今回は、専業主婦(夫)は年金をいくらもらえるのかについて、ファイナンシャルプランナーの頼藤太希さん監修のもと徹底解説します。共働き世帯との違いや、年金額を増やす方法も紹介します。
※この記事は、2025年4月7日に公開した内容を最新情報に更新しています。
この記事の監修者

頼藤太希(よりふじ たいき)
(株)Money&You代表取締役/マネーコンサルタント。
中央大学商学部客員講師。早稲田大学オープンカレッジ講師。ファイナンシャルプランナー三田会代表。慶應義塾大学経済学部卒業後、アフラックにて資産運用リスク管理業務に6年間従事。2015年に現会社を創業し現職へ。日テレ「カズレーザーと学ぶ。」、フジテレビ「サン!シャイン」、BSテレ東「NIKKEI NEWS NEXT」などテレビ・ラジオ出演多数。ニュースメディア「Mocha」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」運営。「はじめての新NISA&iDeCo」(成美堂出版)、「定年後ずっと困らないお金の話」(大和書房)など書籍110冊、累計190万部。日本年金学会会員。ファイナンシャルプランナー(CFP®)。日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)。宅地建物取引士。日本アクチュアリー会研究会員。
専業主婦(夫)の平均年金額は約5万7,000円

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専業主婦(夫)が将来受け取れる年金額は、働き方や年金への加入履歴によって異なります。厚生労働省の「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によれば、平均の年金受給額は月額5万7,584円(老齢基礎年金)です1)。
専業主婦(夫)が受け取れる年金の種類や、専業主婦と共働きの女性の受給額の違いを解説します。
専業主婦(夫)が受け取る年金の種類
専業主婦(夫)が受け取れる年金の種類は、以下の2つです。
- 国民年金(基礎年金)
- 厚生年金
基本的には国民年金を受け取りますが、専業主婦(夫)になるまで働き厚生年金保険に加入していた場合は、厚生年金も受け取れます。
〈図〉公的年金制度の構造

国民年金は日本在住の20~60歳の全員が加入する義務のある公的年金です。将来もらえる金額は、保険料の納付期間・免除期間で決まります。20~60歳の480カ月(40年間)をもれなく納付していれば、原則65歳から年金を満額もらえます。仮に保険料を納めていない期間があれば、満額受給はできません(※1)。なお、2025年度の満額の年金額は83万1,700 円(年額)です2)。
ただし、専業主婦(夫)は、保険料を納める必要はありません。国民年金の第3号被保険者に分類されるためです。国民年金の第3号被保険者とは、厚生年金に加入している第2号被保険者に扶養されている配偶者3)のことです。対象となるのは、以下の条件に該当する人になります。
【国民年金の第3号被保険者になるための条件】
- 第2号被保険者に扶養されている配偶者であること
- 20歳以上60歳未満であること
- 年収が130万円未満であること
第3号被保険者となっている期間は、年金保険料は免除されますが、納付期間にカウントされます。そのため、保険料を納めなくても、実質的に納めたものとして年金額が計算されて受け取れます。
なお、現在第3号被保険者については、将来的な廃止が検討されています。もし廃止となれば第1号被保険者(※2)と同様の扱いになると考えられます。
一方、厚生年金とは、会社員や公務員が加入する公的年金です。国民年金に上乗せして支払うので、将来もらえる年金額は大きくなります。保険料の半額を事業主が負担する労使折半のしくみを取っているのが特徴です。
専業主婦(夫)の人でも一時的にパートなどで働いた場合、週20時間以上働くと(実質年収106万円)、厚生年金への加入が必要になる場合があります。
なお、年金制度全般については下記の記事で解説していますので、併せてご覧ください。
パート・アルバイトの年金について、詳しくは以下の記事で詳しく解説しています。気になる人は併せてご覧ください。
【関連記事】パート・アルバイトがもらえる年金について、詳しくはコチラ
※1:国民年金保険料の免除・未納期間がある場合には、60〜65歳の間に任意加入することでもらえる年金を満額にする制度があります。
※2:自分で国民年金の保険料を納付する人(自営業者、フリーターなど)。
専業主婦(夫)と共働きで働く女性の年金額の違い
専業主婦(夫)は基本的に国民年金を受け取ります。そこで、国民年金と厚生年金の男女別の平均額から、専業主婦と共働きで働く女性の年金額の違いを確認しましょう。
厚生労働省の「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」1)によると、国民年金の平均年金月額(基礎年金)は5万7,584円。男女別でみると、男性が5万9,965円、女性が5万5,777円です。
厚生年金にも加入している場合は、平均年金月額が14万6,429円。男女別の平均年金月額は、男性が16万6,606円、女性が10万7,200円です。
〈表〉国民年金と厚生年金の平均年金月額3)
| 国民年金のみ | 厚生年金(国民年金を含む) | |
|---|---|---|
| 男性 | 5万9,965円 | 16万6,606円 |
| 女性 | 5万5,777円 | 10万7,200円 |
専業主婦(夫)の平均受給額は月5万7,584円、働く女性の平均受給額は月10万7,200円になります。現在年金を受給している人の平均受給額を比較すると、専業主婦と共働き世帯の妻では、年金額に約2倍の差が出ることがわかります。
専業主婦(夫)の年金額をケース別にチェック

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専業主婦(夫)は、配偶者が会社員か個人事業主(フリーランス)かによって、年金受給額が変わる場合があります。また、離婚した時や配偶者を亡くした場合も、受給額に変化があります。それぞれのケースの年金受給額をシミュレーションしてみましょう。
会社員×専業主婦(夫)の世帯
配偶者が会社員の場合、専業主婦(夫)は配偶者が加入している厚生年金の扶養家族になることができます。厚生年金の扶養家族になると、専業主婦(夫)は国民年金の第3号被保険者となります。
配偶者は、厚生年金に加入しているため、老後に国民年金と厚生年金をもらうことができます。一方、専業主婦(夫)は国民年金の加入者となるため、もらえるのは原則国民年金のみです。
厚生労働省の「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」1)のデータをもとに試算した、現在年金を受給している配偶者が会社員である場合の夫婦がもらえる年金額は以下のとおりです。
〈表〉配偶者が会社員(サラリーマン)の場合の毎月の年金額
| 世帯構成 | 夫婦でもらえる年金の合計/月 |
|---|---|
| 会社員の夫・専業主婦の妻 | 22万2,383円 |
| 専業主夫の夫・会社員の妻 | 16万7,165円 |
上記は一例ですが、2023年度のデータでは、夫が会社員として働いている世帯の方が5万5,218円も年金額を多く受け取っていることがわかります。これは、厚生年金の平均額において、男性(16万6,606円)と女性(10万7,200円)の間に5万9,406円の差があることが影響しています。
ただし、この年金額は現在受給している世代のデータにもとづくものであり、現役世代が将来受給する年金額の指標としてそのまま捉えないほうがいいでしょう。現在の受給者世代の女性の多くは、「学校卒業後に会社員として就職し、結婚や出産後に専業主婦になる」という当時の社会構造の中で生活していた背景があります。このため、厚生年金に加入していた期間や給与水準に男女差があり、それが受給額の差に影響を与えています。
現役世代の女性は、男女間での給与格差が縮小傾向にあることや、共働き世帯の増加などを背景に、将来の年金受給額はこのデータと異なる可能性が高いです。そのため、このデータはあくまで参考として捉えましょう。
【関連記事】配偶者の扶養に入った場合の「年金」について、詳しくはコチラ
個人事業主(フリーランス)×専業主婦(夫)の世帯
配偶者が個人事業主の場合、夫婦で国民年金に加入し、保険料も各自で支払う必要があります。
配偶者が個人事業主の場合、夫婦でもらえる年金額は以下のとおりです。
〈表〉配偶者が個人事業主(フリーランス)の場合の毎月の年金額
| 世帯構成 | 夫婦でもらえる年金の合計/月 |
|---|---|
| 個人事業主の夫・専業主婦の妻 | 11万5,742円 |
| 個人事業主の妻・専業主夫の夫 | 11万5,742円 |
夫婦どちらかが厚生年金に加入していた世帯よりも、年金額は少なくなります。国民年金は保険料の納付期間や保険料が免除されていた期間などが影響してきます。厚生年金のように収入で年金額が変わることはありません。
離婚した人
専業主婦(夫)が配偶者と離婚した場合、3号分割により元夫の厚生年金の一部を受け取れます。
3号分割とは、婚姻期間中に納めた厚生年金保険料の記録を1/2ずつ分割し、将来の年金額に反映する制度です。2008年4月1日以降の婚姻期間中に国民年金第3号被保険者の期間があった場合、請求すれば相手の同意がなくても年金記録を分割できます4)。
2015年10月から2025年9月までの10年間婚姻し、離婚した場合を例に、シミュレーションしてみましょう。
モデルケース(夫:会社員/妻:専業主婦の場合)
- 夫:婚姻期間中すべて厚生年金に加入し、給与・賞与の平均月額が41万円
- 妻:婚姻期間中すべて専業主婦(第3号被保険者)
- 夫の婚姻期間中の年金額:41万円 × 5.481/1,000 × 120カ月 ≒ 約26万9,700円
| 夫/妻 | 夫の年金額/妻の年金額 |
|---|---|
| 夫 | 約13万4,850円 |
| 妻 | 約13万4,850円 |
夫は婚姻期間中に納めた厚生年金保険料に相等する老齢厚生年金額が半分になりますが、妻は自身の国民年金などに加えて、上記の金額を受け取れます。
分割請求をする際は、離婚をした日の翌日から2年(※)以内にする必要があります。分割を希望する際は、期限までに申請をしましょう。
離婚時の年金に関する情報は、以下の記事で詳しく解説しています。
※:2025年6月に成立した「年金制度改正法」には、年金分割の請求期限が「5年以内」に延長されることが盛り込まれている。民法の改正施行(2026年5月までに行われる予定)に合わせて年金分割の請求期限も「5年」と延長になる予定。
夫(妻)を亡くした人
夫(妻)を亡くした場合、遺族年金を受け取れます。遺族年金には、遺族基礎年金と遺族厚生年金の2種類があります5)6)。
- 遺族基礎年金:生計を維持されていた国民年金の被保険者が亡くなった際に、18歳になった年度末までの子(または障害等級1級・2級の20歳未満の子)やその子のいる配偶者に支給される。
- 遺族厚生年金:家計を維持されていた厚生年金の被保険者が亡くなった際に、遺族に支給される。ただし夫は妻が亡くなった当時に55歳以上でなければならず、受給開始は60歳からとなる。
遺族基礎年金は老齢基礎年金と同額、遺族厚生年金は「亡くなった被保険者の厚生年金の報酬比例部分(※)の3/4」を受け取ります。
たとえば、10歳の子どもがいる3人世帯で、厚生年金保険の被保険者であった夫を亡くした場合を例に、シミュレーションしてみましょう。条件は以下のとおりです。
モデルケース(夫が亡くなった場合)
- 夫の年収:600万円
- 夫の厚生年金保険の加入期間:300月
- 夫の報酬比例部分:50万円×5.481/1,000×300月=82万2,150円
この場合の、遺族年金の受給額を見てみましょう。
| 年金の種類 | 受給額 |
|---|---|
| 遺族基礎年金 | 6万9,308円5) |
| 遺族厚生年金 | 5万1,385円 |
併せて、約12万円を非課税で受給できます。
上記の例で妻が老齢厚生年金を受給できる場合は、老齢厚生年金が優先的に支給され、遺族厚生年金の金額が老齢厚生年金の金額よりも高い場合に、差額が遺族厚生年金として支給されます5)。
※:報酬比例部分:老齢厚生年金、障害厚生年金、遺族厚生年金のいずれの給付においても、年金額の計算の基礎となり、年金の加入期間や過去の報酬等に応じて決まるもの。
金額は「平均標準報酬額×5.481/1000×加入月数」で算出する。(2003年4月以降の期間)
専業主婦(夫)がもらえる年金額を増やす方法7選

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専業主婦(夫)のいる世帯は、必然的に共働き世帯よりも年金額が少なくなります。不足している年金額を補うには国の制度を利用したり、自身で資産形成を行ったりするのがおすすめです。ここでは、専業主婦(夫)がもらえる年金額を増やす方法を7つ紹介します。
以下では、それぞれの方法を解説します。
①国民年金に任意加入する
国民年金には、60歳以降も年金を納められる任意加入制度があります。任意加入制度は、20〜60歳の間に免除や未納などで保険料を納めていない期間がある場合に利用でき、年金を満額で受給できます。
以下の条件をすべて満たせば、国民年金の任意加入が可能です。
- 現在日本国内に住所がある
- 60~65歳の年齢に当てはまる
- 国民年金の繰上げ受給をしていない
- 20~60歳の保険料の納付月数が480カ月(40年)未満
- 厚生年金や共済組合などに加入していない
なお、年金の受給資格期間を満たしていない65~70歳の人や、外国に住む20~65歳の人も任意加入ができます。申請者が日本国籍でない場合は、医療滞在や観光、保養目的で入国していない場合にのみ、任意加入の申請ができます。
②付加年金を活用する
付加年金は、毎月納める国民年金にプラスしてお金を納付することで、もらえる国民年金の金額を増やせる制度で、国民年金第1号被保険者のみが利用できます。毎月追加して保険料(付加保険料)を納めるだけのシンプルなしくみなので、利用しやすい制度です。
付加保険料は月額400円。もらえる年金の追加金額は「200円×付加保険料の納付月数」で計算され、2年以上もらえば元を取れることになります。付加保険料を長く納めれば納めるほど、将来もらえる年金額は高くなります。
ただし、後述の国民年金基金に加入している人は、付加年金を利用できません。
なお、以下の記事では付加年金について解説しているので、併せてご覧ください。
③国民年金基金に加入する
国民年金第1号被保険者は「国民年金基金」に加入すれば、年金の上乗せが可能です。
国民年金基金は、複数の給付タイプから自分に合ったプランを選べるのが特徴です。掛金額もプランごとに異なり、上限はiDeCoと併せて6万8,000円となっています。また、生計を一にする配偶者の国民年金基金の掛金を支払った場合、その全額を支払った人の社会保険料控除に含めることができます。
ただし、一度加入すると自己都合での脱退はできません。また、付加年金との併用はできません。付加年金に加入していた人が、国民年金基金に加入した場合、自動的に付加年金は脱退となります。
④繰下げ受給を行う
国民年金の老齢基礎年金と、厚生年金の老齢厚生年金は、基本的に65歳からもらえますが、受給を開始する年齢を遅らせると、もらえる額が増額します。この制度を、繰下げ受給と呼びます。繰下げ受給のメリットは、以下の2つです。
- 繰下げ期間に応じて毎月の受給額が増える
- 繰下げで増えた毎月の受給額は一生変わらない
国民年金と厚生年金の両方をもらえる人は、それぞれ別々に繰下げができます。国民年金の場合は、「65歳に達した月から繰下げ申出月の前月までの月数」×0.7%ずつ増額され、最大で84%増額できます。
ただし、繰下げ受給を行うと、受け取り始めが遅くなるため長寿でない場合には受け取れる年金総額が少なくなる可能性もあります。
なお、受給を開始する年齢を早める「繰上げ受給」というしくみも存在します。しかし、受給タイミングが早くなる分、繰上げした月数×0.4%の年金が減額されるため、年金受給額を増やすことはできません。
以下の記事では、繰下げ受給のしくみや年金をもらえる年齢について解説しているので、併せてご覧ください。
【関連記事】年金の繰上げ・繰下げ制度などについて、詳しくはコチラ
⑤iDeCoを利用する
iDeCoなどで投資を行い、自身の資産を増やすのも1つの手です。iDeCoは個人型確定拠出年金と呼ばれ、自分で年金を積み立てられる制度です。
〈図〉iDeCoのしくみ

※運用する商品によっては、元本割れを起こす場合もあります。
iDeCoのメリットは、運用益によって資産を増やせる点です。また、掛金は全額所得控除されるので、税制面のメリットも受けられます。上図のとおり、自身で設定した拠出額に加えて、選択した運用商品の運用益を受け取ることが可能です。
ゆとりある老後の生活を送りたい場合は、iDeCoはよい選択肢になるでしょう。
【関連記事】iDeCoに加入する場合の注意点について、詳しくはコチラ
⑥NISAで賢く資産運用
NISAは、投資によって得られた運用益にかかる税金がゼロになる制度です。
2024年1月からは新NISA7)に切り替わり、非課税期間に期限があったこれまでのNISAと異なり、非課税の期間が無期限となりました。また、年間投資枠や非課税保有限度額(総枠)も大幅に引き上げられています。
| 年間投資枠 (非課税) | 非課税保有期間 | 非課税保有限度額 | |
|---|---|---|---|
| 新NISA (つみたて投資枠) | 120万円 | 無期限 | 1,800万円(※) |
| 新NISA (成長投資枠) | 240万円 | 無期限 | 1,200万円(内数) |
投資商品については、つみたて投資枠はつみたてNISAと同じく、国が定めた条件をクリアした投資信託・ETF(上場投資信託)(※)であり、2025年9月時点で343本あります。
なお、成長投資枠は「株式の整理銘柄・監理銘柄」「信託期間20年未満の投資信託」「高レバレッジ型の投資信託」「毎月分配型の投資信託」が除外されます。理由は、いずれも長期の資産形成に向かない商品だからです。
NISAのつみたて投資枠は月々100円から始めることができるので、少額から始めてみるのもいいでしょう。
【関連記事】新NISAの年代別シミュレーションについて、詳しくはコチラ
※:ETF(上場投資信託)とは、東京証券取引所などの金融商品取引所に上場している投資信託の一種です。
参考資料
⑦個人年金保険で将来に備える
個人年金保険とは、公的年金に上乗せ補填する目的で、自身で老後の準備をするための民間の保険です。契約時に決めた年齢に達するまで保険料を払い込み、そのあとは保険料に応じた年金をもらうことができるのが特徴です。
個人年金保険に支払った保険料は、専業主婦(夫)でも配偶者が負担しているなどの条件を満たせば個人年金保険料控除として所得税・住民税の控除の対象となり、一定金額の控除を受けられるケースがあります。
個人年金保険の種類やメリットについては、以下の記事で詳しく解説しているので、併せてご覧ください。
専業主婦(夫)が年金をもらう際の2つの注意点

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専業主婦(夫)が毎月十分な年金をもらうためには、働いている配偶者に頼らざるを得ない場合が多いでしょう。そのため、配偶者の退職や制度の見直しが、年金の受給額を減らすリスクになる可能性があります。ここでは、専業主婦(夫)が年金をもらう際に注意すべき点を2つ紹介します。
それぞれ詳しく解説します。
①配偶者が退職すると第1号被保険者へ切り替えが必要
厚生年金に加入していた配偶者が退職した場合、専業主婦(夫)は第3号被保険者の資格を失います。そのため、配偶者の退職が決まったら、第1号被保険者への切り替え手続きを行う必要があります。
特に注意が必要なケースは、配偶者が定年退職を迎える場合です。この場合、配偶者側には切り替えの必要がないため、専業主婦(夫)が切り替えを忘れてしまう可能性があります。切り替えを忘れると、専業主婦(夫)の保険料未納期間が発生し、その結果、国民年金の受給額が減る可能性があります。切り替えが必要かどうか、退職のタイミングに合わせてしっかり確認してください。
ただし、以下のようなケースでは切り替えの必要はありません。
- 専業主婦(夫)が60歳以上であり、国民年金の納付期間をすでに満了している場合
- 専業主婦(夫)が配偶者より年上、または同年齢で、配偶者の退職時点ですでに国民年金の納付を終えている場合
これらのケースを除き、第1号被保険者への切り替えが必要となる場合は、国民年金保険料月額1万7,510円(2025年度)を納付することになります。切り替えの手続きについては、お住まいの市区町村の役所で確認してください。
②第3号被保険者制度の見直しが検討されている
第3号被保険者制度は、近年見直しが議論されています。共働き世帯の増加や社会保険料負担の公平性が問われていることが見直しの理由です。
第3号被保険者制度には「片働き世帯を優遇している」「保険料の負担が不公平」といった批判が出ています。また、制度が女性の就業調整や人手不足を助長しているとの声もあります。
そこで、政府は2023年9月に「年収の壁・支援強化パッケージ」を発表し、短時間労働者の就業促進を目指す施策の一環として、第3号被保険者制度の見直しを提案しました8)。
しかし、2024年12月12日に、厚生労働省は今回の見直しでの第3号被保険者制度の廃止を見送り、将来の議論に持ち越される見通しとなったと発表しました。議論は持ち越されましたが、今後の第3号被保険者制度の議論の状況をよく確認していくことが重要です。
参考資料
専業主婦(夫)の年金に関するよくある質問

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ここでは、専業主婦(夫)の年金にまつわる疑問について解説します。
Q.独身時代に厚生年金に加入していた場合の年金はどうなるの?
独身時代に厚生年金に加入していた専業主婦(夫)の場合は、以下のいずれかの条件を満たしていれば、厚生年金ももらうことができます。
- 国民年金保険料を10年間以上支払っていて、なおかつ厚生年金に1カ月以上加入している
- 厚生年金に10年以上加入期間がある
そのため、専業主婦(夫)であっても、国民年金・厚生年金の両方の年金を受給できる可能性があるのです。
厚生年金は加入期間と収入によって年金額が変わります。加入期間や年金額は、ねんきん定期便やねんきんネット、マイナポータルで確かめられるので、気になる人は確認してみてください。
Q.夫が死亡した場合の専業主婦の年金はどうなるの?
夫が亡くなった場合、専業主婦は遺族年金がもらえます。遺族年金とは、国民年金または厚生年金の被保険者もしくは被保険者だった人が死亡した時に、その人に生計を維持されていた遺族がもらえる年金です。
遺族年金には、遺族基礎年金と遺族厚生年金の2種類があります。亡くなった人が国民年金の被保険者の場合は遺族基礎年金を、厚生年金の被保険者の場合は遺族厚生年金が、妻に支給されます。ただし、それぞれ受給条件があるため、自身が対象者かどうか確認する必要があります。
たとえば、遺族基礎年金は子どもがいなければ、もらうことができません。一方、遺族厚生年金は、子どもの有無にかかわらず、条件を満たしていれば、もらうことができます。
なお、遺族厚生年金は2028年4月以降に改正が予定されています。現行制度では子のいない男性配偶者には遺族厚生年金が支給されないケースがありますが、改正後は40歳未満の子のない男性配偶者に対し、原則5年間の有期給付が導入される予定です9)。具体的な施行日は現在調整中です。
遺族年金の受給条件や年金額については以下の記事で詳しく解説しています。併せてご覧ください。
参考資料
Q.専業主婦(夫)の年金保険料は誰が負担するの?
専業主婦(夫)の保険料は、配偶者が加入している厚生年金が、公的年金制度全体として負担するしくみになっています。そのため、保険料を自身で支払う必要はありませんが、パートやアルバイトをして年収が130万円以上になると、厚生年金の扶養から外れるため、自身で保険料を負担する必要があります。
社会保険への加入義務が発生する条件について、詳しくは以下の記事で詳しく解説しています。気になる人は併せてご覧ください。
【関連記事】社会保険の扶養が外れるタイミングについて、詳しくはコチラ
Q.専業主婦の年金繰下げ受給にはどんなデメリットがある?
専業主婦が年金を繰下げ受給するデメリットとして、最長で75歳までは年金を受給できないことが挙げられます。繰下げ期間中は一切年金が受け取れないため、年金以外の備えがないと、生活が苦しくなる可能性が高いです。
また、配偶者の加給年金が繰下げ期間中は停止されます。加給年金とは、厚生年金保険の被保険者期間が20年ある人が、65歳時点で生計を維持する配偶者や子がいる場合、配偶者や子供に対して支給されるものです。
加給年金は厚生年金の受給が始まらないと、支給されません。繰下げ期間中は年金を受け取らないため、加給年金も支給されないのです。
Q.専業主婦にとって年金の繰上げ受給は選択肢になる?
年金の繰上げ受給は、限られたケースでのみ選択肢となりうる手段です。
年金を繰上げ受給すると、最短で60歳から年金受給ができます。60歳時点で資産が少なく生活が苦しい人にとっては、早くから安定収入を得るために、年金の繰上げ受給が選択肢に入ってくるでしょう。
ただし、前述のとおり年金を繰上げ受給すると、1カ月繰上げするごとに0.4%年金が減額されます。減額は生涯続くため、本来の受給額に戻ることはありません。また、繰上げ受給をすると障害基礎年金を受け取れなくなるため、障害認定を受けた際は慎重な判断が求められます。
専業主婦(夫)でも、もらえる年金は増やせる

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現在の制度ですと、専業主婦(夫)が将来もらえる年金額は、配偶者の職業に依存してしまいます。会社員や公務員の人が将来もらえる年金額は高く、自営業の人はやや低くなりがちです。
一方、離婚した人は夫と年金を分割でき、配偶者を亡くした人は遺族年金による保障を受けられます。
専業主婦(夫)がいる世帯は、将来もらえる年金を積極的に増やすべきでしょう。紹介したとおり、iDeCoなどの確定拠出年金を積み立てたり、保険料を追納したりして、将来もらえる年金を増やすことを考えましょう。
この記事を参考に、もらえる年金を増やすためのアクションを起こしてみてください。







