法

〈表〉明細書に記載する項目

画像3: 妊娠・出産時に確認したい「医療費控除」の計算方法

共働き夫婦は特に要確認!申請時の注意点

画像: 画像:iStock/itakayuki

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出産した年に医療費控除申請をする際に注意すべき点について説明します。

セルフメディケーション税制とは併用できない

2017年からの医療費控除には、一般の医療費控除のほかに、特例の「セルフメディケーション税制」があります。これは、ドラッグストアなどで対象の医薬品を年間12,000円以上購入すると、購入費用について所得控除を受けられるという制度です。

しかし、医療費控除と併用できないため、出産をした年にはとくに注意しましょう。通常は、セルフメディケーション税制を利用しないほうが、より多くの控除が期待できます。

医療費控除は夫と妻のどちらが申告するかで金額が変わる

医療費控除は、家族分の医療費をまとめて申告することができます。医療費控除以外で、確定申告する予定がないなら、夫婦どちらかがまとめて手続きした方が手間はかかりません。では、どちらが申告すれば、よりメリットがあるのでしょうか。

医療費控除で戻ってくるお金は、「医療費控除の対象となる金額×所得税率」です。そのため、夫婦共働きのケースでは、医療費控除を利用する年の所得税率が高い方が確定申告すると有利になります。

妻が産休・育休中で夫より所得が少ない場合は、夫が家族の医療費をまとめて医療費控除を利用しましょう。

共働きでも産休・育休中は税法上の扶養に入れる

妻が産休・育休中を取得している年は、所得税法上で夫の扶養家族になれる可能性があります。

夫の給与収入が年収1,220万円以下で、妻の給与収入が年収103万円以下なら、夫は配偶者控除が利用できます。妻の給与収入が年収201.6万円未満なら配偶者特別控除が使えます4)

妻が産休前に受け取った給料は妻の所得ですが、産休中の出産手当金と、育休中の育児休業給付金は妻の所得に入りません。

なお、社会保険は妻が被保険者のままなので、夫の扶養家族にはなれません。ただし、産休・育休中には妻の社会保険料が免除されています。

医療費控除が保育料に影響することも

自治体によっては、所得に対して課税される住民税額(所得割額)に応じて保育園の保育料が決まります。医療費控除を利用して翌年の住民税額が下がれば、保育料が安くなる場合もあります。

医療費控除の申請は、聞き慣れない用語を用いて計算したり、領収書を取っておいたりする必要があるため、面倒に感じるかもしれません。しかし、メリットもその分大きいものです。出産をする年は確定申告をするものと考えて、医療費控除申請の準備をしておきましょう。

この記事の著者

荒木 千秋

荒木FP事務所代表。10年間の銀行勤務を経て独立。これからの女性が人生を楽しむためには「お金・投資」との付き合い方を変えなければならないと確信し、現在は、大学講師、セミナー、WEB執筆、個別相談等を行っている。 著書に『「不安なのにな〜にもしてない」女子のお金入門(講談社)』がある。
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