子育てしながら働いていると、子どもが急に熱を出したり、子どもの体調不良で保育園から急なお迎えの連絡があったりと、突然仕事を休まなければならない場面が少なくありません。そんな時に活用できるのが「子の看護休暇(※)」です。しかし、「この休暇は無給なの?」「職場の評価に響かないの?」といった不安を感じる方も多いのではないでしょうか。
この記事では、ファイナンシャルプランナーの原絢子さん監修のもと、子の看護休暇と給与の関係、活用するメリット、そして2025年4月の法改正による変更点について、わかりやすく解説します。
※:2025年4月の法改正により、制度の名称が「子の看護等休暇」に改められましたが、この記事では「子の看護休暇」と表記します。
この記事の監修者

原 絢子(はら あやこ)
FPサテライト株式会社 所属FP。大学卒業後、翻訳・編集業務に従事。金融とは無縁のキャリアを積んできたが、結婚・出産を機にお金の知識を身につけることの大切さを実感。以来、ファイナンシャルプランナーとして活動を始める。モットーは「自分のお金を他人任せにしない」。自分の人生を自分でコントロールするためには、お金について学ぶことが必要との思いから、執筆・監修、セミナー講師などを通して、マネーリテラシーの重要性を精力的に発信している。
子の看護休暇は有給?無給?

画像:iStock.com/years
子の看護休暇は、仕事と子育てを両立しやすくするために、法律で認められている休暇制度です。しかし、休暇中に給与が支払われるかどうかについては、法律では定められていません。
そのため、有給とするか無給とするかは、会社ごとの判断に委ねられています。
約6割の企業が無給で設定している
厚生労働省の「令和3年雇用均等基本調査」によると、子の看護休暇を「無給」としている企業は65.1%、「有給」は27.5%、「一部有給」は7.4%です1)。つまり、6割以上の企業が「無給」としていることがわかります。
自分の勤務先でどのように扱われているかは、就業規則などに明記されていますので、確認してみましょう。
無給の場合、給与の計算はどうなる?
子の看護休暇が無給の場合、給与は通常「欠勤控除」という方法で計算されます。欠勤控除とは、欠勤した日数に応じて、給与からその分の金額を差し引くしくみです。
たとえば、月給制の場合、欠勤控除額は以下のように計算されます。
【欠勤控除額の計算式】
欠勤控除額=月給÷月の所定労働日数×欠勤日数
また、役職手当や家族手当などの各種手当も、欠勤日数に応じて控除の対象となることがあります。これについても会社によってルールが異なるため、就業規則などで確認してみましょう。
無給でも活用するメリットは?

画像:iStock.com/kyonntra
「無給なら、子の看護休暇を取る意味がないのでは?」と思われるかもしれません。
しかし、子の看護休暇は、子どもの急な体調不良などにも安心して対応できる制度として、以下のようなメリットがあります。
①評価への影響がない
子の看護休暇を取得したことを理由に、人事評価や賞与などで不利益な取り扱いを受けることは法律で禁じられています2)。
そのため、無給であっても、通常の欠勤とは異なり、評価に影響することはありません。必要に応じて安心して休暇を取ることができます。
参考資料
②会社側は休暇日の変更ができない
子の看護休暇には、有給休暇と異なり「時季変更権(取得日の変更を企業が求める権利)」が認められていません。たとえ繁忙期であっても、会社側は休暇の取得を拒否したり、日程変更を求めたりすることができないのです。
必要な時に確実に休めることは、大きなメリットといえるでしょう。
③事後申請でもOK
子どもが急に熱を出した時など、子の看護休暇は緊急時に利用する機会が多いことから、休暇の申請においても柔軟な対応が認められています。当日の電話連絡で取得できるケースも多く、書面の提出が必要な場合も、事後提出で問題ありません2)。
なお、申請時には、一般的に以下の情報が求められます2)。
【申請に必要な情報】
・労働者の氏名
・対象の子どもの氏名と生年月日
・取得する年月日時
・取得理由(病院の付き添いなど)
申請方法の詳細は、勤務先の担当部署に確認しましょう。
④時間単位での取得も可能
子の看護休暇は、1日単位だけでなく、時間単位でも取得可能です2)。
たとえば「朝、子どもを病院へ連れて行ってから出社する」「急な子どもの体調不良で、午後に早退して保育園に迎えに行く」といった場合でも、柔軟に利用できます。
短時間の対応にも使えるため、仕事への影響を最小限に抑えることが可能です。
子の看護休暇を上手に活用するポイント
仕事と子育てを両立していると、子どもの体調不良などで急に休みが必要になることが少なくありません。
子の看護休暇には、無給であっても柔軟に取得できるという大きなメリットがあるため、有給休暇に余裕がある場合はそちらを優先して使い、足りない部分を子の看護休暇でカバーするといった使い分けをしてもよいでしょう。
また、子の看護休暇は、法律で認められた労働者の権利でもあります。「子どものことで休むのは申し訳ない」と感じる方もいるかもしれませんが、仕事と子育ての両立をサポートする制度として、前向きに活用していきましょう。
2025年4月の改正でさらに取得しやすくなった

画像:iStock.com/78image
子の看護休暇は、仕事と子育てを両立する上でとても心強い制度です。2025年4月の法改正により、さらに使いやすい制度へと進化しました。
主な変更点は以下の4つです3)。
〈表〉「子の看護休暇」の変更点
変更点 | 改正前 | 改正後(2025年4月~) |
名称 | 子の看護休暇 | 子の看護等休暇 |
対象となる子の範囲 | 小学校就学前 | 小学校3年生まで |
取得事由 | ①病気・ケガ ②予防接種・健康診断 | ①病気・ケガ ②予防接種・健康診断 ③感染症に伴う学級閉鎖等 ④入園(入学)式、卒園式 |
対象外の方 | ①週の所定労働日数が2日以下 ②継続雇用期間6カ月未満 | 週の所定労働日数が2日以下 ※②を撤廃 |
以下で、詳しく説明していきます。
名称の変更
今回の改正により、制度の名称が「子の看護休暇」から「子の看護等休暇」に変更されました。
この「等」という言葉には、病気やケガの看護だけでなく、より幅広い理由で休暇を取得できるようになったことが反映されています。単なる名称の変更ではなく、制度の柔軟性が広がったことを意味する重要な変更といえるでしょう。
対象となる子の範囲の拡大
これまでの対象は「小学校就学前の子」でしたが、改正により「小学校3年生までの子」に拡大されました。
小学校に入っても、特に低学年のうちは体調を崩すことが多く、1人での留守番もまだ心配な年齢です。今回の改正で「小学校3年生まで」に対象が拡大したことにより、子どもが小学校に入学してからも安心して休暇を取得できるようになりました。
取得事由の拡大
休暇の取得事由が拡大されたことも、今回の改正の大きなポイントです。これまでは「病気やケガの看護」が主な取得事由でしたが、今回の改正で以下の事由が追加されました。
- 感染症に伴う学級閉鎖等
- 入園(入学)式、卒園式
なお、授業参観や運動会などの学校行事は、法的には取得事由として認められていません。ただし、会社が独自に認めているケースもありますので、確認してみましょう。
対象外の方の変更
子の看護休暇は、基本的にすべての労働者が利用できる制度ですが、一部の労働者については、労使協定により対象外とすることが可能です。
今回の改正で「継続雇用期間が6カ月未満」の制限が撤廃されたため、入社して間もない方も子の看護休暇を取得できるようになりました。
【改正で変わっていない点】取得できる日数、単位
一方で、今回の改正で変更されていない点もあります。変わっていない点は以下のとおりです3)。
【変わっていない点】
・取得可能日数:対象となる子どもが1人の場合は年間5日まで
(2人以上の場合は年間10日まで)
・取得可能単位:1日単位、時間単位
なお、取得可能日数は法定の最低水準であり、会社が独自にこれを上回る日数を設けている場合もあります。自分の勤務先の制度について、あらためて確認しておくとよいでしょう。
子の看護休暇で誤解されがちな注意点

画像:iStock.com/takasuu
子の看護休暇は、産前産後休業や育児休業などに比べると、まだ十分に知られていない制度です。そのため、制度の内容について誤解されていることも少なくありません。
ここでは、よくある誤解について解説します。
会社に制度がなければ取得できない?
子の看護休暇は法定の休暇制度です。会社に制度が整備されていなくても、要件を満たす労働者が希望すれば、会社は休暇を認めなければなりません。
もし会社側の理解が進んでいなければ、専門家や労務相談窓口に相談してみましょう。
時短勤務やパートは取得できない?
子の看護休暇は、雇用形態に関係なく利用可能です。時短勤務やパートの方でも、労働日数などの取得要件を満たしていれば、制度を利用できます。
子の看護休暇で助成金がもらえる?
子の看護休暇を取得しても、労働者個人に対して助成金が支給されることはありません。
ただし、子の看護休暇を含め、子育て支援制度の導入や活用を促進した企業に対する助成金制度は用意されています4)。これにより、企業の制度整備が後押しされ、結果として、労働者が子の看護休暇を取りやすい環境づくりが期待されています。
参考資料
子の看護休暇は欠勤扱いになる?
子の看護休暇が「出勤扱い」になるか「欠勤扱い」になるかは、会社によって異なります。ただし、欠勤扱いとなる場合でも、通常の欠勤とは異なり、休暇を取得したことによって降格や減給などの不利益な取り扱いをすることは法律で禁じられています2)。
制度を正しく理解して、有効に活用しよう

画像:iStock.com/miya227
子の看護休暇は、仕事と子育てを両立する上でとても心強い制度です。無給であっても、子どもの体調不良などに柔軟に対応できる点で、大きなメリットがあります。
2025年4月の改正では、対象となる子どもの範囲や取得事由が拡大され、より使いやすくなりました。また、会社によっては、法定よりも手厚い制度を設けている場合もあるため、まずは自分の勤務先の就業規則を確認してみましょう。