「仕事中のアクシデントでケガをしてしまった」「出勤途中に交通事故に巻き込まれた」など、業務に関連してケガや病気が発生した場合は労災保険の給付を受けることができます。しかし、労災保険という名称は知っていても、どのような制度でいくら給付されるのかなどの詳細は把握していない人も多いでしょう。

この記事では、社会保険労務士の岡佳伸さん監修のもと、労災保険について、給付条件や種類、金額や手続きの流れなどをわかりやすく解説しています。

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この記事の監修者

岡 佳伸(おか よしのぶ)

社会保険労務士法人岡佳伸事務所代表。特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、宅地建物取引士。大手人材派遣会社、自動車部品メーカーなどで人事労務を担当したあとに、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険給付業務、助成金関連業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として活躍。各種講演会(東京商工会議所練馬支部、中央支部、公益社団法人東京ビルメンテナンス協会)講師および各種WEB記事執筆。日経新聞、読売新聞、女性セブンなどに取材記事掲載のほか、NHK「あさイチ」に専門家ゲストとしても出演(2020年12月21日、2021年3月10日)。

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労災保険とは?

労災保険は、労働者が業務中や通勤中に発生した傷病に対して必要な保険給付を行う制度です。正式名称は「労働者災害補償保険」といいます。「仕事中にケガをした」「過労で体調を崩した」「通勤途中に交通事故にあった」「労働災害(以下、労災)が原因で障がいが残ってしまった」といった場合に、ケガや病気、障がいの程度に応じて給付金が支払われます。業務中、通勤中の傷病によって死亡した場合は、亡くなられた人の遺族に対して給付金が支払われます。

労災保険の加入条件は?

企業に雇用されている人は必ず労災保険に加入しています。企業は、従業員を雇用する際に労災保険に加入させる義務があるからです(農林水産事業の一部を除く)1)。そのため、従業員が1人であっても、日雇いで1日だけ働く場合であっても、労災保険への加入が義務付けられています。

労災保険の給付対象は? パートやアルバイトでも給付されるの?

労災保険は、雇用形態に関係なく企業に雇用されている労働者全員の加入が義務付けられているため、契約社員、パート・アルバイトの場合も雇用された際に労災保険に入ります

一方、個人事業主やフリーランスなどの自営業者は基本的には労災保険に加入しません。しかし、業務委託などで企業と請負契約をし、働き方が正社員などと変わらない場合(常駐型フリーランスとして毎日出社しているなど)は、労災保険に加入できることがあります2)

労災保険でどこまで補償される?

画像: 労災保険でどこまで補償される?

労災保険は、業務に起因したケガや病気が対象となる「業務災害」と、通勤途中のケガなどが対象となる「通勤災害」に分けられます。

「業務災害」「通勤災害」の詳細や労災と認められるケースを1つずつ詳しくご説明いたします。

【業務災害】業務中に発生したケガや病気など

業務災害は業務が原因で発生したケガや病気で、以下のようなケースが当てはまります3)

〈表〉業務災害に認定される傷病の一例

1.社内で仕事に関連してケガをした
2.外出や出張など、社外で仕事をしていた際にケガをした
3.勤務先で休憩中に、社内設備の不備でケガをした
4.労働現場で有害な化学物質を吸入して病気になった
5.労働によって過度の負担が体にかかり病気になった

1、2に関しては社内・社外関係なく、業務に関連して発生したケガであれば労災に認定されます。3は休憩時間中に社内の棚が倒れてケガをした場合など、社内設備が原因になっていることが要件です。

4は建設や製造の業務で有害な物質を吸ってしまい体調を崩したケース、5は過労によって体調を崩したケースなどが当てはまります。

このように、仕事中、もしくは仕事の設備が原因のケガや病気であれば業務災害に認定されます

ただし、就業時間中であったり、ケガをした場所が会社内であったりしても、業務と傷病の間に因果関係がない場合は業務災害にはなりません。以下のようなケースは、業務災害と認められない可能性があります。

〈表〉業務災害に認定されないケースの一例

1.就業中の私用が原因でケガをした
2.労働者が故意に災害を発生させてケガをした
3.労働者が個人的な恨みなどで第三者から暴行を受けてケガをした
4.就業中の地震・台風などの天災でケガをした
5.就業中に発生したケガや病気だが業務とは無関係である
6.休憩中に会社内でケガをした

1、2、3、4は就業時間中のケガですが、業務が原因ではないケースです。3は業務でトラブルになって上司から暴行を受けたなら業務災害になり得ますが、個人的な恨みや妬みなどが暴行の原因なら業務災害とは認められません。

5は発生したのが就業中でも病気と業務が無関係のケースです。たとえば、仕事中に立ちくらみで転倒した際にケガをした場合、立ちくらみの原因が仕事と無関係だと業務災害とは認められない可能性が高いです。

業務災害に認定されるケース、認定されないケースは素人では判断がつかないこともあります。万が一、自分が就業中にケガをしたものの業務災害に認定されないなどのトラブルがあった場合は、専門家の意見を聞くのがいいかもしれません。

【通勤災害】通勤中に発生したケガや病気など

通勤災害は、労働者が通勤中に負ったケガや病気などが当てはまり、以下のようなケースであれば通勤災害と認められます4)

〈表〉通勤災害が認定されるケースの一例

1.自宅と勤務先の間の通勤中にケガをした
2.本業(昼間の仕事)の終業後、副業(夜間のバイト先)の就業場所までの移動中にケガをした

1、2ともに仕事をするため、もしくは仕事に関連した移動です。たとえば、通勤中や移動中に交通事故に遭ってケガをした、移動中に立ちくらみで転倒をしてケガをしたなどが当てはまります。

ただし、通勤中、仕事の移動中であればすべて通勤災害に当てはまるわけではなく、「就業に際しての移動を合理的な経路かつ方法で行うこと」が認定の条件とされています。そのため、以下のようなケースは通勤災害には認定されません。

〈表〉通勤災害に認定されないケースの一例

1.通勤途中にケガをしたが、会社に行くために合理的な経路とはいえない大回りをしていた
2.私用のために異なる経路で移動していた最中にケガをした
3.通勤経路上で寄り道をした場所でケガをした

1、2は移動経路の「逸脱」、3は移動経路の「中断」というものに該当します。「逸脱」は本来の経路や方法と異なる移動をしていたケースで、「電車通勤で帰宅途中に映画館に立ち寄って、映画館から自宅に帰る途中でケガをした」「仕事後に食事の約束があったので普段とは違う経路で帰宅していた」などが当てはまります。

「中断」は、一時的に通勤経路から外れてしまうことで、「勤務先に伝えていた経路で帰宅していたけど、駅前のクリニックを受診した」などが当てはまります。日用品の購入やトイレの利用など、日常生活上必要であったり、やむを得なかったりする行動の場合は通勤災害に認定されるケースもありますが、寄り道をすると基本的には通勤災害が認められません。ただし、通勤災害の対象外になるのは寄り道をしている時間だけで、その前後の正しい経路、方法で移動していた間に起きたケガであれば、通勤災害が認定されます。

労災保険で受けられる給付の種類

画像1: 画像:iStock.com/YusukeIde

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ここからは労災保険での給付の種類を説明します。労災が認定されると、ケガや病気の治療、収入への影響などに応じて以下の給付があります。

〈表〉労災保険で受けられる給付の種類5)

給付の種類給付の内容
①療養(補償)給付ケガや病気で入院・通院した際の医療費など
②休業(補償)給付ケガや病気で仕事を休み、収入を得られない際の補償
③傷病(補償)年金療養開始から1年6カ月が経過しても治療が続き、傷病等級が認定された場合に支給
④障害(補償)等給付ケガや病気で障がいが残った場合に障がいの程度に応じて支給
⑤遺族(補償)等給付労働者が死亡した場合に遺族に対して支給
⑥葬祭料(葬祭給付)労働者が死亡した場合、葬儀を行った人に対して支給
⑦介護(補償)等給付傷病(補償)年金、障害(補償)等給付を受給し、現在も介護を受けている場合に月単位で支給
⑧二次健康診断等給付職場の健康診断で異常が認められた場合に、二次健康診断と特定保健指導を1年度に1回、無料で受診できる
⑨社会復帰促進等事業労災が認定された労働者や遺族に支給される給付に併せ、社会復帰促進等事業から支給される特別給付金

全部で9種類の給付がありますが、ケガや病気の程度、治療の期間、障がいの有無などによって支給される給付や金額は変わります

なお、業務災害の場合は「療養給付」、通勤災害の場合は「療養補償給付」といったように労災の種類によって給付の名称が変わるため、「(補償)」と掲載されていることが多いです。

①療養(補償)給付

療養(補償)給付では、労災認定されたケガや病気でかかった医療費が支給されます

〈表〉療養(補償)給付の対象となる主な費用

  • 初診料
  • 診察費
  • 入院費
  • 手術費
  • 薬代
  • リハビリ代
  • 装具代(ギプス、松葉杖など)

医療機関に支払う診察費だけでなく、ケガや病気の治療のために必要な費用であれば、基本的には全額支給されます。

療養(補償)給付を受けることができるのは、ケガや病気が完治するまで、または症状固定(これ以上回復しないと医師が判断すること)を迎えるまでの期間です。

②休業(補償)給付

休業(補償)給付は、労災によって仕事を休み、収入が減ってしまった場合に受け取ることができるお金のことです。

賃金が支払われない休みが4日以上続くことが条件で、支給される金額は給付基礎日額(直近3カ月の給与の1日当たりの金額)の60%です。また、社会復帰促進等事業の休業特別支給金として給付基礎日額の20%も合わせて請求できるため、実質、給付基礎日額の80%が補償されます。

たとえば、給与基礎日額が1万円で、休業(補償)給付の対象となる休みが50日間ある場合は「(1万円×60%×50日)+(1万円×20%×50日)=40万円」の休業(補償)給付を受け取ることができます。

③傷病(補償)年金

傷病(補償)年金は、長期的なケガや病気になった場合に別に支給されるお金のことです。

ケガや病気をした日から1年6カ月が経過しても治療が続き、傷病等級の第1級~第3級のいずれかが認定された場合の給付内容は以下です。

〈表〉傷病(補償)年金の給付内容

等級給付内容
第1級給付基礎日額(※)の313日分
第2級給付基礎日額の277日分
第3級給付基礎日額の245日分
※:原則として労働基準法の平均賃金に相当する金額のこと

なお、傷病等級の第1級~第3級に該当するケガや病気については、厚生労働省が公表している傷病等級表に記載されています。

④障害(補償)等給付

障害(補償)等給付は、労災によるケガや病気で治療を続けたものの完治せず、障がいが残った場合に支給されるお金です。

障害(補償)等給付は、症状固定を迎えたあとに労災保険の障害等級認定を受けることで、認定された等級に応じた金額を受け取れます。等級ごとの給付内容は以下です。

〈表〉障害(補償)等給付の給付内容7)

等級給付内容
第1級給付基礎日額(※)の313日分(毎年)
第2級給付基礎日額の277日分(毎年)
第3級給付基礎日額の245日分(毎年)
第4級給付基礎日額の213日分(毎年)
第5級給付基礎日額の184日分(毎年)
第6級給付基礎日額の156日分(毎年)
第7級給付基礎日額の131日分(毎年)
第8級給付基礎日額の503日分(一度)
第9級給付基礎日額の391日分(一度)
第10級給付基礎日額の302日分(一度)
第11級給付基礎日額の223日分(一度)
第12級給付基礎日額の156日分(一度)
第13級給付基礎日額の101日分(一度)
第14級給付基礎日額の56日分(一度)
※:原則として労働基準法の平均賃金に相当する金額のこと

障害等級の第1級〜第7級は毎年支給される障害(補償)等年金、第8級〜第14級は等級認定を受けた際に一度だけ支給される障害補償一時金となっています。各等級に該当する後遺症については厚生労働省が公表している障害等級表を確認してみてください。

なお、障害等級は傷病(補償)年金の傷病等級、交通事故などで自賠責保険から認定を受ける後遺障害等級とは異なる等級認定です。間違えやすいのでご注意ください。

⑤遺族(補償)等給付

遺族(補償)等給付は、労災が原因で労働者が死亡した際に支給されます

遺族(補償)等給付には、遺族(補償)年金と遺族(補償)一時金の2種類があります。亡くなられた人の収入で生計を維持していた場合には遺族(補償)年金が毎年支給され、遺族(補償)年金の対象者がいない場合は、遺族の中で最も優先順位が高い受給権者に遺族(補償)一時金が一度だけ支給されます。

たとえば、一家の大黒柱が亡くなった際は遺族(補償)等年金が配偶者や子どもに対して支払われ、亡くなった人が学生のパート・アルバイトであれば、両親などに遺族(補償)一時金が支給されます。

遺族(補償)等給付の給付内容は以下のとおりです。

〈表〉遺族(補償)等年金の給付内容8)

遺族数給付内容
1人給付基礎日額(※)の153日分(毎年)
1人(55歳以上の妻、または一定の障がい状態にある妻)給付基礎日額の175日分(毎年)
2人給付基礎日額の201日分(毎年)
3人給付基礎日額の223日分(毎年)
4人給付基礎日額の245日分(毎年)
※:原則として労働基準法の平均賃金に相当する金額のこと

〈表〉遺族(補償)一時金の金額

給付基礎日額の1,000日分(一度)

この遺族(補償)年金は、厚生年金保険で支給される遺族厚生年金とは異なります。遺族(補償)年金と遺族厚生年金を両方とも受け取ることは可能ですが、その場合、一定の調整率によって支給額が変わることがあります。

なお、遺族厚生年金については以下の記事を確認してみてください。

【関連記事】遺族厚生年金の考え方は? 受給要件や期間について、詳しくはコチラ

⑥葬祭料等(葬祭給付)

葬祭料等(葬祭給付)は、労災によって亡くなられた人の葬祭を行った場合に、葬儀を行った人に対して支給されます

金額は葬祭の実費ではなく、「31万5,000円+給付基礎日額の30日分」、または「給付基礎日額の60日分」のいずれか高いほうになります8)

⑦介護(補償)等給付

介護(補償)等給付は、労災によるケガや病気で介護が必要となった場合に支給されます

傷病(補償)年金、もしくは障害(補償)等年金を受け取っており、現在も家族などから介護を受けていることが条件で、介護の程度によって金額が変わります。

〈表〉介護(補償)等給付の給付内容9)

概要給付内容
常時介護を要する場合上限金額17万1,650円(親族などの介護を受けており、介護費用を支出していない、または支出額が7万5,290円を下回る場合は一律7万5,290円)
随時介護を要する場合上限金額8万5,780円(親族などの介護を受けており、介護費用を支出していない、または支出額が3万7,600円を下回る場合は一律3万7,600円)

「常時介護を要する場合」「随時介護を要する場合」の詳細については、厚生労働省が公表している資料をご確認ください。

⑧二次健康診断等給付

二次健康診断等給は、職場で受けた健康診断によって異常が発見された場合に、二次健康診断と特定保健指導を、労災保険を使って無料で受けられるものです10)

「血圧検査」「血中脂質検査」「血糖検査」「腹位の検査またはBMI(肥満度)の測定」の4項目すべてで異常の所見が認められた場合などが当てはまります。

⑨社会復帰促進等事業

社会復帰促進等事業は、労働保険料の一部を使って社会復帰の促進、労災に遭った労働者や遺族の援護、労働者の安全衛生の確保などを目的に行われている事業です11)

「社会復帰促進等事業」「被災労働者等援護事業」「安全衛生確保等事業」という3つの事業があり、被災労働者等援護事業では、労災保険の各給付に上乗せする形で以下の特別支給金が支給されることがあります。

〈表〉社会復帰促進等事業の特別支給金の種類

  • 休業特別支給金
  • 障害特別支給金
  • 遺族特別支給金
  • 傷病特別支給金
  • 障害特別年金(一時金)
  • 遺族特別年金(一時金)
  • 傷病特別年金

基本的に特別支給金は、労災保険の給付と同じタイミングで申請を行います。

労災保険はいつからいつまでもらえる?

労災保険の給付期間は、ケガや病気の状況、補償の種類によって異なります。たとえば、ケガが完治した人であれば給付は完治した時点で終了となります。一方で後遺症が残り、障害等級の認定を受けた人は障害等級に応じた給付をその後も受け続けることがあります。

給付の種類別に給付期間を以下にまとめました。

〈表〉労災保険の補償の種類別の給付期間

補償の種類給付の期間
①療養(補償)給付ケガや病気の発生〜完治または症状固定まで
②休業(補償)給付ケガや病気の発生〜完治または症状固定まで
③傷病(補償)年金ケガや病気の発生から1年6カ月が経過した時点〜完治または症状固定まで(1年6カ月時点で治療が続いている場合)
④障害(補償)等給付症状固定後に障害等級の認定を受けたあとに一度、もしくは以降毎年
⑤遺族(補償)等給付労災によって労働者の人が亡くなられたあとに一度、もしくは以降毎年
⑥葬祭料(葬祭給付)労災によって労働者の人が亡くなられ、葬祭が行われたあと
⑦介護(補償)等給付介護(補償)等給付の給付要件を満たしている状況で介護が続く限り

いずれの給付も請求期限があり、請求期限前であればあとからでも請求が可能です。期限について詳しくは、後述します。

労災保険の手続きの流れ

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実際に労災でケガや病気をした際は、どのような流れで労災保険を利用すればいいのでしょうか。ここでは労災が発生して労災保険を申請するまでの流れや、療養(補償)給付を申請する際の注意点を解説します。

まずは、労災の発生から保険金が給付されるまでの流れを4つのステップにまとめました。

〈表〉労災の発生から保険金が給付されるまでの流れ12)

療養(補償)給付、休業(補償)給付は上記の流れで手続きを進めます。傷病(補償)年金や、障害(補償)等給付など、あとから請求する補償は、別途手続きが必要となります。

STEP1.労災の発生。労災の報告と病院での治療を行う

労災が発生したら、まずは勤務先へ労災の報告と病院での治療を行います

すぐに医療機関に行く必要がある傷病だと治療、報告の順番になるかもしれませんが、すぐには行かなくても大丈夫な場合であれば勤務先に報告した上で治療を受けましょう。

詳しくは後述しますが、労災には労災指定病院があり、労災指定病院とそのほかの病院で医療費支払いの対応が変わります。勤務先に労災であることを伝え、労災指定病院で治療を受けたほうが後々の手間が少なくなる可能性があります。

STEP2.労災の請求書を提出する

労災認定、保険金の給付を受けるための請求書を提出します。労災指定病院を受診した場合は「療養の給付請求書」という書類を労働者が労災指定病院に提出します。労災指定病院以外を受診した場合は「療養の費用給付請求書」という書類を労働者から労働基準監督署に請求します。どちらの書類も厚生労働省の「主要様式ダウンロードコーナー(労災保険給付関係主要様式)」からダウンロードできます。

業務災害と通勤災害ともに提出の流れは同じですが、書類の様式が異なりますのでご注意ください。

STEP3.労働基準監督署が調査を行う

請求書を提出すると、労働基準監督署が「労災が認定されるケガや病気であるか」の調査を行います。場合によっては別途書類を提出したり、聴取への協力を求められたりすることがあります。

STEP4.労災認定を受けて給付が開始される

労働基準監督署の調査が終わり、労災認定を受ければ、給付を受け取れるようになります。申請から給付決定までは1カ月程度かかることが多いようです。

労災指定病院とそのほかの病院で対応が変わる

労災保険には労災指定病院があります。この労災指定病院とそのほかの病院では医療費の支払い方、送付する請求書の種類と送付先、療養(補償)給付の支払いの流れが以下のように異なります。

〈図〉労災指定病院などで療養を受けた場合

画像1: 労災指定病院とそのほかの病院で対応が変わる

労災指定病院に入院や通院をした場合、労災であることを最初に伝えれば医療費の支払いはありません。労災を申請する際は「療養の給付請求書」を労災指定病院に提出します。

その後は、労災指定病院から労働基準監督署などに「療養の給付請求書」が提出され、労災認定を受けると、治療費(療養(補償)給付として現物給付(治療や薬剤の支給)にかかった費用)が、労災指定病院に直接支払われます。

〈図〉労災指定病院以外で療養を受けた場合

画像2: 労災指定病院とそのほかの病院で対応が変わる

労災指定病院以外の医療機関を受診した場合は、一度、労働者が医療費を立て替えます。その後、労災を申請する際は「療養の費用給付請求書」を労働者が労働基準監督署などに提出し、労災認定を受けると、労働基準監督署から労働者に療養(補償)給付が支給されます。

給付の種類ごとの手続きの期限

労災保険には請求期限があります。期限は給付の種類によって異なり、最低でも2年以上ありますのですぐ時効になることはないですが、期限を過ぎると保険金を受け取れない可能性がありますのでご注意ください。

各補償の請求期限を、以下にまとめました。

〈表〉労災保険の各補償の請求期限13)

補償の種類期限(時効)カウント開始日
①療養(補償)給付2年療養の費用がかかるごとに請求権が発生し、その翌日から
②休業(補償)給付2年賃金が発生しない日ごとに請求権が発生し、その翌日から
③傷病(補償)年金なし
④障害(補償)等給付5年治療が終了した翌日から
⑤遺族(補償)等給付5年労働者が亡くなった翌日から
⑥葬祭料(葬祭給付)2年労働者が亡くなった翌日から
⑦介護(補償)等給付2年介護を受けた月の翌月1日から
⑧二次健康診断等給付3カ月一次健康診断の受診日から
⑨社会復帰促進等事業(特別支給金)各給付と同じ

労災が発生した日から2年や5年ではなく、病院を受診した日や仕事を休んだ日など、損害が発生した翌日から時効がカウントされます。

労災保険料は誰が支払う? 保険料の計算方法

労災保険の保険料は企業が全額支払います。労働者が保険料を負担することはありません。労災保険の保険料は企業ごとに異なり、労働者全員の前年度の収入総額、事業ごとに定められた労災保険率と雇用保険率を足した労働保険料率を用いて計算されます。

〈表〉労災保険料の計算式14)

労災保険料=全従業員の収入総額×労働保険料率(労災保険率+雇用保険率)

労災保険率と雇用保険率については、コチラで確認することができます。

労災保険の特別加入制度とは?

労災保険には特別加入制度という個人事業主やフリーランスなどの自営業者が労災保険に加入できる制度があります。労災保険に加入できない人の中には、業務の実態や災害の発生状況などを踏まえると、万が一のために労災保険に加入していたほうがいいというケースもあります。そのような際に一定の条件を満たせば、労災保険に加入できるのが特別加入制度です。

特別加入制度の対象者

特別加入制度で労災保険に加入できる人は、以下の4種に分類されています。

〈表〉特別加入制度の対象者15)

種別詳細
中小事業主など制度で定められた人数以下の労働者を常時使用する事業主(人数は業種で異なります)
労働者以外でその事業に従事している家族事業者
1人親方など労働者を使用せず、制度が定めた事業に従事する人
特定作業従事者特定農作業従事者、指定農業機械作業従事者など、制度で定められた仕事に従事している人
海外派遣者日本国内の企業から海外で行われる事業に労働者として派遣される人
日本国内の企業から海外で行われる中小規模の事業に事業主として派遣される人

中小事業主などは自身も現場で働くことがある中小企業の社長、1人親方などは個人事業主、海外派遣者は海外赴任をする労働者などが当てはまります。

特別加入制度で労災保険に加入する際は、申請手続きが必要となります。手続きは種別によって異なりますので、詳しくは厚生労働省ホームページ「労災保険への特別加入」で公表されている特別加入制度のしおりをご覧ください。

労災保険に関するよくある質問

ここからは、労災保険に関するよくある質問に答えていきます。

Q1.労災でケガをしたらいくら支給される?

ケガの程度や仕事を休んだ日数などで給付額が異なりますので、一概にいくらもらえるとはいえません

ケガの治療にかかった治療費は全額補償されます。労災によるケガで仕事を休み、収入が減った場合は給付基礎日額の80%の金額が休んだ日数分が支給されます。

Q2.労災保険はどの程度のケガでも適用される?

労災保険はケガの程度に関係なく適用されます。幸いにも打撲や切り傷程度のケガで済んだ場合でも、病院を受診すれば療養(補償)給付を受けることができます。

ただし、休業(補償)給付は4日以上休んだ場合に適用されますので、軽傷で仕事を休んだのが3日以下だと休業(補償)給付を受けることはできません。

同様に傷病(補償)年金や障害(補償)等給付など、給付条件が決まっている補償については、条件を満たす必要があります。

Q3.労災で休んだら給料はもらえる?給料の何割が支給される?

業務災害は、休業初日から3日間は企業が労働者の平均賃金の60%を補償しなくてはいけないことが労働基準法第76条で定められています16)。業務災害の休業4日目以降や通勤災害は、有給休暇を取得すれば給与は変わらずもらえます。しかし、有給休暇を取得しない場合は欠勤扱いになるため、休んだ分、収入が減る可能性があります。

このような労災で収入減があるケースでは、休業(補償)給付と休業特別支給金を合わせて給付基礎日額の80%を受け取ることができます。

Q4.労災で骨折したらいつまで補償される?

骨折ではケガが完治するまで、または症状固定を迎えるまで療養補償給付や休業補償給付などをもらうことができます

骨折が完治したらその時点で補償は終了しますが、後遺症が残った場合は等級が認定されることで、その後も障害(補償)等給付などを受け取れることがあります。

Q5.うつ病でも労災保険の給付を受けられる?

うつ病でも労災の認定を受けることができれば、給付を受けられる可能性があります。うつ病の労災認定要件は以下のとおりです。

〈表〉うつ病の労災認定要件17)

1.認定準対象精神障害を発病
2.認定基準の対象となる精神障がいの発病前おおむね6カ月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
3.業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと

ただし、上記を満たしていれば必ず労災が認められるとは限らず、うつ病は労災認定が難しい病気ともいわれています。

Q6.フリーランスは労災保険に加入できる?

フリーランスは、「働き方が労働者と変わらない」「特別加入制度の対象となる業種に就いている場合に限り、労災保険に加入できます

また、厚生労働省は業種に関係なくフリーランスが労災保険に加入できるように法改正の準備を進めており、早ければ2024年秋頃から業種に関係なく、任意で労災保険に加入できるようになる可能性があります。

Q7.初診を健康保険で支払ってしまった場合はどうなるの?

労災指定病院で治療費を支払ってしまった場合、労災指定病院以外の医療機関で治療費を支払った場合と同様に、あとから申請して自分で負担した分の治療費を受け取ることが可能です。

Q8.労災保険を使ったら会社に迷惑がかかりますか?

労災保険を利用することで、勤務先が支払う保険料が上がる可能性があります18)。これをメリット制といいます(労働者数が100人以上、または20人以上で災害度係数が0.4以上の事業のみが対象)。また、「労災保険を使用すると労働基準監督署から調査を受ける」「労災の内容によっては事業主が刑事責任に問われる」「取引先との関係に影響が出る」などの恐れもあります。

労災が発生した場合に労災保険を使わずに健康保険で治療を受けることは違法です。労災保険を使わないことでも勤務先に迷惑がかかる可能性があります。

労災でケガや病気をした際は、勤務先に迷惑がかかることを考えるのではなく、労災保険を利用しましょう。

Q9.通勤途中の事故などで相手の自動車保険に請求できる場合はどうすればいい?

通勤途中の交通事故では、事故の相手が加入する自動車保険と労災保険のどちらからでも保険金を受け取ることが可能です。ただし、両方から保険金を受け取ることはできず、どちらかを選択することになりますが、どちらがいいかはケースバイケースです。

自分にも過失が付いているケース、過失割合で求めているケースでは労災保険を利用したほうがいいと言われています。一方で、自分に過失がなく、相手が任意保険の対人賠償責任保険に加入しているようなケースでは、相手の自動車保険に請求したほうがいいことが多いです。労災保険には慰謝料がありませんが、自動車保険では慰謝料の支払いがあるため、支払われる保険金の違いを確認し、判断しましょう。

なお、労災保険の休業特別支給金は、相手の自動車保険に請求する場合でも受け取ることができます。

労災保険のしくみを知り、適切に給付を受けよう

労災保険は、就業中や通勤中のケガや病気で発生した損害を補償してくれます。労災保険を利用するアクシデントがいつ起きるかはわかりません。労災保険の利用で困らないよう、受け取れる補償の種類や金額などを把握しておいて損はないでしょう。

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