この記事では、ファイナンシャルプランナーの藤井亜也さん監修のもと、年金にかかる税金の種類や計算方法、確定申告について解説します。年金の受給を間近に控えている人は、ぜひ参考にしてみてください。
なお、年金制度全般については下記の記事で解説していますので、併せて参考にしてみてください。
【関連記事】年金制度とは?公的年金と私的年金の種類やしくみ、保険料などをわかりやすく解説
※:この記事では、年金に対する税金計算の部分では「年金収入金額」、それ以外の場面では「年金受給額」と使い分けています。どちらも同じ意味と捉えていただいて問題ありません。
公的年金には税金がかかる
はじめに、よく誤解されがちですが、年金を受け取ることができるのは「老後」だけではありません。公的年金の給付の種類は、老齢年金に加え、障害年金と遺族年金の3種類があります。
〈表〉年金給付の3つのパターン
種類 | 受給者 | 受給要件 |
---|---|---|
老齢年金 | 被保険者本人 | 65歳に達した人 |
障害年金 | 被保険者本人 | 病気やケガが原因で、障害認定を受けた人 |
遺族年金 | 被保険者の遺族 | 生計維持関係にある被保険者が亡くなった時 |
このうち、老齢年金には税金がかかります。老齢年金として受け取ったお金は雑所得となるためです。
年金にかかる税金の種類は主に2つ
公的年金等を受け取った場合にかかる税金は1つではありません。年金にかかる税金の種類は、主に以下の2つです。
- 所得税
- 住民税
公的年金等は雑所得に該当し、受給額に応じて税金がかかります。この時にかかる税金の1つが所得税です。
所得税は、所得金額に応じて課税されます。公的年金等の雑所得や事業所得、給与所得といった各所得金額から控除額を差し引いた「課税所得金額」をもとに算出します1)。
また、年金受給時の所得金額に応じて、住民税も課税されます2)。住民税は、お住まいの都道府県や市区町村などの自治体に対して納める税金のことです。所得金額によって負担額が変わる「所得割」と、納税者に一定額の負担を求める「均等割」の2つで構成されるのが特徴です。
参考資料
企業年金や個人年金保険は相続税や贈与税などの税金がかかる可能性がある
企業年金や個人年金保険のような私的年金には、所得税や住民税のほかに、相続税や贈与税などの税金がかかる場合があります。この記事では企業年金や個人年金保険にかかる税金について詳しく解説します。
なお、このほかにも課税対象となる年金保険制度が存在するケースもあります。課税・非課税の判断が難しい私的年金については、税理士や税務署に相談してみるのも1つの手です。
企業年金で相続税がかかるケース
企業年金で相続税がかかるのは、在職中に亡くなった際に支払われる企業年金の死亡退職金があった場合です3)。「死亡一時金」や「遺族給付金」といったものが支給された時は、支給額に対して相続税がかかります。
ただし、死亡退職金は「500万円×法定相続人数」の金額までは非課税とみなされます。また、相続税には以下の基礎控除が適用されます。
相続税の基礎控除
3,000万円+600万円×法定相続人数
支給された死亡退職金額が上記の基礎控除額以下であれば、相続税はかかりません。
個人年金保険で相続税・贈与税がかかるケース
また、個人年金保険で相続税がかかるのは、以下の条件に当てはまる場合です3)。
- 契約者・被保険者・受取人がすべて同じ人物である場合
- 年金の支払期間中に受取人が亡くなり、遺族が残りの期間の年金を受け取る場合
契約者や被保険者、受取人が異なる場合は、かかる税金が所得税か贈与税に変わります。たとえば、契約者が夫の場合の個人年金保険にかかる税金の種類は以下のとおりです。
〈表〉個人年金保険にかかる受取人別の税金の種類
契約者 | 被保険者 | 受取人 | 税金の種類 | |
---|---|---|---|---|
年金受け取り時 | 夫 | 夫 | 夫 | 所得税 |
夫 | 妻 | 夫 | ||
夫 | 夫 | 妻 | 贈与税 ※:初年のみ 所得税 ※:2年目以降 | |
夫 | 妻 | 妻 | ||
年金受け取り開始後に受取人が亡くなった時 | 夫 | 夫 | 夫→妻または子ども | 相続税 |
夫 | 妻 | 妻→子ども | 贈与税 |
私的年金は公的年金よりも税金のしくみが複雑です。わからないことがある場合は、税理士などの専門家に相談するのがおすすめです。
個人年金保険のしくみや税控除については以下の記事で解説していますので、併せて参考にしてみてください。
【関連記事】個人年金保険とは?しくみやメリット・デメリットをFPが解説
【関連記事】個人年金保険料は所得控除できるの?控除額の計算方法や適用条件を解説
参考資料
公的年金等控除で税金額が減る?
公的年金等の雑所得には、公的年金等控除が適用されます。受け取った公的年金等から一部金額が差し引かれると雑所得金額が少なくなるため、税金額が減ります。「医療費控除」や「配偶者控除」といった総所得金額から差し引く控除とは異なります。
公的年金等控除は、65歳以上と65歳未満で控除額が変わるのが特徴です。また、65歳以上は158万円、65歳未満は108万円を境に控除額が変わります。
詳細については以下の記事で紹介しています。公的年金等控除についてより詳しく知りたい人は、ぜひご覧ください。
【関連記事】公的年金等控除とは? 計算方法や手続きについて、くわしくはコチラ
年間でいくら年金を受け取ると税金がかかる?
前述のように年金の税金は、年間の所得金額に応じて課税されます。また、65歳を境に税金がかかる年金受給額が変わります。
65歳未満と65歳以上で、それぞれいくら以上の年金収入金額があると税金がかかるのか見ていきましょう。
【関連記事】公的年金に税金はかかる? 計算のシミュレーションについて、詳しくはコチラ
【65歳未満の場合】年金収入金額が108万円超
65歳未満の人は、年金収入金額が108万円を超えると所得税がかかります。
年金の雑所得金額は、以下の計算式で求めます。
年金の雑所得金額=年金収入金額−公的年金等控除額
65歳未満の場合は年金収入金額が60万円以下であれば、所得税がかかりません。詳しくは後掲の表に記載していますが、65歳未満の人で公的年金等の収入金額が60万円以下の場合は、公的年金等控除で所得が全額差し引かれるためです。60万円を上回ると「年金収入金額−60万円」の雑所得となるため、所得税が課税されます4)。
ただし、所得税の算出時には総所得金額から一定額を差し引く基礎控除が適用可能です。基礎控除は自身の合計所得金額によって控除額が決まります。所得が2,400万円以下であれば、控除額は48万円です5)。公的年金等控除と合わせて108万円を差し引けるため、年金収入金額が108万円までであれば所得税はかからないのです。
65歳未満の公的年金等の雑所得は以下の表をもとに算出します。なお、公的年金等の雑所得以外の所得が1,000万円超2,000万円以下、2,000万円超の場合は計算方法が変わります4)。
〈表〉【65歳未満の場合】公的年金等の雑所得の算出方法
公的年金等の収入金額の合計 | 公的年金の雑所得金額 |
---|---|
60万円以下 | 0円 |
60万円超〜130万円未満 | 年金収入金額−60万円 |
130万円以上〜410万円未満 | 年金収入金額×0.75−27万5,000円 |
410万円以上〜770万円未満 | 年金収入金額×0.85−68万5,000円 |
770万円以上〜1,000万円未満 | 年金収入金額×0.95−145万5,000円 |
1,000万円以上 | 年金収入金額−195万5,000円 |
65歳未満の人が年金を受給する場合は、年間の年金収入金額が108万円までになるように調整すると税金がかかりません。税金が気になる人は、上表の算出方法で確認しておきましょう。
参考資料
【65歳以上の場合】年金収入金額が158万円超
65歳以上の人は、年金収入金額が158万円を超えると所得税がかかります。公的年金は原則65歳から受給開始となるため、控除される金額も大きくなっているのです。
65歳以上の年金の雑所得金額も、65歳未満と同様に以下の計算式で求めます。
年金の雑所得金額=年金収入金額−公的年金等控除額
65歳以上の場合、年金収入金額が110万円以下であれば所得税がかかりません。詳しくは後掲の表に記載していますが、65歳以上の人で公的年金等の収入金額が110万円以下の場合は、公的年金等控除で所得が全額差し引かれるためです。前述の基礎控除も合わせると、年金収入金額が158万円までであれば、所得税は課税されません。
65歳以上の公的年金等の雑所得は以下の表をもとに算出します。なお、65歳未満の場合と同様に、公的年金等の雑所得以外の所得が1,000万円超2,000万円以下、2,000万円超の場合は計算方法が変わります4)。
〈表〉【65歳以上の場合】公的年金等の雑所得の算出方法
公的年金等の収入金額の合計 | 公的年金の雑所得金額 |
---|---|
110万円以下 | 0円 |
110万円超〜330万円未満 | 年金収入金額−110万円 |
330万円以上〜410万円未満 | 年金収入金額×0.75−27万5,000円 |
410万円以上〜770万円未満 | 年金収入金額×0.85−68万5,000円 |
770万円以上〜1,000万円未満 | 年金収入金額×0.95−145万5,000円 |
1,000万円以上 | 年金収入金額−195万5,000円 |
65歳以上の人は年金収入金額が158万円以下であれば税金はかかりません。
そもそも年金は源泉徴収されて給付される
65歳未満の人は108万円、65歳以上の人は158万円を超える年金収入金額があると、税金がかかります。この税金は年金から源泉徴収されます。つまり、年金は税金が差し引かれた金額が給付されているのです。給付と同時に納税されるため、固定資産税や自動車税のように納期限までに自分で税額を支払う必要はありません。
なお、年金の源泉徴収は社会保険料も考慮して計算します。公的年金の源泉徴収額の計算式は、以下のとおりです4)。
年金の源泉徴収額=(年金収入金額−社会保険料−控除額)×5.105%
また、計算式内の「控除額」は以下のとおりです6)。当てはまる控除の合計額を差し引きます。
〈表〉控除の種類と月割控除額
控除の種類 | 対象 | 月割控除額(1カ月) |
---|---|---|
公的年金等控除、基礎控除相当 | 受給者全員 | 【65歳未満の場合】 1カ月分の年金収入金額×25%+6万5,000円(最低額9万円) |
【65歳以上の場合】 1カ月分の年金収入金額×25%+6万5,000円(最低額13万5,000円) | ||
配偶者控除 | 控除対象配偶者がいる場合 | 3万2,500円(年間39万円) |
老人控除対象配偶者相当 | 4万円(年間48万円) | |
扶養控除 | 控除対象扶養親族がいる場合(16歳以上) | 3万2,500円×人数(年間39万円×人数) |
特定扶養親族控除 | 5万2,500円×人数(年間63万円×人数) | |
老人扶養親族控除 | 4万円×人数(年間48万円×人数) | |
普通障害者控除 | 受給者本人、同一生計配偶者、扶養親族が障害者の場合 | 2万2,500円×人数(年間27万円×人数) |
特別障害者控除 | 3万5,000円×人数(年間42万円×人数) | |
同居特別障害者控除 | 6万2,500円×人数(年間75万円×人数) | |
寡婦(寡夫)控除 | 受給者本人が寡婦(寡夫)、ひとり親の場合 | 2万2,500円×人数(年間27万円×人数) |
ひとり親控除 | 3万円×人数(年間36万円×人数) |
年金収入金額が108万円もしくは158万円を超える場合は、源泉徴収額を除いた金額が年金として給付されます。
一方、確定給付企業年金(DB)や確定拠出年金(DC)などの企業年金は、年金額にかかわらず7.6575%が源泉徴収されます7)。内訳は所得税が7.5%、復興特別所得税が0.1575%です。公的年金よりも税率が高いため差し引かれる金額が多くなる可能性があります。
個人年金保険は、年金受給額から保険料や掛金額を差し引いた額が25万円以上の場合、源泉徴収の対象です。年金受給額から保険料や掛金額を差し引いた金額に対して10.21%(所得税+復興特別所得税)が源泉徴収されます8)。
年金を受け取っていても税金が非課税になる場合は?
年金を受け取っていても、特定のケースに当てはまれば税金がかかりません。税金が非課税となるケースは主に以下の2つです。
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
年金収入金額が一定額以下の場合
年金収入金額が一定額以下であれば、所得税はかかりません。前述のとおり、65歳未満は108万円以下、65歳以上は158万円以下であれば所得税が非課税となります。
65歳未満の人は毎月の年金が9万円、65歳以上の人は毎月の年金が約13万円程度であれば、税金はかからないと考えておきましょう。
受け取る年金が障害年金や遺族年金の場合
受け取る年金が、障害年金や遺族年金の場合は、税金がかかりません9)。障害年金や遺族年金は、亡くなった人の収入をカバーする意味合いが強いものであり、課税対象ではありません。公的年金では、老齢年金のみ税金がかかります。
障害年金・遺族年金は65歳になるともらえる老齢年金と併給できる場合があります。もし65歳になった時点で老齢年金と障害年金・遺族年金を併給するのであれば、老齢年金が158万円を超えなければ、税金はかかりません。
ただし、亡くなった人に未支給の国民年金や厚生年金、共済年金がある場合は課税の可能性があります。亡くなった人の未支給年金を遺族が受け取ると、年金収入金額が一時所得とみなされ所得税がかかる場合があります。
一時所得の計算式は以下のとおりです。
一時所得=収入金額−収入を得るために支出した金額−特別控除(最大50万円)
なお、未支給金額が50万円超であれば、課税される可能性があります10)。収入金額と支出金額をよく確認し、課税される場合は忘れずに納税してください。
参考資料
年金の受け取りで税金がかかったら確定申告が必要?
年金に税金がかかる際は、確定申告が必要な場合があります。また、確定申告をすることで支払った税金のうちいくらかが返ってくるケースもあります。以下で詳しく説明します。
確定申告が必要な場合
以下のケースに当てはまる場合は、確定申告が必要です。
- 年金受給額が400万円を超えた場合
- 年金以外の所得金額が20万円を超えた場合
年間の年金受給額が400万円を超えている場合は、確定申告をして所得税を算出します。公的年金のほかに企業年金や個人年金など、複数の給付を受けている人は確定申告が必要になる可能性が高いです。年間でいくらの年金を受け取るのか、あらためて確認しておくといいでしょう。
年金受給額が400万円を超えていなくても、ほかの所得が20万円を超えている場合は確定申告が必要です。事業所得や不動産所得、年金以外の雑所得などがある人は、所得金額が20万円を超えているかどうか確認し、超えている場合は申告手続きを行いましょう4)。
年金受給額が400万円以下で、ほかの所得も20万円を下回っているのであれば、確定申告は不要です。ただし、所得税の確定申告が不要でも住民税申告が必要な場合があります。住民税申告については、お住まいの市区町村の窓口に問い合わせてみましょう。
確定申告をしたほうがいいケース
前述のとおり、年金受給額が400万円以下でほかの所得も20万円以下であれば確定申告の必要はありません。しかし、各種税控除を適用して税金の還付を受けるために、確定申告をしておいたほうがいいケースがあります。
たとえば、以下の控除を受けたい場合は確定申告をしておくのがおすすめです。
- 医療費控除:医療費の一部を所得金額から差し引く11)
- 寄附金控除:寄附金額の一部を所得金額から差し引く12)
- 生命保険料控除:生命保険料の保険料や掛金の一部を所得金額から差し引く13)
所得税の控除は、このほかにも複数あります。詳しくは、国税庁のウェブサイトで控除の種類をチェックしてみましょう。
医療費控除の確定申告については下記の記事で解説していますので、併せて参考にしてみてください。
【関連記事】医療費控除でいくら戻る?計算方法や還付金額のシミュレーションを紹介
年金と税金に関するよくある質問
年金と税金に関する質問や疑問をまとめました。年金の受給を控える人や働きながら年金をもらおうと考えている人は参考にしてみてください。
Q1.年金にかかる税金はいつ支払う?
年金にかかる税金のうち、所得税は源泉徴収で差し引かれます。そのため、給付と同時に支払われていると考えていいでしょう。前述のとおり、65歳未満の人は108万円超、65歳以上の人は158万円超の年金受給があると、年金が源泉徴収されて給付されます。
また、住民税も多くの自治体で年金から天引きされています。65歳以上の人で年金を年間18万円以上受けている人は、住民税の特別徴収の対象です14)。
ただし、私的年金で贈与税がかかる場合は、申告をして自分自身で納税する必要があります。たとえば、夫が契約者かつ被保険者である個人年金保険の年金を妻が受け取った時は、贈与税がかかります。贈与税は源泉徴収されないため、申告をして納めなければなりません。
Q2.年金を繰下げ受給すると税額は上がる?
年金を66〜75歳の間で受け取る繰下げ受給は、年金額の増加が可能です15)。しかし所得も増えるため、所得税がかかる可能性があります。公的年金等控除を適用してもなお控除しきれない場合は所得税が課税されるため、厚生労働省のウェブサイトなどで繰下げ受給のシミュレーションをして、おおよその年金受給額を確かめておきましょう。
参考資料
Q3.年金をもらいながらパートをした場合はいくらから税金がかかる?
年金をもらいながらパートで働く場合は、受け取る給料の金額によって税金がかかるかどうかが決まります。
通常、年間で55万円以上の給料を受け取った際は所得税がかかります。給与所得控除を適用してもすべての所得を控除しきれないためです。また、年金収入の雑所得は、65歳未満が60万円超、65歳以上が110万円超になると公的年金等控除を適用しても全ての所得を差し引けなくなります。
ただし、所得税には最大48万円の基礎控除があるため、基礎控除の適用後に所得が残った場合に、その所得に対して税金がかかります。
所得税がかかるケースは以下のとおりです。
〈表〉65歳未満の場合
パターン1 | パターン2 |
---|---|
給与:55万円超 年金:108万円超 | 給与:103万円超 年金:60万円超 |
〈表〉65歳以上の場合
パターン1 | パターン2 |
---|---|
給与:55万円超 年金:158万円超 | 給与:103万円超 年金:110万円超 |
パートの年金については下記の記事で解説していますので、併せて参考にしてみてください。
【関連記事】【年収別シミュレーション】パート・アルバイトがもらえる年金はいくら?
年金にかかる税金は適切に納めよう
年金にかかる税金は受給金額が多いほど高くなります。特に個人年金や企業年金などで、老後資金の十分な備えをしている人ほど多く税金がかかる可能性が高いです。
税金をきちんと納めないと延滞税のようなペナルティーが発生する場合があります。年金に課税される条件や税金額の計算方法を理解して、正しく税金を納めるようにしましょう。