高校や大学、専門学校などへの進学を希望していても、経済的な理由で躊躇する人もいるでしょう。そういった境遇の人にとって、大きな助けとなるのが「奨学金」の制度です。

しかし、制度の存在は知っていても、奨学金の種類や利用するための条件、返済の方法など、詳しい内容を知らない人も多いのではないでしょうか。

そこでこの記事では、奨学金アドバイザーの久米忠史さん監修のもと、奨学金制度のしくみや種類、返済方法などについてわかりやすく解説します。これから奨学金制度を利用しようと思っている人でも、奨学金の基本的な情報がわかるでしょう。

この記事の監修者

久米 忠史(くめ ただし)

株式会社まなびシード 代表取締役。奨学金アドバイザーとして活動。
2005年頃から沖縄県の高校で始めた保護者・高校生向けの奨学金ガイダンスが「わかりやすい」との評判を呼び、現在では高校だけでなく全国各地で開催される進学相談会や大学のオープンキャンパスなどで毎年150回以上の講演を行うほか、奨学金関連本をこれまで4冊出版。2009年には進学費用対策ホームページ「奨学金なるほど!相談所」を開設。

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奨学金とは?

画像: 画像:iStock.com/takasuu

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そもそも「奨学金」とは、家庭の事情などで経済的に余裕がない学生のために、貸与または給付されるお金のことです。

学ぶ意欲がある学生を支えることを目的として、国や自治体のほか、大学、企業、NPOといった民間団体も奨学金の制度を設けています。

ちなみに自治体と民間の奨学金、または異なる民間の奨学金というように、併用できる場合もあるため、条件によっては、複数の奨学金を利用することも可能です。

奨学金の種類は?

返済する必要があるかどうかや、借りた金額に利子がつくかどうかなど、奨学金にはいくつかの種類があり、大きくは卒業後に返済が必要な「貸与型」と、返済不要の「給付型」の2種類に分けることができます。給付型の奨学金は受給の条件がかなり厳しいほか、受給できる人数にも制限があります。 そのため、貸与型の奨学金を利用する場合が多いです1)

以下は代表的な奨学金の運営元とその種類です。

〈表〉代表的な奨学金の運営元と種類

運営元主な奨学金の種類
高校や大学、専門学校など貸与型、給付型
日本学生支援機構貸与型、給付型
地方公共団体貸与型、給付型
企業や公益財団など貸与型、給付型
新聞奨学会給付型

ここからは、主な奨学金である「貸与型奨学金」と「給付型奨学金」について紹介します。

(1)貸与型奨学金

奨学金のなかでも特に利用者が多いのが、返済の必要がある貸与型奨学金1)です。

貸与型の奨学金は、利子が発生するものと利子が発生しないものの2種類に分かれます。利子が発生しない貸与型奨学金は利用するための条件が比較的厳しいため、利子があるタイプを利用する人が多いです。なお多くの場合、貸与型奨学金を利用するためには、連帯保証人や保証人を立てる必要があります。

(2)給付型奨学金

給付型奨学金とは、受け取ったお金を返済する必要がない奨学金のことです。

返済の必要がない点は大きな魅力ですが、それだけに受給するための条件はかなり厳しいという特徴があります。また、貸与型に比べ採用人数も少ないため、給付型奨学金の利用者は限られています。

なお、奨学金の利子について詳しくは、以下の記事を併せてご参照ください。

【関連記事】奨学金の金利はどのくらい? 借りる前に確認しておきたい利子について詳しくはコチラ

奨学金を利用するための条件は?

画像: 画像:iStock.com/jaker5000

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奨学金の制度は、誰でも利用できるわけではありません。制度の運営元によっても異なりますが、基本的には「経済的な余裕がない」と認められる「学生」(※1)が貸与、または給付の対象となります。また、奨学金を申請する際の学力も基準のひとつとなります。

※1:ここでいう「学生」とは通信制を含む、高等学校、高等専門学校、大学、短期大学、専門学校、大学院、海外の学校進学者のことです。

なお運営元によりますが、学生であれば、「2年生までは借りていなかったが、3年生以降の学費は奨学金を利用したい」というように、在学中に申請することも可能な場合があります。

「経済的に余裕がない」と認められる家庭の収入基準は、奨学金の運営元によって異なります。たとえば、最も利用者の多い独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)の奨学金の場合、家庭の収入基準は以下のとおりです。

〈表〉日本学生支援機構の奨学金(予約採用※2)の場合(2022年度分)2)3)4)

世帯人数想定する世帯構成(★)が給与所得者の世帯
(年間の収入金額:万円)
(★)が給与所得者以外の世帯
(年間の所得金額:万円)
第一種第二種併用貸与第一種第二種併用貸与
2人本人、親①(★)7791,036707371628321
3人本人、親①(★)、親②(無収入)6571,009599286601245
4人本人、親①(★)、親②(無収入)、中学生7471,100686349692306
5人本人、親①(★)、親②(無収入)、中学生、小学生9221,300884514892476
※表記金額以下の家庭が対象となります
※表記金額は、世帯の収入(両親共に収入がある場合は、双方の収入を合算)です
※給与所得とは、サラリーマンや公務員など会社から毎月給料を支給されている人のことです
※給与所得以外とは、自営業者など毎年「確定申告」を行う人のことです。

※2:「予約採用」とは、高校3年次に在籍高校を通じて進学後の奨学金を予約する日本学生支援機構の制度のこと。進学した大学や専門学校を通して、在学中に申し込む「在学採用」もあります。

在学中の成績によっては奨学金を取り消される場合もある

家計や学力の基準を満たし奨学金の申請が認められた後でも、奨学金の給付または貸与が取り消される場合があります。

取り消される理由のひとつとなるのは、在学中の成績です。奨学金を継続して利用するためには1年ごとに継続願を提出する必要があり、その時点の成績が基準を下回る場合には、奨学金が取り消される可能性があります。

最も利用者の多い日本学生支援機構の奨学金

日本国内で最も利用者が多いのは、国が支援する日本学生支援機構の奨学金です。労働者福祉中央協議会の調査5)によれば、奨学金を利用している人のうち、約7割が日本学生支援機構の奨学金を利用しています。

日本学生支援機構の奨学金は、以下の3種類に分かれています。

(1)第一種奨学金(無利子)2)

第一種奨学金とは、学校種別や国公立・私立の違い、通学形態によって借りられる上限額が決まる奨学金で、利子はありません。ただし、高校の成績が5段階評価で3.5以上(予約採用)というように明確に成績基準が設けられています。貸与月額の基準については以下の表のとおりです。

〈表〉大学の場合の貸与月額6)

区分国公立国公立私立私立
通学方法自宅通学自宅外通学自宅通学自宅外通学
最高月額45,000円51,000円54,000円64,000円
最高月額以外に選択できる月額30,000円
20,000円
40,000円
30,000円
20,000円
40,000円
30,000円
20,000円
50,000円
40,000円
30,000円
20,000円
※平成30年度以降入学者の場合

〈表〉短期大学・高等専門学校(4・5年生)・専修学校(専門課程)の場合の貸与月額6)

区分国公立国公立私立私立
通学方法自宅通学自宅外通学自宅通学自宅外通学
最高月額45,000円51,000円53,000円60,000円
最高月額以外に選択できる月額30,000円
20,000円
40,000円
30,000円
20,000円
40,000円
30,000円
20,000円
50,000円
40,000円
30,000円
20,000円
※平成30年度以降入学者の場合

(2)第二種奨学金(利子あり)3)

第二種奨学金とは、年3%を上限とする利子つきの奨学金です。ただし、在学期間中に利子はつきません。また、進学先や通学形態にかかわらず、希望金額を選択できます。具体的には、月額2万〜12万円の中から、1万円単位で選択可能です(※3)。採用基準は成績・家計基準ともに、第一種奨学金と比べるとゆるやかに設定されています。

※3:私立大学の医学、歯学の課程の場合は12万円に4万円の増額が、私立大学の薬学、獣医学の課程の場合は12万円に2万円の増額が可能です。

(3)給付奨学金(返済義務なし)7)

日本学生支援機構には、大学・短期大学・高等専門学校(4年、5年)・専門学校に進学する人を対象とした返済不要となる給付型の奨学金8)もあります。

なお、日本学生支援機構の場合、それぞれの奨学金は併用が可能です。「貸与型と給付型」「第一種と第二種」など、組み合わせて利用する人もいます。

給付奨学金については以下の記事で詳しく説明しているので、併せてご覧ください。

【関連記事】給付奨学金とは? 条件や金額など詳しくはコチラ

奨学金の返済方法は?

画像: 画像:iStock.com/shih-wei

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奨学金の返済は、いつから始まるのでしょうか。ここでは、最も利用者が多い日本学生支援機構の奨学金を例に紹介します。

注:日本学生支援機構の奨学金は「返還」としていますが、本記事では「返済」と記載します。日本学生支援機構の奨学金に関する情報は、記事の公開日時点のものとなります。最新情報は、公式ウェブサイトをご確認ください。

奨学金の返済はいつからいつまで? いくら返す?

日本学生支援機構の奨学金の場合、返済は奨学金の貸与が終了した月の翌月から数えて7カ月目の月の27日から始まります。

たとえば4年制の大学を3月に卒業した場合は、その年の10月27日から返済が始まることになります。大学を中退した場合は、中退した月(最後に奨学金が振り込まれた月)の翌月から数えて7カ月目から返済が始まります。

奨学金の返済が始まると、以降は完済するまで毎月返済が続くことになります。基本的に、返済期間は借りた奨学金の総額と、奨学金を利用する際に指定した返済方法(返還方式)によって決まり、15年や20年ほど続くことになります。

毎月の返済額に関わる奨学金の返済方法

日本学生支援機構の場合、奨学金の返済方法は2種類あります。返済方法は奨学金の申込時に選択します。

(1)定額返還方式9)

定額返還方式とは、月々の返済額が一定の返済方法です。借りた奨学金の総額に応じ、自動的に返済額と返済期間が決まります。返済期間は最長20年間となっています。

〈図〉定額返還方式のイメージ

画像: (1)定額返還方式9)

定額返還方式は、第一種奨学金(無利子)と第二種奨学金(利子あり)の両方で利用できます。多くの人が、定額返還方式を選んでいます。

(2)所得連動返還方式10)

所得連動返還方式とは2017年4月から始まった、前年度の所得に応じて月々の返済額が決まる返済方法です。2017年度以降、第一種奨学金(無利子)を利用しており「機関保証制度」を選択している人が、この返済方法を利用できます。機関保証制度とは、日本学生支援機構が指定する保証機関の連帯保証を受ける制度のことで、保証機関に保証料を支払う必要があります。

〈図〉所得連動返還方式のイメージ

画像: (2)所得連動返還方式10)

所得が一定程度となるまでの間は、定額返還方式よりも返済月額が少なくなります。一方で所得が一定程度を超えると定額返還方式よりも返済月額が多くなります。その分、返済期間が短くなるわけです。

なお、奨学金の返済について詳しくは、以下の記事を併せてご参照ください。

【関連記事】奨学金の返済はいつから始まる? いつまで続く? 返済期間について、詳しくはコチラ

奨学金の返済時に覚えておきたい3つのポイント

画像: 画像:iStock.com/Aslan Alphan

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返済の必要がある奨学金を利用する場合には、返済にあたり注意すべきポイントがいくつかあります。代表的なポイントを紹介しましょう。なお、以下の内容は日本学生支援機構の奨学金の内容をもとにしています。

(1)奨学金の返済がきつい時には救済制度を利用しよう

様々な理由から、奨学金の返済が難しくなってしまうことがあるかもしれません。そんな時は、滞納してしまったり、焦って金融機関などからお金を借りたりせず、救済制度を活用しましょう。

日本学生支援機構の奨学金には、災害や傷病、家計の急変、失業などによって奨学金の返済が困難な時のために、3つの救済制度があります。

減額返還制度11)

一定期間、月の返済額を2分の1または3分の1に変更することができます。返済期間は返済額を2分の1にした場合は2倍、3分の1にした場合は3倍になります。

適用期間は最長15年で、1年ごとに願出(制度の利用を願い出る願書を提出すること)の必要があります。

なお、減額返還を利用できるのは「定額返還」の返済方法を選択した人のみであり、「所得連動返還」を選択した人は利用できません。

〈図〉減額返還制度のイメージ

画像: 減額返還制度11)

適用収入条件は、給与所得の人は年間収入金額が325万円以下、給与所得以外の所得がある人は年間所得金額が225万円以下です。ただし、奨学金の返済を延滞している場合は原則として願出できないので、必ず延滞する前に利用しましょう。

返還期限猶予制度12)

返済を一定期間猶予してもらって延期し、家計状況が整ったら返済を再開することができます。適用期間は最長10年間で、1年ごとに願出が必要です。適用収入条件は、給与所得の人は年間収入金額が300万円以下、給与所得以外の所得がある人は年間所得金額が200万円以下です。

〈図〉返還期限猶予制度のイメージ

画像: 返還期限猶予制度12)

返還免除制度13)

死亡や病気により返済が困難になってしまった場合に、返還未済額を免除してくれる制度です。通常、本人の返済が困難になった際は連帯保証人や保証人が代わりに返済をすることになりますが、死亡や病気により返済が困難になってしまった場合には、返済免除の願出を提出することで、連帯保証人や保証人の返済義務も免除されます。

死亡の場合には申請をすればおおむね適用されますが、病気の場合には特定の基準が設けられていません。そのため、申請をしても返還期限猶予制度を案内される可能性もあることに注意しましょう。

もし病気で返済が困難な状況になってしまった場合には、日本学生支援機構に直接問い合わせて、自分が返還免除制度に当てはまるかどうか確認するようにしましょう。

(2)奨学金の繰り上げ返済を活用しよう

一般のローンと同じように、日本学生支援機構の奨学金も、全額もしくは一部の繰り上げ返済が可能です。繰り上げ返済の手数料は無料なので、家計に余裕がある状況であれば検討するのもおすすめです。繰り上げする金額次第では一括返済することも可能になります。

なお、日本学生支援機構の奨学金の繰り上げ返済は「期間短縮型」と呼ばれるものとなっており、繰り上げ返済をしたとしてもそれ以降の毎月の返済額は変わらず、返済期間のみが短くなります。

また、繰り上げできる金額については、「当月分+〇回分を返済希望」「上限〇万円を返済希望」のように選べます。

特に第二種奨学金の場合は、ぜひ繰り上げ返済を検討したいところです。繰り上げ返済した回数分にかかっている利子を支払わずに済むので、返済総額が少なくなります。

奨学金の繰り上げ返済について、詳しくは以下の記事を併せてご参照ください。

【関連記事】奨学金の繰り上げ返済とは? メリット・デメリットなど詳しくはコチラ

(3)奨学金の残高確認はこまめに行おう

奨学金の返済は、15年や20年という長期にわたって続きます。そこで注意したいのが延滞です。一般的なローンと同様、奨学金の場合も、延滞を重ねると相応のペナルティーが課されます。延滞の回数によっては、社会的な信用にかかわるペナルティーもあるため、くれぐれも注意しましょう。

特に気をつけたいのが、うっかりミスによる延滞です。返済すべき奨学金の残額や、返済する奨学金が引き落とされる口座の残高は、定期的に確認しましょう。なお、奨学金の残高確認について詳しくは、以下の記事を併せてご参照ください。

【関連記事】奨学金の返済残高の確認方法について詳しくはコチラ

制度の概要やしくみを理解して、奨学金を賢く利用しよう

画像: 画像:iStock.com/Nuthawut Somsuk

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学ぶ意欲はあるものの経済的な余裕がない人にとって、奨学金はとても魅力的な制度といえます。しかし、返済する必要がある奨学金を利用する場合には、注意すべき点もいくつかあります。

奨学金の返済は長期にわたって続くため、卒業後のライフプランにも影響を与えます。奨学金の利用を検討している場合は、制度の概要やしくみをしっかりと理解した上で、自分に合うものを選ぶようにしましょう。

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