一般的に、奨学金の返済は15年、20年と長期にわたります。現在返済中であれば「なるべく早く返済を済ませる方法はないのかな?」「余裕がある時に多めに返済することは可能?」などと考えている人もいるでしょう。そこで覚えておきたいのが、奨学金の繰り上げ返済の制度です。

この記事では、奨学金アドバイザーの久米忠史さん監修のもと、奨学金の繰り上げ返済のしくみやメリット・デメリット、繰り上げ返済の手順について詳しく解説します。

この記事の監修者

久米 忠史(くめ ただし)

株式会社まなびシード 代表取締役。奨学金アドバイザーとして活動。
2005年頃から沖縄県の高校で始めた保護者・高校生向けの奨学金ガイダンスが「わかりやすい」との評判を呼び、現在では高校だけでなく全国各地で開催される進学相談会や大学のオープンキャンパスなどで毎年150回以上の講演を行うほか、奨学金関連本をこれまで4冊出版。2009年には進学費用対策ホームページ「奨学金なるほど!相談所」を開設。

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奨学金の繰り上げ返済とは?

画像: 画像:iStock.com/Kwangmoozaa

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奨学金の返済は15年や20年と長期間におよびます。そのため、一日でも早く奨学金の返済を終えたいと考える人も多いでしょう。

そこで役立つのが、奨学金の繰り上げ返済です。奨学金も、住宅ローンや教育ローンなどの一般のローンと同じく繰り上げ返済が可能です。ここでは、日本で最も利用者が多い独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)の奨学金を例に、繰り上げ返済の方法やメリット・デメリットを紹介します。

注:日本学生支援機構の奨学金は「返還」としていますが、本記事では「返済」と記載します。日本学生支援機構の奨学金に関する情報は、記事の公開日時点のものとなります。最新情報は、公式ウェブサイトをご確認ください。

繰り上げ返済には、主に繰り上げ返済後の返済月額が小さくなる「返済月額軽減型」と、返済月額は変わらず返済期間が短くなる「返済期間短縮型」の2種類があります。

日本学生支援機構の奨学金の繰り上げ返済は、「返済期間短縮型」で、繰り上げ返済後も返済月額は変わらず、返済期間が短くなります1)

なお日本学生支援機構の奨学金は、申請から貸与終了までの期間は在籍する学校が窓口になりますが、返済期間中は奨学生本人と日本学生支援機構が直接やり取りすることになります。つまり、繰り上げ返済の手続きは自らで行う必要があります。

奨学金の繰り上げ返済のメリット・デメリット

画像: 画像:iStock.com/miya227

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返済期間短縮型となる日本学生支援機構の繰り上げ返済のメリットとデメリットは以下のとおりです。

繰り上げ返済のメリット

繰り上げ返済の最大のメリットは、奨学金の返済期間が短くなることです。さらに、奨学金の種類や選択した保証制度によってはほかにもメリットがあります。

メリット①:支払利子が節約できる

日本学生支援機構の奨学金には、無利子の「第一種奨学金」と、利子が発生する「第二種奨学金」の2種類があります。このうち、繰り上げ返済のメリットがより大きいのは第二種奨学金です。

第二種奨学金は、毎月の返済金の中に利子分も含まれています。 そのため、繰り上げ返済を行えば、繰り上げ月(回)数分の利子も節約することにつながります。

〈図〉繰り上げ返済のイメージ

画像: メリット①:支払利子が節約できる

メリット②:機関保証の保証料が一部返金される

奨学金を利用する際に連帯保証人や保証人を立てず、「機関保証」を選択した人は、貸与期間中に保証料の支払いが必要になります。この場合、繰り上げ返済することで、すべての返済が完了したあと、繰り上げ分に相当する保証料の一部が返金される可能性があります。

ちなみに日本学生支援機構が保証機関として指定している公益財団法人日本国際教育支援協会(JEES)によると、在学中や据置期間(貸与終了から最初に口座から引き落としされるまでの期間)などに返済が完了した場合、払戻しの手数料を引いた7割程度の保証料が返済完了後に返金されます。

返済開始後の一部の繰り上げ返済ならば、大きな金額にはならないと思いますが、先払いしていた保証料が戻ってくる可能性があるなら、繰り上げ返済にはメリットがあるといえるでしょう。

メリット③:奨学金の場合、繰り上げ返済の手数料は無料になる

繰り上げ返済は、教育ローンでも可能です。しかし教育ローンの場合、金融機関によっては繰り上げ返済する際に手数料が求められることがあります。対して、日本学生支援機構の奨学金を繰り上げ返済する際には、手数料がかかりません。

繰り上げ返済のデメリット

繰り上げ返済のデメリットを強いてあげるとすれば、大きな出費となるため、貯えが減ってしまうことです。

繰り上げ返済をしたあとも、完済するまで毎月の返済額は変わらずに続きます。そのため、貯えに余裕がない時に無理に繰り上げ返済すると、その後の生活が苦しくなってしまう可能性があります。

奨学金の利率は、住宅ローンや教育ローンなどのほかのローンに比べ低い場合がほとんどなので、無理をしてまで、繰り上げ返済する必要はありません。特に、結婚など大きな出費が必要なライフイベントを予定しているなら、その分の貯えには手をつけないようにしましょう。

奨学金の繰り上げ返済の方法や手順

日本学生支援機構の場合、奨学金の繰り上げ返済の手続きは、郵送やファックスのほか、「スカラネット・パーソナル」というウェブサイトから行うことができます2)。おすすめはスマートフォンからも手軽にいつでも手続きできるスカラネット・パーソナルです。

とはいえ手続きの手順は、どの方法を選んでも簡単です。郵送にて繰り上げ返済する際の申請書を例に、手続きする際の記入事項を紹介しましょう。なお、ここでは無利子の第一種奨学金と利子がある第二種奨学金の両方を利用する「併用貸与」のケースを例として、複数の奨学金について申請する内容にしています。

〈図〉繰り上げ返済を申請する際の記載例

画像: 奨学金の繰り上げ返済の方法や手順

①奨学生番号
奨学生番号は、奨学生個人に振り分けられるのではなく、正確には「利用している奨学金」に対して付与されます。つまり、複数の奨学金を利用している場合は、借りている奨学金の数だけ奨学生番号があることになります。なお、奨学生番号の調べ方については、以下の記事をご参照ください。

【関連記事】奨学生番号の調べ方や、奨学金の残高確認方法など詳しくはコチラ

②返済の種類
申請する際には、残額をまとめて返済する「全額」と、任意の金額を返済する「一部」のいずれかを選択します。この例では、上段の奨学金は全額を繰り上げ返済、下段の奨学金は一部を繰り上げ返済することにしています。

③繰り上げ返済の回数または金額
「一部」の繰り上げ返済を希望する場合には、繰り上げ返済の「回数」または「金額」のいずれかを指定します(図では両方の記入例を示すため、「回数」に10回(10カ月分)、「金額」に30万円と記載しています)。

回数を指定した場合は、それに応じて計算された金額が「リレー口座」と呼ばれる振替口座から自動的に引き落とされます。金額を指定した場合は、希望額に近い前払金額が設定され、同じくリレー口座から引き落とされます。

奨学金の繰り上げ返済はいくらからできる?

先ほども説明したように、奨学金の一部を繰り上げ返済する際には「回数」または「金額」で指定します。そのため、繰り上げ返済の最小金額は、指定した返済方法によって異なります。

①回数で指定する場合
「回数」の単位は、毎月の返済額です。たとえば毎月1万5,000円返済している人の場合、繰り上げ返済の最小金額は「1回」の1万5,000円となるわけです。

②金額で指定する場合
金額を指定した場合には、先ほども解説したように希望額に近い前払金額が設定されます。前払金額は、毎月の返済額が基準となります。たとえば毎月1万5,000円返済している人の場合、金額を10万円に指定すると、10万円に最も近い金額になる、6カ月(6回)分の9万円となるわけです。

繰り上げ返済ができないケースはある?

基本的には、繰り上げ返済ができないケースはありません。その上で稀な例としては、ほかの奨学金の貸与中は、貸与済みの奨学金の繰り上げ返済ができないというものがあります。

たとえば、第一種奨学金と第二種奨学金を併用している大学1年生が、大学2年で第二種奨学金を停止し、第一種奨学金のみを継続したとします。この際、貸与を停止した第二種奨学金の繰り上げ返済をすることができません。

奨学金の繰り上げ返済のシミュレーション

画像: 画像:iStock.com/Prostock-Studio

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ここでは、奨学金の繰り上げ返済(一部)を利用した場合、どれくらい利子が抑えられるのか、概算で見てみます。

なお、ここで紹介するのはあくまで繰り上げ返済の概算であり、実際の返済金額とは異なる場合があります。実際に繰り上げ返済を利用する際の詳細な金額については、日本学生支援機構に確認するようにしましょう。

今回シミュレーションを行う条件は以下のとおりです。

奨学金の種類:日本学生支援機構の第二種奨学金
貸与総額:240万円(月額5万円×4年間)
返還方式:定額返還方式
割賦方法:月賦返還
利率:利率固定方式

返還方式や割賦方法は以下の記事で詳しく説明しているので、併せて参考にしてみてください。

【関連記事】奨学金の返済について、期間や返済方法、分割方法など詳しくはコチラ

まずは、上記の条件に沿って返済月額や返済総額を見てみましょう。なお、利率については貸与終了月により適用される割合が変わるため、0.5%〜3.0%を例として挙げています。

〈表〉通常どおり返済した場合の返済月額と返済総額例

貸与総額利率返済月額返済期間返済総額
2,400,000円0.5%13,874円15年(180カ月)2,497,419円
1.0%14,428 円2,597,188円
2.0%15,574 円2,803,404円
3.0%16,769 円3,018,568円
※端数分は最終月の返済額で調整されます。

利率によりますが、約10万〜60万円程度、利子として支払うことがわかります。

つぎに、上記の表から「返済総額」−「貸与総額」÷「返済期間」で算出できる1カ月あたりの利子相当額を見てみましょう。

利率1カ月あたりの利子相当額
0.5%541円
1.0%1,095円
2.0%2,241円
3.0%3,436円

したがって、繰り上げ返済する月数(回数)ごとの削減できる利子の金額は以下のようになります。

利率削減できる利子の金額
10カ月分20カ月分30カ月分40カ月分50カ月分
0.5%5,410円10,820円16,230円21,640円27,050円
1.0%10,950円21,900円32,850円43,800円54,750円
2.0%22,410円44,820円67,230円89,640円112,050円
3.0%34,360円68,720円103,080円137,440円171,800円
利率削減できる利子の金額
60カ月分70カ月分80カ月分90カ月分100カ月分
0.5%32,460円37,870円43,280円48,690円54,100円
1.0%65,700円76,650円87,600円98,550円109,500円
2.0%134,460円156,870円179,280円201,690円224,100円
3.0%206,160円240,520円274,880円309,240円343,600円

いうまでもなく、繰り上げ返済の期間が長いほど削減効果は大きくなります。また、利率が高いほど削減できる金額も増えるため、繰り上げ返済するメリットは大きいといえるでしょう。

今回は貸与総額240万円を例に紹介しましたが、貸与総額が高ければそれだけ利子も増えるので、繰り上げ返済が有効となります。

なお、実際の返済月額のなかには、元本と利子が含まれており、利子には貸与終了月から返済開始月までの「据置期間利息」も含まれています。そのため、上記の概算は実際の金額と異なる可能性があることをあらかじめご了承ください。

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現在の貯えや今後のライフプランを踏まえて、上手に繰り上げ返済を利用しよう

画像: 画像:iStock.com/kazuma seki

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奨学金の繰り上げ返済を利用すれば、返済期間を大幅に短縮できる可能性があります。その一方で、奨学金の利子は住宅ローンや教育ローンなどのほかのローンに比べて低いため、無理して繰り上げ返済をしなくてもよい場合も多いです。

奨学金の繰り上げ返済を検討している人は、現在の貯蓄額や今後のライフプランとのバランスを考えて、上手に活用することをおすすめします。

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