年金は「受給額=手取り」ではなく、実際には税金や社会保険料が差し引かれるため、手元に残る金額は想像より少なくなるケースが多くあります。「月◯万円もらえる」と聞いて安心していても、実際の生活費を考えるとギャップを感じるかもしれません。
特に40〜50代になると、定年後の生活費や医療費、介護費用への不安が現実味を帯びてくるでしょう。この記事では、年金から何がどのくらい引かれるのか、実際の手取りはいくらになるのかをシミュレーションし、不足する場合の備えについても解説します。
本記事の監修者

田尻宏子(たじりひろこ)
2級ファイナンシャルプランニング技能士証券外務員一種
証券会社、生命保険会社、銀行など複数の金融機関での勤務経験後、2016年から主に生命保険、損害保険、株式投資、ローン、相続関連等の金融分野専門のライターとして活動中。
お金の初心者から上級者まで誰もが納得できる記事を書くのが得意。
年金支給額の平均
公的年金の受給額は個人差があるものの、平均的な水準を把握しておくことで、老後の生活イメージを具体化しやすくなります。
令和6年度のデータでは、厚生年金の平均月額は151,142円、国民年金は59,310円とのことでした。男女別に見ると、厚生年金は男性169,967円、女性111,413円、国民年金は男性61,595円、女性57,582円と差があります。
| 区分 | 平均月額 | 区分 | 平均月額 |
| 厚生年金(全体) | 151,142円 | 国民年金(全体) | 59,310円 |
| 厚生年金(男性) | 169,967円 | 国民年金(男性) | 61,595円 |
| 厚生年金(女性) | 111,413円 | 国民年金(女性) | 57,582円 |
参考:厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
また、日本年金機構が示す夫婦世帯の標準的な受給額は月237,279円です。ただし、これはあくまで額面であり、ここから税金や保険料が差し引かれる点に注意してください。
年金から引かれるものと計算方法

公的年金から差し引かれる主な項目は、所得税・個人住民税・公的医療保険料(国民健康保険料または後期高齢者医療保険料)・介護保険料の4種類です。
一定額以上の年金を受給している場合、これらは特別徴収として年金から自動的に天引きされます。税金は所得に応じて計算され、保険料は所得に加えて自治体の基準によって決まるため、同じ年金額でも手取りに差が出る点が特徴です。
所得税
公的年金は雑所得として課税対象となり、年金収入から公的年金等控除を差し引いた金額が所得となります。さらに、基礎控除などを差し引いた課税所得に対して所得税が課されるしくみです。
たとえば年金収入が200万円の場合、公的年金等控除や基礎控除を差し引くと、課税対象となる所得はおよそ40万円前後になるケースが一般的です。
例:
200万円 − 公的年金等控除110万円=雑所得90万円
→90万円 − 基礎控除48万円=課税所得42万円
この場合、所得税率は5%が適用されるため、所得税額は約2万円前後が目安となります。
なお、基礎控除は所得水準に応じて変動するため、実際の税額は個人の状況によって異なります。また、公的年金は原則として源泉徴収されますが、控除の反映状況によっては税額に差が生じることがあるでしょう。
そのため、医療費控除や生命保険料控除などを適用する場合には、確定申告を行うことで税金が還付されるケースもあります。実際の徴収額は「公的年金等の源泉徴収票」で確認してください。
参考:国税庁「No.1600 公的年金等の課税関係」
参考:国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等と確定申告」
個人住民税
個人住民税は前年の所得をもとに計算され、所得割と均等割で構成されます。所得割は標準税率10%、均等割は標準的には4,000円程度であり、それに森林環境税の年額1,000円が加わります。ただし、自治体独自の上乗せがある場合は負担額が増えることがある点に注意が必要です。
非課税となる基準は自治体や世帯状況によって異なりますが、65歳以上の単身者の場合、年金収入がおおよそ155万円前後が目安とされています。ただし、非課税基準は自治体や扶養状況によって異なる点に注意が必要です。
また、注意したいのが退職直後の住民税です。住民税は前年の所得を基準に計算されるため、退職翌年は現役時代の給与所得が反映され、税負担が重く感じられることがある点を把握しておきましょう。
国民健康保険料(75歳未満)
会社を退職して75歳未満の場合、多くの人は国民健康保険に加入します。保険料は前年の所得を基準に、所得割・均等割・平等割などを合算して決まります。
たとえば、年金収入が200万円前後の場合、国民健康保険料は年間で10万円前後〜20万円程度が1つの目安です。ただし、保険料の水準は、自治体や世帯構成などによって大きく異なる点に注意が必要です。
なお、退職後すぐに国民健康保険へ加入する以外にも、勤務先の健康保険を任意継続する方法や、配偶者の健康保険の被扶養者になる選択肢もあります。状況に応じて最適な方法を選ぶことが重要です。
後期高齢者医療保険料(75歳以上)
75歳になると、医療保険制度は後期高齢者医療制度へと自動的に切り替わります。この制度では、国民健康保険から脱退し、新たに後期高齢者医療保険料を負担することになります。
後期高齢者医療保険料は所得割と均等割で決まり、令和7年度の全国平均保険料額は年額86,306円(月額7,192円)です。所得が高いほど負担額も増えるしくみです。
参考:厚生労働省「後期高齢者医療の保険料について」
「後期高齢者医療制度の令和6・7年度の保険料率について」
介護保険料
65歳以上になると、介護保険の第1号被保険者となり、介護保険料の負担が発生します。保険料は市区町村ごとに定められ、所得に応じた段階制で決まるしくみです。
介護保険料の基準額は自治体ごとに異なりますが、第9期(令和6〜8年度)の全国平均は月6,225円、年額では約7万4,700円です。所得に応じて保険料はさらに上下します。
参考:厚生労働省「第9期介護保険事業計画期間における介護保険の第1号保険料及びサービス見込み量等について」
実際の手取りはどのくらい?年齢別にシミュレーション

ここでは、日本年金機構が示す夫婦世帯の標準的な受給額である月230,483円をモデルケースとして、税金や保険料を差し引いた後の手取り額を年代別にシミュレーションします。ただし、実際の手取り額は自治体や所得、控除の状況によって大きく異なるため、あくまで一例として参考にしてください。
65歳〜75歳未満の場合
65歳から75歳未満の世帯では、主に国民健康保険料が負担の中心となります。
夫婦で年金月額約23万円(年276万円)を受給している場合を想定すると、主な負担の目安は以下のとおりです。
- 所得税:0〜2万円程度
- 住民税:0〜5万円程度(非課税となるケースもあり)
- 国民健康保険料:10〜25万円程度
- 介護保険料:6〜12万円程度
これらを合計すると、年間でおおよそ25万円〜45万円前後が差し引かれることになります。この場合、年間の手取りは約231〜251万円、月額にすると19万2,000円〜20万9,000円程度です。
額面の約23万円と比較すると、実際に使える金額は数万円単位で減少することがわかります。なお、国民健康保険料は自治体や世帯構成によって大きく異なるため、実際の負担額には幅がある点に注意が必要です。
75歳以上の場合
75歳以上になると後期高齢者医療制度へ移行し、国民健康保険料の負担はなくなります。その代わりに後期高齢者医療保険料が発生しますが、一般的には国民健康保険料よりもやや軽くなるケースがあります。
前項と同様に、夫婦で年金月額約23万円(年276万円)を受給しているケースを想定すると、主な負担の目安は以下のとおりです。
- 所得税:0〜2万円程度
- 住民税:0〜5万円程度(非課税となるケースもあり)
- 後期高齢者医療保険料:10〜20万円程度
- 介護保険料:6〜12万円程度
これらを合計すると、年間でおおよそ25万円〜40万円前後が差し引かれるケースとなります。その結果、年間の手取りは約236万円〜251万円、月額では19万7,000円〜20万9,000円程度です。
65〜75歳未満と比べると、保険料負担がやや軽くなる分、手取りが増える可能性がありますが、それでも額面との差がある点は変わりません。なお、後期高齢者医療保険料は所得や自治体によって決まるため、実際の負担額には個人差がある点に注意が必要です。
老後に必要な生活費はいくら?年金だけで生活できるのか
総務省の家計調査によると、65〜69歳の2人以上の無職世帯の消費支出は月平均256,521円、65歳以上の単身無職世帯では149,286円とのことでした。
前章のシミュレーションでは、夫婦世帯の手取りが月18万〜20万円前後となるケースが多く、平均支出と比較すると毎月数万円の不足が生じる可能性があることがわかります。仮に月4.5万円の不足が25年間続くとすると、合計で1,350万円の資金が必要になります。
年齢が上がるにつれて支出は減少する傾向がありますが、医療費や介護費用など予測しづらい支出が増える懸念もあるでしょう。そのため、年金だけで生活するのは難しいケースが多く、あらかじめ不足分をどう補うかを考えておくことが重要です。
参考:総務省「家計調査報告 家計収支編 2024年(令和6年)平均結果の概要」
年金額を増やすには

年金の手取りを増やすためには、受給額そのものを増やす方法を検討することも重要です。ここでは主な3つの方法を紹介します。
繰り下げ受給をする
老齢基礎年金や老齢厚生年金は、受給開始を65歳以降に遅らせることで増額されるしくみです。1カ月繰り下げるごとに0.7%ずつ増額され、75歳まで繰り下げると最大で84%増加します。
たとえば、本来月15万円の年金を受け取る場合、70歳まで繰り下げると42%増の約21万3,000円となり、月額で約6万円以上増える計算になります。
ただし、受給開始を遅らせるほど毎月の受給額が増える傾向がある一方で、早期に亡くなった場合は受給総額が少なくなるリスクも考慮しなければなりません。健康状態やライフプランを踏まえて慎重に判断することが大切です。
60歳以降も厚生年金に加入する
60歳以降も働き続ける場合、厚生年金に加入することで将来の受給額を増やせます。加入期間が延びるほど、老齢厚生年金の報酬比例部分が上乗せされるしくみです。
加入中は保険料の負担が発生しますが、その分将来の年金額が増えるため、長期的にはメリットが期待できます。
ただし、年金を受給しながら働く場合、在職老齢年金制度により賃金と年金の合計額が一定基準を超えると、一時的に支給額が調整されることがあります。この点も考慮しながら働き方を検討することが重要です。
在職老齢年金については以下の記事も参考にしてください。
関連記事:【早見表】在職老齢年金とは?65歳以降満額の年金をもらいながら働く方法2つ
【図解】年金の「65万円の壁」とは?在職老齢年金の支給停止のしくみを解説
国民年金に任意加入する
60歳時点で国民年金の納付期間が不足している場合、任意加入制度を利用することで受給額を増やせます。日本国内に住所がある60〜65歳未満の人であれば、任意で加入することが可能です。
未納期間を埋めることで老齢基礎年金の満額受給に近づけられ、将来の受給額を増やす方法です。保険料は月額で一定額となっており、支払った分だけ将来の年金に反映されます。
ただし、保険料負担と将来の増額分を比較し、費用対効果を検討することが重要です。状況によっては、65歳以上でも任意加入が認められるケースもあります。
不足に備えるには?50代からできる老後資金対策

年金だけで生活費をまかなうのが難しい場合は、不足分を補うための資産形成が不可欠です。50代からでも始められる現実的な対策としては、いくつかの選択肢があります。
まず、新NISAを活用した積立投資は有効な手段の1つです。非課税制度を活用しながら長期的に資産を増やせます。また、退職金の一部を投資にまわすことで、効率的に資産を運用する方法もあります。
さらに、個人年金保険や貯蓄型保険を活用すれば、老後に定期的な収入を確保することも可能です。特に保険は、万一の保障と資産形成を同時に考えられる点が魅力です。
ただし、どの方法が適しているかは個人の状況によって異なるため、無理のない範囲で計画を立てることを意識してください。必要に応じて専門家に相談し、自分に合った方法を見つけることが将来の安心につながるはずです。
年金に関するよくある質問
ここでは、年金に関するよくある疑問に回答します。
年金生活で確定申告は不要?
年金受給者でも、一定の条件を満たせば確定申告は不要となる場合があります。具体的には、年金収入が400万円以下で、かつそのほかの所得が20万円以下であれば、原則として確定申告は不要です。
ただし、医療費控除や寄付金控除などを受ける場合は、申告を行うことで税金が還付される可能性があります。そのため、源泉徴収票を確認し、自分にとって有利かどうかを判断することが重要です。
天引きが途中で中止されることがある?
年金からの天引き(特別徴収)は、一定の条件を満たさなくなった場合に中止されることがあります。たとえば年金額が基準を下回った場合や、世帯構成の変化といったケースです。
また、世帯主が75歳になる年度には、国民健康保険料の天引きが停止され、納付書による支払いに切り替わるケースもあります。この場合、支払い忘れによる滞納リスクがあるため注意が必要です。
差し引かれる金額を正しく把握するには?
年金から差し引かれる金額は、所得や自治体、控除の状況などによって異なるため、一律に把握することはできません。実際の金額は、個別の条件によって大きく変わります。
支給開始後は、日本年金機構から送付される年金振込通知書で、実際に天引きされた金額を確認できます。また、支給前の見込額については、ねんきんネットや年金事務所、市区町村窓口で概算を確認することが可能です。
老後資金の準備はいつ始めても遅くない
年金受給額と実際の手取り額は異なり、税金や社会保険料が差し引かれることで、想定よりも使えるお金が少なくなる場合があります。そのため、老後の生活を具体的にイメージし、不足分をどのように補うかを早めに考えることが重要です。
資産形成は、始める時期が早いほど有利ですが、50代からでも十分に対策は可能です。積立投資や保険の活用など、自分に合った方法を選び、無理のない範囲で継続することを意識しましょう。
また、1人で判断するのが難しい場合は、専門家への相談やシミュレーションを活用することで、より現実的なプランを立てやすくなります。まずは現状を把握し、将来に向けた一歩を踏み出すことから始めてみましょう。







