しかし、一口に貯蓄型保険といっても、その種類はさまざま。調べてもチンプンカンプンで、途方に暮れてしまう人も多いのではないでしょうか。ファイナンシャルプランナーのタケイ啓子が、貯蓄型保険のしくみと種類について解説します。
この記事の著者
タケイ啓子
ファイナンシャルプランナー(AFP)。36歳で離婚し、シングルマザーに。大手生命保険会社に就職をしたが、その後、保険の総合代理店に転職。保険の電話相談業務に従事。43歳の時に乳がんを告知される。治療を経て、現在は治療とお金の相談パートナーとして、相談、執筆業務を中心に活動中。
貯蓄型保険とはどんなもの?
まずは「貯蓄型保険」とはどんなものなのか説明しましょう。貯蓄型保険とは、保険の機能を持ちながら、貯蓄の用途でも活用できる保険のことです。
貯蓄型保険のしくみ
そもそも「保険」を簡単に説明すると、「困った時にお金をもらえるシステム」です。
病気や怪我で入院・手術をしたり、亡くなってしまったり……。そんな人生の危機でお金を受け取れるよう、加入者は保険料を支払います。裏を返せば、本来ならお金は“困った時”にしか受け取れません。
しかし、病気や怪我などのトラブルが発生しなくても、
・契約が満期を迎えると満期保険金をもらえる
・契約を途中で解約した場合に支払った保険料と同額以上の解約返戻金をもらえる
など“困った時”以外でも、お金を受け取れるタイプの保険があります。
これが「貯蓄型保険」です。
いわば、万が一の保障を担保しながら、実質的な貯蓄もできるわけです。もちろん、預金のように素早く引き出すことはできませんが、だからこそ着実に貯蓄できるのがメリットのひとつです。
代表的な保険商品としては、終身保険、養老保険、学資保険、個人年金保険などが挙げられます。それぞれの特徴については、後ほど解説しましょう。
掛け捨て型保険と貯蓄型保険の違いは?
また、保険には「貯蓄型保険」のほかに、「掛け捨て型保険」と呼ばれるタイプもあります。こちらもポピュラーなタイプですが、何がどう違うのでしょうか。
掛け捨て型保険は、貯蓄型保険と異なり、“困った時にだけ”お金を受け取れるシンプルなしくみです。
満期保険金や解約返戻金などは存在しないか、あっても受け取れるのはごく少額。病気や怪我を原因とする決められた給付要件を満たさない限り、基本的に支払ったお金は“掛け捨て”となり、戻ってくることはありません。
“掛け捨て”と聞くと、ネガティブな印象を受けるかもしれませんが、その役割は“もしもの時”の保障限定です。そのため、掛け捨て型保険は貯蓄型保険と比べると、保険料が安い場合が多くなります。
〈図〉掛け捨て型保険と貯蓄型保険の違い
なお、掛け捨て型保険の代表的な保険商品としては、収入保障保険、一般的な医療保険、がん保険などが挙げられます。
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貯蓄型保険の種類
では、貯蓄型保険にはどんな種類の保険商品が存在するのでしょうか。それぞれの特徴としくみを紹介します。
保障が一生涯続く「終身保険」
「終身保険(しゅうしんほけん)」とは読んで字のごとく、一生涯にわたって保障を受けられる保険です。人間はいつか亡くなるため、解約しない限りは必ず、遺族へと死亡保険金が支払われます。
保障期間の決まっている「定期保険」の場合、保険金の支払い対象となるのは「60歳までに亡くなった場合」など、期間内のアクシデントに限られます。これとは異なり、「終身保険」では期間が定められていないため、保険料は定期保険よりも高額になるのが一般的です。
また、終身保険は途中で解約したとしても、解約返戻金が発生します(定期保険も解約返戻金がある場合もありますが、少額です)。金額は保険料を支払った期間によって異なり、当然ながら長く継続した人ほど上がります。
〈図〉終身保険と定期(死亡)保険の一例
ただ、支払期間中に解約する場合、終身保険でも解約返戻金はそれまでに支払ってきた保険料の総額を下回ることが多いのでご注意ください。ちなみに、保険料を支払う期間は一生涯にすることもできれば、任意の期間に設定することもできるのが一般的です。
たとえば、あなたが30歳で死亡保険金が1,000万円の終身保険に加入したとしましょう。
この場合、契約を継続している限り、あなたが亡くなった時点で、遺族に1,000万円が支払われます。逆に50歳で解約したくなった場合は、それまでに支払った20年分の保険料に応じて、解約返戻金を受け取ることも可能です。
老後の資金づくりに役立つ「養老保険」
養老保険(ようろうほけん)とは、もしもの時に備えながら老後の資金も用意できる保険です。保障期間中に亡くなった場合は死亡保険金を、無事に満期を迎えた場合は満期保険金を受け取ることができます。死亡保険金と満期保険金は基本的には同額です。
さらに養老保険も終身保険と同様、解約返戻金があります。ただし、こちらも解約返戻金がそれまでに支払ってきた保険料の総額を下回ることが多いです。
〈図〉養老保険の例
たとえば、あなたが30歳から60歳までの期間、死亡保険金が1,000万円の養老保険に加入したとします。
仮にあなたが60歳までに亡くなった場合、遺族は1,000万円の死亡保険金を受け取ることができます。一方で、無事に60歳を迎えた場合も、あなたには1,000万円の満期保険金が支払われるため、老後の資金などに活用できます。
また、養老保険のなかには、死亡保険金が満期保険金の倍額に設定されている「2倍型」もあります。この場合、死亡保険金が1,000万円なら、満期保険金は500万円。最近はこちらのタイプも主流になっているようです。
子どもの教育費をサポートする「学資保険」
学資保険(がくしほけん)とは、子どもの学費を用意するための保険です。子どもが進学する18歳などに満期を設定し、満期に達したタイミングで学資金を受け取れます。これにより、入学金や授業料などの大きな出費に備えることが可能です。
〈図〉学資保険の一例
お金を複数のタイミングに分けて受け取ることもできるため、18歳の1回だけにする場合もあれば、15歳と18歳の2回、さらには5歳や12歳を含めた3〜4回にする場合も。その際に受け取る学資保険金の金額は、基本的に受け取り回数を少なくするほど多くなります。
死亡保障も用意されており、もし契約者である親が亡くなった場合、以降の保険料を支払わなくても学資金を受け取ることができます。さらには育英年金のついたプランもあり、こちらも親が亡くなった場合、契約の満期まで所定の年金を受け取ることが可能です。
なお、解約返戻金もありますが、基本的にはそれまでに支払った保険料の総額を下回ることが多いです。
自分で準備するもうひとつの年金「個人年金保険」
個人年金保険とは、老後の資金づくりを目的とした保険です。
まず、加入者は一定の期間まで保険料を支払い、年金の原資を作ります。そして、60歳や65歳などの設定したタイミングから、定期的に年金を受け取ります。
〈図〉個人年金保険の一例
年金は、年に1回、10〜15年にわたって受け取れるものが一般的です。なかには加入者が亡くなるまで続く終身タイプもあり、その場合は保険料も高くなります。
保険料支払期間中に亡くなった場合、それまでに支払った保険料の相当額、商品や時期によってはそれを上回る金額を遺族に支払うものが主流です。ただし、死亡給付金の金額は時期によって変わるので、死亡保障が必要なら、併せて別の生命保険も検討するのがベターです。
保険金の受け取りには「変額型」と「定額型」がある
さて、ここまでは保険金や解約返戻金の金額が保障されている「定額型」の保険を紹介してきました。
ですが、実は保険には、受け取る保険金額や解約返戻金額が保険会社の運用実績によって変わる「変額型」も存在します。こちらは単にお金をコツコツと貯めていくのではなく、将来の貨幣価値の変動に合わせてお金を蓄えておける可能性のあるタイプです。
その特徴とメリット・デメリットについても触れておきましょう。
定額保険とどう違う? 変額保険のしくみ
変額保険とは、加入者が支払った保険料を保険会社が運用し、その成果によって保険金や解約返戻金が変動する保険です。
定額保険における保険金や解約返戻金の金額は、保険料を積み立てるごとに一定の割合で伸びますが、変額保険の場合は一定ではありません。お金を受け取る時点までの運用実績によって、受け取る金額が増減します。
それまでに支払った保険料の総額を大きく上回る解約返戻金を受け取れることもあれば、逆の場合もあるということです。死亡保障などがついていることを除けば、保険会社に資産運用をお任せする点では、投資信託に近いイメージかもしれません。
〈図〉終身保険が変額保険だった場合の一例
なお、支払った保険料の全額が運用に回されるわけではありません。保険機能を保つための金額はあらかじめ差し引かれるので、死亡保険金については加入時に設定した金額が保証されるしくみになっています。
また、運用対象についても複数の選択肢が用意されているので各々のリスクの許容度に応じて調整することが可能です。
ちなみに、変額保険にも終身保険、定期保険、個人年金保険といった種類が存在します。たとえば、終身保険なら死亡保障を確保しつつ、解約返戻金が変動。運用がうまくいったタイミングで解約すれば、解約返戻金を多めに受け取ることもできるかもしれません。個人年金保険の場合、解約返戻金だけでなく年金支給額も変動するので気をつけてください。
変額保険のメリット
このように投資リスクもある変額保険ですが、その最大のメリットは、インフレリスクに備えられることです。
仮に30歳で保険に加入し、健康に人生を過ごした場合、保険金を受け取るのは何十年も先になります。たとえば、個人年金保険を60歳から受け取るなら30年後。終身保険などで死亡保障を受け取るなら、今後の長寿社会を考えても50年以上先になるかもしれません。
しかし、その際に受け取る50万円が、現在の50万円と果たして同じ価値を持つのでしょうか。インフレが起こり、物価が上がって通貨の価値が下がれば、その時代の生活に必要なお金はより高額になってしまいます。難しい目標ではありますが、日銀も年2%の物価上昇率を目指しており、数十年後のインフレリスクに備えておくのは現実的な選択肢のひとつです。
その点、保険金や解約返戻金を増やそうとする変額保険は、成果次第ではインフレに対するリスクヘッジになります。そこまで大胆な運用をするのではなく、経済成長と同じくらいの幅で増やすことを目指すなら、変額保険は選択肢のひとつになるでしょう。
貯蓄型保険に向いている人とは
このように貯蓄型保険には、保障を確保しながら貯蓄機能もある一石二鳥のメリットもあれば、定期保険より保険料が高額というデメリットもあります。貯蓄型保険に向いているのはどんな人なのでしょうか。
それはシンプルに“貯金が得意ではない人”です。毎月の家計管理を苦手としていたり、少し預金額が多くなるとつい使ってしまったりする人にとって、毎月決まった金額が自動的に引き落とされ、簡単に引き落とすことができない貯蓄型保険は、有効な貯金の手段になるでしょう。
逆に、お金を管理することに慣れてきた人は、貯蓄型保険と併せて資産運用などに挑戦し、リスクを分散するのもひとつの手です。まずは貯金からスタートし、次に保険、ゆくゆくは投資信託などの資産運用と、ステップを踏んでいくのがベターです。
また、貯蓄型といっても第一の目的は保険であることをお忘れなく。“得をしよう”と考えるのではなく、万が一の事態に襲われた時、自分や残された家族にいくらのお金が必要なのか。その点をじっくりと考えた上で、自分に合った保険を選びましょう。
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