この記事では、ファイナンシャルプランナー・藤井亜也さん監修のもと、産休を取得するために必要な条件のほか、産休に伴う手当をもらう条件との違い、産休中の解雇や会社の倒産などについて解説します。
産休を取得できる条件とは?
産休を取得するための条件は「会社に雇用されていること」だけです。産休の取得は労働基準法第65条1)で女性労働者の権利として認められているため、会社に雇用されている女性であれば、誰でも産休を取得できます。
参考資料
産休は雇用形態に関係なく取得できる
産休の取得は雇用形態に関係なく可能です。正社員、契約社員、派遣社員、パート、アルバイトのいずれでも産休を取得できます。産休期間なども変わりません。一方で、会社と雇用関係にない個人事業主や経営者は取得できません。
産休は入社したばかりでも取得できる
産休には「〇〇日以上会社に在籍していなければいけない」など、勤続年数に関する条件もありません。極端な例ですが、入社して1カ月で産休を取得することも法律的には問題ないのです。ただし、育休の取得には勤続年数に関する条件がありますので、産休後にそのまま育休を取得する場合はご注意ください。
産休と育休の取得条件の違い
産休の終了後に取得できる育休は、同じような制度と認識している方が多いでしょう。産休と育休はまとめて会社に申請するため、混同してしまうのも無理はありません。
しかし、これらの制度は取得する時期が近いものの、制度として異なる点も多いです。産休と育休の違いを以下にまとめました。
〈表〉産休と育休の違い2)
産休 | 育休 | |
---|---|---|
取得可能期間 | 産前6週間(双子以上は14週間)、産後8週間 | 原則、子どもが1歳になるまで(保育施設に入れない場合は2歳まで延長可能) |
対象者 | 女性労働者 | 男女労働者 |
条件 | 会社に雇用されていること | ・同じ事業主に過去1年以上雇用されている ・子どもが1歳を迎えたあとも引き続き雇用される予定がある ・所定労働日数が週2日以下ではない |
産休と育休では取得できる期間、対象者、条件がいずれも異なります。産休は出産をする女性労働者のみが対象ですが、育休は女性労働者の夫も取得可能です。
また、産休は「会社と雇用関係にあること」だけが取得条件ですが、育休は「その会社で1年以上働いていること」「育休後にその会社に復帰すること」「勤務が週2日以下でないこと」も取得条件に含まれます。
そのため、転職して半年未満で産休に入った場合は、産休を取得できてもそのまま続けて育休を取得できない可能性があります。また、出産後に退職を考えている場合も育休は取得できませんのでご注意ください。
産休を取得するタイミングや取得できる日数などの詳細は以下の記事で詳しく説明していますので、参考にしてみてください。
【関連記事】産休期間の早見表、平均取得日数、取得の流れなど、詳しくはコチラ
産休を取得して契約終了や解雇になることはある?
これから産休を取得予定の方の中には「契約社員だから契約を切られるかもしれない」「産休を取得したらクビになることもあるの?」と不安を感じている方もいるでしょう。
しかし、ご安心ください。男女雇用機会均等法第9条3)では、結婚・妊娠・出産を理由に女性労働者を解雇したり、不利益を与えたりしてはならないと定められています。
そのため、会社は産休を理由に従業員を解雇することや、契約社員を契約終了にすること、復帰後の給与を減らすことなどはできません。会社もこの法律を把握していますので、産休を理由とした解雇、契約打ち切り、減給などをすることはないでしょう。
ただし、所属部署や勤務形態に関しては必ずしも同じ部署に、同じ勤務形態で復帰できるとは限りません。出産後はライフスタイルが変わることも多いですから、「産休前と違う部署で、時短勤務で職場復帰する」というケースも少なくありません。この点は、復帰前に会社と本人の間でしっかり話し合いを行うことが大切です。
このように、産休を理由に不利益を被ることは基本的にありませんが、万が一、産休を理由に解雇や契約終了を命じられた場合は、労働組合や労働基準監督署に相談しましょう。
【コラム】会社が倒産しても、産休は計画通りに取得できる
稀なケースですが、産休中に会社が倒産し、勤めていた会社に復帰できなくなるケースがあります。産休中に会社が倒産したらどうなるのか不安に感じるでしょう。
しかし、すでに産休期間に入っているなら、産休は予定通り産後8週間まで取得できますのでご安心ください。出産手当金も受け取ることが可能です。
ただし、産休終了後に育休を取得する予定だった場合、育休は取得できなくなり、産休終了の翌日で会社都合退職扱いになります。育休を取得できないと育児休業給付をもらうこともできませんが、代わりに失業手当を受け取ることが可能となります。
なお、産休取得予定だったとしても、産休期間に入る前に会社が倒産してしまった場合は産休を取得できず、倒産時点から会社都合退職扱いとなります。
「産休の取得条件」と「出産手当金などの受給条件」は異なる
産休中には出産手当金と出産育児一時金を受け取れますし、育休中には育児休業給付も受け取れます。これらの手当は、産前産後の経済的な不安を解消する大きな助けになってくれます。
しかし、産休の取得条件が「会社に雇用されていること」だけであることに対し、これらの手当の受給条件は異なります。産休の取得条件と手当の受給条件には異なる点がありますので覚えておきましょう。
〈表〉出産手当金、出産育児一時金の受給条件4)5)
手当 | 受給条件 |
---|---|
出産手当金4) | ・出産をする本人が健康保険の被保険者であること ・出産のために休業していること ・妊娠4カ月(85日)以後の出産であること |
出産育児一時金4) | ・妊娠4カ月(85日)以後の出産であること ・健康保険や国民健康保険に加入している、もしくはそれらに加入している人の配偶者や扶養家族であること |
育児休業給付5) | ・雇用保険に加入していること ・1歳未満の子を養育するために育児休業を取得している ・育休開始前の2年間に11日以上就業している月が12カ月以上あること ・育休中の各1カ月間で就業日数が10日あるいは80時間以下であること |
出産手当金の受給条件に「出産をする本人が健康保険の被保険者であること」とあります。そのため、国民健康保険に加入している方は出産手当金をもらうことができません。また、育児休業給付は育休前と育休中の就業時間に関する条件があり、条件に当てはまらない場合は手当を受け取れません。
これらの条件をもとに雇用形態別に、出産手当金、出産育児一時金、育児休業給付をそれぞれ受け取れるケース、受け取れないケースをまとめました。
〈表〉雇用形態別の手当の受け取りの可否
雇用形態 | 出産手当金 | 出産育児一時金 | 育児休業給付 |
---|---|---|---|
正社員 | ◯ | ◯ | △ |
契約社員 | ◯ | ◯ | △ |
派遣社員 | △ | ◯ | △ |
パート | △ | ◯ | △ |
公務員 | × | ◯ | × |
出産育児一時金は「妊娠4カ月(85日)以後の出産であること」「健康保険や国民健康保険に加入している、もしくはそれらに加入している人の配偶者や扶養家族であること」という条件をクリアしていれば、雇用形態に関係なく受け取れます。
一方で出産手当金は、派遣社員やパートの方で国民健康保険に加入していたり、夫の扶養に入っていたりする場合は受け取れません。また、公務員は産休中も給与が全額支払われるため、出産手当金は受け取れません。
育児休業給付は、育休前・育休中の就業時間に関する条件があります。どのような雇用形態でも受け取れる場合、受け取れない場合があります。公務員の場合は、育児休業給付ではなく育児休業手当金が支給され、受け取れる条件も異なります。
産休・育休中に受け取れる手当に関しては、以下の記事でも詳しく説明しています。気になる方は、確認してみてください。
【関連記事】産休・育休中の給付金・手当金について、詳しくはコチラ
【関連記事】出産手当金がもらえないケースとは? 支給要件や退職した場合の支給の有無について、詳しくはコチラ
【関連記事】育児休業給付をもらう条件は? 申請の方法や注意点について、詳しくはコチラ
参考資料
産休は雇用条件に関係なく誰でも利用できる制度
産休は雇用形態や勤務年数に関係なく妊娠した方が平等に取得することができる制度です。法律でも守られていて解雇や減給などの心配も要りません。会社と相談しながら産休と育休を合わせてどのくらい休むか決めていきましょう。
また、産休や育休に関する手当もあります。出産手当金と育児休業給付をもらうには条件があり、受け取れる場合も産休前の給与で金額が変わるので、受け取れる金額をあらかじめ確認しておくと、産休期間中の家計管理もしやすくなるでしょう。