この記事では、ファイナンシャルプランナー・藤井亜也さん監修のもと、産休中の社会保険料の免除について開始時期や免除額、条件、申請方法などを図を用いてわかりやすく解説していきます。
産休中は社会保険料が免除される
給与が支払われない産休期間中は社会保険料が免除されます1)。なお、ここでいう社会保険料とは、健康保険料、厚生年金保険料(40歳以上は介護保険料も発生)を指します。
健康保険料と厚生年金保険料は会社と折半して支払っているため、産休中は会社の負担も免除されます。また、厚生年金ではなく国民年金に加入しているパート勤務の方なども、社会保険料の免除対象となります。
なお、社会保険料と同様に給与から天引きされるお金として住民税がありますが、これは産休の期間中も変わらず納める必要があります。
産休中の社会保険料の免除はいつからいつまで?
社会保険料が免除される期間について、会社が年金事務所に提出する「産前産後休業取得者申出書/変更(終了)届」2)という書類には、「保険料が免除となるのは、産前産後休業開始日の属する月分から、終了日翌日の属する月の前月分までとなります」と書かれています。
つまり、以下のように産休開始日の月から産休が終わった翌日の前月分までの社会保険料が免除されるというわけです。
〈図〉産休の社会保険料の免除期間(6/27出産の場合)
社会保険料の免除期間例
社会保険料が免除される期間について、わかりやすいように事例を2つ紹介しましょう。
〈図〉出産日による免除期間の違い
上の図では、どちらも産前休業6週間、産後休業8週間を取得していますが、例1は産後休業最終日の翌日が8/23、例2は9/2です。産休開始日は同じく5月ですが、休業最終日の翌日の月が異なるのです。これにより、例1の社会保険免除期間は5〜7月、例2の社会保険免除期間は5〜8月となります。
これは免除期間が「産休が終わった翌日の前月分まで」と定められているためです。例2は産後休業最終日の翌日が9月に入っているため、例1より1カ月分免除期間が長くなっている、というわけです。
このように産休を取得するタイミングで社会保険料の免除期間が異なることがあります。
実際の社会保険料は翌月分から免除される
社会保険料は原則として翌月に徴収されます(当月に徴収する会社もありますが少数です)。そのため、たとえば5月分の社会保険料は6月に支払われる給与から差し引かれます。
このしくみは産休による社会保険料の免除にも当てはまります。産休で5〜7月の社会保険料が免除されるケースでは、実際には6〜8月分に反映されます。1カ月ずれることを覚えておきましょう。
また、給料日は会社ごとに異なりますが、社会保険料は常に翌月に徴収されます。そのため、給与が「月末締め、翌々月5日払い」だとしたら、7月の給与は9月5日に支払われますが、7月分の社会保険料は8月5日に徴収されます。給与と社会保険料の支払い月が一致しないこともあるのです。産休で社会保険料が免除される場合もこれは変わりませんので、タイミングを誤らないように注意しましょう。
なお、産休の取得期間や取得平均日数などの情報は以下の記事で説明しています。産休について詳しく知りたい方はご参考ください。
【関連記事】産休取得の早見表や平均日数や取得の流れについて、詳しくはコチラ
産休中の社会保険料の免除額はいくら?【計算方法】
それでは産休中の社会保険料はいくらくらい減額されるのか確認していきましょう。
社会保険料は健康保険料と厚生年金保険料ともに全額免除されます(40歳以上の場合、介護保険料も免除となります)。本人の自己負担分、会社負担分ともに免除されます。毎月の給与明細を確認すれば、どのくらいが免除されるのかはすぐに確認できます。
【収入別】社会保険料の免除額の目安
地域などで条件が異なるため、あくまでも参考になりますが、健康保険協会が公表している健康保険料と厚生年金保険料の収入別の自己負担額は以下のとおりです。
〈表〉収入別の健康保険料と厚生年金保険料(東京都の場合、一部抜粋)3)
標準報酬月額 | 健康保険料(自己負担額) | 厚生年金保険料(自己負担額) |
---|---|---|
15万円 | 7,500円 | 1万3,725円 |
20万円 | 1万円 | 1万8,300円 |
30万円 | 1万5,000円 | 2万7,450円 |
41万円 | 2万500円 | 3万7,515円 |
50万円 | 2万5,000円 | 4万5,750円 |
62万円 | 3万1,000円 | 5万6,730円 |
そもそも、健康保険料や厚生年金保険料は標準報酬月額によって決まります。標準報酬月額とは、毎年4〜6月の3カ月分の給与の総額(賞与は含まない)を3で割った金額です。たとえば、3カ月間の総報酬が90万円だとしたら標準報酬月額は30万円となります。
上の表で確認すると、標準報酬月額が30万円の場合、健康保険料は1万5,000円、厚生年金保険料は2万7,450円となり、産休中はこれらが免除されます。つまり、5〜7月の3カ月が免除期間になる場合、免除額は以下のようになります。
(健康保険料 1万5,000円+厚生年金保険料 2万7,450円)
×3カ月=12万7,350円
なお、健康保険料はお住まいの都道府県によって異なります。都道府県別の健康保険料、厚生年金保険料は全国健康保険協会のウェブサイトで確認できます。一方、厚生年金保険料は、地域や収入にかかわらず一律18.3%です。
健康保険料、厚生年金保険料ともに半分は会社が負担するので、自己負担は健康保険料5%前後(市区町村によって異なります)、厚生年金保険料9.15%となります。
産休中に社会保険料が免除される人の条件
産休を取得し、産休中に給与をもらわない方なら、誰でも社会保険料が免除されます。年収や勤続年数、雇用形態といった条件で除外されることはありません。
ただし、育休中の社会保険料が免除される期間には以下のようなルールがあります4)。
①同一月内に育児休業等の開始日と終了日があり、その月内に14日以上の育児休業などを取得していること
②賞与に関わる社会保険料は1カ月を超える育児休業などを取得していること
①は給与に関する条件、②は賞与に関する条件です。
1つ目の条件については、育休期間に月末が含まれると、育休が何日でも社会保険料が控除される一方で、月末を含まない場合は1カ月のうち14日以上の育児休業を取得していないと社会保険料は免除されない、ということを示しています。
〈図〉育休の社会保険料が免除される条件①給与
続いて2つ目の賞与に関しては、「育休中に賞与をもらう場合、1カ月以上育休を取得していること」が社会保険料免除の対象となる条件であることを示しています。
〈図〉育休の社会保険料が免除される条件②賞与
また、以下の記事では産休や育休の取得条件、産休や育休中に手当を受け取れる条件などを解説していますので、併せてご覧ください。
【関連記事】産休の取得条件、育休との条件比較について、詳しくはコチラ
出産がずれたら免除期間はどうなる?
産休は出産予定日に合わせて取得しますが、予定日どおりに出産できるとは限りません。そのため、出産が早まれば産前休業が短くなり、出産が遅くなれば産前休業が長くなります。同じように、社会保険料の免除期間も変動する可能性があります。どのように変わるのかを、「予定日より早く出産した場合」と「予定日より遅く出産した場合」で確認してみましょう。
予定日より早く出産した場合
出産予定日より早く出産すると、産前休業の期間が短くなり、社会保険料免除の対象期間も以下のように変わります。
〈図〉出産日が早まった場合の免除対象期間の変動
予定日より前に出産をすると、産休による社会保険料免除の対象期間も短くなります。この際に注意したいのが産後休業の終了翌日の日付です。産休取得時の予定と同月であれば何も問題はありませんが、以下のように終了翌日が前の月にずれる場合は、社会保険料の免除期間が短くなります。
〈表〉産休終了が前倒しになり、免除期間が短くなる場合
上の図では、7/7予定の出産が6/27に前倒しになり、産後休業最終日の翌日も8月内に前倒しになるケースを示しています。このような場合、社会保険料の免除期間が4カ月から3カ月になります。
産休後にそのまま育休を取得する場合、引き続き社会保険料が免除されますが、取得しない場合は社会保険料の免除期間が短くなってしまうのです。
〈図〉産休取得前の休業期間と免除期間の関係
ただし、法定の産休期間前から有給などで仕事を休んでいた場合、産後の申請によって社会保険料免除の対象期間を前に延ばすことが可能です。上の図だと産休は5/27からですが、1カ月前の4/27から有給取得などをしていた場合、社会保険料免除の対象期間を4/27からに変更できます。これによって4〜7月の4カ月間、社会保険料が免除されることになります。
予定日より遅く出産した場合
つぎに、予定日より出産が遅れた場合を確認していきましょう。出産が遅れるとその分、産前休業が長くなり、それに伴って社会保険料免除の対象期間も長くなります。
〈図〉出産日が遅くなった場合の免除対象期間の変動
予定日より1週間遅く出産をしたら、社会保険料免除の対象期間も1週間長くなります。1週間延びたことで産後休業の終了翌日が月をまたいだ場合は、社会保険料の免除期間が長くなることがあります。
〈図〉産休終了が後ろ倒しになり、免除期間が長くなる場合
上記の図では、7/1予定の出産が7/8に後ろ倒しになり、産後休業最終日の翌日も9月内に後ろ倒しになるケースを示しています。このような場合、社会保険料が免除される期間が1カ月長くなっています。
予定日からずれた場合は会社を通じて手続きをする
出産予定日と実際に出産した日が異なる場合は、会社から年金事務所に「産前産後休業取得者申出書/変更(終了)届」を提出してもらいます。
期間を遡って社会保険料免除の対象期間を前倒しするように申請する場合、それまでに保険料の納付が済んでいることもありますが、会社が変更届を提出したあとに保険料調整が行われます。有給や欠勤などを利用した上で、産休に入った場合は、社会保険料免除の対象期間を前倒ししてほしい旨を会社に伝え、書類を提出してもらいましょう。
社会保険料免除の手続き方法
産休に伴う社会保険料免除の手続きは会社が行います。社会保険料を免除してもらうために自分で行うことは会社に「産休・育児休業申請書」を提出する程度で、育休に伴う社会保険料免除の手続きも同様です。
産休・育休中の手当・経済的支援
社会保険料の免除は産休中の経済的支援のひとつですが、出産・育児にあたっては、このほかにも様々な支援や手当が用意されています。産休・育休中に受け取れる手当や経済的支援などを一覧にまとめました。
〈表〉産休・育休中に受けられる手当・経済的支援
項目 | 対象者 | 申請時期 | 金額 |
---|---|---|---|
社会保険料免除5) | 産休・育休の取得者全員 | 産休取得前 | 全額免除 |
妊婦健診費の助成6) | 申請する自治体による | 妊娠の発覚後 | 自治体による |
医療費(3割負担、高額療養費制度)7) | 異常分娩で出産をした人 | 申請不要(事前申請も可能) | 年収による |
医療費控除8) | 妊娠・出産をした人 | 確定申告時 | 年収による |
出産・子育て応援交付金9) | 妊娠・出産をした人 | 自治体による | 5万円相当の応援ギフトなど |
育児休業給付10) | 育休の取得者 | 初回は育休開始4カ月後の月末 | 育休開始から180日目までは休業開始前の賃金の67%、以降は50%で計算 |
児童手当11) | 中学卒業までの児童を養育している人 | 出生日から15日以内 | 月額1万5,000円(3歳未満の場合)など |
特別児童扶養手当12) | 20歳未満で精神または体に障害を有する児童を家庭で監護、養育している人 | 受給資格認定後 | 月額 1級:5万3,700円 2級:3万5,760円 |
児童扶養手当13) | ひとり親世帯等で18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある児童を養育している人 | 常時(毎年8月に現況届の提出が必要) | 月額4万3,070円(児童1人全部支給の場合)など |
あらかじめ利用できる制度を確認しておき、期限内に申請しましょう。産休中や育休中に受け取れる手当や経済的支援については、以下の記事でも詳しくまとめています。併せてご覧ください。
【関連記事】産休中の社会保険料が免除について、詳しくはコチラ
【関連記事】妊娠・出産に関する医療費控除の申請方法や注意点について、詳しくはコチラ
【関連記事】産休・育休中の給付金・手当金について、詳しくはコチラ
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産休中の社会保険料免除に関するよくある質問
産休中の社会保険料免除に関してよくある質問をまとめました。
Q1.社会保険料が免除されていないことがわかった場合の対応は?
基本的には会社が手続きを行えば社会保険料は免除されますので、免除されないケースは稀です。あり得るとしたら、会社が「産前産後休業取得者申出書/変更(終了)届」を産後に提出したケースです。この場合だと一度社会保険料が徴収される可能性があります。ただし、あとから社会保険料の調整を行い、最終的には対象期間の保険料の支払いをなくすことができます。もし、社会保険料が免除されずに徴収されてしまったら、まずは会社に報告し、詳細を確認しましょう。
Q2.社会保険料免除の申請を忘れた場合の対応は?
何かしらの事情があり、「産休申請書」を会社に提出することを忘れてしまい、会社が年金事務所に社会保険料免除の申請ができなかった場合、産休中もしくは産後でも問題ありませんので、会社に連絡して書類を提出してもらいましょう。
「産前産後休業取得者申出書/変更(終了)届」は、産休中または産休の終了日から起算して1カ月以内に提出するように定められており14)、産休が終了して1カ月以内であればあとからでも社会保険料の控除が認められています。なお、この場合、一度社会保険料は徴収され、あとから調整されることになるでしょう。
Q3.産休中にボーナスが支払われたら社会保険料は徴収される?
産休中、給与は基本的に支払われませんがボーナスは受け取れることがあります。産休で社会保険料免除の対象期間中にボーナスが支払われた場合、ボーナスも免除の対象となります。所得税は徴収されますが、健康保険料や厚生年金保険料は徴収されません。産休中の賞与の支給、社会保険料の免除について以下の記事をご参考ください。
【関連記事】産休中のボーナス支給やチェックしておくべき項目について、詳しくはコチラ
社会保険料の免除は産休期間に入った翌月から始まる
おさらいをすると、産休中は社会保険料が全額免除され、産休に入った翌月の徴収分から免除されます。会社と雇用契約を結んでいる方であれば誰でも社会保険料が免除になりますし、手続きも会社が進めてくれます。
また、育休中も同じように社会保険料が免除されます。産休と育休を併せて取得すれば産前・産後期間中の社会保険料が全額免除されます。妊娠・育児にあたっては社会保険料の免除以外にも様々な手当や経済的支援がありますので、制度を活用して産前・産後の生活費を上手にやりくりしていきましょう。