中年太りのリスクが高まる10年後から逆算して、今日から変えられる日常の行動を指南する本連載。第1回目は、将来の「ポッコリお腹」を防ぐためのポイントについて、パーソナルトレーナーの澤木一貴さんに伺いました。
お話を聞いた人
澤木一貴さん
パーソナルトレーナー。SAWAKI GYM代表取締役。1971年生まれ。大手フィットネスクラブトレーナー、整形外科病院でのスポーツトレーナー課主任などを歴任。現在は新宿区早稲田にパーソナルトレーニングスタジオをかまえ、指導にあたる。メディアや講演会を通じ、さまざまな健康情報も発信。
ウェブサイト
過食に運動不足で10年後はだるま化?
同期入社のA君とB君。新卒時点ではともにスマート体型でした。しかし、ジム通いが日課で身体のケアに余念がないA君と、いろいろとサボりがちなB君の間には、10年後に大きな差が生まれてしまいました……。
30代でもスマート体型を維持し、若々しいA君。それに対しB君は見事なポッコリお腹。肌ツヤも悪く、いかにも不健康。なぜ、ここまで明暗が分かれてしまうのでしょうか?
「運動には内分泌系(ホルモン)の調子を整える効果があります。そのため、運動習慣のある人とない人とでは、見た目に少しずつ差が生まれてしまうもの。運動不足に過食や喫煙、ストレスなどが重なれば、体型だけでなく、皮膚の質感、シワの数、さらには爪や髪の毛まで、身体の部位の劣化が激しくなっていくんです」(澤木さん、以下同)
少しずつ開き始めた差が、10年後には取り戻せないほどの隔たりになってしまう……。特に体型は、いったん脂肪が定着してしまうと厄介です。
「過食や運動不足を続けていると、年齢とともに体型は“だるま化”していきます。そのうえ、胴体だけ丸くて、足だけ細いバランスの悪い体型になってしまう。体幹が大きくなる一方で、手足の筋肉が衰えて細くなってしまうんです。30代でそうなるのは健康面でも心配です」
日常生活を筋トレに変える、姿勢と呼吸の意識改革
では、どうすれば? 運動嫌いでジム通いが続かない人でも実践しやすい方法で、未来を変えることはできるのでしょうか?
「日常の意識を少し変えるだけで実践できるのは『姿勢』と『呼吸』の改善です。この2つは関係する筋肉が同じで、背筋を正し、鼻呼吸を意識するだけでインナーマッスル(腹横筋)が活性化します。腹横筋を鍛えると“脂肪の焼却炉”であるミトコンドリアが増え、脂肪が燃えやすい身体になるんです」
試しに、背筋をピンと正して胸を張りつつ、お腹をひっこめた姿勢を10秒キープしてみましょう。それだけで、筋肉への負荷を感じないでしょうか? 普段、猫背の人は余計にしんどいはずです。
「しんどいのは、筋肉を使っている証。筋トレのように実際に筋肉を動かさなくても、アイソメトリックという運動になるんです。姿勢を意識するだけで、日常生活が筋トレになりますよ。また、たとえば食事中も姿勢を正すと腹横筋が締まり、食べ物が胃にあまり入ってこなくなります。結果、食べ過ぎを多少は防ぐことができるんです。逆に、猫背になると膨らんでしまいますので、猫背でラーメンを食べてはいけませんよ。居酒屋でも、なるべく背筋を伸ばしてビールを飲みましょう」
なお、姿勢を正すといっても、その状態をずっとキープし続けると身体が固まり、血液の循環を妨げてしまいます。特にデスクワークなどの際は、いい姿勢を意識しつつも30分に1回は肩や胴体を回すといいでしょう。
1回1回の呼吸が横隔膜の筋トレに
次に呼吸。こちらも、ほんの少しの意識づけで大きく改善できるといいます。
「呼吸は横隔膜の上下運動、いわば『横隔膜の筋トレ』です。ですから、その質を上げることで自然とトレーニングになります。まずは食事の前に10回だけ深呼吸するなど、意識的に深く呼吸する機会を作ってみてください。人は1日およそ2万回の呼吸をしますが、そのうち10回のクオリティを高めるだけで、残り1万9990回の呼吸も改善されます」
普段は無意識に行っている呼吸。最初はそれを意識化させ、質の高い呼吸を習得することが重要です。
また、姿勢と呼吸が改善できたら、次のステップとして「日常のスキマ時間にできるエクササイズ」も取り入れてみましょう。
「自宅やオフィスなどで気軽にできる『チェアクランチ』がオススメです。椅子に座った状態での腹筋運動ですね。まずは椅子に浅く座り、背もたれに背中を預けてください。お尻の穴を閉め、骨盤を後ろ側に倒して、息を吐きながら身体を少し前に起こしましょう。これを繰り返すだけでシックスパックに刺激が入り、腹直筋のトレーニングになります。床でやる腹筋が苦手な人でも、これなら無理なく続けられると思いますよ」
今回、澤木さんに授けてもらったフィットネスは、高いモチベーションを必要とせず、すぐに実践できるものばかり。ただし即効性はないため、地道に続けて習慣化させることが重要です。
健康的でスマートな未来につながる第一歩を、今日から始めてみてはいかがでしょうか。
イラスト:杉崎アチャ
この記事の著者
榎並紀行
編集者・ライター。水道橋の編集プロダクション「やじろべえ」代表。マネー、住まい・暮らし、グルメ、旅行、ビジネス系の取材記事・インタビュー記事などを手掛けます。
ウェブサイト