初めての介護で施設の違いについて、全くわからなくて困っている人も少なくはないでしょう。この記事では、介護福祉士・小林隆雄さん監修のもと、介護初心者に向けて、グループホームと老人ホームの違いやほかの施設との違いを、費用やサービス内容を比較しながら徹底解説します。
※この記事では、民間施設は「入居」、公的施設は「入所」、両方をまとめて表現する場合には「入居」と表現しています。
この記事の監修者
小林隆雄(こばやしたかお)
東京海上日動ベターライフサービス株式会社ソリューション事業部課長。介護福祉士、キャリアコンサルタント。鉄鋼メーカーで物流・輸出業務に従事後、介護業界へ転向。介護サービス事業所で実務経験を積み、事業所の管理者、所長、エリアマネジャー、エリア人事・総務責任者などを歴任。東京海上日動ベターライフサービスへ入社後は、主に社内の介護職の教育や事業所の運営支援に携わる。現在は、介護の専門職およびキャリアコンサルタントの視点から、主に企業に対する仕事と介護の両立支援や介護人材の育成支援に取り組んでいる。これまで500回を超える講演活動のほか、介護中の家族を支える介護相談員としても活動中。
グループホームと老人ホームの違いは?
グループホームと老人ホームにはどのような違いがあるのでしょうか。グループホームも老人ホームのひとつで、いずれも高齢者が入居する施設です。ただし、グループホームは入居条件に認知症診断が含まれる点がほかの老人ホームと大きく違います。グループホーム以外の老人ホームにも認知症高齢者は入居できますが、グループホームには認知症ではない高齢者は入居することができません。
また、グループホームは集団での共同生活である点もほかの老人ホームと異なります。施設の種類にもよりますが、ほかの老人ホームは基本的に炊事や掃除などの家事を施設職員にしてもらえる環境です。一方、グループホームでは認知症緩和の一環として、できる限りの家事を自分で行います。
さらに、それぞれの施設について、以下で詳しく説明していきます。
グループホームの特徴
グループホームとは、専門の職員から支援や介護を受けながら、認知症高齢者が共同生活を送る施設です1)2)。定員数や施設基準は、介護保険法によって以下のように定められています。
・1ユニットあたり5人以上9人以下(最大3ユニット)
・居室は7.43㎡(和室4.5畳)以上で原則個室
・立地は住宅地など
・居間・食堂・居間・台所・浴室、消火設備、そのほか非常災害に際して必要な設備がある
・施設には介護従業者(日中は利用者3人につき1人〈常時換算〉、夜間はユニットごとに1人)、計画作成担当者、管理者が常勤
グループホームでは、買い物や調理、掃除といった家事などの役割をできる範囲で入居者も分担しながら、家庭的な雰囲気の中で生活をします。そのような生活の中で入居者自身が持っている力を発揮することで、できる限り身体機能を維持したり、認知症の進行や症状を抑えたりすることを目指します。
グループホームの入居条件については、以下の記事で詳しく紹介しているので、ぜひ併せてご覧ください。
老人ホームの特徴
老人ホームには、つぎの8種類があります。以下の表を見てみましょう。
〈表〉老人ホームの種類
続いてそれぞれの特徴について説明します(グループホームは前述)。
介護付き有料老人ホーム
介護や生活支援のほか、必要に応じて看護やリハビリのサポートも行っている施設です。入居は要介護1以上の施設が一般的ですが、自立した状態でも入居が可能な施設もあります。
住宅型有料老人ホーム
介護の必要がない自立した人や要介護度が比較的低い人を主な対象とした施設です。介護付き有料老人ホームでは入居する施設の職員が介護しますが、住宅型有料老人ホームでは外部の介護サービスを利用するのが一般的です。施設によっては、入居者同士のコミュニケーションを楽しむレクリエーションやイベントが充実しているところもあります。
サービス付き高齢者向け住宅
介護施設ではなく、あくまで住宅であるため、外出や外泊ができるなど、ほかの施設に比べて自由度が高いのが特徴です。「一般型」と特定施設の認可を受けている「介護型」の2タイプがあり、介護が必要になった場合、「一般型」の多くは外部の介護サービスを利用しますが、「介護型」の場合には施設の専門職員が介護を行います。
介護型ケアハウス
社会福祉法人や地方自治体などが運営する軽費老人ホームのひとつで、身体機能の低下により自立したひとり暮らしが難しく、家族の支援を得ることができない低所得高齢者向けの福祉施設です。生活支援を主とする「一般型」と、介護サービスも利用できる「介護型」があります。
特別養護老人ホーム
基本的に要介護3以上の認定を受けていることが入所条件である要介護高齢者のための生活施設です3)。要介護1・2でも入所は可能ですが、自治体からの特別な許可を必要とします。生活支援や機能訓練、療養上の世話に加えて看取りまで対応している施設も多く、“終の棲家”として人気がありますが、入所待機者が多く、なかなか入所できないのが難点です。
介護老人保健施設
病院を退院後、すぐに自宅での自立的な生活に戻れない高齢者などがリハビリテーションのために入所する施設です。在宅復帰を目指す施設のため、ほかの施設に比べて入所期間が短いのが特徴です。
介護医療院
医師や看護師が常駐しており、長期間の療養にも対応している入院施設です。要介護1以上が入所条件で、日常生活支援や基本的な介護サービス、医療ケアに加え、ターミナルケアや看取りにも対応しているのが特徴です。
グループホームと老人ホームの費用の違い
グループホームや老人ホームに入居するには、それぞれいくら必要なのでしょう。グループホームと前述の施設の中でも老人ホームと呼ばれる施設の費用を比べてみましょう。以下がそれぞれの費用の相場です。
〈表〉老人ホームの費用の相場 4)5)6)
施設の種類 | 入居一時金(保証金)の相場 | 月額費用の相場 |
---|---|---|
グループホーム | 0円~16万円 | 9万6,000円~14万6,000万円 |
介護付き有料老人ホーム | 0円~1,380万円 | 16万8,000円~35万4,000円 |
住宅型有料老人ホーム | 0円~380万円 | 10万円~24万6,000円 |
サービス付き高齢者向け住宅 | 0円~27万円 | 12万5,000円~23万5,000円 |
介護型ケアハウス | なし | 9万円~15万円 |
特別養護老人ホーム | なし | 7万501円~11万6,065円 |
グループホームや老人ホームの入居にかかる費用には、「入居一時金(保証金)」と「月額費用」の2種類があります。
入居一時金は、施設を利用する権利を得るための費用で、入居中の居室の修繕や退去時の原状回復、家賃滞納分の充填などにも使用されます。施設により必要がないところもあれば、非常に高額なところもあります。たとえば、介護型ケアハウスや特別養護老人ホームといった公的施設では入居一時金は必要ありません。
月額費用は施設によって異なりますが、大きくは居住費や食費などの「日常生活費」と、介護サービスにかかる「介護サービス費」に分かれます。このほか、理容・美容代やおむつ代、日用品の購入代金などの流動費は日常生活費には含まれず、都度、支払うケースが多いかもしれません。その場合も施設によってあらかじめ金額は決まっていることがほとんどです。
民間施設である介護付き有料老人ホーム、住宅型有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅は入居一時金が不要のところがある一方、非常に高額な施設もあります。月額費用もこうした民間施設のほうが公的施設よりも高額な傾向です。グループホームの費用はほかの民間施設と比べると比較的安価といえるでしょう。
費用を支払えなくなったら、どうなる?
グループホームや老人ホームの費用を支払えなくなった場合、契約内容にもよりますが、基本的には退去を求められることになります。支払い滞納から即時退去になるわけではなく、数カ月の猶予はあります。その期間中に支払えなかった場合、身元引受人(連帯保証人)に請求がまわります。
身元引受人に請求金額を支払ってもらったとしても、以降も支払いは発生します。継続的な解決策を見つけられない限りは、やはり退去することになるでしょう。
費用を支払えなくなった場合の対処策については、以下の記事で詳しく紹介しているので、ぜひ併せてご覧ください。
【関連記事】老人ホームの費用が払えないとどうなる? 対処策の詳細はコチラ
費用の支払い方で知っておきたい注意点
グループホームや老人ホームの入居一時金には返還金制度が設けられているので、一定期間内に退去した場合は、返還金を受け取ることができます。ただし、入居一時金の償却期間には国が定めた基準がありません。そのため、償却期間と償却率は施設によって異なります。
入居一時金の支払い方法には、全額前払い、一部前払い、月払いなどがありますが、どの支払い方法が経済的に効率がいいかは、その施設の償却期間や償却率にもよります。また、“終の棲家”にするつもりか、住み替えの可能性があるのかによっても変わります。契約書などを確認した上で支払い方法を決めましょう。
以下の記事では、月額費用を抑えるための方法を詳しく説明しています。ぜひ併せてご覧ください。
【関連記事】老人ホームの費用負担を抑えるのに役立つ制度は? 詳細はコチラ
グループホームに入居するメリットとデメリット
自宅で介護を行う場合に比べて、グループホームに入居するとどんなメリットとデメリットがあるのでしょうか。以下で詳しく説明します。
グループホームに入居するメリット
・認知症高齢者が安心して住み慣れた地域で日常生活を送ることができる
・家庭的な環境で認知症緩和ケアを受けることができる
・家族の負担が軽減される
・個室でプライバシーを保つことができる
認知症高齢者のケアは家族にとって負担が大きく、在宅で介護をする場合、どうしても限界があります。グループホームに入居すれば、認知症ケアを受けることはもちろん、共同生活で自分の役割を得たり、ほかの入居者とコミュニケーションを取ったり、と専門の職員のサポートを受けながら日常生活を送ることができます。
グループホームに入居するデメリット
・施設になじめず、認知症高齢者に心理的な負担がかかる可能性がある
・家庭で介護をするより費用がかかる
・集団生活ができなくなると、退去になる可能性がある
・住民票がある地域の施設にしか入れない
家族と暮らすよりも居住費がかかる分、毎月の生活費が余分にかかります。選んだ施設と相性が悪かったり、共同生活自体になじめなかったりした場合、認知症高齢者にとって家族と暮らすよりも負担がかかる生活になるでしょう。また、集団生活が難しいほど状態が悪化すると、退去の可能性がある点にも留意が必要です。
老人ホームに入るメリットとデメリット
自宅で介護を行う場合に比べて、老人ホームに入居するとどんなメリットとデメリットがあるのでしょうか。以下で詳しく説明します。
老人ホームに入居するメリット
・介護する家族の負担が軽減される
・専門家のケアをいつでも受けることができる
・自宅で過ごすよりも刺激がある生活を送ることができる
介護する家族の負担が減るのが最大のメリットでしょう。施設にもよりますが、医療や介護の専門家のケアをいつでも受けられる点は家族にとっても本人にとっても安心です。
また、要介護度が高い場合、自宅で過ごす場合はこもりがちになります。老人ホームに入居すれば、他者とのコミュニケーションやレクリエーションなどで刺激がある生活を送ることができます。
老人ホームに入居するデメリット
・家庭で介護をするより費用がかかる
・高齢者にとって生活面の制約が増える
・家族と離れた生活や集団で過ごす環境にストレスを感じる可能性がある
・健康状態の変化で継続的な入居ができない場合がある
最大のデメリットは家族で介護するよりも費用がかかる点でしょう。認知症高齢者にとっては、施設によっては自宅で過ごすよりも制約が多い生活になる点、家族や住み慣れた環境から離れて他人と接することが多い暮らしになる点にストレスを感じるかもしれません。施設によっては、要介護度が高くなると、継続的な入居ができない可能性がある点にも注意が必要です。
家族と高齢者本人、両方が安心できる施設を選ぼう
老人ホームには様々な種類があります。特に認知症への対応も施設によって様々で、重度の認知症介護を得意としている施設があれば、重度になった場合には継続しての入居が難しい施設もあります。
中でも認知症であることが入居条件に含まれるのがグループホームです。少人数の家庭的な雰囲気の中で日常生活を送ることが特徴ですが、共同生活が基本の施設であるがゆえに、認知症が悪化して集団での生活に支障が出てくると退去を求められる場合もあります。
グループホームでもそのほかの老人ホームでも、施設に求める条件や施設との相性などをよく確認しながら、高齢者本人も家族も安心できる施設を選びましょう。