この記事では、ファイナンシャルプランナーの冨士野喜子さんの監修のもと、国民年金と厚生年金の支払い義務年齢の違いについて解説します。
※この記事は2024年4月15日に更新しています。
この記事の監修者
冨士野 喜子(ふじの よしこ)
ふじのFP事務所代表、ファイナンシャルプランナー。教育出版会社、外資系生命保険会社を経て、2012年にFPとして独立。自身の結婚、妊娠、出産、子育ての経験を活かし、20~30代のライフプランニングを中心に活動。最近はラジオ出演や子ども向けのマネー講座の講師をするなど幅広い年代に向けてお金に関する情報発信を行っている。
まずは公的年金制度の基本をおさらい
年金制度は、法律によって加入が義務付けられている「公的年金」と、企業や個人が任意で加入できる「私的年金」の2つに大別することができます。このうち、日本の公的年金は「2階建て」と呼ばれる構造になっています。
〈図〉公的年金制度の構造
2階建ての1階部分にあたるのが国民年金です。「基礎年金」とも呼ばれるように、国民年金は職業を問わず日本国内に住む20歳以上60歳未満の人すべてに、加入が義務付けられています。国民年金に加入する人(被保険者)は、以下の3種に分類されます。
〈表〉国民年金の被保険者の種類
第1号被保険者 | 自営業者(フリーランス)とその家族、学生、無職など(第2号および第3号被保険者に該当しない人)で、20歳以上60歳未満の人 |
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第2号被保険者 | 厚生年金保険や共済組合に加入する会社員、公務員など |
第3号被保険者 | 第2号被保険者の扶養家族である配偶者で、20歳以上60歳未満の人 |
一方、2階建ての2階部分にあたるのが厚生年金保険(以下、厚生年金)です。厚生年金は、会社員や公務員が加入する公的年金のことで、厚生年金の保険料を支払うことで、国民年金と厚生年金の両方を受給できるようになります。
国民年金と厚生年金は異なる制度になるため、年金を受給する権利を得られる最低加入期間や支払い義務年齢が、それぞれ異なります。なお、国民年金と厚生年金のしくみや受給額について詳しく知りたい人は、以下の記事を確認してみてください。
【関連記事】年金制度とは?公的年金と私的年金の種類やしくみ、保険料などをわかりやすく解説
国民年金保険料の支払い義務は59歳まで
主にフリーランスの人や学生などが加入している国民年金は、一定額の保険料(令和6年度は1万6,980円/月)を納めることにより、その人と家族の生活を守る社会保障制度のひとつです。
日本の場合、自分が支払った保険料を将来受給する年金に充てる「積立方式」ではなく、集めた保険料をその時々の年金支給に充てる「賦課方式」が採用されています。また国民年金は、いわゆる「年金」と呼ばれる「老齢基礎年金」以外に、障がいがある場合は障害年金、被保険者が死亡した場合は遺族が受け取る遺族年金や死亡一時金として、受給が可能です。
国民年金の老齢給付(老齢基礎年金)を受け取るためには、最低10年間の受給資格期間が必要
原則として65歳以上から老齢基礎年金を受け取るためには、最低10年(120カ月)以上の「受給資格期間」が必要になります1)。受給資格期間とは、保険料納付済期間と保険料免除期間などをあわせたものです。簡単にいえば、10年間国民年金保険料を支払えば、老齢基礎年金を受け取ることができます。
国民年金の老齢給付を満額で受け取るためには、40年間保険料を支払う必要がある
ただし受給資格期間を満たしただけでは、満額の老齢基礎年金を受け取ることができません。満額で受け取るためには、40年間(480カ月)分の国民年金保険料を支払う必要があります。
ちなみに、令和6年度の老齢基礎年金の満額は81万6,000円(年額)となっています2)。
60歳になると国民年金保険料の支払い義務はなくなる
国民年金保険料の支払い義務は、原則として20歳から60歳になるまでの40年間です。つまり、60歳以降は保険料を支払う必要がなくなるわけです。これは、繰下げ受給をした場合でも、繰上げ受給をした場合でも同様です。
ただし以下の条件に該当する人は、60歳以降でも国民年金に任意で加入することができます。
〈表〉国民年金に60歳以降も加入できる主な条件3)
- 厚生年金、共済組合などに加入していない人
- 納付済期間が40年間に満たないため、老齢基礎年金の満額支給が受けられない見込みの人
- 納付済期間が10年間に満たないため、老齢基礎年金の受給資格がない人
- 老齢基礎年金の繰上げ受給をしていない人
要点をまとめると、老齢基礎年金の受給資格がない人や、満額で受け取ることができない人に限り、60歳以降も保険料を支払うことができる、というわけです。満額で受給できる条件を満たしていれば、繰上げまたは繰下げ受給を選んでも60歳以降に保険料を支払う必要はない(支払うことはできない)ともいえます。
なお、国民年金の受給額の計算方法などについて、以下の記事で詳しく解説しています。興味のある人は確認してみてください。
【関連記事】年金はいくらもらえる?計算方法や老後資金の増やし方も徹底解説
参考資料
厚生年金保険料の支払い期間は、原則70歳が上限
厚生年金は、国民年金と並ぶ公的年金のひとつです。厚生年金の適用を受ける事業所(会社など)に勤務する、会社員や公務員、そして一定時間以上働くアルバイトやパートタイムの人に加入が義務付けられています。
国民年金とは違い、厚生年金の加入手続きは事業主が行います。厚生年金保険料は月単位で計算され、就職した際は日付にかかわらず加入した月の保険料から支払う必要があります。一方、退職する場合、月末退職は当月まで、それ以外の日付に退職する際は前月までが支払い期間となります。
厚生年金保険料は、所得によって変わります。また、厚生年金保険料は事業主と加入者本人で折半し、本人負担額が給料やボーナスから天引きされる(事業主がまとめて支払う)しくみになっています。なお、令和5年度の厚生年金保険料率は、上限18.3%(加入者本人負担9.15%)で固定されています4)。
参考資料
厚生年金の最低加入期間は1カ月。ただし国民年金の受給資格も必要
厚生年金の加入者が、原則65歳から受給できる「老齢厚生年金」を受け取るためには、最低1カ月以上の加入期間が必要になります。また、老齢厚生年金を受け取るためには、さらに国民年金の受給資格期間を満たしている必要があります1)。前述したように、老齢基礎年金の受給資格期間は、最低10年(120カ月)以上となります。ただし、厚生年金保険料を支払っていれば、その期間も国民年金保険料を支払っているとみなされます。
つまり簡単にまとめると、老齢厚生年金を受け取るためには、①国民年金保険料を10年間以上支払っていて、なおかつ厚生年金に1カ月以上加入している、もしくは②厚生年金に10年以上加入期間がある必要があるわけです(②なら、国民年金保険料を個別で支払っていなくても、国民年金の受給資格期間を満たすことになります)。
なお、第3号被保険者(会社員の扶養配偶者)の場合は、国民年金保険料を支払わなくても、その期間は国民年金に加入していることとなります。
厚生年金保険料の支払いは原則70歳まで
国民年金保険料は、原則として20歳から60歳になるまで40年の支払い義務期間が生じます。
対して厚生年金保険料には、支払い義務期間はありません。厚生年金に加入したタイミングから支払いが生じます。たとえば、18歳で就職した場合には、18歳から厚生年金保険料を支払うことになります。また、厚生年金保険料には、何歳まで支払うという義務年齢もありません。ただし終了期間が決まっており、原則として70歳になると、雇用中でも、厚生年金保険料を支払うことができなくなります。
ここで注意したいのが、厚生年金の場合は年金を受け取りながら保険料を支払うケースがあることです。老齢厚生年金は、原則として65歳から受給できるため、65歳以降も継続雇用されている場合には、年金を受給しながら保険料を支払うことになります。その場合、受給開始後に支払った保険料は、再計算されて将来の年金に反映されます。
70歳以降でも厚生年金保険料を支払うことができる場合がある
前述のように、70歳になると雇用中でも、厚生年金保険料を支払うことができなくなります。ただし、以下の条件にあてはまる人は、70歳以降も厚生年金保険料を支払うことができます。
〈表〉厚生年金に70歳以降も加入できる主な条件5)
- 老齢基礎年金(国民年金)の受給資格がない人
- 厚生年金保険の被保険者となることについて、事業主の同意を得ていること(※)
- 厚生年金保険の加入について、厚生労働大臣が認可すること(※)
※厚生年金保険の適用事業所以外の事業所で働く場合
要点をまとめると、老齢基礎年金(国民年金)の受給資格がない人に限り、受給資格を得るために任意加入できるというわけです。逆にいえば、老齢基礎年金の受給資格があるなら、70歳以降に厚生年金保険料を支払うことができません。
厚生年金保険の加入期間について詳しい内容は以下の記事で解説していますので、併せてご覧ください。
【関連記事】厚生年金の保険料はいつまで支払う?受給しながら働く場合も解説
国民年金と厚生年金の支払い義務年齢は異なる。不安なら私的年金も検討しよう
国民年金の支払い義務期間は60歳までです。厚生年金の場合、支払い義務期間はありませんが、70歳になると雇用中でも支払う必要がなくなります。国民年金の受給資格がない人や満額の条件を満たしていない場合は、国民年金や厚生年金を任意で支払うこともできますが、例外的なケースといえるでしょう。
追加で国民年金保険料や厚生年金保険料を支払っても、受給額を満額より増やすことはできません。もし、国民年金や厚生年金だけでは老後資金に不安があるなら、年齢を問わずに加入できる私的年金の検討をおすすめします。