1カ月に支払う医療費の自己負担額が上限を超えた際、超過分の払い戻しを受けられる高額療養費制度。手術や入院などで高額な医療費がかかった時に便利ですが、「いくら以上で適用されるの?」と悩む人もいるかもしれません。

この記事では、ファイナンシャルプランナー・荒木千秋さん監修のもと、計算方法や手続きをはじめ、高額療養費制度の基礎知識をわかりやすく解説します。

この記事の監修者

荒木 千秋(あらき ちあき)

ファイナンシャルプランナー。荒木FP事務所代表{job}。10年間の銀行勤務を経て独立。これからの女性が人生を楽しむためには「お金・投資」との付き合い方を変えなければならないと確信し、現在は、大学講師、セミナー、ウェブ執筆、個別相談等を行っている。 著書に『「不安なのにな〜んにもしてない」女子のお金入門』(講談社)がある。

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高額療養費制度はいくら以上から適用される?

画像: 画像:iStock.com/takasuu

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高額療養費制度とは、1カ月に支払う医療費の自己負担額が上限を超えた場合、超過分の払い戻しを受けられる制度です1)。この自己負担限度額は加入者の年齢と所得によって異なります。

70歳未満の場合、所得によって5つの区分に分かれます。

〈表〉70歳未満の1カ月の自己負担限度額

所得(健康保険の標準報酬月額/ 国民健康保険の区分〈旧ただし書き所得〉)1カ月の上限額(世帯ごと)
年収約1,160万円~(標準月額報酬83万円以上/旧ただし書き所得901万円超)25万2,600円+(医療費-84万2,000円)×1%
年収約770万~約1,160万円(標準月額報酬53万~79万円/旧ただし書き所得600万~901万円)16万7,400円+(医療費-55万8,000円)×1%
年収約370万~約770万円(標準月額報酬28万~50万円/旧ただし書き所得210万~600万円)8万100円+(医療費-26万7,000円)×1%
~年収約370万円(標準月額報酬26万円以下/旧ただし書き所得210万円以下)5万7,600円
住民税非課税者3万5,400円
※:標準報酬月額とは、毎月の給料など、報酬の月額を区切りがいい幅で区分したものを指す。
※:旧ただし書き所得とは、旧地方税法における住民税課税方式に関する条文のただし書きとして規定されていた方法で算出する所得。「前年の総所得金額等-住民税の基礎控除額」で算出する。

一方、70歳以上75歳未満では所得区分は6つです。また、年収約370万円未満の場合には、外来だけの上限額も設けられています。

〈表〉70歳以上75歳未満の1カ月の自己負担限度額

所得(健康保険の標準報酬月額/ 国民健康保険の区分〈課税所得〉)外来(個人ごと)1カ月の上限額(世帯ごと)
年収約1,160万円~(標準月額報酬83万円以上/課税所得690万円以上)25万2,600円+(医療費-84万2,000円)×1%
年収約770万~約1,160万円(標準月額報酬853万円以上/課税所380万円以上)16万7,400円+(医療費-55万8,000円)×1%
年収約370万~約770万円(標準月額報酬828万円以上/課税所得145万円)8万100円+(医療費-26万7,000円)×1%
年収約156万~約370万円(標準月額報酬826万円以下/課税所得145万円未満等)1万8,000円(年間14万4,000円)5万7,600円
Ⅱ 住民税非課税者8,000円2万4,600円
Ⅰ 住民税非課税者(年金収入80万円以下等)1万5,000円

75歳以上の場合は、後期高齢者医療制度の被保険者になります。所得区分は4つです2)

〈表〉75歳以上の1カ月の自己負担限度額

課税所得額外来(個人ごと)1カ月の上限額(世帯ごと)
課税所得145万円以上(年収単身約383万円以上、複数約520万円以上)収入に応じて8万100円~25万2,600円+(医療費-26万7,000~84万2,000円)×1%
課税所得28万円以上(年金収入+そのほかの合計所得金額が単身約200万円以上、複数320万円以上)1万8,000円(年間14万4,000円)5万7,600円
課税所得28万円未満(住民税が課税されている世帯で「一定以上所得」以外)
世帯全員が住民税非課税者で年収80万円超8,000円2万4,600円
世帯全員が住民税非課税者で年収80万円以下1万5,000円
※:年収は、単身世帯を前提としてモデル的に計算したもの。一定以上所得者は「年金収入+そのほかの合計所得金額」で判定する

そもそも高額療養費制度とは

画像: 画像:iStock.com/YusukeIde

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前述のように、高額療養費制度とは、1カ月に支払う医療費の自己負担額が上限を超えた際、高額療養費として超過分の払い戻しを受けられる制度です。自己負担限度額は年齢や所得によって異なります。また、高額療養費制度の対象となるのは、公的医療保険適用対象の医療費に限ります。

仮に70歳未満で年収約370万~約770万円(標準報酬月額28万円~50万円)の人が公的医療保険適用対象の医療費を1カ月100万円支払った場合は、以下のようになります。

〈図〉高額療養費制度のしくみ

画像: そもそも高額療養費制度とは

高額療養費を算出する計算は以下のとおりです。

〈表〉高額療養費と自己負担額の計算

医療費の自己負担額
=総医療費×30%
=100万円×30%=30万円

自己負担限度額
=8万100円+(総医療費-26万7,000円)×1%
=8万100円+(100万円-26万7,000円)×1%
=8万100円+7,330円
=8万7,430円

医療費の自己負担額-自己負担限度額=高額療養費
=30万円-8万7,430円
=21万2,570円

詳しくは後述しますが、高額療養費の申請方法は加入する保険制度によって異なります。申請が完了すると、各医療保険の審査を経て、高額療養費として支給されます。ただし、お金が手元に戻ってくるのは、受診した月から早くても約3カ月はかかってしまうことを覚えておきましょう。

高額療養費制度に含まれないものは?

画像: 画像:iStock.com/Nikada

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高額療養費制度の対象になるのは、公的医療保険制度の対象となる医療費に限られます。つまり以下のような費用は対象外となります。

  • 自由診療の医療費
  • 先進医療の技術料
  • 差額ベッド代
  • 入院時の食費

高額療養費制度に含まれない費用について、もっと知りたい人は以下の記事で詳しく説明しているので、併せてご覧ください。

【関連記事】「高額療養費制度」で対象外となる費用とは? 詳しくはコチラ

高額療養費制度の手続きは加入する保険制度で異なる

画像: 画像:iStock.com/tdub303

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国民健康保険と健康保険(協会けんぽなど)では、高額療養費の手続きが異なります。

国民健康保険の場合、1カ月の自己負担額を超えると居住地の市区町村役場から申請書が送られてきます。この申請書に必要事項を書き込み、マイナンバーカードの写しなどの必要書類を添付して郵送することで申請できます。

一方、健康保険の場合、加入している健康保険組合によって手続きが異なり、多くの健康保険組合では、被保険者が自分で限度額が超えていることを確認する必要があります。その上で「健康保険高額療養費支給申請書」を入手して必要事項を記入し、必要書類を添付して受付窓口に郵送します。

高額療養費制度の手続きについて、もっと知りたい人は以下の記事で詳しく説明しているので、併せてご覧ください。

【関連記事】「高額療養費制度」は申請しなくても戻ってくる? 詳細はコチラ

おさえておきたい高額療養費制度の注意点

画像: 画像:iStock.com/Kenishirotie

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続いて、高額療養費制度を利用する上で覚えておきたい点を解説します。

世帯合算の「世帯」は同じ保険制度への加入

医療保険における「世帯」は同じ公的医療制度に加入する家族を指します(75歳未満の場合は、健康保険証の記号番号が同一)。同じ保険制度に加入していれば住所が違っても「同一世帯」として世帯合算ができます。

一方、同じ住所に住んでいても、違う保険制度に加入している場合には、世帯合算することはできません。たとえば、75歳以上の人は後期高齢者医療保険制度に加入しているため、国民健康保険や社会保険の被保険者である75歳未満の家族とは世帯合算することはできません。

なお、同じ世帯に70歳未満の人と70歳以上75歳未満の人がいる場合、計算が少し複雑になります。世帯合算の計算について、もっと知りたい人は以下の記事で詳しく説明しているので、併せてご覧ください。

【関連記事】世帯合算の計算式と手順は? 詳細はコチラ

多数回該当で費用負担が軽減

直近12カ月以内に3回以上、自己負担上限額に達した場合、4回目以降は多数回該当」となって、自己負担の上限額が以下のように下がります。

〈表〉多数回該当の自己負担上限額

所得区分70歳未満70歳以上
年収約1,160万円~14万100円
年収約770万~約1,160万円9万3,000円
年収約370万~約770万円4万4,400円
~年収約370万円
住民非課税者2万4,600円適用なし

多数回該当は1回目から4回目が12カ月以内である必要があります。下図のように毎回1回目から4回目の期間を見直します。

〈図〉多数回該当の考え方

画像: 多数回該当で費用負担が軽減

上図では青とオレンジは1回目から4回目が12カ月以内なので、多数回該当となりますが、灰色は4回目が1回目から12カ月以上経過しているので、多数回該当にはなりません。

限度額適用認定証かマイナ保険証があると便利

窓口での支払いの時点で出費を負担限度額に抑えたい場合は、各医療保険で「限度額適用認定証の交付を受けるのがおすすめです。申請書は各保険制度の窓口で入手することができます。

なお、70歳以上になると所得額によっては、限度額認定証の手続きが不要になります。70歳以上75歳未満で年収約156万~約770万円の人は「健康保険証」と「高齢受給者証」、75歳以上で非課税世帯などではない人は「後期高齢者医療被保険者証」を代わりに提示しましょう。

また、マイナ保険証を利用している場合も、「限度額適用認定証」の手続きは必要ありません。医療機関の窓口や顔認証付きカードリーダーで情報提供に同意するだけで限度額以上の一時支払いの手続きが不要になります。

マイナ保険証について、もっと知りたい人は以下の記事で詳しく説明しているので、併せてご覧ください。

【関連記事】マイナ保険証のメリットとデメリットは? 詳細はコチラ

高額療養費制度の「よくある質問」に回答

画像: 画像:iStock.com/SideLarbiHadjAmar

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続いて、高額療養費制度に関するよくある質問にお答えします。

Q.1カ月間で複数の医療機関で受診した場合は?

高額療養費の対象となる自己負担額は、受診者別、医療機関別、入院・通院別で算出されています。70歳未満の場合は同一の医療機関・診療科で自己負担額が合計2万1,000円以上になる場合、合算の対象となります。

〈表〉70歳未満の場合

自己負担額合算の可否
A病院に入院8万円〇(2万1,000円以上)
B病院に通院(歯科)1万円〇(同一医療機関・同一の診療科で合計2万1,000円以上)
1万2,500円
C病院に通院(眼科)8,000円×(2万1,000円未満)

70歳以上の場合は合算する際に金額の制限はありません。

Q.入院期間が2カ月にまたがった場合は?

高額療養費制度はかかった医療費を暦月単位で負担を軽減するための制度です。医療機関も暦月単位で加入している医療保険に医療費を「診察報酬」として請求します。そのため、月をまたいだ入院などでも、高額療養費の申請は暦月単位で行う必要があります。

Q.退職や転職で保険証が変わった場合の多数回該当は?

退職や転職をしても加入している保険制度が変わらず、被保険者や被扶養者などに変更がない場合には、新しい保険証になっても多数回該当は継続して適用されます。ただし、退職や転職をして加入している保険制度が変わったり、加入の状態に変更(例:被保険者から被扶養者に変わるなど)があったりする場合は、多数回該当を継続することはできません。

Q.高額療養費制度の年収の上限はいくらですか?

高額療養費制度には年収の上限額はありません。70歳未満、70歳以上75歳未満の場合は最も収入が高い区分である「年収約1,160万円~」、75歳以上の場合は同様に「課税所得145万円以上」で計算します。

制度を理解して、医療費負担を軽減しよう

画像: 画像:iStock.com/miya227

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重大な病気で手術や入院をした時に、経済的負担を軽減するのに高額療養費制度は役立ちます。12カ月の間に4回以上、自己負担額の上限に達した場合には多数回該当でさらに支払う金額が減る点も経済的に助かります。家族が同じ保険制度に加入している場合には、世帯合算することもできます。高額な医療費を支払う際には活用してみましょう。

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