会社から支給される通勤手当は、一定の金額まで非課税です。この非課税の限度額は通勤手段によって異なりますが、マイカーや自転車などを利用する場合の通勤手当(以下「マイカー通勤手当」)の非課税限度額が、2025年に11年ぶりに引き上げられる予定です。
 
この記事では、ファイナンシャルプランナーの原絢子さん監修のもと、非課税限度額の引き上げが手取り収入にどのような影響を与えるのかを解説します。また、現在支給されている通勤手当が非課税枠に収まっているかを確認する方法も紹介します。

※:本記事の内容は2025年10月1日時点の情報に基づいています。詳しくは国税庁のサイト(https://www.nta.go.jp/users/gensen/2025tsukin/index.htm)をご確認ください。

この記事の監修者

画像: 【2025年改正】マイカー通勤手当の非課税限度額が引き上げへ!自分の手取りはどう変わる?

原 絢子(はら あやこ)

FPサテライト株式会社 所属FP。大学卒業後、翻訳・編集業務に従事。金融とは無縁のキャリアを積んできたが、結婚・出産を機にお金の知識を身につけることの大切さを実感。以来、ファイナンシャルプランナーとして活動を始める。モットーは「自分のお金を他人任せにしない」。自分の人生を自分でコントロールするためには、お金について学ぶことが必要との思いから、執筆・監修、セミナー講師などを通して、マネーリテラシーの重要性を精力的に発信している。

ウェブサイト

【最新版】通勤手当の非課税限度額の改正内容は?

画像: 画像:iStock.com/78image

画像:iStock.com/78image

2025年8月に、人事院よりマイカー通勤手当の非課税限度額の引き上げが勧告されました1)

改正される内容は、主に以下の3つです。

  1. 自動車等使用者について、65km以上から100km以上までの区分(5km刻み)を新設(上限6万6,400円)
  2. 現行の「60km以上」までの距離区分についても、民間の支給状況等を踏まえ、200円から7,100円までの幅で引上げ
  3. 1カ月当たり5,000円を上限とする駐車場等の利用に対する通勤手当を新設

執行される時期については未定ですが、今後、実施された場合には、企業側は年末調整での対応が必要となることがあります。従業員が申請時に手続きをする必要はありませんが、年末調整に影響する可能性があるので、覚えておきましょう。

どれくらい非課税限度額が上がる?自分の手取りへの影響は?

マイカー通勤手当の非課税限度額は、片道の通勤距離に応じて決まります。非課税限度額が引き上げられると、これまで課税対象となっていた部分が非課税となり、手取りが増える可能性があります。

現行の非課税限度額はいくら?

まずは、現行の非課税限度額を確認しておきましょう。

マイカー通勤手当の非課税限度額は、片道の通勤距離に応じて8段階に区分されています。

〈表〉マイカー通勤手当の非課税限度額(2025年10月時点)2)

片道の通勤距離1カ月当たりの非課税限度額
2km未満全額課税
2km以上10km未満4,200円
10km以上15km未満7,100円
15km以上25km未満1万2,900円
25km以上35km未満1万8,700円
35km以上45km未満2万4,400円
45km以上55km未満2万8,000円
55km以上3万1,600円

非課税限度額を超えるとどうなる?

会社から支給されている通勤手当が非課税限度額より多い場合、超過分は給与として課税対象になります。

たとえば、片道の通勤距離が25kmの人が、通勤手当を2万円支給されていた場合、1万8,700円までは非課税ですが、超過分の1,300円は課税対象となります。

〈表〉非課税限度額の課税対象のイメージ

画像: 非課税限度額を超えるとどうなる?

今回の引き上げで、手取りにどんな影響がある?

非課税限度額が引き上げられると、課税されない部分が拡大するため、手取りが増える可能性があります

この記事の執筆時点(2025年10月1日)では、具体的な引き上げ額がまだ発表されていないため、仮の数値で試算してみましょう。

【例】

  • 片道の通勤距離:25km
  • 通勤手当:2万円
  • 現行の非課税限度額:1万8,700円⇒改正後:2万円

現在は1万8,700円までが非課税、残り1,300円は課税対象です。

これが2万円に引き上げられると、支給されている通勤手当の全額が非課税となるため、手取りが増えることになります。

ただし、非課税限度額が大きく引き上げられない限り、手取りの増加は限定的です。

さらに、ガソリン代が高止まりしている現状を考えると、「手取りが増える=生活にゆとりが生まれる」とは必ずしも言えない点に注意が必要です。

【コラム】今回の改正はなぜ行われるの?

画像: 画像:iStock.com/marchmeena29

画像:iStock.com/marchmeena29

マイカー通勤手当の非課税限度額が引き上げられるのは、実に11年ぶりです。その背景には、近年のガソリン価格の高騰があります。

資源エネルギー庁の調査によると、2025年10月1日時点のレギュラーガソリンの全国平均価格は175.2円/ℓです3)。ガソリン価格は時期によって変動があるものの、ここ数年は160円台後半を下回らない水準が続いており、マイカー通勤者にとって大きな負担となっています。

特に地方では、公共交通機関が十分に整備されていない地域も多く、マイカー通勤が不可欠です。そのため、ガソリン価格高騰による負担増は深刻な問題となっており、こうした実態を踏まえて、非課税限度額の見直しが予定されています。

今の自分の通勤手当は非課税?給与明細をチェック

画像: 画像:iStock.com/Hanasaki

画像:iStock.com/Hanasaki

現在支給されている通勤手当が非課税かどうかは、毎月の給与明細を見れば簡単に確認できます。非課税枠に収まっているかどうか、チェックしてみましょう。

通勤手当はどうやって計算されるの?

そもそも、通勤手当がどのように計算されているのか、知らない人も多いのではないでしょうか。通勤手当の計算方法は会社によって異なりますが、一般的に用いられている方法は以下の2つです。

① ガソリン単価と燃費による計算方法

【計算式】

通勤手当=往復の通勤距離×ガソリン単価÷燃費×勤務日数
例:30km×170円/ℓ÷15km/ℓ×20日=6,800円

ガソリン価格と車の燃費を基準に計算する方法です。ガソリン単価と燃費を厳密に設定すれば、実際の負担に合った通勤手当が支給されますが、燃費は車種や走行状況によって異なるため、一律の燃費を設定している会社がほとんどです。ガソリン価格は、市況の変動に合わせて定期的に見直すケースもあります。

② 距離単価による計算方法

【計算式】

通勤手当=往復の通勤距離×距離単価×勤務日数
例:30km×15円×20日=9,000円

こちらは、会社があらかじめ設定した距離単価を基準に計算する方法です。距離単価は会社によって異なりますが、10~15円程度が一般的です。

このほか、非課税限度額をそのまま支給基準にしている会社や、通勤距離に関係なく一律の金額を支給する会社もあります。独自のルールを採用しているケースもありますので、自分の会社の就業規則や賃金規程を確認してみましょう。

通勤手当が非課税枠に収まっているか確認しよう

自分の通勤手当が非課税かどうかを知るには、給与明細の「通勤手当」の欄をチェックすればわかります。

給与明細は、大きく分けて「勤怠」「支給」「控除」の3つで構成されています。このうち「支給」には、基本給や各種手当など、会社から支払われるお金が記載され、通勤手当もここに含まれます。

通勤手当は、一般的に以下のように記載されます。

・全額が非課税枠に収まっている場合
 「通勤手当」の欄に、そのまま金額が記載されます。

・非課税枠を超える場合
 「非課税分」と「課税対象分」に分けて記載されます。

〈図〉給与明細の通勤手当の記載例(2025年10月時点)

画像: 通勤手当が非課税枠に収まっているか確認しよう

また、通勤手当をもらっているはずなのに、通勤手当の欄に記載がない場合は、給与に含めて支給されている可能性があります。その場合、給与として支払われていることになり、全額が課税対象になってしまいます。会社に確認してみましょう。

通勤手当に関するよくある質問

画像1: 画像:iStock.com/takasuu

画像:iStock.com/takasuu

最後に、通勤手当に関する「よくある質問」にお答えします。

非課税限度額が引き上げられると、通勤手当も増えるの?

通勤手当の有無や金額は、各会社が独自に決めています。そのため、非課税限度額が引き上げられたからといって、通勤手当も増えるとは限りません

ただし、非課税限度額を基準として通勤手当を設定している会社の場合は、今回の改正に併せて通勤手当が見直される可能性が高いでしょう。

電車やバスと併用する場合はどうなるの?

電車やバスなどの交通機関を利用する場合の通勤手当の非課税限度額は、「最も経済的かつ合理的な経路および方法で通勤した場合の通勤定期券などの金額上限月15万円)」です4)

マイカーと電車・バスを併用する場合は、それぞれの非課税限度額を合算した金額となり、上限は同じく月15万円です4)

【例】マイカー+電車通勤

自宅から最寄駅までマイカー(片道8km):非課税限度額4,200円
電車の定期券代:月1万2,000円
非課税限度額:4,200円+1万2,000円=1万6,200円

パートやアルバイトの場合はどうなるの?

雇用形態にかかわらず、非課税限度額は同じです。そのため、パートやアルバイトであっても通勤手当が支給されていれば、通勤距離に応じた非課税限度額が適用されます。

通勤手当は社会保険料の対象になるの?

通勤手当は、一定額まで非課税ですが、社会保険料の計算においては全額が計算対象となります。そのため、通勤手当が増えると、健康保険や厚生年金の保険料も増え、結果的に手取り額が減る場合があります。

ただし、社会保険料の負担が増えるということは、将来受けられる給付(傷病手当金や厚生年金など)が増えることにもつながります。

【関連記事】社会保険料について、詳しくはコチラ

損をしないために制度の最新情報をキャッチしよう

画像2: 画像:iStock.com/takasuu

画像:iStock.com/takasuu

マイカー通勤手当は、2025年に11年ぶりに非課税限度額が引き上げられる予定です。これにより、今まで課税対象だった部分が非課税となり、手取りが増える可能性があります。

制度改正の動きを注視し、最新情報をしっかりキャッチして、家計の最適化につなげましょう。

This article is a sponsored article by
''.